QM ~量子生成~

なかむら 由羽

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決意の郡山

軋む日常①

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 臨次は再び郡山に来ていた。
 今回郡山に来た理由は、以前に先輩社員がドタキャンした、機材の搬入立ち合いを行った客先での運用開始立ち合いだった。
 散々文句を言ってなんとか郡山出張を回避しようとしたが、立ち合い開始は明後日の九時三十分だが前日入りしても良いということと、翌日は休暇取っていいという上司からの言葉に押され、しぶしぶ対応することになったのだ。
 先輩いわく、今回のシステムは既存にあるものをほぼ弄ることなく導入するだけだから問題が起こる可能性はほとんどなく、仮にエラー吐いても対応方法は出来上がってるから何も心配いらない、らしい。客先からの要望があって加えた変更点も、権限の付与に関することとアクセス権によるアクセス可能領域の紐づけくらいだった、らしい。もっとも、そのアクセス可能領域の設定がだいぶ入り組んでいてそこが面倒だったらしいが。
 立ち合い開始は九時三十分だが、本稼働開始の予定時刻は十四時らしい。この手のシステムを組み込むのに真昼間に稼働するのか?と疑問に感じたが、なんのことはない、郡山の客先オフィス内でしか当面は使う予定のないシステムなので、このようなスケジュールになったらしい。
 ならば、と臨次は前日の有給休暇取得を上司へ持ち掛けた。手持ちの業務はだいぶ落ち着いているため、一日くらい休暇をとっても問題はないレベルだし、なにより年度が新しくなってから有給消化を一日もしていなかったため、ちょうどいいと思ったからなのだが…
 上司は首を縦になかなか振らなかった。理由は単純だった。俺がまだ取得出来てないのにお前が先に有給使うのかよ。だ。
 その言葉が信じられずに数秒の間愕然とすが、上司は大きなため息をついて、あーもう面倒くせえ、もういいからさっさと有給届出せよ。と言い放ってタバコを吸いに姿を消した。
 以前からこの上司には様々な件で辟易していたが、今回の内容で耐えてきたものがぷちんと切れた。臨次は何も言うことなく無表情で有給申請書を作成してメールで上司に送り付け、ついでに早退届も出して、バックを持って事務所から出て行った。帰りの電車の中で転職サイトやハローワークのホームページを巡ったのは言うまでもない。
 前日入りした郡山では駅回りの美味しい店を巡り、ホテルは仕事の出張では取らない少し良いところのホテルを手配してゆっくりと過ごした。
 翌日。予定通り客先に到着した臨次は、客先のシステム担当に挨拶をして、機械室に入ってマニュアルを適当にななめ読みしていた。会社を辞める決心が出来た今となっては、もはや仕事が面倒くさく感じてしまう。とはいえトラブルが起きた際に最低限の対応も出来ないのでは話にはならないので、トラブルシューティングの箇所は重点的に確認する。あの先輩の言った通り、過去に見たことのあるトラブル内容と対応内容が羅列されていた。これならば余程のエラーが起きない限り現場で対応することは可能だろう。
 そんなことをしていたら、システム担当の声が聞こえる。どうやらオフィスに設置されているパソコンの設定を確認しているらしい。話によれば昨日までにすべて完了しているはず、とのこと。そうこうしているうちにシステム担当が機械室にやってきて打ち合わせが始まる。が、一時間ほどで特に問題なく終わった。
 前日までに先輩とかっちりした打ち合わせを行っていて、問題なく導入は終わるでしょう、と言葉も軽かった。こ
ういった細かな仕事が出来る先輩は尊敬できるのだが、それゆえに上司のどうしょもなさが目立つ。

「先輩が直属の上司だったらどれほどよかったか…」

 そして、稼働開始予定の十四時まで暇になった。マニュアルを読み込もうと思えば時間は必要だが、そもそも今の臨次の精神状態ではそんなことをする気になれなかった。
 客先からは待ち時間が長くなることを見越して、外出許可が下りていた。稼働開始の三十分前までに戻ってこれれば喫茶店等で時間を潰しててもらって構わない、とのことだった。
 臨次は言葉に甘え、客先から出た。持ち込んだパソコンや会社支給のスマホを置いたままだ。もちろん、スマホには個人スマホへの転送設定を行っている。機械室なのに平気で電波が入るのはいかがなものかと思うが、街のオフィスならそんなものだろう。
 建物の外に出て外の排気ガス臭い空気を吸った臨次は、さっそく飲食店…喫茶店を探し始めた。視界内に発見出来なかったので、スマホで探すか…とポケットから出そうとしたその時。
 大地が揺れた。
 いや、正確には違う。大地も揺れた、が正しかった。
 空というか目の前の空間すらも軋むように耳障りな音を立て、その音に呼応するかのように大地が揺れる。
 とてもじゃないが立っていられない。臨次は建物に寄りかかり、周囲の様子を確認する。
 しかし…
 周辺はいたって普通だった。人は何も無く普通に歩き、車は信号で停車している。地震で揺れているようには見えない。
 おかしい、明らかにおかしい。
 あれほど大きな揺れと軋むような音だったのに誰も気付いていない。
 臨次はよろよろと建物から数歩離れ、広く見回してみると、いた。建物に寄りかかるもの、電柱に捕まるもの、地面に膝をついているもの。その人たちすべてが周りの様子を伺っていて、自分の経験したものとまるで違う状況に混乱しているように見えた。

「…そういえば、緊急地震速報もきてないな」

 ようやくスマホを取り出して色々検索してみるが、ここ数分では福島近辺どころか日本では地震は起きていないらしい。がSNSを眺めると、地震が起きたが他の人は気付いてすらいない!どういうこと!といった書き込みがあちこちに散見された。
 さきほどの揺れや軋みを経験した人としていない人がはっきりとわかれているようだった。
 臨次はしばらくSNSを眺めてからスマホをポケットに入れて、すぐにまたスマホをポケットから取り出して地図アプリから喫茶店を検索。そこまで離れていない場所に複数あるようなので、一番評価の高い店に行くことにした。
 その際、スマホに妙なポップアップがあることに気付く。
 そこには一言、メッセージだけがあった。

『はじまってしまった。もう少し耐えてくれ』

 これまたまったく意味がわからない。変なデータでもダウンロードしてしまったのか?と考えながら、喫茶店へと向かった。

 
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