【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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185. 回収される俺

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 名を呼ばれた気がして、ミカエルは目を覚ました。
 頬を叩かれていることに気づき、痛くはないが不快ではあるので眉を顰めると、一層声は大きくなった。
「ミカエル!無事か!?ミカエル!!」
「……、……生きてます…けど…」
「…良かった、生きてる」
「……?……あれ?」
 目を開けると、ミカエルを抱き抱えているバージルがいた。
「死んでるのかと思った。…心配、した」
 顔を歪め、泣きそうな表情だった。
「…バージル…?」
「うん。助けに来たけど、必要なかったな」
「……あ」
 そこでようやく、ミカエルは自分が今どこにいるのかを思い出した。
 周囲の空気がざわついており、背中を支えてもらい身体を起こすと、ニーズヘッグの前でアベルとロベルトが話をしていた。 
「ミカエルが、目を覚ました」
 バージルが声をかけると、二人は同時に振り向いて、こちらへと駆け寄って来る。
「で、殿下!!良かった…!!」
「ミカエル王子、よくこんな巨大な龍を倒されましたね!本当に、ご無事で良かった!」
「…あ、ありがとうございます」
 自分が倒したわけではないので複雑な気分だったが、ミカエルは礼を言う。
 わざわざ助けに来てくれたのだ。
 ありがたいことだった。
「ドラゴンスレイヤーの称号が与えられるにあたって、承認が必要だから、人を呼んだ。魔獣を回避するルートを通って来るから、時間がかかる。今日は上で一泊することになるけど、いい?」
「…え、待って大げさすぎません?」
 寝起きに爆弾を放り込まれても対応出来ない、と思いつつミカエルは焦るが、バージル達は当然と言わんばかりの顔をして、アベルとロベルトは日程についての話し合いをしていた。
「五国と冒険者ギルドから人が来る。この国の連中は信用できないし、もともと称号付与には複数国と冒険者ギルドの承認が必要だから」
「……」
 
 俺が倒したんじゃ、ないんです。
 アルヴィスを連れて来るべきでは。

 …いや、無理だ。
 どうやってここに?とか、どうしてその場に残らなかったの?とか、問われても答えられないことが多すぎる。
 聖女の魔法陣に引き込まれたのはミカエルなのだから、当然ミカエルが倒したものだと思われていた。

 ああぁ…。
 
「とりあえずミカエルは休んで。アレは腐敗しても困るから、最高司祭に結界を張って維持してもらう。明日一日、休日にして全部片づけて、明後日からレベル上げ、再開しよ」
「…はい…」
「あの鱗、よく貫けましたね…すごいです殿下…!」
「斬り口が非常に鮮やかだ。全身を切り刻まれているが、敵はそこまでしないと死ななかった、ということなのだろうし、恐ろしい強さだったのだろうな…」
「…は、はは…はい…」

 それはもう。
 自分では勝てないくらい、強かったです。

「殿下、装束がぼろぼろになってます。怪我は公子殿下が治して下さっていましたが、体調は大丈夫ですか?」

 勇者殿の、純粋な尊敬と憧憬の瞳が痛いです。

「え、バージル、回復ありがとうございます。…体調は…ちょっと、疲れて動けません…」
「うわぁ、本当にギリギリだったんですね…!!本当にご無事で良かったです!!」
「…ありがとうございます…」
 居たたまれず落ち着かない気分を隠しつつ、ミカエルはどうすればいいのかを考えていたが、疲労が大きすぎて頭が回らなかった。 
 そうこうしているうちに、最高司祭ジーンがやって来て、まず龍の死体に驚き、そしてミカエルを見てさらに驚いた。
「ミカエル王子殿下、ボロボロでもさすが、お美しいですね。ちょっと変な道に目覚めそうです」
「……」
「冗談です。ご無事で何よりでございます」
「…どうも…」
 もう、ツッコミを入れる気力もなかった。
 ミカエルだけでなく、バージル達のドン引いた表情を見て、ジーンはにこりと笑み、龍の元へと歩いて行って、結界を張った。

