【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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273. 魔王討伐に向かう俺2

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 四月下旬。
 
 ソウェイサズ王国、第四十三代国王ダミアン・エルドが譲位し、第四十四代国王フィリップ・フニが即位した。
 国はお祝いムード一色だったが、勇者による魔王討伐が行われている最中の為、いくつかの儀式は延期し、勇者達が帰還後に行うことが発表されていた。
 即位式を終え、王宮前広場で民達に顔見せをした後には、先王となったダミアンは王宮を去ることになっている。
 王都郊外の直轄領の一部が先王のものとなるが、死後国へと返還される。
 広い土地ではなかったが、先王は文句は言わなかった。
 王都から近いこと、瀟洒な邸宅は贅を尽くした宮殿の如く美しく、生涯生活に困ることはない。
 元より王自身は、奢侈にはそれ程興味を示さなかった。
 愛人の方が好き勝手に金を使っていることが多かったが、王自身が予算を使い切ることもなかった為に、マイナスにはなっていない。
 王の趣味はと言えば、愛人と「幸せなカップルごっこ」をすることであり、愛人がいない期間は、基本的に宮に引きこもってごろごろしていた。
 愛人と、最近では第一王子以外には興味を示さない男であり、無害と言えば無害で、王としての仕事はほぼしていないので、有害と言えば有害だった。
 先王ダミアンの印象の薄さは折り紙付きで、譲位後数日もすれば、先王の顔を覚えている者はもう、ほとんどいなかった。
 玉座に腰掛け謁見を行いながら、新王フィリップは、別れ際の先王の言葉を思い出していた。
「今までお疲れさまでした。どうぞごゆっくり、お過ごし下さい」
「どーもー」
 心の籠もらぬ挨拶をしたフィリップに、先王もまた心の籠もらぬ返事をした。
 
 恥ずべき兄で、何も為さなかった兄である。

 王宮を出て行く先王は、とても晴れやかな顔をしていることだけが、気になった。
「そんなに、譲位したことが嬉しいですか?」
「嬉しいに決まってんだろ。オウサマなんて、やるもんじゃねぇよ」
「…余はそうは思わない」
「あ、そう。やりたい奴がやりゃいいさ。良かったな、ミカエルが譲ってくれて」
「は?」
「俺は、ミカエルの方が絶対王には向いてると思ってたんだけどよ。ま、王になっちまったら、気軽に俺んちに遊びに来れなくなるだろうから、良かった良かった」
「……あなたの頭の中には、ミカエルしかいないのですか?」
「え?逆に聞くけど、なんでおまえがいると思った?腹違いの、しかも今まで会ったことも聞いたこともない弟を?」
「即位を、祝ってもくれないのですね」
「何で俺が?そういうのは、パパにやってもらいな?あ、パパって、田舎にいるんだっけ?即位式にいなかったでちゅねー。それで拗ねてるんでちゅか?だっせぇ」
「…余を馬鹿にするのは、やめてもらおう」
「先に俺を馬鹿にしたのは、おまえだっつーの」
 鼻でせせら笑い、事務的な手続きを全て終えたら、先王は振り返ることもなく王宮を去って行った。
 全く未練も見せず、あっさりしたものだった。
 フィリップの即位式は盛大だったが、そこに父とシェルダン伯爵の姿はなかった。
 父はフィリップの宮へとお忍びでやって来たものの、長居することなく田舎へ戻って行ってしまった。
 「上手くやりなさい」という言葉はもらったけれど、優しい笑顔はついぞ見ることが出来なかった。
 
 どれだけ努力しても、いつも父は厳しい顔をしていた。

 物心ついた時に母はおらず、子を生ませる為に愛人契約をし、子を生んだから解除したのだと聞いた。
 家庭教師は複数いたが、最も偉大な教師はシェルダン伯爵だった。
 父に最も忠実な、執事長。
 祖父のような存在感であり、優しく温かく育ててもらった。
 
 シェルダン伯爵まで、田舎に帰ってしまうなんて。

 フィリップを王にする為尽力してくれたというのに、これからを見ることなく父と共に帰ってしまった。
 
 まだまだ頼りにしたかったのに。

 「殿下ならば大丈夫です」と優しく笑って、フィリップの能力を信頼して任せてくれたと思えば嬉しい気持ちは、あるにはある。
 周囲には王弟派の貴族達がたくさんいて、忠実に仕えてくれている。
 だがどうにも、心にぽっかりと穴が開いてしまったような気がして、仕方がなかった。
「陛下、お疲れでいらっしゃいますか?」
 忠実な側近の一人が、気遣わしげに声をかけてくる。
 陛下、と呼ばれたことで、フィリップの気分は上向いた。
「いや、大丈夫だ。しかし謁見希望が後を絶たないな」
「それは当然でございます。新王にお目通り願い、少しでも覚えてもらおうと必死なのでございます」
「そうだな。使えそうな者は、どんどん登用していかないとな」
「はい。陛下の妃候補の選定も、始まっておりますし」
「ああ、そうだな…」
 売り言葉に買い言葉で、フランクリン侯爵令嬢をミカエルにくれてやったことが、悔やまれた。
 フランクリン侯爵令嬢は、聡明な女だった。
 会話をしていても媚びてくることはなく、頭の回転が早いので、会話が途切れることもなかった。
 何より、美しかった。
 自分の隣に立つにふさわしい美を持っており、それは他の王妃候補達にはないものだった。
「陛下。フランクリン侯爵令嬢が、王妃にふさわしいとお考えですか?」
「…なぜわかった?」
「彼女は美しく、頭も良く、陛下に気がありそうな素振りを、見せていたではありませんか」
「…そうなのか?」
「お気づきでなかったのですか?だから陛下は、彼女を婚約者に、と望まれたものとばかり思っておりました」
「……」
「彼女は領地にいると、聞いております。なんなら侯爵にかけあって、連れて来てもらってはいかがでしょうか?」
「しかし、ヤツとの契約がある」
「陛下とは契約していても、侯爵とはしておりませんでしょう。彼女が自主的に訪ねて来たのだと言えば、第一王子も文句は言えないのでは?」
「…卿は策士だな」
 褒めると、側近は恭しく頭を下げた。
「光栄にございます」
「では、良きに計らえ」
「かしこまりました」

 新侯爵となった兄ハヴェルからの王都への招集命令を、侯爵令嬢は無視した。
 激怒した侯爵は私兵を差し向けたが、宰相を辞し、領地へと下がっていた父がそれを止めた。
 問答している間に、侯爵令嬢とその兄である元騎士と、同僚だった元騎士の三名は、領地から逃亡した。
 侯爵は父である前侯爵を拘束したが、三名は行方不明であり、捜索しても見つからなかった。

 ミカエルが帰って来た時、どう言い訳すればいいのか。

 フィリップが悩んでいると、またしても忠実な側近が平然と言った。
「勝手に出て行った者達のことなど、知ったことではないではありませんか。第一王子が何か言ってきたとしても、陛下は知らぬ存ぜぬで通してしまえばよろしいのです。侯爵の独断であると」
「卿は本当に策士だな」
「恐れ入ります」
 ラダーニエが認識阻害で潜入することをやめた代わりに、側近二人はアルヴィスの洗脳により、フィリップではなくアルヴィスの忠実な臣下となっていたのだが、フィリップが気づくことはなかった。 
   



 
 同じ頃、崖から落ちた聖女のご友人を抱えて、絶賛落下中のミカエルだったが、落下の衝撃を和らげる為、地面に激突する直前に拘束の魔道具を自身にかけようと思っていたら、ほんの一瞬の間にどこかの部屋へと転移していて、ミカエルは床に座り込んだ。
 目の前には不快に眦を吊り上げ、怒っているアルヴィスが、立っていた。

「…え?…あれ?」
「あれじゃない。どういうことか説明しろ」
「いや…、説明…と言われても…崖から落ちた、としか…」

 助かったのか。

 ミカエルはほっと力が抜けたが、気絶したご友人を抱えていることを思い出し、落とさないよう抱え直す。
「ソレを捨てろ」
「え、ソレって…」
「ソレを、捨てろ」
「ま…待ってアル、捨てろって言われても」
 ソレとは、ご友人のことだった。
 
 せっかく助けたのに、無理だよ。

 まだ死の淵から生還したことを実感しきれず、ミカエルは混乱した。
 アルヴィスは苛立たしげに舌打ちし、空中に向かって名前を呼んだ。

「ラダーニエ!」

「御前に」
 すっと、音もなく転移して来たラダーニエが、床に跪いていた。
 
 わぁ、カッコイイ。
 でも仕事、大丈夫なの?

 余計な心配をしていると、アルヴィスが顎でご友人を指し示した。
「ソレを、適当な所へ放り込んでおけ。死なせるな」
「御意」
 音もなく立ち上がり、ミカエルの側に膝をついた男は、許しを乞うように恭しく頭を下げた。
「ミカエル様。ソレを、お渡し下さい。ご心配は無用です。死なないように管理致しますので」
「あ、うん…。お願いね…」
 管理、という言葉に引っかかりを覚えるものの、死ななければそれで良い。
 病気になっても面倒だけど、そこら辺はちゃんと見てくれることだろう。 
 
 ラダーニエは、優秀なのだ。

 ご友人を受け取ると、すぐにラダーニエは姿を消した。
 二人きりになった室内をぼんやりと見回していると、アルヴィスに抱き上げられた。
「…えっと」
「身体が冷えている。風呂に入ろう」
「あ、そ、そうだね…確かに、震えが止まらない…」
 手を持ち上げると、指先だけでなく、身体全体が寒さでかじかみ、震えていた。
 
 アルヴィスは、怒っている。

 浴室へと向かう動作が、荒々しい。
 
 なんで?
 死にかけたから?
 でもよく気づいて、助けてくれたよね。
 …ノアが知らせてくれたのか、それとも見ていたのか。

「…アル。助けてくれて、ありがとう」
「ああ」
 服のまま二人揃って浴槽に入り、そのまま湯を湯船に溜めていく。
 ぬるめの湯から少しずつ温度を上げて、冷え切った身体を温めてくれた。
 ずっと背後から抱きしめてくれており、アルヴィスの身体は温かかった。
「なぜ…」
「え?」
「なぜあんな女を助ける為に、崖から飛び降りたんだ。そんなにあの女が大事か。自分の命を投げ出す程に!?」

「んなわけあるかい」

 寒さでボケていた思考が、一瞬で戻って来た。
 思わず真顔でツッこんだが、背後から抱えられている為、表情は伝わらなかった。 
「納得出来ない!俺よりあの女の方がいいってことか!?」
 ぎゅうっと力を込めて抱きしめられ、アルヴィスの不満が伝わってくる。
「んなわけあるかい」
「じゃぁどうしてだ。納得できるように説明してくれ」
「アルより大事なわけないでしょ。馬鹿なこと言わないで」
「……」
 抱きしめられて苦しかったが、その一瞬で力が抜けて、ミカエルは照れてしまった。

 やだアルったら、嫉妬してる。
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