【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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195. ドラゴンスレイヤーになる俺2

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 ミカエルの時とは違う意味で、周囲の空気が凍り付き、静まり返った。
「なんだこれ。何でこんな大人数になってんの?」
 聖女とご友人は全く状況を把握しておらず、「ああ、誰も彼らに調査団の到着を知らせなかったのだな」と、ミカエルは思った。
 実際には、聖女達が昼まで寝ていたから、知らせ損ねていただけなのだが。 
 各自の天幕から出てきた二人は、各国の役人と騎士団員がずらりと並んでいることに驚いた様子を見せていたが、昨日、一泊する理由と共に、調査団が来ることは説明しているので、想像はつくはずだった。
 なのでバージルが聖女達を見やり、見たままを言った。
「調査団が来ました」
「あー。それにしても、多すぎん?こんなに人数、いる?」
 それには答えず、バージルとロベルトは、実際に洞窟に入る人数の最終確認を、騎士達とし始めた。
 聖女は欠伸をしながら周囲を見渡していたが、興味もなさそうでつまらなさそうな顔をしていた。
 そこに、ジーンが笑顔で声をかけた。
「聖女様。午後は洞窟に入って黒龍の調査を致します。同行されますか?」
「はぁ?だっる。そんなんどうでもいーし。…あ、黒龍って、美人?」
「…ドラゴンでございますので、美醜についてはよくわかりません」
「あっそ。じゃぁいらねー」
「左様でございますか。それでは夕方、撤収まで聖女様にはご不便をお掛け致しますが、こちらでお待ち下さい」
「ふーん。じゃ、終わったら呼んでくれよ。天幕戻るわ」
「かしこまりました」
 ジーンが、聖女をあしらっていた。
 バージルが、サムズアップして褒めている。
 聖女は、自分の興味のないことについては無関心であることだけは、こちらにとってはありがたかった。
 何にでも口を出して来られると、「聖女」であるだけに対応に苦慮してしまう。
 ご友人一人で十分厄介であるので、聖女が素直に引きこもってくれるのは助かるのだ。
 ご友人は、カノラド王とオシウィアド皇帝の元へと駆けつけた。
 …ということは、必然的に、共にいるミカエルのことも視界に入るということだった。
 二人を呼び捨てにしたその口で、今度はミカエルにすり寄ってきた。
「ミカエルぅ!心配したんだからぁ!もう大丈夫なの!?姫のこと、守ってくれてありがとぉ!」
「…いえ」
 
 守ってはいないです。
 結果的には助かったので、そういうことになっているだけで。

「姫が看病してあげたかったのに、テントに入れてくれなかったんだよ!ひどくない!?」
「職務に忠実な、優秀な騎士達だったんですね」
「えぇ!?どこが!?姫が看病するって言ってるのにぃ!ミカエルも、姫に看病して欲しかったよね!?」
「…ご友人殿も、お怪我はありませんでしたか?」
「えっあ、うん!ミカエルが守ってくれたから、平気だったよぉ!」
「そうですか、良かったです」
 話題を逸らしたことに気づかれなかったことに安堵し、腕に縋り付いてくるご友人をそっと引き剥がした。
「カノラド王や、オシウィアド皇帝にお話があったのでは?」
 にこやかにミカエルが話題を振ると、二人は一瞬とてつもなく嫌そうな顔をした。
 
 察した。

「あっ!そうそう、なんで二人がここにいるのぉ?姫を心配して来てくれたの?」
 どうしたらそういう発想になるのかが不思議で仕方がなかったのだが、最近ミカエルは、ようやく理解した。
 
 「逆ハーレムの主人公」という設定であるのなら、納得できる思考だった。
 自分が皆に愛されている、と、信じているのだ。

 カノラド王は年齢からくる経験の長さゆえか、ご友人に接する表情に、嫌悪の類は一切見えなかった。
 穏やかに微笑み、首を傾げた。
「ご友人殿も、災難だったな」
「そうなのぉ!もー、いきなり魔法陣がピカーッ!って光ってぇ、そしたらグオォォってすごい声が聞こえてぇ…」
「ほう。それをミカエルが倒したというのだから、素晴らしいことだ」
「そう!そうなのぉ!姫を守る為に、頑張ってくれたんだぁ」
「そうか」
 ミカエルの完璧な王子様の微笑がひきつったが、それを見られたのはカノラド王とジルだけだったので、良かったと言うべきだった。
 自分は逆ハーのヒロインだと信じて疑わないご友人は、ジルの方に向いて、上目遣いで媚び始める。
「ねっ、ジルもぉ、姫のこと、心配だった?」
「…なぜジルと呼ぶ?」
 だが答えるジルの表情は、極寒だった。
 
