【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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39. 誘拐騒動後の俺

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 ミカエルが王子宮に戻って来てからしばらくして、周辺に騎士が大量に配備された。
 ミカエルだけではなく、他の王族の宮にも警備が増やされ、厳戒態勢が一ヶ月ほど続いており疑問に思っていたのだが、その間ミカエルは自宮に籠もっていたし、アルヴィスも共に授業を受けていたから、それほど気にはしていなかった。
 ようやく警戒が解かれたある日、パストゥール秘書官が「実は」と、事情を教えてくれたのだが、その内容に、ミカエルは驚愕した。

 曰く、黄蘭の君が脱走し、行方不明になったと。

 


 
 五国同盟の親睦会最終日、ソウェイサズ王国は一番最後に、転移装置で自国へと戻ることになっていた。
 見送りがてら、と言いつつ、寝室から転移装置のある広間まで、カノラド王が眠る第一王子を抱えて先頭を歩く姿には、誰もが二度見しつつ見送った。
 ソウェイサズ王と愛人は、先頭を歩くカノラド王から少し離れた後ろを歩いている。
 二人は少し距離を開けて、歩いていた。
 今までがベタベタと、周囲も省みずに愛人がしなだれかかっていたことを考えれば、今の距離こそが適正と言えるだろう。
 転移装置の前まで移動し、パストゥール秘書官へと王子を手渡す際、カノラド王は名残惜しそうに王子の頬を撫でた。
「置いて行ってくれてもいいんだが?」
「……」
 秘書官は背中に汗をかきつつも、王子を引き受ける為の腕を、引っ込めるわけにはいかなかった。
「ふむ、まぁ仕方ないか」
 何を納得したのか不明だが、王は一つ頷き、王子を秘書官の手へと引き渡す。
「…殿下をお連れ頂きまして、ありがとうございました」
「構わん。俺の為だ」
「……」
 秘書官は返答のしようもなく、額にも汗をかいた。
 我が国の王と違い、カノラド王からは圧をひしひしと感じる。
 内心の動揺を知ってか知らずか、カノラド王は瞳を細めて笑ってみせた。
「貴国の対応を、楽しみにしている」
「……っ」
 ひゅ、と、秘書官の喉が詰まった。

 誘拐の主犯と共犯は、ソウェイサズ王国の者だった。

 事件はカノラド連邦で起こったが、カノラド王は黄蘭の君を罰しなかった。
 取引の結果といえばそうだったが、この王は、誘拐事件の対応を我が国へと一任し、奴隷商人と船は自国の汚職事件解決の為に、拘束していた。

 ソウェイサズ王国は、第一王子誘拐事件を、解決出来るのかどうかが問われていた。

 王の愛人が共犯という、重大事件だ。
 カノラド王だけではなく、他国の王にも試されていた。
 自国にはすでに、緊急事態である旨連絡をしていた。
 昨晩同席していた、我が国の王の主席秘書官も、蒼白な顔をしている。
 転移装置で自国へと戻ってすぐ、黄蘭の君は、待機していた第二騎士団によって拘束された。

「…は?何すんのさ?俺を誰だと思ってるワケ!?ねぇ!!」

 彼は叫び、騎士に周囲を固められ、引きずられてなお王へと呼びかけていた。
「ねぇダミアン!!どういうこと!?こいつらやめさせてよ!!俺、捕まらないって、言われたんだけどっ!?」
「あーうるせぇなぁ。知らねーよんなこと。俺に言うな」
 耳に指を突っ込み、つまらなさそうに言う王は、黄蘭の君を見ることもせずに、自室へと戻り始めた。 
 死にかけた自分の息子すら、一瞥することなく戻り始めた。
 ああ、と、パストゥール秘書官は失望する。

