QM ~量子生成~

なかむら 由羽

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決意の郡山

軋む日常②

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 お昼には早い時間だからか、喫茶店に人はまばらだった。
 臨次は窓際の席を確保して喫茶店オススメ!のパスタとアイスコーヒーを注文する。
 お冷を飲みつつしばらく待つと、コーヒーとパスタが運ばれてきた。うん、味は普通。
 ささっとパスタを食べ終え、コーヒーを飲みながら外を眺めていると、サイレンの音が聞こえてきた。どこかで火事だろうか、と考えていると目の前をパトカーが通り過ぎる。しかし、サイレンの音はあちらこちらで鳴っているように聞こえる。
 物騒なことでも起きているのかなとのんびり考えながらコーヒーを飲んでいると、店内の電話が鳴った。店の店長が出たのか、店員が一人奥へ引っ込んで会話している。臨次のいるところまでははっきり聞こえないが、何か問題が起きているらしい。
 と、視線を窓の外へ向けると、そこを前傾姿勢?で二足歩行をする生物?のようなものが歩いていた。。
 その生物は臨次のほうへ気を向けていなかったのかそのまま通り過ぎたが、臨次はそのまま目で追いかけていた。生物のように見えたが、どうにもよくわからない。
 よくわからない、というのは…
 造りが、荒いのだ。
 生物としての造りがどうこうということではなく、立体としての造りの話である。
 姿そのものは、地球の白亜紀時代に生息した恐竜ラプトルに非常に良く似ている。似ているが、荒い。どう荒いのかと言われれば、コンピューターやゲームが3Dモデリングになり始めた時期を知っている者なら誰しもこう言うだろう。
 テクスチャが下手くそ、と。
 まるで3D格闘ゲームが出始めた頃のようなかくかくした表面におざなりにつけられている色彩、動きもスムーズではなくもたつきながらかくかくしている。ゲームの言葉でいうならば、フレームが足りてない、というべきだろうか。
 ともあれ、そのラプトル?はのっしのっしと歩いていく。視界からすぐに外れてしまったのでそのあとどうなったかはわからないが、何か想像もしていなかった意味不明な出来事が起きているのは確かだった。
 残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干すと会計を済ませて外へ出る。やはりサイレンの音があちこちで鳴り響いている。周囲を見回すがラプトル?のようなものは見えない。遠くまで行ってしまったのだろうか。と、視線がある一点で止まった。
 目の前には雑居ビルがあるのだが、そのビルを越える高さにもたげた首が見えたのだ。もちろん人間の首ではない。これもおそらく、白亜紀に生息していた恐竜アパトサウルスによく似た荒い造りの何かなのだろう。だが、大きい。現代陸上生物のサイズから考えてもずっと大きい。
 そして何か口をもごもごしている。何かを口にくわえているようだが、何をくわえているのか…
 そのアパトサウルス?もそのまま別の方向へと歩いていった。あの巨体ならばかなりの重量なはずで、歩く際に重い音が響くような、何か聞こえてもよさそうなものだが、何も聞こえない。
 突然大きな音が一帯にが響きわたった。車同士がぶつかったときの衝突音のようにも聞こえる。
 何が起きているのかわからない不安感が臨次の心の中に広がっていき、周囲をきょろきょろし始める。だがそれは臨次だけではなく、歩道を歩いていた人達はみなその足を止め、何が起きているのか、少しでも情報を得ようとあたりを見回している。
 視界の端に、若者の集団がいるのを見つけた。六人組のその集団はある一つの方角を指さしながら盛り上がり、スマホで何か撮影をしている。だが何故かうまくいかない様子で、騒いでいた。
 若者たちが撮影をしている被写体は交差点で建物の影に隠れているため、臨次からは見えない。だが、この感じからするとあのラプトル?のではないか?
 その考えはすぐに肯定された。ラプトル?が首をぬっと建物の影から出したからだ。
 どうやらラプトル?が自分たちに真っすぐ歩いてきたのが面白かったのだろう、若者たちがラプトル?を囲いながら、


