277 / 311
273. 魔王討伐に向かう俺2
しおりを挟む
四月下旬。
ソウェイサズ王国、第四十三代国王ダミアン・エルドが譲位し、第四十四代国王フィリップ・フニが即位した。
国はお祝いムード一色だったが、勇者による魔王討伐が行われている最中の為、いくつかの儀式は延期し、勇者達が帰還後に行うことが発表されていた。
即位式を終え、王宮前広場で民達に顔見せをした後には、先王となったダミアンは王宮を去ることになっている。
王都郊外の直轄領の一部が先王のものとなるが、死後国へと返還される。
広い土地ではなかったが、先王は文句は言わなかった。
王都から近いこと、瀟洒な邸宅は贅を尽くした宮殿の如く美しく、生涯生活に困ることはない。
元より王自身は、奢侈にはそれ程興味を示さなかった。
愛人の方が好き勝手に金を使っていることが多かったが、王自身が予算を使い切ることもなかった為に、マイナスにはなっていない。
王の趣味はと言えば、愛人と「幸せなカップルごっこ」をすることであり、愛人がいない期間は、基本的に宮に引きこもってごろごろしていた。
愛人と、最近では第一王子以外には興味を示さない男であり、無害と言えば無害で、王としての仕事はほぼしていないので、有害と言えば有害だった。
先王ダミアンの印象の薄さは折り紙付きで、譲位後数日もすれば、先王の顔を覚えている者はもう、ほとんどいなかった。
玉座に腰掛け謁見を行いながら、新王フィリップは、別れ際の先王の言葉を思い出していた。
「今までお疲れさまでした。どうぞごゆっくり、お過ごし下さい」
「どーもー」
心の籠もらぬ挨拶をしたフィリップに、先王もまた心の籠もらぬ返事をした。
恥ずべき兄で、何も為さなかった兄である。
王宮を出て行く先王は、とても晴れやかな顔をしていることだけが、気になった。
「そんなに、譲位したことが嬉しいですか?」
「嬉しいに決まってんだろ。オウサマなんて、やるもんじゃねぇよ」
「…余はそうは思わない」
「あ、そう。やりたい奴がやりゃいいさ。良かったな、ミカエルが譲ってくれて」
「は?」
「俺は、ミカエルの方が絶対王には向いてると思ってたんだけどよ。ま、王になっちまったら、気軽に俺んちに遊びに来れなくなるだろうから、良かった良かった」
「……あなたの頭の中には、ミカエルしかいないのですか?」
「え?逆に聞くけど、なんでおまえがいると思った?腹違いの、しかも今まで会ったことも聞いたこともない弟を?」
「即位を、祝ってもくれないのですね」
「何で俺が?そういうのは、パパにやってもらいな?あ、パパって、田舎にいるんだっけ?即位式にいなかったでちゅねー。それで拗ねてるんでちゅか?だっせぇ」
「…余を馬鹿にするのは、やめてもらおう」
「先に俺を馬鹿にしたのは、おまえだっつーの」
鼻でせせら笑い、事務的な手続きを全て終えたら、先王は振り返ることもなく王宮を去って行った。
全く未練も見せず、あっさりしたものだった。
フィリップの即位式は盛大だったが、そこに父とシェルダン伯爵の姿はなかった。
父はフィリップの宮へとお忍びでやって来たものの、長居することなく田舎へ戻って行ってしまった。
「上手くやりなさい」という言葉はもらったけれど、優しい笑顔はついぞ見ることが出来なかった。
どれだけ努力しても、いつも父は厳しい顔をしていた。
物心ついた時に母はおらず、子を生ませる為に愛人契約をし、子を生んだから解除したのだと聞いた。
家庭教師は複数いたが、最も偉大な教師はシェルダン伯爵だった。
父に最も忠実な、執事長。
祖父のような存在感であり、優しく温かく育ててもらった。
シェルダン伯爵まで、田舎に帰ってしまうなんて。
フィリップを王にする為尽力してくれたというのに、これからを見ることなく父と共に帰ってしまった。
まだまだ頼りにしたかったのに。
「殿下ならば大丈夫です」と優しく笑って、フィリップの能力を信頼して任せてくれたと思えば嬉しい気持ちは、あるにはある。
周囲には王弟派の貴族達がたくさんいて、忠実に仕えてくれている。
