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裏切り御免かよ!?

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 言葉を失ったボクに、灰色メガネはもう一度きいてくる。

「殿下。私がテレーズ嬢を階段から突き飛ばしたという証言をとって来たのは誰ですか?」
「それは――」

 ボクは言いかけて、踏みとどまった。

 名前を言うわけにはいかない。

 ボクは尊い王太子だ! 高貴な王族なのだ!
 腹心の友ギルデンスターンは、ボクとテレーズのために、あえて偽証をしてくれたにちがいない!
 自分の身を危険にさらしてまで! なんというとうとみあふれた友情!
 そんな腹心の友を売るようなことはできぬ! 断じて否!

 ボクは懸命に脚の震えをおさえ、いい感じで前髪をかきあげて高貴さを示しつつ、

「……ボクが言い出したんだ。お前の罪を示す証拠をもってこいと! ボクが!」
「殿下が言い出したのですね? つまり偽証をしたと?」
「そ、そうだ!」

 いきなりテレーズが割り込んできた。

「違います! わたしが! わたしがしたんです!
 いやがらせをされてるのは、ゲルドリング伯爵令嬢の指図に違いないと言ったんです!」
「なにを言うんだ! テレーズはボクが婚約破棄をすると言い出したときにも必死に止めてくれたじゃないか!」
「いえ、わたしが身を引きさえすれば良かったんです! そうすればこんなことには――」
「テレーズ! それは違う!
 君が身を引こうとした時に、必死に引き留めたのはボクだ!」

 このままではテレーズまで巻き込んでしまうじゃないか!

「殿下とテレーズ嬢の意志でないのは判っております。
 ギルデンスターンですね」
「ちが――」

 ボクを、冷たい声が遮る。

「庇っても無駄です。調べはついておりますから。
 ああそれから。
 彼が殿下の弟君であるローゼンクランツ殿下とつながっていることはご存じでしたか?」
「なっっ!? 何を言うんだ! そんなはずはない!」
「ギルデンスターンは、ローゼンクランツ殿下の部屋に足繁く通っているところや、離宮の庭の離れで、殿下とあなたの他のご友人達と何度も密談をしているのを目撃されているのですよ。
 グスタフ殿が追放された次の日もローゼンクランツ殿下と密談し、その時は、殿下にいつわりを信じさせたと手柄顔だったそうです。
 それからテレーズ嬢を脅したならずもの達も彼が雇った者たちでした」
「う、うそだ! なにかのまちがいでござるぅ!
 ギルデンスターン! ギルデンスターン! こいつに何か言ってやれ!」

 ボクは無二の親友、忠実な友、未来の宰相、ギルデンスターンを呼んだ。

 だけど、なんの反応もない。

 いない。いないっ。
 なぜ君はいないのだっ!?

「彼は昨晩からローゼンクランツ殿下と共におりますよ。
 貴方の取り巻きだった方々も一緒です」
「そ、そんな……」

 ガラガラどーん!

 心の中で足元がくずれたような音がした。

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