「おーこりゃよくできてる」
「すげーなー人入ってるんだろ」
「どっかにカメラあんじゃね?探せ探せ!」

 等とがなり立てる。
 ラプトル?はそんな連中を歯牙にもかけずにあたりを見回す。若者の中の一人が表面をぺちぺちと叩くが気にする様子は全くない。
 そして自分たちに反応を返さないラプトル?にイラつき始めたのか、若者のうち一人がラプトル?の口の中を覗き始めた。

「おい中に誰かいんだろ!つまんねーからなんか反応しろよ!…ん、暗くてよく見えねえなつうか何もな」

 あろうことか片手と頭を口の中に突っ込んで中を漁ろうとしたが、突然ラプトル?が首を上に上げて、まるで水鳥が捕食した魚を飲み込むときのような動作をして、若者を一気に体内に入れた。
 その様子に若者たちは、

「ぎゃははははは!」
「これウケる!」
「おい中の様子はどうですかー!?」

 と大爆笑しているが、ラプトル?の体内に入った若者からの反応は何もない。
 そしてラプトル?がその身体をぶるっと震わせると、尻尾の近くの排泄口と思われる場所から何かを放り出した。
 それは、ラプトル?の体内に入った若者が身に着けていた衣服やスマホ、財布だった。
 それを見た若者たちは一瞬ぽかんとした表情になるが、すぐに更に大きな声で笑いあい、中には地面を転がる者までいる。どうやら、ウケを取るために中に入った若者が衣服を脱いでそれっぽくしたものだと思っているようだ。
 ラプトル?はそんな若者たちを気に止めることなく、きょろきょろしている。そして、足元で地面を転がって笑っている一人を見ると、大口を開けて噛みついた。

「おおっ今度は俺かよ! って痛ぇ ! んだよ歯は少し尖ってんのな、おーい、中にいんだろ? 俺も今からそっちにい」

 若者はラプトル?の動きに任せるまま、そのまま体内に取り込まれていき、すぐに声が聞こえなくなった。
 さすがに周囲を取り巻いていた若者たちも不審に感じ始める。ラプトル?の胴体の大きさ的に、中に元からいる人間と先に入った一名でほぼ余裕はないはずだったからだ。しかし、一人追加で入っても何も異常は起きなかった。というよりも、中にいるはずの人間同士の反応がまったくない。
 そして。
 一人目のときとまったく同じように、衣服やスマホ類が排出された。この様子に若者たちは激怒した。
 仲間がどうにかされてしまったことに対する感情から、ラプトル?に蹴りを入れたりしがみ付いたりして、中に入った者をどうにか吐き出させようとしたのだ。
 だが、それがラプトル?に敵愾心のようなものをを抱かせた。
 一声吠えたかのような動作を見せ(吠え声はなかった)、身体を思い切り回転させて尻尾で若者のうち一人をはじきとばしたのだ。まともにくらった若者は建物の壁に叩きつけられ、そのままずり落ちて倒れる。ぴくりとも動かない。叩きつけられた壁には亀裂が入り、赤い液体がへばりついている。
 それを見た若者たちは沈黙した。ラプトル?にしがみついていた者も呆然とソレを見ている。だがしがみ付いたままだったのがいけなかった。ラプトル?は身体を沈めて壁に向かってタックルをし、しがみ付いていた若者を壁で潰したのだ。
 潰された若者は後頭部を強かに打ち付けて完全に気絶したのか、そのまま地面にごとりと落ちた。壁には血が付着し、頭部からは流血していた。
 さすがにそれを見た若者のうち一人が救急車!と叫び、もう一人が警察!と騒ぎ始めた。
 倒れて動かない二人に駆け寄って名前を呼びながらスマホで電話をしていると、ラプトル?が電話をしている若者に食いつき、そのまま飲み込む。最後に残った一人は、呆然自失といった表情でそれを見上げている。
 一人目二人目と同じように衣類等を排出すると、最後の一人に目を付けて大口を開けて噛みついた。

「や…やめ…!」

 感じていたのは恐怖か、抵抗らしい抵抗をすることなくそのまま飲み込まれてしまう。
 その様子を近くで眺めていた女性が、あまりの現実感の無さにフリーズしていたが、急に我に返ったのか、甲高い悲鳴を上げた。
 すると、それをきっかけに周囲に悲鳴が響き渡って見物していた人達も我先にと駆け出した。
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