だがどうにも、心にぽっかりと穴が開いてしまったような気がして、仕方がなかった。
「陛下、お疲れでいらっしゃいますか?」
忠実な側近の一人が、気遣わしげに声をかけてくる。
陛下、と呼ばれたことで、フィリップの気分は上向いた。
「いや、大丈夫だ。しかし謁見希望が後を絶たないな」
「それは当然でございます。新王にお目通り願い、少しでも覚えてもらおうと必死なのでございます」
「そうだな。使えそうな者は、どんどん登用していかないとな」
「はい。陛下の妃候補の選定も、始まっておりますし」
「ああ、そうだな…」
売り言葉に買い言葉で、フランクリン侯爵令嬢をミカエルにくれてやったことが、悔やまれた。
フランクリン侯爵令嬢は、聡明な女だった。
会話をしていても媚びてくることはなく、頭の回転が早いので、会話が途切れることもなかった。
何より、美しかった。
自分の隣に立つにふさわしい美を持っており、それは他の王妃候補達にはないものだった。
「陛下。フランクリン侯爵令嬢が、王妃にふさわしいとお考えですか?」
「…なぜわかった?」
「彼女は美しく、頭も良く、陛下に気がありそうな素振りを、見せていたではありませんか」
「…そうなのか?」
「お気づきでなかったのですか?だから陛下は、彼女を婚約者に、と望まれたものとばかり思っておりました」
「……」
「彼女は領地にいると、聞いております。なんなら侯爵にかけあって、連れて来てもらってはいかがでしょうか?」
「しかし、ヤツとの契約がある」
「陛下とは契約していても、侯爵とはしておりませんでしょう。彼女が自主的に訪ねて来たのだと言えば、第一王子も文句は言えないのでは?」
「…卿は策士だな」
褒めると、側近は恭しく頭を下げた。
「光栄にございます」
「では、良きに計らえ」
「かしこまりました」
新侯爵となった兄ハヴェルからの王都への招集命令を、侯爵令嬢は無視した。
激怒した侯爵は私兵を差し向けたが、宰相を辞し、領地へと下がっていた父がそれを止めた。
問答している間に、侯爵令嬢とその兄である元騎士と、同僚だった元騎士の三名は、領地から逃亡した。
侯爵は父である前侯爵を拘束したが、三名は行方不明であり、捜索しても見つからなかった。
ミカエルが帰って来た時、どう言い訳すればいいのか。
フィリップが悩んでいると、またしても忠実な側近が平然と言った。
「勝手に出て行った者達のことなど、知ったことではないではありませんか。第一王子が何か言ってきたとしても、陛下は知らぬ存ぜぬで通してしまえばよろしいのです。侯爵の独断であると」
「卿は本当に策士だな」
「恐れ入ります」
ラダーニエが認識阻害で潜入することをやめた代わりに、側近二人はアルヴィスの洗脳により、フィリップではなくアルヴィスの忠実な臣下となっていたのだが、フィリップが気づくことはなかった。
同じ頃、崖から落ちた聖女のご友人を抱えて、絶賛落下中のミカエルだったが、落下の衝撃を和らげる為、地面に激突する直前に拘束の魔道具を自身にかけようと思っていたら、ほんの一瞬の間にどこかの部屋へと転移していて、ミカエルは床に座り込んだ。
目の前には不快に眦を吊り上げ、怒っているアルヴィスが、立っていた。
「…え?…あれ?」
「あれじゃない。どういうことか説明しろ」
「いや…、説明…と言われても…崖から落ちた、としか…」
助かったのか。
ミカエルはほっと力が抜けたが、気絶したご友人を抱えていることを思い出し、落とさないよう抱え直す。
「ソレを捨てろ」
「え、ソレって…」
「ソレを、捨てろ」
「ま…待ってアル、捨てろって言われても」
ソレとは、ご友人のことだった。
せっかく助けたのに、無理だよ。
まだ死の淵から生還したことを実感しきれず、ミカエルは混乱した。
アルヴィスは苛立たしげに舌打ちし、空中に向かって名前を呼んだ。
「ラダーニエ!」
「御前に」
すっと、音もなく転移して来たラダーニエが、床に跪いていた。
わぁ、カッコイイ。
でも仕事、大丈夫なの?