 バレかけてますよ、最高司祭殿。

「戻ろう、ミカエル。聖騎士団員とウルテイワズの王国騎士団員が着いたら、ここの維持をさせる」
「はい。…えっと、ここへは、聖女殿のスキルで来られたんですか?」
 どうやって戻るのだろうと思っていると、公子は首を振った。
「ミカエルがボスを倒したからか、スキルを使っても何も起きなかった。だから崖から」
「が、崖…!?」
「うん、崖。ロープ伝って、下りてきた」
「…わぁ」
 上と繋がっていたのか、と思っていると、バージルがミカエルを抱き抱えたまま立ち上がった。
「…えっ」
「歩けないんでしょ?行くよ」
「…え、…あ、ありがとう、ございます…」
「うん」
 バージルの鎧が痛かったが、ミカエルは我慢した。
 洞窟内は、美しいままだった。
 龍の攻撃で破壊されたはずなのに、元通りに戻っているのは、フィールド、という特殊な環境の不思議な効果だった。
 ダンジョンのボス戦のようなものだ。
 戦闘を終了すると、元通りになる。
 ゲームの世界だなぁ、と、納得してしまう仕様だった。
 ラダーニエは「最初で最後」と言っていたので、今後この場で、聖女のスキルで危険に晒される者はいなくなる。

 厄介事を、一つ減らしたのだ。
 …アルヴィスが。

 そう、思いつつ通路を曲がった所に、気絶したままのご友人殿が地面に転がっていて、驚いた。
「…彼女は」
「生きてる。寝てるだけ。冒険者の彼に背負ってもらうから大丈夫」
「そうですか」
 ご友人の近くで護衛として立っている冒険者の彼は、人族だった。
 目が合い頭を下げられたが、彼からはなぜか、ミカエルに対する好意的な感情を受け取った。
 しばらく歩くと、前方から光が差し込んできており、そこは崖の中腹だった。
 足場があり、そこだけぽかりと横穴が開いて、先ほどのフィールドへと繋がっている。
 ご友人が言っていた場所は、本当にあったのだ。
 それがまさか隠しボスのステージだとは、思いもしなかっただろう。

 レベルを満たしていなければ、入ることが出来ない場所。
 聖女のスキルを使用しなければ、入れない場所。

 おそらくここから入った場合、あの龍に出くわすことはなく、単なる美しいデートスポットになるのだろう。

 知らなかったとはいえ、ミカエルは命の危険に晒された。
 知らなかったとはいえ、聖女はミカエルを命の危険に晒した。

 …前世もそう。
 
 知らなかったとはいえ、罪人に仕立て上げられた自分の人生は、滅茶苦茶にされた。
 
 彼らは言ったのだ。

「いやあ、悪い悪い。まさかこんなことになるとは知らなくてさぁ!かるーい、冗談のつもりだったんだ!悪気はないんだって!謝ったから、もういいだろ?」

 前世と同じことを、崖上の聖女は言った。
 
 バージルに背負ってもらうには鎧が堅くて痛かったので、まだ軽装のロベルト王太子に背負ってもらい、ロープを伝ってなんとか上へと戻ったミカエルに対して、聖女は重大性を理解もせず、軽く言ったのだった。

「…そうですか」

 許さないよ。
 絶対に。
 元の世界に、帰ってもらう。

 …この世界で、英雄としてのうのうと暮らすなんて、絶対にさせてやらない。


 
 
  
 この広場に残っていたAランク冒険者二名が、交代で北方都市へ行き、聖騎士団員と王国騎士団員を連れて戻ったのは、十八時を過ぎてからだった。
 すぐに広場に天幕とテントを張り、夕食の準備を始める者と、崖下の洞窟へと降りていく者とで別れて行動する様子は、さすが公国と王国の精鋭を連れて来ただけあって、無駄がなく、統率がとれていた。
 ミカエルはバージルの天幕でソファを置いて横になり、クッションとシーツと飲み物や軽食など、至れり尽くせりで世話されながら、皆の様子をぼんやりと眺めていた。
 勇者パーティーの誰かは常にそばにいてくれたので、暗殺者の近づく余地はなかった。
 食事も、聖騎士団員と王国騎士団員が用意してくれ、毒見役もきちんとついているので、安心して食事をすることも出来た。
 ご友人が目を覚まし、ミカエルに会わせろと天幕前で騒いでいたが、衝立で姿が見えないように隠してくれ、会わせないよう配慮してくれたので、突撃されることはなかった。
 ミカエルには護衛騎士すらいないので、代わりに聖騎士団員のみなさんが、バージルのついでに護衛してくれていた。
 本当に申し訳ないし、ありがたいことだった。
 ミカエルの護衛騎士は、バージル達に存在を忘れられており、ホテルに残っているらしい。
 まぁ、いた所で役には立たないので、どうでもいいことである。
 パーティーメンバーの誰かしらがそばにいてくれたからこそ、安心して任せることも出来たし、少し寝ることも出来た。
 おかげで動けるようにはなったのだが、安静にという言葉に甘えて、大人しくしている。
 ミカエルがバージルの天幕にいるので、何かあれば皆そこに集まる。
 ジーンも結界の維持を確認してから戻ってきて、壊れた石碑を集めて、古代語の解読をしていたようだった。
「聖女は確信犯ですね」
「様がなくなった」
 ミカエルが指摘すると、ジーンは鼻で笑った。
「本当に、何なのでしょうねあの異世界人は。…いえ、我々がお呼びした聖女様ではいらっしゃるのですが、あそこまでのクズ…いえ、人間性に問題のある方は、そうそうお目にかかれないのでは?」
「…そ、そうでしょうか」
 ミカエルは疑問を呈したが、バージル達は頷いているので、彼らの周辺には善良な人達が集まっているのだな、と羨ましくなっただけだった。
 
