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戦禍足利
巫女②
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巫女は、震えながら話す。
「みんな、みんな、私を縋る、目で、見て。でも、怖くて。だんだん、いなくなって。でも、何も出来ない私を、蔑んだ目で見てくるの。殴ってくる人、もいた。最初、一緒に頑張ろうって言った人たちも、殴ってきて、いなくなった。
そんな中、突然、予知で先が見えるように、なった。きっとこれで、助かる。そう、思った。けど、いくつかの、街を逃げた中、わかったのは、視えるのは、私が死んじゃうところ。他は、視えない。目が、目がね、怖いの。すごく怖い。冷たいの。お前だけ。自分のことだけ。他は見殺し。違うの。違うの。わからないの。どうして、わかってくれないの。
あの人は、わかってくれた。わかってくれてたと思ってた。予知のことを伝えて、一緒に、みんなに話をしてくれた。でも、予知を伝えたら、それをあの人が、さも、授かったように。それで。いなく。
どうして。わかってくれないの。みんなも。キャンプの人も。比呂も。オサムさんも。ショウさんも。誰も。足利に逃げてきて、も、みんな、私にすり寄って、うまく、利用しようと、する人ばっかり。一緒に、足利迄来た人、も、だんだん、話聞いてくれなく、なった。トカゲの襲撃のことも話した。けど、誰もちゃんと、聞いてくれない! Q.M使える人が四人もいるから!? 予知があるから!? 危険って言っても、誰も! 聞いてくれない! なんで? どうして?
…比呂の予知も、見えて、泣きながら寝てた。でも、そんな時に、ミユウが、来た。来てくれた。話を聞いてくれる。予知が変わる、と思った。でも、ダメだった。私が何をしたの? 普通に、生きてたのに、生活してたのに。どうして、私には先がないの?
あと何日もない。そこで、貴方が来た。貴方の姿、見たら比呂に殺される予知、消えたの。でも、トカゲが来るのだけは変わらなかった。なんでなの、どうしてなの? みんな、死んじゃった。結局、誰も助けられない。助けられなかった。いなくなった。
…ミユウも、いなくなっちゃった。私なんかを、逃がすのに…ミユウ」
そう、巫女はミユウに逃がされた。そのミユウは比呂の攻撃を受けて倒れた。
そこまでは巫女本人も把握しているのだろう。
合っているが正しい情報ではない。
ミユウは臨次に簡単にだが介抱され、巫女が使っていたと思われるベッドで寝ている。ハズだ。この建物のことも話してあるので、無事であれば、そのうちここにくるかもしれない。
「…結局、アンタは何がしたいんだ? 話を聞く限りじゃ、ずっと誰かに振り回され続けて、縋れる相手がやっと見つかったけどその相手もいなくなった。
ただ怖い、悲しい、頼れない、どうしたらいいかわからない。
これじゃアンタが何をどうしたいのかわからない」
巫女が少し驚いたような表情で臨次を見る。
「わ、わたし、は…」
「ま、キャンプであんなことがあったし、言いたいことも考えも纏まらないか」
臨次軽く伸びをしてQ.Mを展開する。
「身体も心も疲れ切ってるだろ、そのまま休んでな。
俺は下へ何か食料を探しに行ってくる。そのあとは適当なソファかベッドで休むわ。
明日、織姫神社へ行くから身体を休めときたいしな」
「織姫神社へ? 明日?」
「ん? もともと俺の目的はそっちだ。本音を言えば、アンタがしっかりQ.Mを使えて戦えるなら戦ってほしかったところだが、無理そうだしな。キャンプのQ.Mを使える連中も喰われてるだろうし。やるしかないだろ」
「一人だなんて、そんな、危険です」
「危険? 今更? 危険だからなんなんだ?」
踏み出した足を止めて、巫女の顔を見る。
その表情は心配している、といったものには見えない。相手に縋るような、そんな媚びた視線。
…うっとおしい。
「あのモドキどもが現れた日から、もう、この世界に安全な場所なんてないんだ。今日を生き延びるために危険と隣り合わせの世界と向き合うんだよ。もう、安全の中でぬくぬくと生きていくことなんて出来ないんだよ。