 どれだけ殿下を傷つければ、気が済むのか。

 第一王子を大切に抱え直し、パストゥール秘書官は王子宮へと歩き始める。
 ミルラもまた、怒りの形相を隠しきれないまま、歩き始めた。
 黄蘭宮を捜索した所、ガーランド前侯爵の次男からの手紙が何通も、ジュエリーボックスの奥に後生大事に仕舞われていた。
 王宮へ届く手紙は全て検閲されているが、この手紙はされていなかった。
 街へ下りた際に、誰かから受け取ったのだろうと思われたが、護衛騎士は誰もその瞬間を見ていなかった。
 そのやり口は今回、カノラド連邦で見せたものと似ており、手紙の内容からも主犯は前侯爵の次男、現侯爵の弟である、オースティン・ガーランドであることは疑いようもなかった。
 第二騎士団による黄蘭の君への取り調べが始まったが、彼は「ダミアンを呼べ」の一点張りで、当初話にならなかったという。
 押収したオースティンからの手紙を見せると、今度は「オースティンを呼べ」の一点張りへと変化した。
 それはこちらも願ってもないことだったが、侯爵家一族を捕縛し、オシウィアド王国にいる次男を帰国させる、それ一つとっても容易なことではなかった。
 侯爵家当主は体調が悪い、事故に遭ったなどと言い訳をしては、騎士団への出頭を引き延ばしていた。

 我が国の王が、非協力的なのが最大の原因だった。

 上位貴族である侯爵家に踏み込み、一斉捕縛するには、王命が必要だった。
 書類を作成し、あとは御璽を頂くだけ、という段取りをしても、「めんどくせー」の一言で、判を押すことすらしてはくれなかった。
 
 第一王子の一大事であり、これは国家に徒なす最大の罪なのに。

 王が何を考えているのかは誰にも窺い知ることは出来なかったが、ここまで酷いとは、誰も想像していなかった。
 王妃殿下に口添えを頼もうにも、彼女もまた、第一王子に興味がなかった。
 「そうですか、大変ですねぇ」の一言で、以後第二騎士団の謁見の許可は下りなかった。 

 国としての根幹が、揺らいでいた。

 王族に対する罪を、逆賊を、王族が見逃そうとしていると取られても、おかしくはない事態だった。
 宰相が王に直訴し、ようやく捕縛命令が出た時には、侯爵家は一家揃って、他国へと逃亡していた。
 実家に戻されていた現侯爵の妻子、伯爵家の正妻となっていたオースティンの姉、侯爵家の正妻となっていた妹は捕らえたが、詳しい事情を知る者はいなかった。
 侯爵家の取り潰しと死罪は確定だったが、主犯の男を帰国させる手だてはなくなった。
 手紙にはオシウィアド王国にいると書かれていた為、オシウィアド王国へと身柄の引き渡しを要求したが、返事はなかった。
 オシウィアド王国は北方大陸の端にある小国であり、我が国と国交は開かれていない。
 ガーランド侯爵家は先々代から貿易を始め、オースティンはオシウィアド王国へ販路を拡大する為出向いていたようだった。
 
 『王族に、とても良くしてもらっている。
 おまえもこちらに来れば、大歓迎するぞ。
 会えるのを楽しみにしている。』

 そんな風に締められた手紙の後、オシウィアド王国へ行く船を用意するから、第一王子と共に親睦会に参加しろ、という指示の手紙も入っていた。

 第一王子の婚約披露の参加者リストに、オシウィアド王国の者はいなかったが、オースティン・ガーランドは参加していた。
 
 主犯への手がかりを失った騎士団は、黄蘭の君を追及するしか手がなくなった。
 死罪は確定している。
 貴族牢の中でも、下位貴族対象のものに入れられた彼は、扱いの酷さに不満をぶつけていたが、王は来ないこと、オースティンも来ないこと、死罪は確定していることを知ると、泣き落としを始めた。
「ねぇ、俺、知ってること全部話すよぉ。話すからさ、解放して欲しいな?ねっ俺、アンタの愛人になってあげてもいいよ!この国の王の愛人が、アンタの愛人になるんだからさ、光栄でしょ?」
「……」
 逮捕された時点で、この男は愛人ではなくなっていた。
 一族は捕らえられ、全財産は没収され、捜索を終えた黄蘭宮は引き払われている。
 後々の証拠となる物もあることから、男の荷物は全て倉庫に保管されていた。
 王は、この愛人の契約解除と逮捕に関しては、すんなりと御璽を押したのだった。