 怖い。
 無表情を通り越してる。
 でも一見すると威厳ある皇帝に見える。
 不思議。

 ジルの不快と怒りに気づかないご友人は、身体をくねらせた。
「だってぇ、もっと親しくなりたいんだもん!いいでしょぉ?」
「ならば、まずは礼儀を弁えてから出直してもらおう」
「えぇー!もー、すぐそうやって意地悪言うんだからぁ」
「……」
 
 すごいよ。
 ご友人、すごいよ。

 ジルはうっかりご友人を殺しそうな顔をしているのだが、どうしてご友人は気づかないのかが、不思議だった。
 
 …ジルも、攻略対象者なのか。

 思わずジルをまっすぐ見上げると、すぐにジルはこちらを向いた。
 にこりと微笑んでくる顔には、全開の好意が見える。

 …ああ、やっぱり。
 ご友人は、ゲームのキャラとしてしか、人を見ていないんだ。

 このご友人がジルの番でなくて良かった、と、心から思ってしまった。
 ジルにはちゃんと、幸せになって欲しいから。
  
「お二人は、龍の死骸を見に来られたんですよ。もちろん、ご友人殿のことも心配していらっしゃいましたよ」
 ミカエルが適当に話を切り上げると、ご友人は上機嫌になった。
「あっやっぱ、そうなんだぁ?」  
「これから洞窟に行くのですが、ご友人殿も行かれるんですか?」
 心配そうな表情を作ると、ご友人は何を思ったのか頬を染め、もじもじし始めた。
「えっやだぁ怖いもん!…でもぉ、ミカエルが、どうしても一緒に来て欲しいって言うならぁ…」
「あ、いえ。危険ですので、ここにいて下さい」
「え…えぇ…?うん、わかった。ミカエルが、そう言うなら…。姫のこと、愛してるから、心配なんだよね?姫、わかってるから…!」
 ご友人がミカエルに縋り付こうとした瞬間、ビシャン、というか、ドガン、というか、凄まじい音と共に近くの岩が真っ二つに割れた。
 すわ敵襲か、と広場に緊張が走ったが、異常はそれだけで他には何も起こらなかったので、しばらく後に警戒は解除された。
「あ、あわ…なに…なんなのぉ…?」
 ご友人が腰を抜かし、ジルが手を差し出して、雑に引き起こしていた。
「い、いたたたっ…ちょ、ちょっとぉ!もっと優しく起こしてよぉ!」
「は?さっさと立て」
「もー!ミカエルばっかに構ったから、嫉妬しちゃった?かーわいい!」
「……ハァ…?」
 
 ミカエルは、知っている。
 大岩を割ったのは、ジルの魔力であることを。
  
 そしてご友人には、気づいて欲しい。
 あなたは、「聖女」じゃない。
 忖度し、魔王討伐までご機嫌を取らねばならない人ではないのだった。

 …聖女の親友、というから、その態度でも許されているだけで。

 望まずこの世界に転移してしまったことは、おおいに同情する。
 が、だからといって、傍若無人に振る舞っていいことには、ならないのだ。
 モンスタークレーマーやモンスターペアレントならぬ、モンスター異世界人がいつまでも許される保証は、ない。