余計な心配をしていると、アルヴィスが顎でご友人を指し示した。
「ソレを、適当な所へ放り込んでおけ。死なせるな」
「御意」
音もなく立ち上がり、ミカエルの側に膝をついた男は、許しを乞うように恭しく頭を下げた。
「ミカエル様。ソレを、お渡し下さい。ご心配は無用です。死なないように管理致しますので」
「あ、うん…。お願いね…」
管理、という言葉に引っかかりを覚えるものの、死ななければそれで良い。
病気になっても面倒だけど、そこら辺はちゃんと見てくれることだろう。
ラダーニエは、優秀なのだ。
ご友人を受け取ると、すぐにラダーニエは姿を消した。
二人きりになった室内をぼんやりと見回していると、アルヴィスに抱き上げられた。
「…えっと」
「身体が冷えている。風呂に入ろう」
「あ、そ、そうだね…確かに、震えが止まらない…」
手を持ち上げると、指先だけでなく、身体全体が寒さでかじかみ、震えていた。
アルヴィスは、怒っている。
浴室へと向かう動作が、荒々しい。
なんで?
死にかけたから?
でもよく気づいて、助けてくれたよね。
…ノアが知らせてくれたのか、それとも見ていたのか。
「…アル。助けてくれて、ありがとう」
「ああ」
服のまま二人揃って浴槽に入り、そのまま湯を湯船に溜めていく。
ぬるめの湯から少しずつ温度を上げて、冷え切った身体を温めてくれた。
ずっと背後から抱きしめてくれており、アルヴィスの身体は温かかった。
「なぜ…」
「え?」
「なぜあんな女を助ける為に、崖から飛び降りたんだ。そんなにあの女が大事か。自分の命を投げ出す程に!?」
「んなわけあるかい」
寒さでボケていた思考が、一瞬で戻って来た。
思わず真顔でツッこんだが、背後から抱えられている為、表情は伝わらなかった。
「納得出来ない!俺よりあの女の方がいいってことか!?」
ぎゅうっと力を込めて抱きしめられ、アルヴィスの不満が伝わってくる。
「んなわけあるかい」
「じゃぁどうしてだ。納得できるように説明してくれ」
「アルより大事なわけないでしょ。馬鹿なこと言わないで」
「……」
抱きしめられて苦しかったが、その一瞬で力が抜けて、ミカエルは照れてしまった。
やだアルったら、嫉妬してる。
ソウェイサズ王国、第四十三代国王ダミアン・エルドが譲位し、第四十四代国王フィリップ・フニが即位した。
国はお祝いムード一色だったが、勇者による魔王討伐が行われている最中の為、いくつかの儀式は延期し、勇者達が帰還後に行うことが発表されていた。
即位式を終え、王宮前広場で民達に顔見せをした後には、先王となったダミアンは王宮を去ることになっている。
王都郊外の直轄領の一部が先王のものとなるが、死後国へと返還される。
広い土地ではなかったが、先王は文句は言わなかった。
王都から近いこと、瀟洒な邸宅は贅を尽くした宮殿の如く美しく、生涯生活に困ることはない。
元より王自身は、奢侈にはそれ程興味を示さなかった。
愛人の方が好き勝手に金を使っていることが多かったが、王自身が予算を使い切ることもなかった為に、マイナスにはなっていない。
王の趣味はと言えば、愛人と「幸せなカップルごっこ」をすることであり、愛人がいない期間は、基本的に宮に引きこもってごろごろしていた。
愛人と、最近では第一王子以外には興味を示さない男であり、無害と言えば無害で、王としての仕事はほぼしていないので、有害と言えば有害だった。
先王ダミアンの印象の薄さは折り紙付きで、譲位後数日もすれば、先王の顔を覚えている者はもう、ほとんどいなかった。
玉座に腰掛け謁見を行いながら、新王フィリップは、別れ際の先王の言葉を思い出していた。
「今までお疲れさまでした。どうぞごゆっくり、お過ごし下さい」
「どーもー」
心の籠もらぬ挨拶をしたフィリップに、先王もまた心の籠もらぬ返事をした。
恥ずべき兄で、何も為さなかった兄である。
王宮を出て行く先王は、とても晴れやかな顔をしていることだけが、気になった。
「そんなに、譲位したことが嬉しいですか?」
「嬉しいに決まってんだろ。オウサマなんて、やるもんじゃねぇよ」
「…余はそうは思わない」
「あ、そう。やりたい奴がやりゃいいさ。良かったな、ミカエルが譲ってくれて」
