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306. 異世界の○○2
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ソウェイサズ王国先王、ダミアン・エルドが前世の記憶を思い出したのは、十歳の頃だった。
両親は代々続く名家の後継者であり、都心にあって屋敷は大きく、庭は広く、一人っ子だったダミアンは、それはもう大切に育てられた。
両家の祖父母も孫には甘く、欲しい物は何でも買い与えてくれたし、どこにでも連れて行ってくれた。
友人も同じような家柄の子息であって、面倒な付き合いはあったものの、基本的には自由に過ごさせてもらっていた。
金に困ったことはない。
物に困ったこともない。
何かあれば使用人に言えばすぐに用意してもらえたし、どこかに行きたいと言えばすぐに車を出してもらえた。
両親はダミアンの言うことは、何でも笑顔で聞いてくれた。
良き両親だった。
高校生くらいまでの記憶はあるが、そこから先はなかったので、何かで死んだのかもしれない。
自身が第二王子であることは、全く嬉しくなかった。
母親の出自が男爵家で、しかも側妃であるばかりに、父王は全くダミアンに見向きもしなかった。
王は王太子ばかりを可愛がり、兄もまた、出来の悪いダミアンには見向きもしなかった。
おまえの子どもなんだから、優しくしろよ!
おまえの弟なんだから、優しくしろよ!
何かが欲しいと言っても、「勉強で成果を上げろ」と言われる。
どこかへ行きたいと言っても、「おまえは王子なのに軽率な行動をするな」と制限される。
王太子はあれもこれもと服もアクセサリーも、侍女も侍従も使い放題なのに、制限されることが不満で仕方がなかった。
つまらない。
日本は良かった。
優しい両親と、祖父母の元へ戻りたかった。
兄が死んでも、ざまぁ、としか思わなかった。
王太子が自分に回ってきても、何も嬉しくなかった。
何もやる気がなかった。
どうでもいい。
俺は、この世界の人間じゃないから。
ずっとそう思って、生きてきた。
魔王が復活した、と聞いて、期待した。
聖女は、異世界からやって来る。
そして、帰ることが出来る。
喜々として日本のことを喋る聖女とご友人に、期待した。
「…聞いてねぇよ…」
呆然と、ダミアンは呟く。
懐かしい渋谷のスクランブル交差点の前に立ってはいるものの、誰も彼もが自身の身体をすり抜けていく。
誰も、気づかない。
見えていない。
「うそだろ…」
なんでだよ。
こんなの、おかしいだろ。
マジックバッグも、開くことが出来なかった。
「なんでだよ!!」
中には、宝石や金銀がたくさん入っていた。
こつこつと、貯めて来た財産だった。
王の予算は税金で、派手に使うと調査が入るから、長年かけてこつこつと、問題にならない範囲で慎ましく、我慢しながら集めて来たものだった。
魔王が復活したら。
聖女が来たら。
その日を夢見て来たのに。
さすがに外見は外人だろうけれども、金さえあれば暮らしていける。
優しい両親なら、話せばきっと、俺が息子だとわかってくれる。
ようやく、日本に戻って来られたのに。
「ユーレイとか、ありえないだろ…」
自分の身体が、透けていた。
誰にも認識されない。
漫画やアニメなら、そういうのが視えるヤツの一人や二人はいるわけだから、どこかにいるだろうと思っても、誰とも視線は合わなかった。
では空でも飛んで実家に…と思っても、空を飛ぶことも出来なかった。
「なんだよクソッ!!めんどくせーな!!」
幽霊なのに電車に乗って、実家へと帰った。
帰った所で、認識されなければ意味はないが、なんとなく、両親なら気づいてくれるのではないかと、期待した。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさいませ、坊ちゃま」
年季の入った大きな屋敷はそのままだったが、使用人の顔ぶれは変わっていた。
誰にも認識されないので、制服を着た少年と共に家に入ると、おばさん家政婦に迎えられる。
「このおばさん、誰だよ?」
少年について歩いていくと、そこはかつての自分の部屋で、内装はお洒落になっていた。
「…おまえも、誰よ?」
少年が着替えている間に、屋敷を歩く。
母親の部屋へ。
…誰もいなかった。
父親の部屋へ。
…ここにもいなかった。
屋敷の中は懐かしかったが、色々な場所が変わっていた。
新しくなっていたり、建て直していたり。
庭も、あんなんだったっけ?