 いくらでもいるよ…。
  
 と、言いたくなったが、ミカエルは言葉を飲み込んだ。
「石碑を解読致しました。ミカエル王子殿下が、一定以上のレベルであったばかりに、魔法陣が反応してしまったようです」
「そうなの?」
「はい。こちらが石碑全文になります」
 首を傾げるバージルにメモを渡しつつ、ジーンはため息をついた。
「古代語は神の言語とされておりますが、聖女様の世界の言語でもあります。…つまり聖女様は、石碑が読める」
「…確信犯だ」
 バージルがメモに目を落としつつ、忌々しげに呟いた。
「はい。スキルを使えば、何かが起こる。挑めと書いてあるのだから、敵がいるだろうことは想像がつくはずです」
「…私のレベルはどうか?と、試すようなことを、スキルを使用する直前に言われました」 
 ミカエルの発言に、皆不快そうに顔を歪めた。
「悪質極まりないではないか。悪戯では済まされんぞ」
「…彼は、軽い冗談だった、と言っていました。悪気はないから、と。…殿下の命を危険に晒しておいて、冗談で済むわけがないのに…」
 アベルが拳を握りしめ、自身の膝を叩いていた。
 皆が怒ってくれていることに、ミカエルは安堵と共に、喜んでいた。

 味方がいるって、嬉しいことだ。

「…私も許し難いですが、聖女を訴えることは不可能でしょう。彼には賠償金を払う財産も、土地も、何もありません。何より、異世界からこちらに来て頂いているのですから」
「…本当に、忌々しいな」
 ミカエルの指摘に、誰も反論できなかった。
 バージルは舌打ちしながら吐き捨てるように呟いて、「何かないの」と聞いていた。
 意志の統一を図るには今しかない、と思ったミカエルが、提案をする。
「…聖女殿とご友人殿には、魔王討伐後、元の世界にお戻り頂きましょう」
「…それは勿論、そうしてもらいたいのは山々だが」
「本人達が残りたい、と言ったら、我々は断れません。…そういう決まりになっております」
 ロベルトとジーンの発言は最もだったが、ミカエルは諦めなかった。
「魔王の魔石でのみ、聖女を送還できる、という考えでいいんでしょうか?」
 聖女の帰還方法については、詳細はどの書籍も触れられてはいなかった。
 召喚方法についても、聖教の秘術とされ、表に出ることはない。
 だが魔王討伐が帰還条件、となると、方法は限られる気がしていた。
 ジーンは驚いたようだったが、特に隠すこともなく首肯した。
「その通りです。帰還の魔法陣は、公国の本部教会の地下に」
「その魔法陣、持ち出せませんか?」
「え?」
「魔王討伐したら即、魔法陣を起動、魔石をセットして、送還する」
「…落ち着いて下さい、ミカエル王子殿下。魔法陣の持ち出しなど、聞いたことがありません」
「今、お願いしています」
「えぇ…?本気ですか…?」
「というより、今気づいたのですが」
「…な、なんでしょうか…?」
 ジーンが、引いていた。
 珍しいものを見た、とバージル達が目を瞬いている中、ミカエルは微笑んだ。  

「歴代魔王の魔石、公国が保管していらっしゃいますよね?二個は、余っているはず。それを使えば、即起動が可能ですよね」

「…ミカエル、怒ってるね…?」
 バージルが、ミカエルにも目を瞬いて、驚いていた。
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