 誰かが親切に、教えてくれたらいいけれど。
 教えてくれなかったからと言って、こちらが責められる筋合いはないよ。

 ひやりと背筋が寒くなるようなジルの殺気が、ご友人に向かっていた。
 さすがにここで殺されるのは、困る。
 ミカエルはジルの腕に触れ、注意を引いた。
 霧散する殺気に安堵し、ミカエルは微笑んだ。
「そろそろ、移動しましょうか」
「…うん」
「カノラド王も」
「ああ」
「ではご友人殿。聖女殿と、こちらでお待ち下さいね」
「えぇ~!早く帰ってきてね!約束ね!」
「予定に従って、戻ってきます」
 ミカエル以外の勇者パーティーメンバーは、すでに崖上で待機していた。
 調査団のいくつかはすでに下りており、ミカエル達が下り、ソウェイサズ王国の役人達が下りてから、最後に聖騎士団員が下りることになっている。
 ソウェイサズ王国の人間に、妙な仕掛けや企みをさせない為の処置だった。
 ミカエルを狙う暗殺者については、すでに捕らえられていた。
 魔術師と司祭にそれぞれ、なりすましていた者が一名ずつ。
 毒を盛り、それに失敗したら隙を見て直接手を下す予定だったという。
 毒で死なず、予定外にミカエルが魔法陣に引き込まれてしまった為に、隙を窺っている間に、最高司祭に見つかった。
 参加している司祭は全て、最高司祭の承認を経て参加している者達なので、見知らぬ顔があれば、怪しむのは当然だった。
 フードを深く被っていて、他四名の司祭は、それぞれ違う都市から派遣されてきた精鋭達であり、特に親しい間柄でもなかったので、一人入れ替わっていても気づかなかったそうだ。
 魔術師に関しては、暗殺者は認識阻害の魔道具を持っており、仲間の一人として認識されていたようだ。
 暗殺者は二名だけであり、後警戒すべきは調査団としてやってきた、ソウェイサズ王国の者だけとなったのだった。
 
「…ミカエルが、皇帝を振ったのか?」
「…カノラド王…そういうこと言うの、やめません?」
「でもあれは諦めていないな。俺と同じだ」
 ジルがロープで下りてきているのを待っていると、後ろからカノラド王に囁かれた。
「…友人です」
「そうか。そういうことになっていたな」
 ワイルドイケオジの笑みは、無駄にエロい。  
 そんな笑みを向けられても、ミカエルができる返答は決まっていた。
 わざとらしく小首を傾げ、あざとく微笑む。
「カノラド王も、友人ですよね?」
「おや、俺も友人に入れてくれるのか。嬉しいな」
 ふざけたのに軽くノって来てくれる王は、寛容な人だと思う。
「さすがの返し」
「お褒めに与り恐悦至極」
 腰に手を回して来ようとするのも、さすがだった。
 が、下りてきたジルに睨まれ、さすがのカノラド王もすっと引いた。
「牽制相手が多すぎない?俺、不安で国に帰れる気がしない」
 ミカエルの両手を取って嘆くジルは、本気で心配してくれているようだった。
「大丈夫だよ、ジル。勇者パーティーの皆は、とても親切だし、面白い人達だから」
「……ああ、そっちは特に牽制しておかないと…」
「ジル、落ち着いて。そういうんじゃないから」
「……ミカエルが、そう言うなら」
 牽制なら、もう十分すぎる程効いていた。
 カノラド王とジルの相手をミカエルに任せて、バージル達は一定の距離を保っていた。
 彼らの態度を一言で表すなら、「くわばら、くわばら」というやつだ。
「…オシウィアド皇帝の言い様はまるで、ミカエルの親のようだな。それではミカエルが恋人を作るどころか、誰かと仲良くなることすらできまいに」
 カノラド王のジャブに、ジルは無表情で返した。
「…ミカエルが選ぶ相手なら、構わないが?」   
「ご自身でなくても?」
「おや?カノラド王は、選ばれる自信がおありで?」 
「さぁ?人生何があるか、わからないものなので」
「……」
 
 やめて。
 俺を挟んで喧嘩しないで。

 ジルが保護者のようになっているのは、ずっと帝国でお世話になっていたから、もあるだろう。
 番じゃなかった、ということも、あるだろう。
 責任を感じているのかもしれない。

「ジル、僕は大丈夫だよ」
「…ミカエル」
「ジルの気持ちは嬉しいよ」
「…ごめん。出しゃばりすぎた?」
「そんなことないよ。ありがとう」
「…良かった」
 番の件については、軽々しく口にしていいことではない。
 だから、出せる言葉は限られている。
 ジルにはちゃんと、伝わったようだった。
「…ミカエルの方が、親かな?」
「カノラド王ったら、冗談がお上手ですね」
「俺の手も、繋いでくれないか?ここは暗いな」
「あ」
 慌てて手を離すとジルが悲しそうな顔をしたが、すぐに皇帝の表情に変わった。
 光源は追加されており、暗い、ということはない。
 短い通路を歩くと、すぐバージル達に追いついた。
「黒龍とやらを、拝ませてもらおう」
 竜族であるジルは、興味津々のようだった。  
 
 ジルに、伴侶としてアルヴィスを紹介するのは、しばらく先になりそうだ。
 学園を卒業し、自分の進路を決めてからでなければ、落ち着かないからだ。
 ジルもきっと、肩の荷が下りたような気持ちで、喜んでくれることだろう。
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