ブラブラと歩き、夕食の時間になり、少年が食堂へと向かうので、ついて行った。
「学園はどうでしたか?ショウマさん」
「いつも通り、しっかり勉強してきたよ、お母さん」
「ショウマは優秀だからな。何も心配はいらないな」
「ありがとう、お父さん。仕事は、忙しかった?」
「問題ないよ。おまえに継がせるのが楽しみだな」
「……父さん、母さん…?」
年は取っていたものの、自身の両親、だった。
「うそだ」
じゃぁこのガキは、弟なのか?
「おい、ふざけんな。そこは俺の場所だろうが!!」
代われ。
代われよ!!
叫んでも、誰にも気づかれなかった。
殴りかかっても、すり抜けてしまう。
「父さん!!母さん!!俺だよっ!!なんで、ガキなんか作ったんだよ…!!」
戻って来たんだ。
俺が。
一人息子が、帰って来たのに。
なんで、気づいてくれないんだよ!!
異世界を身体ごと移動できるのは、聖女だけ。
それを知らなかったダミアンは、誰にも認知されない世界で、一人叫ぶしかなかった。
ヒメノが、いなくなった。
カグラザカ・ユズルは、寮から追い出される日が来てようやくそのことに、気がついた。
学園は一年分の学費は前払いなので、卒業まではいられる。
だが寮は月払いであったので、親からもう払えないと言われてしまっては、出て行くしかなかった。
クラスが違う為、連絡を取り合ってつるまなければ、ヒメノと学園内で会うことはほとんどない。
四人のグループを作っていたアプリは、ヒメノが「しばらく忙しくなるから」と言って抜けてしまった。
他の二人も状況はユズル達と同じだったが、早い段階で親子共々被害者に土下座して謝罪をし、自分達に一方的に非があることを認めた上で、多額の慰謝料を支払い、和解していた。
だからかどうかは知らないが、ユズルとヒメノ以外の二人は、露骨な悪意の噂に晒されることなく、前の学校に通っている。
二人はグループに入ってはいるけれども、発言することはなくなった。
つるむことも、なくなっていた。
裏切り者だと、ユズルとヒメノは思っていたし、向こうは向こうで「早く謝りなよ」と諭してくるのが、ウザかった。
ヒメノが抜けてしまったので、もうグループを残している意味もない。
ユズルも抜けた。
ヒメノに個通すると、そっけない返事が来る。
「遊んでる暇ない。バイトしてんの」
と言われて、あーガンバってんなーとは、思っていた。
ユズルが寮を追い出されるということは、ヒメノもそうだろう、と思った。
追い出されたら、一緒に暮らせばいいんじゃね?
そんな風に、考えていた。
異世界で一緒に冒険した仲だし。
向こうでは結局ヤれなかったけど、一緒に暮らせばいくらでもヤれるだろうし。
ハーレムを作れなかったのはアイツのせいだから、責任取るべきじゃん。
「住むとこ探すの、手伝う?」
「いらない」
「やっぱ住むなら渋谷の近くが良くね?」
「そーね」
「いつでも遊びに行けるもんなー」
そこから返事はなかったので、バイトとアパート探しを頑張っているのだろうと、思っていた。
いよいよ寮を追い出されるまで一週間になって、さすがにユズルは焦った。
「なぁ、住むとこ決まったん?どこ?」
「俺も引っ越しの都合があるからさー。住所教えてくんねーと、荷物運べねーんだけど?」
「おーいヒメノー!どんだけバイトやってんだよ笑」
「住所くらい送れるだろ。はよ送れや笑」
数日前になって、通話した。
繋がらなかった。
「…え?なんで出ねーの?」
寮から追い出される当日、引っ越し準備が何も出来ていないユズルに向かって、寮監が言った。
「即刻明け渡せ」
「いやいや…ちょっと待ってくれよ…」
「冬休みで人が少ないからって、舐めるなよ。おい、人手をかき集めて来い。全部外に出すぞ」
寮監は、ユズルの素行不良にずっと悩まされてきた。
