【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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265. 交渉する俺

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 ソウェイサズ王国王都の三月上旬の天候は、朝晩は冷え込み、草木には霜が降り、日によっては雪がうっすらと積もることもある。
 ミカエルは相変わらず第二王子を偲ぶ為、平日の日中は第二王子の宮で一人過ごしていた。
 …というのは建前で、王妃やボイル侯爵の脅威からは解放された為、人が来た時に備えて従魔のノアを置いて、アルヴィスと二人、魔族領でSランクの魔獣狩りをしていた。
 ミカエルは順調に強くなっており、年末に勇者パーティーと訪れた場所からさらに奥、森林地帯と平地の境界を越えて、先へと進んでいた。
 平地は見通しが良い分、魔獣からも見つかりやすい。
 複数の魔獣に囲まれることも頻回で、対策は必要だったが、アルヴィスと二人であれば、なんの心配もいらなかった。
 囲まれた、と思った時には、すでに複数の魔獣は死んでいるからだ。

 魔道具を使っている形跡はなく、詠唱もない。
 魔術、というよりこれは、魔法だった。

 神や精霊、ドラゴンが使うとされる、無詠唱で「創造が力となる」もの、それが魔法である。
 使用魔力は膨大で、人間には扱えない領域とされていた。
 魔法を体系化し、簡略化し、呪文に魔力を込めて発動を補助する形に発展したものが、魔術だった。
 威力は術者の力量に左右されるものの、決まった詠唱をすることで、決まった魔術を使うことが出来る。
 アルヴィスは一瞬で複数の魔獣を倒してはいるが、形はそのまま綺麗に残っており、おそらく呼吸を止めているか、核からの魔力の供給を絶っているのだろうと、思われた。
 
 息の根を止める、というやつである。

 ありがたい。
 とても助かることでは、あるのだが。

「…えっと、気持ちはすごくありがたいんだけど…」
 複数に囲まれた時の対処法も学んでおく必要があることを説明し、勇者パーティーではどう対処するか、を二人で一緒に考えながら、魔獣を倒していくことにした。
 
 ミカエルは、楽しかった。

 しかしながら、アルヴィスにとっては完全なる無償奉仕というやつである。
 明らかに、彼にとってSランクの魔獣は、路傍の石のような存在だった。
 それでも何も言わずに、ミカエルに付き合ってくれている。
 確かに彼といれば、全く死の恐怖など感じることもなく、安全で快適にレベリングをすることが出来る。
 順調すぎる程順調であり、逆にミカエルは申し訳なくなる。
 
 彼が言うには、共にいられれば、何でもいいらしい。

 とはいえ。
 甘えるだけでは、いけない気がした。

 せめてもの礼として、休憩時間にはテントを張り、ミカエルの手料理を振る舞った。
 前世での経験がここでも役に立つとは、素晴らしいことである。
 東方地域の調味料も手に入るようになったので、和食も思いのままだった。
 アルヴィスは、ミカエルが料理をすることにとても驚いていたが、キッチンで料理するミカエルを楽しそうに見つめては、ちょこちょこと味見をするのが最近の趣味らしい。
 邪魔してくることはないものの、ずっと隣で見つめられるので、それはそれで落ち着かない思いをした。
 作った物は何でも嬉しそうに、そして美味しそうに食べてくれるので、作りがいはあった、とても。
 前世では一人暮らしをして、まだ見ぬ彼女にいつか料理を振る舞う日を夢見ていたが、ここで叶うことになったのだった。
 
