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泣くしかできないぞ!

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「ローゼンクランツ殿下は、新たに大堤防大臣というポストを作り、その地位を僅かな金銭と引き換えに取り巻きの貴族に投げ与えようとしているのです」
「え。だって、国は大金をかけて完成したのですよね? 大損じゃないですか!」
「毎年上納金を納めるのを条件に、貴族に丸投げするのですよ。
 国は大堤防の維持管理にこれ以上金がかからないどころか、お金が入ってくるようになる。
 ローゼンクランツ殿下は、余りの賢い案に、『オレって天才じゃん』とほざいたそうですから」

 賢い案に聞こえるんだけど……でも、そんなこと言ったら指がちぎられる予感しかしないぞ!

 そもそも弟とその取り巻きは悪なんだから、きっとこれも悪なんだ!
 悪! 悪! 弟のやることなすこと悪! ぜーんぶ悪!

「でも、その貴族様の懐には一銭も入らないどころか、払う一方なのではありませんか?」
「堤防が出来たおかげで開けた農地に入植した農民達から、堤防維持税をとるそうです。とりあえずは収穫の5割。収入が安定したら7割を」
「ご、5割でも生きていくのがやっとなのに、7割ですか!?」
「彼らはそれに加えて、他の税も払わねばなりません」
「ひどいっっ! あんまりです! 必死に田畑を耕している農民達をなんだと思っているんですか!
 それに穀物から作るお食事だって値段があがってしまいます! そうしたら皆の生活が困ります!
 そもそもあの堤防を金儲けの道具だとしか思っていないなんて! 人の心がないのですか!」

 テレーズが怒っている。
 やさしいテレーズを怒らせるなんて。
 弟は救い用のない悪だ! 悪なのだ! 最悪なのだ!

 でも、怒ってるテレーズも新鮮で……かわいい!

「弟よ! もうボクはお前のために涙なんて流さないぞ!」

 ボクは涙をぬぐった。
 さらば弟よ! もう兄でも弟でもないからな!
 お前は敵だ! やさしいテレーズを悲しませ怒らせた極悪人だ!

 ボクはお前とテッテテキに戦っちゃうからな!

「小賢しいローゼンクランツは、他の官職も売り飛ばして金を稼ぐなどともほざいていますが、買ったヤツらが、買った額以上のものを取り戻すために、私服をこやすのは目に見えています。
 穀潰しどもが」

「ゴクツブシどもが!」

 意味はわからないけど、悪に墜ちた弟にはふさわしい悪口な気がする!

「ですが、ローゼンクランツ殿下は、そんなに民から奪って、なにをなさる気なのですか?」
「ゴクツブシどもは悪いことをするんだな! そうなんだな!」

 許せん!
 許さんぞ弟!

「戦です。
 フランデルと結び、北天ポラール帝国と戦うつもりなのだそうです」
北天ポラールといくさ!? フランデルが先年大敗北を喫した相手ではないですか! いくさとなれば我が国ばかりが矢面にたつことに……しかもフランドルは何度も我が国を侵した仇敵ではありませんか!」

 北天ポラールは確か……北の国。
 お馬さんがいっぱいいる国なんだよなー。
 フランデルは西の国だったけ?
 ボクって地理も歴史も苦手なんだよなぁ……。

「戦は、平和なら富を生み出す人々に慣れない武器をもたせて死地においやる愚行です。必要ない戦は、するべきではないのです」

「なんてゴクツブシなんだ! よくわからないが悪だな! くそぉ」

 完全に理解した。
 ボクの行動は、テレーズを地獄に堕とすだけでなく、この国に悪を栄えさせてしまうのだ。

 なのにボクは、ボクは、もう罪人でなにもできない!
『ざまぁ』で裁かれるのを待つ罪人。悪が国を覆うのを指をくわえてみているしかないのだ。
 これじゃあ弟と戦えないじゃないか!

「テレーズ! メガネ! 愚かなボクは償いようのないことをしてしまった!
 この国に悪を栄えさせる手助けをしてしまったのだっ!
 うぉぉぉぉぉうぉぉぉぉぉぉ」

 涙があふれた。

 ボクは国のために泣く! 泣くしかできないのだ!
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