やっと出て行くと思っていたら、コレ。
何らかの問題は起こすだろうと予想はしていたので、一歩も引かなかった。
ぞろぞろと、運動部の部員を引き連れて、後輩が戻って来る。
「おい、待て!!ちゃんと片づけるから、待ってくれよ!!」
「待てるわけねーだろ。今日が期限だってわかっててコレって、馬鹿にしやがって。さっさと放り出せ!!」
「やめろ!!」
もみ合いになったが、運動部の筋肉には、適わなかった。
力ずくで寮の外に出され、荷物もどんどん出されていく。
布団も、本も、裸のまま地面に放り投げられた。
服もクローゼットから出されたそのまま、放置された。
机と椅子、ベッドは備え付けで、それ以外は乱雑に投げられ、曲がったり折れたりしたが、運動部はお構いなしだった。
「おい!!ふっざけんなよ!!てめぇら弁償しろや!!」
「は?こんなことになったのは誰のせいですかー?むしろこっちが人件費を要求したいくらいなんだよゴミクズ!!」
「はぁ…?んだと?」
「掃除もせずにきったねぇカス部屋残しやがって。そこでのたれ死ねや」
寮監は容赦がなかった。
閉め出され、ゴミの山のようになった寝具や衣服、本や雑貨を地面にばらまかれ、ユズルは怒りに震えた。
「てめぇ、タダで済むと思うなよ…!」
「そりゃこっちのセリフだタコが。てめぇとつるんでたスルガザキ、転校したんだから、おまえもすればぁ?」
「は?」
「うちの学園の評判が落ちたの、おまえらのせいだからなゴミクズ。犯罪者はとっとと消え失せろ!」
「な、…!」
ユズルは絶句し、ようやく、気がついた。
ヒメノ、転校した?
聞いてない。
ってことは、もうとうに引っ越した?
なんで、教えてくれなかった?
「…ヒメノ、俺を捨てたのか?」
マジックバッグの中には、向こうの世界の官能小説と、薬や衣類、魔道具、テントが入っていたが、衣類以外は取り出すことが出来なかった。
収納したくても、出すことは出来ても、入れることは出来なかった。
金もない。
毎月振り込まれていた通帳の残高は、もうなかった。
マジックバッグの中に、金目のものも何もなかった。
衣類は高級な布を使っていたので、いくらか金にはなるかもしれないが、宝石の類も興味がなかったので、収納していなかった。
何もない。
ヒメノもいない。
噂が出回ってからは、名前も知らない一夜限りの女しか相手にしておらず、連絡先を知っている女には全員切られていた。
かつての仲間二人に連絡したが、返事はなく着信も拒否されていた。
親に泣きついたが、相手にされなかった。
「…どうしろってんだ…」
ユズルは呆然と呟いたが、救いの手を差し伸べてくれる人は、現れなかった。
両親は代々続く名家の後継者であり、都心にあって屋敷は大きく、庭は広く、一人っ子だったダミアンは、それはもう大切に育てられた。
両家の祖父母も孫には甘く、欲しい物は何でも買い与えてくれたし、どこにでも連れて行ってくれた。
友人も同じような家柄の子息であって、面倒な付き合いはあったものの、基本的には自由に過ごさせてもらっていた。
金に困ったことはない。
物に困ったこともない。
何かあれば使用人に言えばすぐに用意してもらえたし、どこかに行きたいと言えばすぐに車を出してもらえた。
両親はダミアンの言うことは、何でも笑顔で聞いてくれた。
良き両親だった。
高校生くらいまでの記憶はあるが、そこから先はなかったので、何かで死んだのかもしれない。
自身が第二王子であることは、全く嬉しくなかった。
母親の出自が男爵家で、しかも側妃であるばかりに、父王は全くダミアンに見向きもしなかった。
王は王太子ばかりを可愛がり、兄もまた、出来の悪いダミアンには見向きもしなかった。
おまえの子どもなんだから、優しくしろよ!
おまえの弟なんだから、優しくしろよ!