 彼女じゃないけど。
 そこはもう、気にすることはやめた。

 食後なし崩しにベッドに連れ込もうとするアルヴィスとの攻防も、お約束といえばお約束だった。

 こんな毎日は、楽しかった。

 魔王討伐後には、こんな毎日が当たり前になることを目指して、ミカエルはまだ頑張らなければならない。
「明日は、休みにしよう」
「何かあったか?」
 食後のコーヒーを飲みながら言えば、アルヴィスは首を傾げた。
「王弟が訪ねて来る」
「ああ、もうそんな時期か」
「そうだね。卒業までもう日がないし、立太子を発表するなら、デビュタントで大々的にやりたいんだろう」
「くだらないな」
「そうだねぇ」
 異世界モノのストーリーにおいては、卒業式に婚約破棄をしたりなんだりと、イベントが起こるのはありがちだった。
 ただ現実として生きているミカエル達の感覚で言えば、卒業式よりも、その後に行われるデビュタントの方が重要である。
 「ゲームの攻略対象者その一」としてのミカエルは、聖女に攻略されることなく卒業式を迎える。
 ルシュディーが教えてくれた攻略チャートは、「第一王子ルートに進んだ場合」のストーリーなので、ルート外の展開については不明であるが、今の所はミカエルの想定通りに進んでいると言って良かった。
 何事もなく卒業をして、魔王討伐を終え、聖女達には元の世界に帰ってもらって、帰国後には国を出る。
 そしてアルヴィスと共に生きて行く。
 
 もう少しだった。

 王弟とは、立太子についてとミカエルの今後についての話をすることになるだろう。

 大丈夫。
 問題ない。

「今日中に、平地をもう少し進んでおこうか」
「わかった」
「魔王城まで、まだまだ遠そうだよね。影も形も見えないや」
「山を越えて沼地を越えた、まだ先だからな」
「はー…ていうか、アル詳しいね」
「…まぁ…」
 そっと視線を逸らすアルヴィスは、きっと転移しようと思えば出来るのだろう。
 魔族の王である魔王の城なのだから、一度くらいは行ったこともあるに違いない。
 ズルをしようと思えば出来てしまうが、「魔族であるアルヴィス」の存在を、勇者パーティーのメンバーに知られることは、望まなかった。
 いずれ伴侶として紹介するにしても、魔族であると言う必要はない。
 いらぬ誤解を受けたくないし、敵対して欲しくもないからだ。
 アルヴィスと二人、魔王討伐ルートを辿りながらのレベリングはとても楽しく、順調だった。 
 
 
 

 
「こんにちは、第一王子」
「こんにちは、王弟殿下」
 すでに敬称をつけなくなった王弟フィリップは、ミカエルの宮だというのに我が物顔でソファに腰掛け、入室したミカエルを見上げて軽く手を振った。
 前回も似たような感じであったので、ミカエルは何も言うことなく向かいのソファに腰掛けて、最近王妃派から王弟派に鞍替えした侍女が紅茶を淹れて退出するまで待ってから、口を開いた。
「それで、私の要求はどこまで受け入れてもらえるのだろうか?」
 ミカエルの問いに、王弟は不快げに眉を寄せた。
「…随分と足下を見られたものだ、と、余だけでなく皆が呆れ返っていたぞ」
「そうか。それで?」
「答える前に聞きたいのだが、君はフランクリン侯爵令嬢を狙っていたのか?」
「……」
「元々婚約者だったものな。勝手に解消されたことを、根に持っていたのか。それで取り返そうと?ははっ!」
「…好きに解釈してもらって構わないよ」
「連れて行きたい、だなんて、情熱的じゃないか。だが妃教育を終えた令嬢は、彼女だけなんだ。連れて行かれるのは困るんだよなぁ」
 ミカエルは事前に、王位継承権を放棄し、公爵に下る条件として認めてもらいたいことを、書面にして王弟側に提出していた。

 一つ、レイヴン・フランクリンとイアン・シュナイダーをミカエルの専属騎士にすること
 二つ、侍女ミルラとソフィア・フランクリンをミカエルがもらい受けること
 三つ、ミカエルの名誉を回復し、公爵位を与えること
 四つ、魔王討伐を完了した暁には、直轄領のうち、最大の領地を公爵領としてもらい受けること

