【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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187. 回収されて夜を迎える俺2

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 夕食を終え、ミカエルは疲れているだろうから早めに休むようにと配慮してもらったはいいが、どこで寝るかで揉めた。
「ここで良くない?」
 バージルが言えば、ロベルトが首を振る。
「…いや、いくらなんでも、公子と同じ天幕というのはマズかろう。ミカエル王子用に天幕を立てるべきだ」
「そんなスペースなくない?」
「ぐっ…誰だ勇者パーティーは並べて張れと言ったのは。…私だ!」
「それ、笑う所?」
「違う」
 バージルとロベルトのやりとりに、笑うべきか困惑しつつ、ミカエルはどうしようか考えていた。
 
 転移で、アルヴィスの宮に戻るつもりだから。

 しばらく様子見を決め込んでいると、アベルが躊躇いがちに発言をした。
「あの、端の方なら張れそうですが」

「「却下」」

 二人に即答され、アベルは納得いかないという表情を浮かべた。
「なぜですか?」
「聖女の近くにミカエルを置きたくない。逆側は騎士団員の天幕だ。…護衛はつけるとはいえ、ミカエルが安心して眠れるか?」
「…俺が軽率でした。ミカエル殿下、申し訳ありません…」
「えっ?あ、いや?そんな、お気になさらず」  
 なぜ自分が謝られているのだろう、と、ミカエルは思ったが、アベルは納得したようだった。
「わたくしの天幕でも構いませんよ?」
 ジーンは、おそらく完全に善意で言ってくれたのだろうと思う。
 が、即座に却下されていた。

「俺が一番安全。これは確定」

 バージルが断言し、誰も反論はしなかった。
 王族が宿泊する天幕は、マジックテントのように、実際の大きさよりも内部は広くなっている。 
 生活施設は揃っており、部屋も複数余っている。
 そのうちの一つを使わせてもらえれば、ミカエルにとっては十分だった。
「では、お世話になります。バージル」
「うん。朝まで誰も近づかないようにしておくから、ゆっくり休んで」
「ありがとうございます」
「俺達は、さっきのミカエルの提案について詰めておく」
「…重ね重ね、ありがとうございます。よろしくお願いします」
「あ、一応結界張っておいて。一応ね」
「はい」
 ありがたい申し出だった。

 転移に気づかれる心配が、なくなる。

 一足先に就寝の挨拶をして、ミカエルは部屋に案内してもらった。
 おそらく夫婦で過ごすことを前提に作られている部屋は、隣がバージルの寝室である。
 疑うわけではないのだが、バージル側の扉と、廊下側の扉の前に結界の魔道具を置いて、人が入れないよう対策をした。
 部屋には浴室もトイレも洗面台もあるので、困ることもない。
 鏡を見れば、冒険者装束は見る影もなく、ぼろぼろになっていた。
 魔装具は使えそうだが、コートはもう、使えそうにない。
 下に着ていた装備は修繕すればまだ使えそうなので、コートがいい仕事をしてくれた、ということなのだろう。
 
 次の装備、どうしよ。

 服を脱ぎ、マジックバッグに収納して、浴室へと向かった。
 治癒も浄化もされており、ミカエル自身に汚れはなかったが、やはり一日の疲れを取るには入浴したいミカエルは、浴槽に湯を溜めて、ゆっくりと浸かった。
 
 早めにアルヴィスに会いに行こう。

 助けに来てくれたのに、礼を言う間もなく帰ってしまった。
 様子がおかしかったことも気になるし、どうやってバトルフィールド内に乱入出来たのかも、気になっていた。
「…古の王って、なんだろ…」
 ニーズヘッグという黒龍が、変なことを言っていた。
 この世界に、そんな風に呼ばれる王は、歴史上に存在しない。
 この世界の神話の中にも、そんな名前の王はいなかったはずだ。
「…同類とか言ってたし」
 なまじ古代語が理解出来てしまうから、気になることが増えてしまった。 