何かが欲しいと言っても、「勉強で成果を上げろ」と言われる。
どこかへ行きたいと言っても、「おまえは王子なのに軽率な行動をするな」と制限される。
王太子はあれもこれもと服もアクセサリーも、侍女も侍従も使い放題なのに、制限されることが不満で仕方がなかった。
つまらない。
日本は良かった。
優しい両親と、祖父母の元へ戻りたかった。
兄が死んでも、ざまぁ、としか思わなかった。
王太子が自分に回ってきても、何も嬉しくなかった。
何もやる気がなかった。
どうでもいい。
俺は、この世界の人間じゃないから。
ずっとそう思って、生きてきた。
魔王が復活した、と聞いて、期待した。
聖女は、異世界からやって来る。
そして、帰ることが出来る。
喜々として日本のことを喋る聖女とご友人に、期待した。
「…聞いてねぇよ…」
呆然と、ダミアンは呟く。
懐かしい渋谷のスクランブル交差点の前に立ってはいるものの、誰も彼もが自身の身体をすり抜けていく。
誰も、気づかない。
見えていない。
「うそだろ…」
なんでだよ。
こんなの、おかしいだろ。
マジックバッグも、開くことが出来なかった。
「なんでだよ!!」
中には、宝石や金銀がたくさん入っていた。
こつこつと、貯めて来た財産だった。
王の予算は税金で、派手に使うと調査が入るから、長年かけてこつこつと、問題にならない範囲で慎ましく、我慢しながら集めて来たものだった。
魔王が復活したら。
聖女が来たら。
その日を夢見て来たのに。
さすがに外見は外人だろうけれども、金さえあれば暮らしていける。
優しい両親なら、話せばきっと、俺が息子だとわかってくれる。
ようやく、日本に戻って来られたのに。
「ユーレイとか、ありえないだろ…」
自分の身体が、透けていた。
誰にも認識されない。
漫画やアニメなら、そういうのが視えるヤツの一人や二人はいるわけだから、どこかにいるだろうと思っても、誰とも視線は合わなかった。
では空でも飛んで実家に…と思っても、空を飛ぶことも出来なかった。
「なんだよクソッ!!めんどくせーな!!」
幽霊なのに電車に乗って、実家へと帰った。
帰った所で、認識されなければ意味はないが、なんとなく、両親なら気づいてくれるのではないかと、期待した。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさいませ、坊ちゃま」
年季の入った大きな屋敷はそのままだったが、使用人の顔ぶれは変わっていた。
誰にも認識されないので、制服を着た少年と共に家に入ると、おばさん家政婦に迎えられる。
「このおばさん、誰だよ?」
少年について歩いていくと、そこはかつての自分の部屋で、内装はお洒落になっていた。
「…おまえも、誰よ?」
少年が着替えている間に、屋敷を歩く。
母親の部屋へ。
…誰もいなかった。
父親の部屋へ。
…ここにもいなかった。
屋敷の中は懐かしかったが、色々な場所が変わっていた。
新しくなっていたり、建て直していたり。
庭も、あんなんだったっけ?
ブラブラと歩き、夕食の時間になり、少年が食堂へと向かうので、ついて行った。
「学園はどうでしたか?ショウマさん」
「いつも通り、しっかり勉強してきたよ、お母さん」
「ショウマは優秀だからな。何も心配はいらないな」
「ありがとう、お父さん。仕事は、忙しかった?」
「問題ないよ。おまえに継がせるのが楽しみだな」
「……父さん、母さん…?」
年は取っていたものの、自身の両親、だった。
「うそだ」
じゃぁこのガキは、弟なのか?
「おい、ふざけんな。そこは俺の場所だろうが!!」
代われ。
代われよ!!
叫んでも、誰にも気づかれなかった。
殴りかかっても、すり抜けてしまう。
「父さん!!母さん!!俺だよっ!!なんで、ガキなんか作ったんだよ…!!」
戻って来たんだ。
俺が。
一人息子が、帰って来たのに。
なんで、気づいてくれないんだよ!!
異世界を身体ごと移動できるのは、聖女だけ。
それを知らなかったダミアンは、誰にも認知されない世界で、一人叫ぶしかなかった。
ヒメノが、いなくなった。
カグラザカ・ユズルは、寮から追い出される日が来てようやくそのことに、気がついた。
学園は一年分の学費は前払いなので、卒業まではいられる。
だが寮は月払いであったので、親からもう払えないと言われてしまっては、出て行くしかなかった。
クラスが違う為、連絡を取り合ってつるまなければ、ヒメノと学園内で会うことはほとんどない。
四人のグループを作っていたアプリは、ヒメノが「しばらく忙しくなるから」と言って抜けてしまった。
他の二人も状況はユズル達と同じだったが、早い段階で親子共々被害者に土下座して謝罪をし、自分達に一方的に非があることを認めた上で、多額の慰謝料を支払い、和解していた。
だからかどうかは知らないが、ユズルとヒメノ以外の二人は、露骨な悪意の噂に晒されることなく、前の学校に通っている。
二人はグループに入ってはいるけれども、発言することはなくなった。
つるむことも、なくなっていた。
裏切り者だと、ユズルとヒメノは思っていたし、向こうは向こうで「早く謝りなよ」と諭してくるのが、ウザかった。
ヒメノが抜けてしまったので、もうグループを残している意味もない。
ユズルも抜けた。
ヒメノに個通すると、そっけない返事が来る。
「遊んでる暇ない。バイトしてんの」
と言われて、あーガンバってんなーとは、思っていた。
ユズルが寮を追い出されるということは、ヒメノもそうだろう、と思った。
追い出されたら、一緒に暮らせばいいんじゃね?