 この四つを要求し、かつ前王妃と前第一王子の死の真相を、証拠つきで渡していた。
 
 つい先日、ボイル侯爵は獄中で「病死」した。

 それはつまり、先王がなんらかの手を下したことを意味しており、同時にミカエルの要求を飲んだことも意味していた。
 小手先の王弟の揺さぶりなど、響かない。
 ミカエルは軽く首を傾げた。
「妃殿下が教育されていた令嬢が、複数いると聞いたが?王弟殿下こそ、フランクリン侯爵令嬢をそんなに愛していたとは、知らなかったな」
 口元に手をやり、くすりと意味ありげに笑う。
 相手を小馬鹿にする時に、人がよくやる手法を真似た。
 過去にやられた経験が、こんな所で生きてくるのだ。

 ちっとも嬉しくないけれど。
 
 美しいミカエルの小馬鹿にした笑いは、十分嫌味として伝わったらしく、王弟のティーカップを持つ指先に力が入った。
「誰が愛してなんか、いるもんか。ただ都合のいい女だからだ!」
「力を持たない侯爵家の娘、と言いたいのかな」
「そうだ」
「それならいっそ、王弟派の中から優秀な令嬢を育てた方が、役に立つだろうに。お飾りの王妃なんて、妃殿下の二の舞になることが目に見えている。それは互いにとって不幸では?」
 同情を込めて呟くが、王弟はそこは否定しなかった。
 ミカエルもティーカップを持ち上げながら、そっと笑みを刻んだ。
「せっかく王位に就くのだから、政略結婚を変えればいいのに。…私がとやかく言うことでもないが、先王陛下と妃殿下は、愛し合っていたと聞いている」
「……」
 愛人の子である王弟は、苦々しげに舌打ちをした。
「言われなくとも、わかっている」
「フランクリン侯爵令嬢のことを愛しているというのなら、譲って差し上げることもやぶさかではないが…」
 人を物のように言わねばならないことに内心で謝罪しつつ、表面的には平然と紅茶を口に含み、ちらと王弟を見やれば、余裕の笑みを浮かべて足を組み替えていた。
「いいや。愛してない。そこまで言うなら、こちらこそ君に譲ってやろうじゃないか。君の方こそ、愛しているんだろう。結婚したいというなら止めはしないとも。祝福してやろうじゃないか」
「それはありがたい。では要求は全て飲んでもらえる、ということでいいのかな」
「別に騎士の一人や二人、侍女の一人くらいはどうでもいい。好きにすればいい」
「残りの二つは?」
 王弟が押しつけがましく寛大を示して見せたその二つは、元々通ることが前提だった。
 彼らにとって、侯爵令嬢以外は全く腹も痛まない。
 王弟が侯爵令嬢を愛しているかは実際の所は知らないが、少なくとも煽った結果、ミカエルにくれると言うのだから、ありがたくもらう。
 残りはミカエルの名誉回復と、公爵領である。
 ミカエルが見つめると、王弟は忌々しげな表情をした。
「それも、仕方がない。受け入れよう」
「それはどうも」
 すんなり決まった、と、ミカエルはわかりやすく安堵した。
 それを見て、王弟はにやりと笑った。
「…ところで第一王子」
「何かな」
「余はデビュタントで、王太子の廃嫡と、余の立太子を宣言するつもりだ」
「それで?」
「君が魔王討伐から帰って来た時には、すでに余は王位に就いているだろう」
「そうだろうね」
「玉座に座る余に、跪く用意をしておけよ」
「……」
 ミカエルは、表情を消して王弟を見た。
 勝ち誇った顔で、ミカエルを跪かせる様を想像しているのだろう様子が、手に取るようにわかる。
 ミカエルはティーカップを置いて立ち上がり、王弟を見下ろした。 
 腹に力を込め、威圧するよう静かに言った。
  
「思い上がるな。おまえこそが、救世の英雄となった私の凱旋に、頭を下げて礼を言うんだよ」
「…な、…っ…!」
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