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ボクの彼女が火あぶり車裂き!?

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 ギルデンスターンのことを思い浮かべる。いつもボクをはげましてくれた彼を。
 あの忠義、あの献身、あの励ましはなんだったのだ?

 いい笑顔だったのに! ボクほどじゃないけどイケメンだったのに!

「殿下、少しだけでもいいので考えてみて下さい。
 彼は私が学園にいない事を知っていた。知っていたのに私がテレーズ嬢を突き飛ばしたという証言を作成した。
 私を陥れる気なら、私の取り巻きとやらが全てをやったという筋書きにするはずです。ちがいますか?」

 ちがってほしいが、ちがわない。

 いくら考えるのが不得意なボクでもこれだけ説明されれば判りたくないけど判ってしまう。

 ギルデンスターンは宰相の息子。宮中の事にも通じている。
 このメガネがボクの代わりに書類を処理していたことも知っていたはず。

 まさか、いや、そんな、でも、だって、うわぁぁぁぁぁ。

 うろたえるボクが何も言えないでいるとテレーズが、

「そ、それはきっと勘違いです! ギルデンスターン様は、殿下とわたしをいつも励まして応援してくれて――」
「励ます、いい言葉ですね。ですが叱るべき時に叱らず、忠言するべき時に甘言を弄するのは正しくはありません。
 殿下。テレーズ嬢。彼は一度でも殿下をいさめるようなことを言いましたか?
 婚約破棄にも真っ先に賛成したのではないですか?」 
「それは……」

 確かに、ギルデンスターンはいつも側にいて励まして賛成してくれた。
 彼の言葉は、いつも力をくれて、前へ向ける気がした。気持ちがよかった。

 だけど一度としていさめてはくれなかった。

 そりゃボクだってそんな言葉は不愉快なだけだったろうけど。
 それでもいさめてくれたのは、テレーズと……ボクが追い出したグスタフだけだった。

「それにです。証言をした令嬢達も、私が滅多に学園に顔を出していないことを知っていたはずです。
 なのになぜ、私が学園で命令したと言ったのでしょうね?」

 テレーズが震える唇から声をしぼりだした。

「もしかして……言わされた……と言うことですか……?」
「その通りです。殿下とテレーズ嬢はローゼンクランツ殿下とその手先であるギルデンスターン達に陥れられたのです」
「ボクは……」

 親友だと思っていた。
 弟だって、仲はとりたててよくないけど、こんなことをする人間とは思っていなかった。

 裏切られてたんだ。

 ボクを裏切ったんだ……。

「こういう展開となれば、私としては自分の身を守るため反論せざるを得ません。
 殿下を守るために冤罪をかぶろうと考えるほどには愛も情も感じてもおりませんから」

 いつのまにか座り込んでしまったボクを、分厚いメガネの冷たい光が見下ろしている。

「仮に私が反論しなかったとしても、
 殿下は、ギルデンスターンをはじめとする忠実な友だった者達の口から、王太子の地位を暈に着て無理矢理偽証をするように脅されたと証言され、完膚なきまでに叩きのめされ。全てを失う結果になったでしょう」
「てっテレーズはっ、テレーズはどうなるんだ!」
「王族をたぶらかした淫婦として、反逆罪で王都を引き回されたのち火あぶりか車裂きですね。
 そして親族の方々は平民なので爵位を返上して罪を軽くすることも出来ませんから、実家は財産没収で公開処刑。残りの一族全員奴隷落ちといったところですか。
 ただローゼンクランツ殿下は少々サディストですから、一命を助ける代わりに娼館に売り飛ばすという展開もありかと」
「そんなっ、お父様とお母様お兄様までっ」

 誰がテレーズをそんな目に!?

 ボクか!! ボクのせいなのかっ!
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