そんな風に、考えていた。
異世界で一緒に冒険した仲だし。
向こうでは結局ヤれなかったけど、一緒に暮らせばいくらでもヤれるだろうし。
ハーレムを作れなかったのはアイツのせいだから、責任取るべきじゃん。
「住むとこ探すの、手伝う?」
「いらない」
「やっぱ住むなら渋谷の近くが良くね?」
「そーね」
「いつでも遊びに行けるもんなー」
そこから返事はなかったので、バイトとアパート探しを頑張っているのだろうと、思っていた。
いよいよ寮を追い出されるまで一週間になって、さすがにユズルは焦った。
「なぁ、住むとこ決まったん?どこ?」
「俺も引っ越しの都合があるからさー。住所教えてくんねーと、荷物運べねーんだけど?」
「おーいヒメノー!どんだけバイトやってんだよ笑」
「住所くらい送れるだろ。はよ送れや笑」
数日前になって、通話した。
繋がらなかった。
「…え?なんで出ねーの?」
寮から追い出される当日、引っ越し準備が何も出来ていないユズルに向かって、寮監が言った。
「即刻明け渡せ」
「いやいや…ちょっと待ってくれよ…」
「冬休みで人が少ないからって、舐めるなよ。おい、人手をかき集めて来い。全部外に出すぞ」
寮監は、ユズルの素行不良にずっと悩まされてきた。
やっと出て行くと思っていたら、コレ。
何らかの問題は起こすだろうと予想はしていたので、一歩も引かなかった。
ぞろぞろと、運動部の部員を引き連れて、後輩が戻って来る。
「おい、待て!!ちゃんと片づけるから、待ってくれよ!!」
「待てるわけねーだろ。今日が期限だってわかっててコレって、馬鹿にしやがって。さっさと放り出せ!!」
「やめろ!!」
もみ合いになったが、運動部の筋肉には、適わなかった。
力ずくで寮の外に出され、荷物もどんどん出されていく。
布団も、本も、裸のまま地面に放り投げられた。
服もクローゼットから出されたそのまま、放置された。
机と椅子、ベッドは備え付けで、それ以外は乱雑に投げられ、曲がったり折れたりしたが、運動部はお構いなしだった。
「おい!!ふっざけんなよ!!てめぇら弁償しろや!!」
「は?こんなことになったのは誰のせいですかー?むしろこっちが人件費を要求したいくらいなんだよゴミクズ!!」
「はぁ…?んだと?」
「掃除もせずにきったねぇカス部屋残しやがって。そこでのたれ死ねや」
寮監は容赦がなかった。
閉め出され、ゴミの山のようになった寝具や衣服、本や雑貨を地面にばらまかれ、ユズルは怒りに震えた。
「てめぇ、タダで済むと思うなよ…!」
「そりゃこっちのセリフだタコが。てめぇとつるんでたスルガザキ、転校したんだから、おまえもすればぁ?」
「は?」
「うちの学園の評判が落ちたの、おまえらのせいだからなゴミクズ。犯罪者はとっとと消え失せろ!」
「な、…!」
ユズルは絶句し、ようやく、気がついた。
ヒメノ、転校した?
聞いてない。
ってことは、もうとうに引っ越した?
なんで、教えてくれなかった?
「…ヒメノ、俺を捨てたのか?」
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収納したくても、出すことは出来ても、入れることは出来なかった。
金もない。
毎月振り込まれていた通帳の残高は、もうなかった。
マジックバッグの中に、金目のものも何もなかった。
衣類は高級な布を使っていたので、いくらか金にはなるかもしれないが、宝石の類も興味がなかったので、収納していなかった。
何もない。
ヒメノもいない。
噂が出回ってからは、名前も知らない一夜限りの女しか相手にしておらず、連絡先を知っている女には全員切られていた。
かつての仲間二人に連絡したが、返事はなく着信も拒否されていた。
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謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
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……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
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