QM ~量子生成~

なかむら 由羽

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戦禍足利

黒い男

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 臨次がQ.Mを手に入れて20日後、地元である足利市までたどり着いていた。
 郡山から足利への移動距離は経路によって多少増減するが、道路事情に詳しくない臨次はもっともわかりやすい経路である、国道4号から国道50号経由のルートを選択した。距離はだいたい200キロかからない程度。それでもモドキに襲われたり崩れた建物の瓦礫が邪魔をして、かなり時間がかかってしまっていた。
 「モドキ」とは数日前からあの適当ポリゴンの外見を持つ奴等の呼び名で、臨次が数日前からそう呼んでいるだけ。
 初日に襲ってきたラプトルもどきやアパトサウルス?もどきの他に見たのは、ディメトロドンもどき。そして、ムカシトンボ…メガネウラもどき。他多数。元の生物が活動していた時代が違いすぎて意味が分からないが、いたのだから仕方がない。当初は臨次でも知っている外見のポリゴン恐竜だったが、知らないのを見かけたところで面倒くさくなり一括して「モドキ」と呼ぶようになった。ポリゴン恐竜が出てくるだけなら別の呼び名もあったかもしれなかったが、メガネウラもどきを見てもういいや、となったからだ。
 国道を延々と歩いてきた中で、生存者というか帰宅困難者というか避難民というかかなりの人を見かけたが、ほとんどの人が憔悴していて一様に元気がない。無理もないことだ。だが、その中で比較的元気だったり集団をまとめている人もいた。おそらく、Q.Mという生き延びる術を手に入れた人なのだろう。
 そんな人たちの中でも、臨次は一段異様な格好をしていた。
 フード付きの黒い外套を纏っているのである。おかげで周囲からの奇異の目がすごい。
 どこで調達したかというと、移動中にモドキがたむろするぼろぼろの小学校を見つけてスルーしようと思った際に、そういえば理科室の黒いカーテンは丈夫で耐火性に優れてたなと思い出し、雨避け風避けチリ避けにもらえないものかと小学校のモドキを一掃したのだが、当然のように校内には人っ子一人いない。ならばと校長室にも行ってみたが、本や割れた窓ガラスが散らばっていた上に血痕もあり、何があったか想像できた。ならば、と律儀にも一筆したためて机に置いたうえで理科室のカーテンを頂いた。その後に雑な加工をして外套風に仕上げたのだ。
 おかげで重いし暑いしやや動きにくいのだが、臨次はQ.Mを常時起動しているようなものなのでそこまで気にならなかった。というよりも、そのQ.Mを他人に見られなくするため、の意味合いのほうが強い。
 黒い外套を纏ってフードを被る姿はまさしく、現代日本では不審者変質者の類。中世西洋なら裏稼業者、といったところ。
 そして国道50号を歩き続け、国道293号にぶつかる。ここを北上すればそのまま足利市役所付近までいけるわかりやすいルートだ。
 普段であれば車が行き交い人も多いのだが、さすがにこの状況では人の姿などない。
 モドキに関しても、国道50号で足利に入って以来、10回ほどの襲撃を受けていた。大型が見えたときには戦うことはせずに潜んでやり過ごしたりもしたが、損耗はしていない。しかし、ここからの道は半壊しているがそれなりに大きな建物も多く、視界外から襲撃を受ける可能性がぐんと上がる。
 注意しなければいけない。
 そして、足利市役所付近には、織姫神社がある。

「織姫神社の様子を伺いながら足利市役所を目標にして、ついでに避難所探し…かな」

 避難所に関しては情報集めのために利用できれば、と思っていた。決して臨次が入るためではない。それに、たとえ避難所に入ったとしても、流通等のインフラがほぼストップしているこの現状である。食料の配給を考えればいつまで避難が出来るかもわからない。それに、モドキが襲撃しないはずがない。
 そして建物の影に入るながら北上を始めたのだが、100メートル進む間に3度モドキに襲撃を受けた。襲撃そのものは弱いラプトル型だったため問題にはならなかったが、いくらなんでも襲われすぎであった。
 ここまでの密度でモドキがいる、ということは…と周囲状況を確認すると、少し北の建物の影から煙が立ち昇り、風で散らされているのが見えた。
 人か、火事の残り火か。

「さて、このあたりには何があったかな…」

 記憶の中にある街を思い出す。
 …市場。そう、市場があったはず。ただ、10年近く前の記憶だし市場に入ったことは一度もないので、自信はない。
 隠れていた瓦礫から半身出して確認する。視界の先には崩れた建物とその奥に市場の倉庫?のようなものが見える。そのまた向こうから煙が立ち昇っているように見える、気がする。
 とすると、人がいるのだろうか。
 臨次は外套の下にQ.Mを起動したまま、倉庫へと歩き始めた。



 これは、市場だった場所なのだろう。
 広い範囲をフェンスがぐるりと囲み、フェンスの上には有刺鉄線まである。
 フェンスや有刺鉄線がモドキに有効かはさておき。
 フェンス越しに覗く市場…いや、もう大半の倉庫が潰れていてまともなのは片手で数える程度しかない。これでは市場跡、のほうが正解だろう。ともあれ市場跡ではちらほらと人の姿が見えた。
 なるほど、あれだけモドキの密度が高かったのはここに人が集まっていたからか、と納得する。
 記憶の中にある、293号線沿いにある市場入口までくると、二人の男が見張りをしていた。
 当然だろう。
 そして、モドキが頻繁に襲撃してくる中で見張りをしているということは…この二人もQ.Mを使えるということなのだろう。
 臨次は外套の中のQ.Mを全て解除せずに頭部保護だけ外して近寄る。

「おい、とまれ!」

 鋭い声に臨次は足を止めた。
 男の一人がQ.Mを起動してブレードを構えていた。

「変な格好して…フードを上げて顔を見せろ」

 もう一人の男もQ.Mを起動して、武器の槍の穂先を向けてきた。
 言われた通りフードを上げて顔を見せる。

「…まて、真っ黒なQ.M…なのか…!?」
「こいつ…ひょっとして…!?」

 何か不穏な空気が。
 臨次の知人に二人はいない。初めて見る顔なのでこんな反応をされるのは心外だ。
 二人は臨次に対して武器を構えた。

「おまえが! 予言にあった黒い奴か! 中には入れさせない!」
「そこのアンタ! 比呂さんに報告してくれ! 巫女をこっちに近づけないでくれと!」

 盾持ちが前に出て槍持ちが一歩後ろに下がる。

「ちょっと!?」

 入口近くにいた青年が門番の言葉に頷いて、駆けていく。言っていた比呂って奴のところに行ったのだろう。
 盾持ちがじりじりと間合いを詰めてくる。

「待ってくれ、俺はここに何かしにきたわけじゃ」
「黙れ、そんな言葉で油断を誘おうとしても騙されない」

 盾持ちが言い放つと一歩踏み出し、そして横へ一歩ずれた。
 なんだ?と動きを気にした瞬間、槍が突き出されてきた。
 不意打ちでもなんでもない。臨次は半身ずらしてかわすと、左腕のブレードを展開して刃が無い側で槍をかちあげた。
 力を込めた一撃でもない。槍使いは槍を落としはしなかったがたたらを踏み、隙を見せる。そこへ、盾持ちが突っ込んできた。盾でぶちかまし…ゲームとかのシールドチャージ、というヤツだろうか。
 見切れない速度でもなかった。軽く後ろへ下がって距離を取る。

「コイツ…つえぇぞ」

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