「は?」
「俺は、ミカエルの方が絶対王には向いてると思ってたんだけどよ。ま、王になっちまったら、気軽に俺んちに遊びに来れなくなるだろうから、良かった良かった」
「……あなたの頭の中には、ミカエルしかいないのですか?」
「え?逆に聞くけど、なんでおまえがいると思った?腹違いの、しかも今まで会ったことも聞いたこともない弟を?」
「即位を、祝ってもくれないのですね」
「何で俺が?そういうのは、パパにやってもらいな?あ、パパって、田舎にいるんだっけ?即位式にいなかったでちゅねー。それで拗ねてるんでちゅか?だっせぇ」
「…余を馬鹿にするのは、やめてもらおう」
「先に俺を馬鹿にしたのは、おまえだっつーの」
鼻でせせら笑い、事務的な手続きを全て終えたら、先王は振り返ることもなく王宮を去って行った。
全く未練も見せず、あっさりしたものだった。
フィリップの即位式は盛大だったが、そこに父とシェルダン伯爵の姿はなかった。
父はフィリップの宮へとお忍びでやって来たものの、長居することなく田舎へ戻って行ってしまった。
「上手くやりなさい」という言葉はもらったけれど、優しい笑顔はついぞ見ることが出来なかった。
どれだけ努力しても、いつも父は厳しい顔をしていた。
物心ついた時に母はおらず、子を生ませる為に愛人契約をし、子を生んだから解除したのだと聞いた。
家庭教師は複数いたが、最も偉大な教師はシェルダン伯爵だった。
父に最も忠実な、執事長。
祖父のような存在感であり、優しく温かく育ててもらった。
シェルダン伯爵まで、田舎に帰ってしまうなんて。
フィリップを王にする為尽力してくれたというのに、これからを見ることなく父と共に帰ってしまった。
まだまだ頼りにしたかったのに。
「殿下ならば大丈夫です」と優しく笑って、フィリップの能力を信頼して任せてくれたと思えば嬉しい気持ちは、あるにはある。
周囲には王弟派の貴族達がたくさんいて、忠実に仕えてくれている。
だがどうにも、心にぽっかりと穴が開いてしまったような気がして、仕方がなかった。
「陛下、お疲れでいらっしゃいますか?」
忠実な側近の一人が、気遣わしげに声をかけてくる。
陛下、と呼ばれたことで、フィリップの気分は上向いた。
「いや、大丈夫だ。しかし謁見希望が後を絶たないな」
「それは当然でございます。新王にお目通り願い、少しでも覚えてもらおうと必死なのでございます」
「そうだな。使えそうな者は、どんどん登用していかないとな」
「はい。陛下の妃候補の選定も、始まっておりますし」
「ああ、そうだな…」
売り言葉に買い言葉で、フランクリン侯爵令嬢をミカエルにくれてやったことが、悔やまれた。
フランクリン侯爵令嬢は、聡明な女だった。
会話をしていても媚びてくることはなく、頭の回転が早いので、会話が途切れることもなかった。
何より、美しかった。
自分の隣に立つにふさわしい美を持っており、それは他の王妃候補達にはないものだった。
「陛下。フランクリン侯爵令嬢が、王妃にふさわしいとお考えですか?」
「…なぜわかった?」
「彼女は美しく、頭も良く、陛下に気がありそうな素振りを、見せていたではありませんか」
「…そうなのか?」
「お気づきでなかったのですか?だから陛下は、彼女を婚約者に、と望まれたものとばかり思っておりました」
「……」
「彼女は領地にいると、聞いております。なんなら侯爵にかけあって、連れて来てもらってはいかがでしょうか?」
「しかし、ヤツとの契約がある」
「陛下とは契約していても、侯爵とはしておりませんでしょう。彼女が自主的に訪ねて来たのだと言えば、第一王子も文句は言えないのでは?」
「…卿は策士だな」
褒めると、側近は恭しく頭を下げた。
「光栄にございます」
「では、良きに計らえ」
「かしこまりました」
新侯爵となった兄ハヴェルからの王都への招集命令を、侯爵令嬢は無視した。
激怒した侯爵は私兵を差し向けたが、宰相を辞し、領地へと下がっていた父がそれを止めた。
問答している間に、侯爵令嬢とその兄である元騎士と、同僚だった元騎士の三名は、領地から逃亡した。