 素直に聞いて、答えてくれるだろうか。
 
「それにしても、強すぎだろ…」
 ミカエル一人ではどうやっても勝てないと絶望していた所に、一撃である。
 触れてすらいない。
 そんなに強かったの?と思ったが、同時にどこかで納得している自分もいた。 
 彼は子どもの頃から、すごかった。
 部屋を破壊して、一瞬で元に戻したことは忘れられない出来事だった。
  
 助けに来てもらえるとは、思っていなかった。

 彼は王宮にいたはずで、ミカエルが死にかけているかどうかなんて、わかるはずもなかった。
 ラダーニエに転移してもらったことは明白だが、よく場所を特定出来たな、と思う。

「……」
 ヒロインが、ピンチに現れるヒーローに惚れる心理が、理解できてしまった。
 
 まぁそりゃ、惚れますわ。

 納得した。
 成人したらプロポーズする、と言ってくれたが、待たなくていいかな、と思う。
 十分アルヴィスの気持ちは伝わっている。
 今度は自分が、応える番だ。
 
 まだ時刻は二十時になっていなかった。
 昼寝と、継続回復の魔道具のおかげで、身体はずいぶん楽になっていた。
 レベル上げ再開時には、問題なく動けるようになるだろう。
 いつもなら、アルヴィスの宮に行く時には夜着だが、時間が早いので服を着た。
 もう一度結界の魔道具が作動していることを確認し、いつものようにアルヴィスの居室へと転移した。

「…あれ?」

 出来なかった。
 なぜか、弾かれる感覚があった。
  
「なんで?」
 もう一度試してみるが、やはり転移自体が弾かれる。
 居室には、入れないようになっていた。
 結界が張られているのかもしれない。
「…なんで…?」
 
 そんなこと、今まで一度もなかった。

 え、嫌われた?
 いやいや、嫌われる展開、なかったよな。
 じゃあなんで?
 
 え、わからない。

「……」
 心臓の当たりが冷えていく感覚に、ミカエルは震えた。
 
 何かあった?

 今度は居室ではなく、アルヴィスの王子宮のエントランス付近…人目につかない場所…を思い浮かべて、試す。

 飛べた。

「…え?なにこれ…」
 ミカエルは、王子宮を見上げて呆然と呟いた。

 魔力が。
 震えが走る程の、膨大な魔力が。
 アルヴィスの部屋から、漏れ出ていた。
   
 抑え込むように張られている結界が、壊れかけている。

 なにこれ、怖い。
 なんでこんな状態なの。
 どうしたの。

 アル。

 慌ててエントランスへと向かい、扉を開けた。
 室内は見慣れたものであり、人の気配が感じられないのもいつものことだ。
 まだ退勤時間ではないので、照明もついていて、明るい…はずなのに。

 薄暗い。
 漏れ出た魔力が、室内に充満しようとしていた。

 アルヴィスの魔力は、闇だった。
 適性属性に関わらず、魔力の色や形は指紋や虹彩のように、人それぞれ違うものだ。
 室内が、闇に覆われようとしていた。

「…なんで…?」
「ミカエル様、良うございました。間に合われて」
 階段の上、一段と闇の濃い場所から姿を現したのは、ラダーニエと、もう一人。
「…ラダーニエさんと、…ニーデリア?」
 ニーデリアと共にいるなら、ラダーニエを情報ギルド長の名で呼ぶより、魔族の名で呼ぶ方が正しいと思い呼べば、ほんの僅か、ラダーニエの口角が緩んだ。
 ミカエルが階段を上りきるのを待っていた二人が、頭を下げ、跪いた。
「…どうして二人が?アルはどうして、…この魔力は?」
 ニーデリアは顔を伏せたまま答えず、ラダーニエが言葉に詰まり、吐き出した言葉は、震えていた。

「…我が君の、最期を見届ける為に、ここに、おります…」
「…は…?」





 ミカエルは足元から地面が失われ、どこまでも落ちていくような感覚を、味わった。
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