【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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258. 決着をつける俺3

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 ミカエルが目を開けた時、寝室には誰もいなかった。
 
 自分の宮へと戻って来て、ベッドに寝かされてしばらくは、マリーベルがベッドサイドに腰掛けて、ミカエルの看病をしてくれていた。
 一時間程は座っていたが、ミカエルが眠っているだけなのを見て安堵し、退出して行った。
 運んでくれた騎士イアンは廊下で待機しており、カーテンの引かれた室内は暗かったので、現在の時刻は不明だ。
「……」
 静かに身体を起こし、ミカエルは無意識にため息をついた。
 ベッドヘッドに凭れて、脱力する。

 毒は効かない。
 全ては演技だった。
  
 気分は晴れず、眉間に皺を寄せた。
 泣く程の感情の波は訪れなかったが、ひたすらに空しかった。
 
 どうして。

 王妃がミカエルを殺したい程憎んでいる理由は、わからないままだった。
 だが、直接手を下しても構わない程に憎まれていることは、理解した。

 どうして。

 ラダーニエから、王妃との関係を打ち明けられたのは、今年に入ってからのことだ。
 王弟が動き出し、王太子、王妃、ボイル侯爵の雲行きがいよいよ怪しくなってきた所で、ミカエルはそろそろ決着をつける時期かと考えていた。
 向こうも動き出すだろうし、魔王討伐前に決着をつけるなら、こちらも行動を起こさなければと思っていた所だった。
 ラダーニエは、妃教育を受けていた王妃に一目惚れし、ずっとつかず離れずの距離で見守ってきたのだと言った。
 肉体関係はなく、手を出すつもりもなかった、と。
 美しいレティシアが王妃となり、どのような人生を歩むのかを、見届けるつもりだった、と言った。
 生まれたばかりのミカエルの、あまりの美しさに感動し、そんなミカエルを生んでくれたレティシアに、感謝した、と。
 だが、腹を痛めて生んだ子であるにも関わらず、レティシアはミカエルを遠くへと追いやった。
 ミカエルへの扱いを見て幻滅し、主である第二王子への扱いの酷さを知って、レティシアへの愛が冷めたと言っていた。

 魔族が愛する「美しいもの」とは、外見だけに留まらない。

 それでも距離を置かなかったのは、以前の美しい彼女に戻ってくれるかもしれない、という期待があったからだと言った。
 遠くから見ているだけだったミカエルと、主であるアルヴィスが関わるようになってからは、今度はレティシアを監視する役目を、自らに課したと言った。
 詳細に教えてはくれなかったが、アルヴィスとラダーニエ、そしてニーデリアは、知らない所でミカエルの為に、色々と手を回してくれていたようだった。
 王妃とのやりとりを録画した映像も、躊躇なく見せてくれた。
 ラダーニエと二人きりの時の王妃は、恋する乙女のような顔をして、ミカエルが知る彼女とは完全なる別人だった。
 ラダーニエの言葉だけは、よく聞いていた。
 暴走しないよう、手綱を握ってくれていた。

 どうして。

 ミカエルの脳裏を巡るのは、その言葉だけだった。
 ラダーニエとの関係は、誰にも知られていないのだから、これからも続けていけるはずだろう。
 
 第三王子のことは、残念だった。
 王弟が王太子になるのは、もはや既定路線と言って良い。
 そのことについては、彼女はあまり気にしていないようだった。

 彼女は、ミカエルに出しゃばるなと言った。
 それは本心だったろう。
 だから国を出る、と言った。
 ミカエルにとっても望む進路であったし、そうすればもはや、彼女の視界に入ることもない。
 
 なのに。

 毒つきカップで紅茶を飲んだミカエルを見て、彼女は笑ったのだった。
 
 そこまで、憎んでいたのか。
 どうして?