侯爵は父である前侯爵を拘束したが、三名は行方不明であり、捜索しても見つからなかった。
ミカエルが帰って来た時、どう言い訳すればいいのか。
フィリップが悩んでいると、またしても忠実な側近が平然と言った。
「勝手に出て行った者達のことなど、知ったことではないではありませんか。第一王子が何か言ってきたとしても、陛下は知らぬ存ぜぬで通してしまえばよろしいのです。侯爵の独断であると」
「卿は本当に策士だな」
「恐れ入ります」
ラダーニエが認識阻害で潜入することをやめた代わりに、側近二人はアルヴィスの洗脳により、フィリップではなくアルヴィスの忠実な臣下となっていたのだが、フィリップが気づくことはなかった。
同じ頃、崖から落ちた聖女のご友人を抱えて、絶賛落下中のミカエルだったが、落下の衝撃を和らげる為、地面に激突する直前に拘束の魔道具を自身にかけようと思っていたら、ほんの一瞬の間にどこかの部屋へと転移していて、ミカエルは床に座り込んだ。
目の前には不快に眦を吊り上げ、怒っているアルヴィスが、立っていた。
「…え?…あれ?」
「あれじゃない。どういうことか説明しろ」
「いや…、説明…と言われても…崖から落ちた、としか…」
助かったのか。
ミカエルはほっと力が抜けたが、気絶したご友人を抱えていることを思い出し、落とさないよう抱え直す。
「ソレを捨てろ」
「え、ソレって…」
「ソレを、捨てろ」
「ま…待ってアル、捨てろって言われても」
ソレとは、ご友人のことだった。
せっかく助けたのに、無理だよ。
まだ死の淵から生還したことを実感しきれず、ミカエルは混乱した。
アルヴィスは苛立たしげに舌打ちし、空中に向かって名前を呼んだ。
「ラダーニエ!」
「御前に」
すっと、音もなく転移して来たラダーニエが、床に跪いていた。
わぁ、カッコイイ。
でも仕事、大丈夫なの?
余計な心配をしていると、アルヴィスが顎でご友人を指し示した。
「ソレを、適当な所へ放り込んでおけ。死なせるな」
「御意」
音もなく立ち上がり、ミカエルの側に膝をついた男は、許しを乞うように恭しく頭を下げた。
「ミカエル様。ソレを、お渡し下さい。ご心配は無用です。死なないように管理致しますので」
「あ、うん…。お願いね…」
管理、という言葉に引っかかりを覚えるものの、死ななければそれで良い。
病気になっても面倒だけど、そこら辺はちゃんと見てくれることだろう。
ラダーニエは、優秀なのだ。
ご友人を受け取ると、すぐにラダーニエは姿を消した。
二人きりになった室内をぼんやりと見回していると、アルヴィスに抱き上げられた。
「…えっと」
「身体が冷えている。風呂に入ろう」
「あ、そ、そうだね…確かに、震えが止まらない…」
手を持ち上げると、指先だけでなく、身体全体が寒さでかじかみ、震えていた。
アルヴィスは、怒っている。
浴室へと向かう動作が、荒々しい。
なんで?
死にかけたから?
でもよく気づいて、助けてくれたよね。
…ノアが知らせてくれたのか、それとも見ていたのか。
「…アル。助けてくれて、ありがとう」
「ああ」
服のまま二人揃って浴槽に入り、そのまま湯を湯船に溜めていく。
ぬるめの湯から少しずつ温度を上げて、冷え切った身体を温めてくれた。
ずっと背後から抱きしめてくれており、アルヴィスの身体は温かかった。
「なぜ…」
「え?」
「なぜあんな女を助ける為に、崖から飛び降りたんだ。そんなにあの女が大事か。自分の命を投げ出す程に!?」
「んなわけあるかい」
寒さでボケていた思考が、一瞬で戻って来た。
思わず真顔でツッこんだが、背後から抱えられている為、表情は伝わらなかった。
「納得出来ない!俺よりあの女の方がいいってことか!?」
ぎゅうっと力を込めて抱きしめられ、アルヴィスの不満が伝わってくる。
「んなわけあるかい」
「じゃぁどうしてだ。納得できるように説明してくれ」
「アルより大事なわけないでしょ。馬鹿なこと言わないで」
「……」
抱きしめられて苦しかったが、その一瞬で力が抜けて、ミカエルは照れてしまった。
やだアルったら、嫉妬してる。
631
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる