【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

文字の大きさ
237 / 311

233. 冬の魔族領で過ごす俺4

しおりを挟む
 ミカエル達の進行速度は、歴代勇者達のちょうど半分、だった。
 戦闘メンバーが全員、かなり真面目にレベル上げに取り組んで来たおかげもあり、Sランク魔獣を相手にしても、初見の相手以外は連携して対応し、戦闘時間は短くて済んでいた。
 盾、剣士、魔法剣士、魔術師、司祭。
 これ以上なくバランスの取れたパーティーだった。
 剣士とは魔力を持たないミカエルのことだが、今の所は、自分の魔道具を使用する機会はなかった。
 武器に属性を付与するのはシャリエルがやってくれる。
 物理も魔法もどちらも対応出来るのは、大きかった。
 進行速度が半分なのはひとえに、一般人のご友人がいるからだった。
 魔王討伐後に元の世界に帰ってもらう為には、二人揃って魔王の元まで連れて行かなければならない。
 このペースだと、魔王の元に辿り着くのは、真夏になりそうだ。
 暑くなれば暑くなったで文句を言うだろうし、いかに短い日数で魔王の元へ辿り着くかが、最大の課題だった。
「馬は?」
「馬は瘴気に耐えられるのでしょうか?」
「神器を装備させる?」
「神器には、瘴気完全耐性がありますね。…冒険者の方々への貸与が、優先になるでしょう」
「余ってないの?」
「冒険者の方々にお渡ししたら、もう余りはないと思います」 
「魔道具で作れない?」
「未だかつて、作れたという話は聞きませんね」
「そうなんだ」
 難しい顔をするバージルとジーンの話を聞きながら、ミカエルは夕食を摂っていた。 
 ミカエルが手に入れたダーインスレイヴを馬に装備させ、ご友人を乗せれば、機動力は上がりそうなのだが、ミカエル自身にデバフ完全耐性があることは誰にも話していないので、神器として認定された剣は、ミカエルが所持していなければならない。   
 彼らには話してもいいと思っていたし、信頼もしている。
 だが、聖女とご友人はそうではない。
 他に言い触らされ、モルモットにされるのは勘弁願いたかった。
「…他に神器はないのかな」
 思わず呟いたものの、宛があるわけではなかった。
 ミカエルの言葉を聞いて、バージルがなるほどと頷いた。
「ミカエルが、龍を倒して神器を手に入れたみたいに、どこかにまだあるかもしれないな」
「…どこか、とおっしゃられましても。そんな情報はあるのですか?」
「ないけど」
「…殿下…」
 ジーンのため息は、重かった。
 アベルとロベルトは、歴代勇者達が遺してくれた地図を眺めていたが、アベルの方が顔を上げた。
「ミカエル様が召喚された石碑は、古代語で書かれていたんですよね」
「そうだね」
「他にも石碑、ないでしょうか」
「都合良くあればいいけれど…」
「それを今、探しているのだが…」
 ロベルトの呟きに、バージルとジーンも視線を向けた。
「過去の勇者達が見つけていたなら、聖女がいるんだし、挑戦してるはずじゃない?」
「そうかもしれないが、スルーした可能性もあるのでは、と思ってな」
「まぁ…相手の強さもわからないし、危険は冒せないか」
「うむ」
「ジーン様は、ご記憶にないですか?古代語で書かれた謎の石碑、みたいな」
 アベルに問われ、ジーンは記憶を探るような表情をして、顎に指を当てた。
「ふむ…古代語が刻まれた石碑、というのは、意外に数が少なくて。ダンジョン内でボスを倒して出てくるものは、そのダンジョンがどういう経緯で出来たか、という物語が示されています。世界各地にある石碑は、すでに崩れて内容が不明であったり、残っているものは偉人の功績を示すものがほとんどで…。ミカエル様が召喚されたような、挑戦しろ、という内容の石碑はなかった、と記憶しております」
「そうなんですか…」
 そう都合良く存在するはずもない。
 現存する神器は、神が授けた物である、とされる。
 ほとんどは人族が所持しているが、エルフ族も所持していた。
 かつて人に友好的であった種族に渡された、と伝わっているが、妖精族は絶滅し、ドワーフ族は孤島へと移住した。
 ドワーフ族の神器は、かつてのドワーフ遺跡の最深部に隠されていて、かつての勇者パーティーが発見し、国へと献上された。
 