ゲームだと思って登録した。面白いかもと思って登録した。きっかけなんてなんでもいいんだ。俺も、アンタも。Q.Mっていうこの世界を生き抜く術を与えられたんだ。だったら、何がなんでも生き抜いて、やりたいことをやる。知りたいことを知らなきゃな。
この世界をどうこうとかじゃない、俺一人の小さな目的だとしても、そんなものでもないと福島からここまで歩いて来れない」
「え、臨次さんが足利に来た目的は、親の安否を確認するため、と聞いてましたけど」
「嘘は言っていない。肉親が心配にならない人がいるのか?」
巫女は、呆けた顔で臨次を見た。
何を考えているのかはわからないが、臨次はその視線を受け止める。
そして、ふいっと顔をそらした。
「無駄なことを話した。食料探してくるからアンタは寝ちまえ。見つかったらそこらのテーブルに置いておくから、起きたら勝手に食べてくれ」
「あ、あの!」
「なんだよまだ何か?」
「どうして、私にここまでしてくれるんですか。数日前に顔を合わせただけくらいなのに、キャンプじゃ私を助けに来てくれて、ここでは寝床の確保にこれから食べ物まで探しに行くなんて」
「俺が親切だから、ってことじゃダメなのか?」
「貴方が本当に善人だとしても、自分に利益のないことをここまですすんでするなんて信じられません…何か裏があるとか、他に目的がある、のほうがよほど信じられます」
「めんどくせえな…」
「え?」
「俺は、アンタの予知ってのに興味があったから助けたんだよ。その予知での力で、織姫神社で戦うのに有利なことでも見れるなら、と思ったんだけどな」
「あ…」
「ところが実際は、自分が死ぬ予知しか見れない。これじゃ戦いの役になんてとてもとても。今日に関しては助けたのは俺だからな、ちゃんとするさ。でもそれも明日の朝までだ。明日、目が覚めたら俺は織姫神社へ行く」
巫女はソファから四つん這いでばたばたと動き、臨次のズボンを掴んできた。
「お、お願いします。私に出来ることならなんでもします、から、ここに一人で置いていかないでください」
臨次はやや蔑む目で巫女の顔を見る。
まさか、そのセリフを一日で二回も聞くことになるとは思わなかった。それも違う女性から。
一人は、自分が助からないかもしれない、捨てていかれるといった危機感から。もう一人は、相手を助けてほしい、大切な者を救ってほしいという想いから。
どうしてここまで違うのだろうか。
育った環境の違いもあるのかもしれないが、世界が変わってしまった後にどうやって生きてこれたのか、というのもそれなりに影響はあるのかもしれない。
「俺がアンタを連れていくメリットが何もない。
それに、言葉には気を付けた方がいいぞ? 俺は男だからな。なんでもするとか、そんなことを言うからにはどんなことされても文句は言えねぇぞ?」
「ひっ…! そ、それでも、一人はもう、嫌です…
お願いします…なんでもします、から…」
ズボンを掴んでいる巫女の手を払った。
「断る。そんな趣味ないね。
それよりも、アンタはキャンプで今までどうやって生かされてきたのかよく考えるんだな。誰が何を考えて、想い、どう動いた結果今の自分があるのか。
そのうえで、これから自分がどうしていくのか。結論を出せ。
この建物の中なら、短くても数日はモドキに見つかることもないだろ。時間は、ある」
臨次は良く料品売り場へと歩き始めた。止まっているエスカレーターから一階へと降りている途中で、巫女の鳴き声が聞こえてきた。
少し余計なことを言ったかもしれないが、他人に依存しすぎる今までの巫女の考えでは、これから先は生きていけない、と臨次は考えている。ただでさえ、予知なんていう生き残るのに便利な力もあるのだから、これでQ.Mを使って戦うことが出来るようになれば、その生存率はかなり高くなるだろう。
それに、巫女には言っていないが、ミユウがモドキに襲われて喰われていなければ、数日中にはここに来る可能性が高い。再会することが出来れば、お互い持ち直すことが出来るだろう。