 王に助力を頼んだのは不本意だったが、彼女が提案を受け入れてくれれば、無駄になるはずだった。
 王の侍医団の代表である老伯爵を洗脳し、ラダーニエが用意してくれた解毒剤を持たせたことも、無駄になるはずだった。

 どうして。

 彼女は自ら、破滅の道へと踏み入った。
 ラダーニエは誘導したが、選択したのは彼女自身だ。
 ミカエルは、自衛手段を講じただけ。

 この結果はとても、空しかった。

 王に渡したのは、ここ最近の暗殺未遂の証拠だけでは、なかった。
 カゲロウ族を始め、東方地域の協力を取り付けてからは、暗殺ギルドに依頼してきたブローカーを辿り、ボイル侯爵の命だったという証拠も得ていた。
 十三年前、各国の重鎮にミカエルを買わないか、と送った手紙も、回収していた。
 不参加だった各国の王太子とウルテイワズ王が、役に立つならとくれたものだ。
 
 そんな証拠を残すなんて、なんて愚かな。

 今まで各国が変わらず我が国と付き合ってくれていたことに、感謝すべきだった。

 王妃とボイル侯爵は、もう終わりだ。

 今まで散々ミカエルにしてきたことを思えば、自業自得だった。
 それでも、気分は晴れない。
 
「…ミカエル」

 カーテンから漏れ入る日も落ち、闇の落ちた寝室に転移してきたアルヴィスが、ベッドに座ったままのミカエルへと声をかけた。
「…あれ、アル?今何時?」
「二十時」
「来るの、早くない?」
「…明かりが消えていたから」
「あー…」
 ミカエルは目を瞬き、室内の暗さに苦笑した。
 アルヴィスがベッドの端に腰掛けて、マジックバッグから取り出したランプを取り出し明かりをつけた。
 丸い形の、今となっては作りの粗が目立つばかりの、初めてミカエルが作った魔道具だった。
 サイドボードに置かれたそれが、淡く光って周囲を照らす。
 目を細めるミカエルを心配そうに見つめてくるアルヴィスに、笑って見せた。
「大丈夫だよ。毒も解毒剤も効いてない」
「そうか」
「むしろ寝過ぎちゃったね」
「…そうか」
「あのおじいさん医師は、大丈夫?」
 洗脳してくれたのは、アルヴィスだった。
 命令は一つだけ。
 
 ミカエルが飲んだ毒を調べたら、決められた解毒剤を使うこと。

 とても自然に違和感なく、侍医団は素晴らしい仕事をしてくれた。
「問題ない。洗脳されている自覚もないし、影響もない」
「良かった。予想よりずっと高齢だったから、ちょっと心配した」
「俺を信じろ」
「もちろん、信じてるよ」
「そうか」
 嬉しそうなアルヴィスを可愛いと思いつつ、ミカエルはこれからのことを考えていた。
「…ちょっとスッキリはしないけど、後はもう騎士団任せにするしかないね」
「そのことだが」
「ん?」
「ラダーニエが、責任を取りたいと言っている」
「…責任って?」
「あの女、…いや、王妃に関わってしまったことについて」
「…それは、今更言ってもしょうがないことでは?」
「それはそうなんだが」
 アルヴィスに手を差し出されたので、無意識に手を乗せた。
 そっと引っ張られたのでベッドの上を移動して、アルヴィスの隣に腰を下ろす。
 ランプもアルヴィスの手の中に、移動していた。
「おまえへの忠誠を示す為にも、あのおん…いや、王妃から、なぜミカエルを殺そうとしていたのかを、聞き出すと」
「え、そんなこと、出来るの?」
「…俺が洗脳すれば早いが、それよりはあの女の意志で話してもらう方がいいだろう、と」
 昼の出来事については、アルヴィスもラダーニエも、従魔を通して見ていた。

 ミカエルが聞いてはぐらかされた答えを、教えてもらえるのなら。 
 心に沈殿したもやもやが、晴れるかもしれない。

「わかった。…でも、どうやって?」
「今から牢へ行こう。…動けるか?」
「大丈夫。すぐに着替えるね」
 だがその前に、ミカエルは居室から廊下へと繋がる扉を開けて、待機している騎士イアンに無事であることを告げ、今日はこのまま寝る、と伝えれば、もう侍女も様子を見に来ることはないだろう。
 騎士イアンは心底安堵し、泣きそうに顔を歪ませながら無事を喜んでくれ、頷いてくれた。
 
 ありがとう。
 ちゃんと国外に、連れて行くからね。

 もう一人王弟派の騎士がいるので言葉にはせず、心の中でだけ呟いて就寝の挨拶をし、急いで着替えた。
 着替えを手伝う、と言ったそばから、項やら鎖骨やらにキスマークをつけようとしてくるアルヴィスの顔を押しのけながら着替えを済ませ、アルヴィスの転移で、王妃が捕らえられている牢へと移動した。
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