 もう一つ、持ってたりしないかな。 

 ダメもとで聞いてみようかな、と思いつつミカエルが食後のコーヒーを飲んでいると、話題はまだ「どうやって馬を持ち込むか」についてだった。

 ご友人は、とにかく体力がない。
 
 いや、実際ないのだけれども、歩く気もない。
 すぐに「疲れた」「しんどい」「おんぶして」「休憩しよ」と言い出して、メンバーの士気が下がる。
 
 一般人だし、しんどいのはわかる。

 日本でも運動部に所属したことはなく、中学の頃は茶道部で幽霊部員、高校は帰宅部だった。
 なぜミカエルが知っているのかと言えば、前世で調べたからだ。
 冤罪をかけてきた相手と戦う為には、情報が必要だった。
 こちらの世界に転移してきてからも、運動をしている気配は一切ない。
 レベル上げに参加しても、聖女と並んで座って見学しているだけの彼女に、体力があろうはずがなかった。
 女性だし、という言葉は、多様性の世界においては、侮辱と取られかねないので使わない。
 女性でも、騎士や冒険者として立派な功績を挙げている人達は、たくさんいるのだ。
 体力がないのは仕方がない。
 だが、自分の意志でついて来ようとしているのに、最初からおんぶに抱っこする気満々で来られると、配慮しようという気が殺がれてしまう。

 好感度って、大事だね。
 
 なので馬に乗せよう、という話になっているのだった。
 馬車は無理だった。
 道が整備されているわけでもなく、広いわけでもないので、不向きである。
 ふと思いついて、ミカエルはご友人へと声をかけた。
「ご友人殿。神の予言で、この先古代語で書かれた石碑があったりは、しませんか?」
「え、石碑?えー?うーん…」
 ご友人はちょうど、公国の王宮料理長が腕によりをかけて作ったデザートに、スプーンを入れた所だった。
 驚いたように顔を上げ、視線が合うと嬉しそうにしたものの、問われた内容に眉を顰めた。
「神器が手に入らないかと思っているのですが」
「じんぎ…神器かぁ…うーん……」
 真剣に考えている様子を、バージル達も見ていた。
 多少の期待を込めて待ったが、ご友人はあっさりと首を振った。
「神器ってー、レベルが到達してたら、くれるモンだよねぇ?八本だっけ?」
「…そうですね。ミカエル様の剣がありますので、正確には十一本、になりますが」
 ジーンが訂正したが、ご友人はどうでも良さそうに鼻で笑った。
「八本も十一本も変わんないじゃん。それ以外ってあるのぉ?姫、知らなぁい」
 メンバーが、がっかりしたのが伝わった。
 申し訳ない気持ちになりつつ、ミカエルが締める。
「…そうですか。中断させて申し訳ない。どうぞ、召し上がって下さい」
「ミカエルがぁ、あ~んって、してくれてもいいよぉ?」
「今考えることが多くて。私のことはお気になさらず」 
「も~!真面目すぎぃ。神器さえあれば楽勝なんだからぁ、気楽に行こ!」
「そうなんですか?」
「そうだよぉ!神器持ってたら魔獣もサックサクだしぃ、魔王もサックサクだから!ダメージ爆上がり。笑っちゃうくらいブーストされるんだから!」
「……」
 
 それは初耳だ。

 アベルは神器を、魔王討伐に赴く本番までは使わない、とマジックバッグに収納していたし、ミカエルも、ジルにもらった剣をずっと使っていた。
 思わずメンバー内で視線を交わし、午後からの道中では神器を使ってみることにした。

 ご友人殿の発言も、役に立つことがある。

 聖属性のエンチャント武器よりも、遙かに斬れる。
 神器は格が違った。

 さらに殲滅速度は上がったが、それでも進行速度は変わらなかった。

 馬。
 おんぶして歩く冒険者が大変だから、馬が欲しい。
 


 

『神器あるよ』





 問い合わせをしたドワーフ王から魔封書で返事が届き、ミカエルは飲んでいたココアを噴出しそうになり、咽せて咳き込んだ。
 ちょうどその日の活動を終え、テントに入って、風呂から上がってすぐのことだった。
 気管支に入ったのか激しく咽せてしまい、ソファに丸まってしばらく喘鳴と戦っていると、顔に影が差した。
「…み…ミカエル…?」
「う、…ッゲッホ…ッ!あ、アル…っぐ、ゴホッ…」
 多少なりとも背中をさすってくれたら楽になったのだろうが、転移して来たアルヴィスは立ったまま、呆然としていた。
 しばらくしてなんとか咳の衝動は収まったものの、喉の痛みと何かがつっかえているような違和感にため息をついたミカエルは、まだ突っ立ったままのアルヴィスに気がついた。
「…なに、してるの…?」
 足下から視線を上げて行くと、そこには狼狽しきった表情のアルヴィスがいた。
「…え、どうしたの?何でそんな顔してるの?」
「…おまえ…」
「ん?」
 ソファに座り直したミカエルの前に跪き、アルヴィスが震える手でミカエルの手を握った。
「…おまえが…死ぬのかと…」  

「そんなバカな」

 今まで病気らしい病気をしたことがないのは、アルヴィスもである。
 魔族であるなら当然なのかもしれないが、彼にはミカエルが苦しそうに咳き込んでいる姿が、異様に衰弱したように見えたらしい。

 いや、そんなバカな。

「気管支に飲み物がうっかり入って咽せただけだよ。アルだってあるでしょ?」
「ない」
「マジか~」

 魔族の気管支、つえー。

 とにかく心配してくるアルヴィスを納得させるのに、一晩かかってしまった。

 そんなバカな。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...