新たな依存先になんてされたら、たまったもんじゃない。
「みんな、みんな、私を縋る、目で、見て。でも、怖くて。だんだん、いなくなって。でも、何も出来ない私を、蔑んだ目で見てくるの。殴ってくる人、もいた。最初、一緒に頑張ろうって言った人たちも、殴ってきて、いなくなった。
そんな中、突然、予知で先が見えるように、なった。きっとこれで、助かる。そう、思った。けど、いくつかの、街を逃げた中、わかったのは、視えるのは、私が死んじゃうところ。他は、視えない。目が、目がね、怖いの。すごく怖い。冷たいの。お前だけ。自分のことだけ。他は見殺し。違うの。違うの。わからないの。どうして、わかってくれないの。
あの人は、わかってくれた。わかってくれてたと思ってた。予知のことを伝えて、一緒に、みんなに話をしてくれた。でも、予知を伝えたら、それをあの人が、さも、授かったように。それで。いなく。
どうして。わかってくれないの。みんなも。キャンプの人も。比呂も。オサムさんも。ショウさんも。誰も。足利に逃げてきて、も、みんな、私にすり寄って、うまく、利用しようと、する人ばっかり。一緒に、足利迄来た人、も、だんだん、話聞いてくれなく、なった。トカゲの襲撃のことも話した。けど、誰もちゃんと、聞いてくれない! Q.M使える人が四人もいるから!? 予知があるから!? 危険って言っても、誰も! 聞いてくれない! なんで? どうして?
…比呂の予知も、見えて、泣きながら寝てた。でも、そんな時に、ミユウが、来た。来てくれた。話を聞いてくれる。予知が変わる、と思った。でも、ダメだった。私が何をしたの? 普通に、生きてたのに、生活してたのに。どうして、私には先がないの?
あと何日もない。そこで、貴方が来た。貴方の姿、見たら比呂に殺される予知、消えたの。でも、トカゲが来るのだけは変わらなかった。なんでなの、どうしてなの? みんな、死んじゃった。結局、誰も助けられない。助けられなかった。いなくなった。
…ミユウも、いなくなっちゃった。私なんかを、逃がすのに…ミユウ」
そう、巫女はミユウに逃がされた。そのミユウは比呂の攻撃を受けて倒れた。
そこまでは巫女本人も把握しているのだろう。
合っているが正しい情報ではない。
ミユウは臨次に簡単にだが介抱され、巫女が使っていたと思われるベッドで寝ている。ハズだ。この建物のことも話してあるので、無事であれば、そのうちここにくるかもしれない。
「…結局、アンタは何がしたいんだ? 話を聞く限りじゃ、ずっと誰かに振り回され続けて、縋れる相手がやっと見つかったけどその相手もいなくなった。
ただ怖い、悲しい、頼れない、どうしたらいいかわからない。
これじゃアンタが何をどうしたいのかわからない」
巫女が少し驚いたような表情で臨次を見る。
「わ、わたし、は…」
「ま、キャンプであんなことがあったし、言いたいことも考えも纏まらないか」
臨次軽く伸びをしてQ.Mを展開する。
「身体も心も疲れ切ってるだろ、そのまま休んでな。
俺は下へ何か食料を探しに行ってくる。そのあとは適当なソファかベッドで休むわ。
明日、織姫神社へ行くから身体を休めときたいしな」
「織姫神社へ? 明日?」
「ん? もともと俺の目的はそっちだ。本音を言えば、アンタがしっかりQ.Mを使えて戦えるなら戦ってほしかったところだが、無理そうだしな。キャンプのQ.Mを使える連中も喰われてるだろうし。やるしかないだろ」
「一人だなんて、そんな、危険です」
「危険? 今更? 危険だからなんなんだ?」
踏み出した足を止めて、巫女の顔を見る。
その表情は心配している、といったものには見えない。相手に縋るような、そんな媚びた視線。
…うっとおしい。
「あのモドキどもが現れた日から、もう、この世界に安全な場所なんてないんだ。今日を生き延びるために危険と隣り合わせの世界と向き合うんだよ。もう、安全の中でぬくぬくと生きていくことなんて出来ないんだよ。
