【本編完結】モブ顔で凡庸なオレが白い結婚で離婚までして悪役認定までされたのに、英雄になってしまった話

隅野せかい

文字の大きさ
66 / 106

 66。『高い城』攻防戦 三日目 午前(2) 怪物咆哮

しおりを挟む

 オレ達に見せつけるように、一本腕の化け物トレビュシェットの準備は整い。

 巨大な網をとりつけた腕の先端が、地面まで引き下ろされ。

 数人の屈強な男たちが、筋肉を盛り上げ荒い息を吐いて押して来た鉄塊が、網に載せられる。

 複数の巨大な突起がついた金属の球体だ。

「来ますぜ……」

 凶悪な金属の塊が装弾されたのとは反対側につけられた重りが、一気に降りると。

 その反動で、高々と腕が振り上げられた。

 ぶん、と空気を切り裂く轟音を立てて飛来した金属の塊は、左翼の中央に激突した。


 ずぅん。重い響き。


「!」

『高い城』が震えた。

 オレの足元から、不気味な震動が沸き上がってくる。

「お嬢さんは何とか耐えたようですぜ……なんとか、ですがね」

 金属の塊は、左翼の中央の石組を少しゆがませ、僅かにヒビをいれると、城壁の下へ転げ落ちた。

 もうもうと砂埃が舞い上がる。

『高い城』のあちこちから歓声があがる。

「うちの老女の処女ヴァージンは難攻不落だぜ!」「そっちの求愛はお断りだとよ!」

 次の鉄塊が、ほぼ同じところに直撃した。

 だが『高い城』は耐えた。

 すると、一本腕の化け物トレビュシェットの周囲で、慌ただしく動きが見えた。

 重りを下ろし、微妙に重さを調整している。

「狙いを変えるつもりか……」

 しばらく修正作業が行われたあと、第三撃が放たれた。

 ぶん、と鉄塊が大気を切り裂き、左翼の中央塔の脇をかすめ、背後の岩壁にめり込んだ。

 びりびりと『高い城』が震動する。

「伝令お願いします! 左翼の塔の兵隊さん達に、撤退するように伝えてください!」

「合点で!」

 伝令のジョンソンさんが駆け下りていく。


 速く速く! 速く届いてくれ!


 第四撃。今度は反対側の脇をかすめ、岩壁に激突。

 そのまま左翼の上段城壁の歩廊に落ちて、配置されていた兵隊さんを逃げまとわせてから、下段に落ちて、そこから地面へ落ちた。

 ジョンソンさんが、左翼の中央塔の屋上へ姿を現した。

 兵隊さん達が慌てて撤退していく。

 第五撃は、兵隊さん達がいなくなった直後に、左翼の中央塔のてっぺんあたりを直撃した!

 左翼の中央塔の、屋上を取り囲む胸壁が崩落した。

 息を呑むような声が、あちこちから聞こえる。

「敵は総攻撃前に左翼を潰してしまうつもりだ……左翼の兵隊さん達を撤退させないと……」

 敵は恐らく、こちらが左翼を崩壊させて攻撃してくる手を、事前に阻止するつもりだ。

 このままでは左翼は潰されてしまう。


 だが防ぐ方法は……ない。

 あの怪物を破壊する手段もない。

 一方的に撃たれるのを耐え続けるだけだ。


 これで用意しておいた二つの手のうちのひとつは使えなくなった。

 最後の一つは……間に合うかどうか。

 マリーが口を開いた。

「ならみんなを休憩させたほうがいいんじゃない?」

「え……?」

「お風呂に入ってもらったり、あと服を着替えて、食事もとって、眠りたい人は眠ればいいよ」

 オレよりか肝が据わっているマリーまで、やけになってしまった!

「そんな場合じゃ――」

 またも鉄球が、左翼中央塔へ直撃した。

 今度は塔の高さのほぼ真ん中。石組がへこみ、表面から数個の石材が外れて下へ落ちていく。

 構造上の理由から塔は上段下段の城壁より薄く軽く出来ていて、比較すればもろい。

 その壁は、巨弾が近い場所へ数発命中したら崩落してしまうだろう。

 崩落個所が広がれば、当然、塔は崩壊する。

 城壁は塔に比べれば堅牢だが、それでも、近い範囲に十発以上命中すれば、同様だ。

 ああ、また。命中してしまった。


 オレはどうすることも出来ないのか!?


「左翼がなくなってしまうまで他の場所は安全なんでしょう。ちがう? それに、あれって狙う方向を変えるのは、結構大変そうだから」

「あ……」

 相手はこちらの最大の反撃手段を奪ってから攻撃にかかる気なのだ。

 それに、あの化け物は重く複雑で、簡単に射出方向を変えられない。

 左翼と中央を交互に攻撃するなんてしたら、撃つたびに向きを変えるだけでも大変だ。


 だとしたら……マリーの言う通りってことか。

 なんだオレよりよほど冷静じゃないか。


「へっへっへ! 姉御は若親分と違って大胆だぜ! 敵の攻撃があるから風呂としゃれこむとはね!」

 また鉄球が命中した。

 左翼の塔は、びりびりと震え今にも崩れてしまいそうだ。

「そうだね……敵がくれた休憩時間だ。せいぜいたっぷり休ませてもらおう」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】王妃はもうここにいられません

なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」  長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。  だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。  私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。  だからずっと、支えてきたのだ。  貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……  もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。 「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。  胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。  周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。  自らの前世と、感覚を。 「うそでしょ…………」  取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。  ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。 「むしろ、廃妃にしてください!」  長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………    ◇◇◇  強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。  ぜひ読んでくださると嬉しいです!

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」 婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。 わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。 実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。 そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり―― そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね? ※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妹の方が良かった?ええどうぞ、熨斗付けて差し上げます。お幸せに!!

古森真朝
恋愛
結婚式が終わって早々、新郎ゲオルクから『お前なんぞいるだけで迷惑だ』と言い放たれたアイリ。 相手に言い放たれるまでもなく、こんなところに一秒たりとも居たくない。男に二言はありませんね? さあ、責任取ってもらいましょうか。

処理中です...