 飽きていたのだろう。

「でもぉ、知ってることって言っても、全部もう話しちゃったよ?オースティンがぁ、ミカクンを連れて来たら、王族に紹介してくれるって言うからぁ。ホラ、俺ダミアンの愛人じゃない?契約終わって、次がオシウィアド王国の王族の愛人ならまぁ、いいかなぁって思ったんだぁ」
「…第一王子殿下が、その後どうなるかは考えなかったのか?」
 低く問う声は怒りが混じっていたが、元愛人は気づかなかった。
「え?それは大丈夫だよぉ!だってオースティンが、ミカクンを気に入ったって言ってたから!ミカクン可愛いから、いい愛人になれると思う!」
「第一王子殿下を、おまえと同じ物差しで語るな!」
「え~?どういう意味ぃ?何で怒鳴るのさー!」

 かつて人形王子と呼ばれていた第一王子殿下が、婚約を機に変わった、というのは、王宮内では有名な話だった。
 今では第一王子殿下は天才である、ともっぱらの噂であったし、表情を取り戻された殿下は、周囲の者にもとても気さくに接して下さる、素晴らしい王子になられたという話だった。
 普段関わることのない、第二騎士団の人間も、事情聴取の為にたびたび王子宮へと出向いていたが、王子は噂に違わず聡明で、気さくで、誰よりも美しい方であるという話は、瞬く間に騎士団内に広まった。
 だが何よりも、殿下はまだ子どもだった。

 御歳六歳であられる殿下を、目の前の男が同列に語ることは許し難い。
 
 死罪は揺るがないが、さらに不敬罪も追加したいくらいだった。
「おまえを愛人にしたい者など存在しない。起訴の後、裁判でおまえの罪は確定し、即処刑となる」
「え…?」
 王の元愛人は、信じられないという顔をした。
「当然だろう。カノラド連邦での各国の王の証言がある。おまえ自身の自白もある。この国においても、揺るぎない証拠がある。何を驚くことがある」
「だって!!俺、罪には問わないって言われたもん!!」
「…はぁ?おまえ、本気で言っているのか」
 取り調べ官は、心底呆れた風に言った。
「おまえが罪に問われなかったのは、カノラド連邦における偽証のみだ。…王に偽証しておきながら、許されただけでも、光栄に思え」
「は…?なに、それ…ぎしょうってなに…」
 取り調べ官は、元愛人の両隣に立っていた騎士達と顔を見合わせ、肩を竦めた。
「誘拐事件が起こったのはカノラド連邦だが、犯人と被害者は我が国の人間だ。我が国で法に則り裁くがいい、という、カノラド王の寛大なるご処置である」
「…なに、それ、いみ、わかんない…っ」
 元愛人は暴れようと身を捩ったが、首には魔術行使を封じるチョーカーをつけられ、手足は椅子に縛られており、不可能だった。
「カノラド連邦においては、王の意志が全ての法の上に立つ。おまえ、あの国で裁かれていたら、裁判もなく首を落とされていただろうよ」
「……ひ…っ」
「裁判は即日開かれる。結審もすぐだ。己の犯した罪を悔いるんだな」
「…ま…まって、…ねぇ、まって、俺、悪いこと、してないよぉ!!」
「連れて行け」
 元愛人の叫びがいつまでも木霊していたが、心を動かされる者は一人もいなかった。





 元愛人が帰国してから結審まで、三週間。
 
 元愛人とその血縁、逃亡した侯爵家に置いて行かれた血縁者の処刑が決まった。
 侯爵家の主要人物の逃亡という、ありえない失態を隠す為にも、迅速な措置が必要だった。
 裁判中から牢の中に至るまで、元愛人は「何も悪いことをしていない」を繰り返し主張していたが、受け入れられることはなかった。   
 
 処刑前夜。

 寝る時以外は喚き続けていた元愛人が、ぴたりと黙った。
 不審に思った牢番が牢内を覗いたが、元愛人は壁際で膝を抱えるように丸まって座り、顔を隠して泣いていた。
 さすがに観念したのかと思った牢番は、静かになって結構なことだと思い、椅子に座って任務時間が過ぎるのを待っていた。
 交代の牢番がやって来たのが二十二時。
 椅子を譲って立ち上がった牢番が牢内を覗き、声を上げた。
「おい、あいつどこ行った?」
「はぁ?何言ってんだ?」
 交代したばかりの男も立ち上がり、牢内を覗き込む。
「…うっそだろ…」
 




 元愛人の姿は、どこにもなかった。
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