ゲームだと思って登録した。面白いかもと思って登録した。きっかけなんてなんでもいいんだ。俺も、アンタも。Q.Mっていうこの世界を生き抜く術を与えられたんだ。だったら、何がなんでも生き抜いて、やりたいことをやる。知りたいことを知らなきゃな。
この世界をどうこうとかじゃない、俺一人の小さな目的だとしても、そんなものでもないと福島からここまで歩いて来れない」
「え、臨次さんが足利に来た目的は、親の安否を確認するため、と聞いてましたけど」
「嘘は言っていない。肉親が心配にならない人がいるのか?」
巫女は、呆けた顔で臨次を見た。
何を考えているのかはわからないが、臨次はその視線を受け止める。
そして、ふいっと顔をそらした。
「無駄なことを話した。食料探してくるからアンタは寝ちまえ。見つかったらそこらのテーブルに置いておくから、起きたら勝手に食べてくれ」
「あ、あの!」
「なんだよまだ何か?」
「どうして、私にここまでしてくれるんですか。数日前に顔を合わせただけくらいなのに、キャンプじゃ私を助けに来てくれて、ここでは寝床の確保にこれから食べ物まで探しに行くなんて」
「俺が親切だから、ってことじゃダメなのか?」
「貴方が本当に善人だとしても、自分に利益のないことをここまですすんでするなんて信じられません…何か裏があるとか、他に目的がある、のほうがよほど信じられます」
「めんどくせえな…」
「え?」
「俺は、アンタの予知ってのに興味があったから助けたんだよ。その予知での力で、織姫神社で戦うのに有利なことでも見れるなら、と思ったんだけどな」
「あ…」
「ところが実際は、自分が死ぬ予知しか見れない。これじゃ戦いの役になんてとてもとても。今日に関しては助けたのは俺だからな、ちゃんとするさ。でもそれも明日の朝までだ。明日、目が覚めたら俺は織姫神社へ行く」
巫女はソファから四つん這いでばたばたと動き、臨次のズボンを掴んできた。
「お、お願いします。私に出来ることならなんでもします、から、ここに一人で置いていかないでください」
臨次はやや蔑む目で巫女の顔を見る。
まさか、そのセリフを一日で二回も聞くことになるとは思わなかった。それも違う女性から。
一人は、自分が助からないかもしれない、捨てていかれるといった危機感から。もう一人は、相手を助けてほしい、大切な者を救ってほしいという想いから。
どうしてここまで違うのだろうか。
育った環境の違いもあるのかもしれないが、世界が変わってしまった後にどうやって生きてこれたのか、というのもそれなりに影響はあるのかもしれない。
「俺がアンタを連れていくメリットが何もない。
それに、言葉には気を付けた方がいいぞ? 俺は男だからな。なんでもするとか、そんなことを言うからにはどんなことされても文句は言えねぇぞ?」
「ひっ…! そ、それでも、一人はもう、嫌です…
お願いします…なんでもします、から…」
ズボンを掴んでいる巫女の手を払った。
「断る。そんな趣味ないね。
それよりも、アンタはキャンプで今までどうやって生かされてきたのかよく考えるんだな。誰が何を考えて、想い、どう動いた結果今の自分があるのか。
そのうえで、これから自分がどうしていくのか。結論を出せ。
この建物の中なら、短くても数日はモドキに見つかることもないだろ。時間は、ある」
臨次は良く料品売り場へと歩き始めた。止まっているエスカレーターから一階へと降りている途中で、巫女の鳴き声が聞こえてきた。
少し余計なことを言ったかもしれないが、他人に依存しすぎる今までの巫女の考えでは、これから先は生きていけない、と臨次は考えている。ただでさえ、予知なんていう生き残るのに便利な力もあるのだから、これでQ.Mを使って戦うことが出来るようになれば、その生存率はかなり高くなるだろう。
それに、巫女には言っていないが、ミユウがモドキに襲われて喰われていなければ、数日中にはここに来る可能性が高い。再会することが出来れば、お互い持ち直すことが出来るだろう。
新たな依存先になんてされたら、たまったもんじゃない。
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