12 / 18
本編
11 小さな不安
しおりを挟む
「カイン、そろそろ離さないと、ルイシャが倒れそうだ」
笑っているような呆れているような声でジェイスに指摘され、カインは「あ、ごめんね」とルイシャを解放してくれた。
顔に熱が集中して熱い。絶対に真っ赤になっているに違いない。まだ心臓はドキドキと早鐘を打っている。あのまま抱き締められたままだったら、ジェイスの言うように倒れてしまっていたかもしれない。
(でも、少し残念な気持ちも……ってなにを考えているのかしら)
カインの熱と香りが遠ざかったことを残念に思う気持ちもあった。
「僕もルイシャと一緒に帰りたいから、頑張って仕事を終わらせるね」
ルイシャの気持ちを知ってか知らずか、カインは爽やかな笑顔で奥の役員室に入っていった。
「当然のように僕たちと同じ馬車に乗る気だよね。エイデン家の迎えはどうするのさ」
「コルトン家に迎えに来るように今から連絡しておくから大丈夫」
そんなジェイスとカインの会話が聞こえてきて、ルイシャは小さく笑った。
応接室のソファーで課題の本を読みながらジェイスとカインの仕事が終わるのを、静かに待つ。
しばらくして、コンッコンッと軽くノックをする音がし、扉が開いた。
「失礼致します」
そこにはピンクゴールドの長い髪と、髪と同じ色の利発的な瞳の少女がいた。
(ヒロインの……!)
前世で、乙女ゲームの画面越しに見ていたヒロイン、クロエ・ルーキンが、目の前に立っていた。
「あ、いらっしゃい。こっちに来てくれる」
ノックの音に気が付いたのだろう、役員室から顔を覗かせた男子生徒(さっき副会長だと挨拶された)が、クロエに声をかけ役員室に誘導する。
ソファーに座るルイシャとチラッと目が合ったクロエは、にこっと可愛らしい笑顔で軽く会釈してから、奥の部屋に消えていった。
(そういえば、「入学早々、生徒会役員に声をかけられている」って噂だったけれど、本当だったのね。乙女ゲームでもそうだったし)
乙女ゲームでもヒロインは生徒会に入っていた。そこでまず攻略対象であるカインと接点が生まれるのだ。
(私は生きているし、カイン様は私のことを好きでいてくれているけど……)
カインルートに入る切っ掛けである、「婚約者を亡くしたカインと慰める」イベントはルイシャが生きているので絶対に発生しない。それに、カインは分かりやすいくらいの愛情をルイシャに示してくれている。
だから大丈夫だと思っている。
(でも……)
白い紙に灰色の絵の具を乗せたような、そんなじわっと言い様のない不安が、ルイシャの心の中に生まれた。
笑っているような呆れているような声でジェイスに指摘され、カインは「あ、ごめんね」とルイシャを解放してくれた。
顔に熱が集中して熱い。絶対に真っ赤になっているに違いない。まだ心臓はドキドキと早鐘を打っている。あのまま抱き締められたままだったら、ジェイスの言うように倒れてしまっていたかもしれない。
(でも、少し残念な気持ちも……ってなにを考えているのかしら)
カインの熱と香りが遠ざかったことを残念に思う気持ちもあった。
「僕もルイシャと一緒に帰りたいから、頑張って仕事を終わらせるね」
ルイシャの気持ちを知ってか知らずか、カインは爽やかな笑顔で奥の役員室に入っていった。
「当然のように僕たちと同じ馬車に乗る気だよね。エイデン家の迎えはどうするのさ」
「コルトン家に迎えに来るように今から連絡しておくから大丈夫」
そんなジェイスとカインの会話が聞こえてきて、ルイシャは小さく笑った。
応接室のソファーで課題の本を読みながらジェイスとカインの仕事が終わるのを、静かに待つ。
しばらくして、コンッコンッと軽くノックをする音がし、扉が開いた。
「失礼致します」
そこにはピンクゴールドの長い髪と、髪と同じ色の利発的な瞳の少女がいた。
(ヒロインの……!)
前世で、乙女ゲームの画面越しに見ていたヒロイン、クロエ・ルーキンが、目の前に立っていた。
「あ、いらっしゃい。こっちに来てくれる」
ノックの音に気が付いたのだろう、役員室から顔を覗かせた男子生徒(さっき副会長だと挨拶された)が、クロエに声をかけ役員室に誘導する。
ソファーに座るルイシャとチラッと目が合ったクロエは、にこっと可愛らしい笑顔で軽く会釈してから、奥の部屋に消えていった。
(そういえば、「入学早々、生徒会役員に声をかけられている」って噂だったけれど、本当だったのね。乙女ゲームでもそうだったし)
乙女ゲームでもヒロインは生徒会に入っていた。そこでまず攻略対象であるカインと接点が生まれるのだ。
(私は生きているし、カイン様は私のことを好きでいてくれているけど……)
カインルートに入る切っ掛けである、「婚約者を亡くしたカインと慰める」イベントはルイシャが生きているので絶対に発生しない。それに、カインは分かりやすいくらいの愛情をルイシャに示してくれている。
だから大丈夫だと思っている。
(でも……)
白い紙に灰色の絵の具を乗せたような、そんなじわっと言い様のない不安が、ルイシャの心の中に生まれた。
1,055
あなたにおすすめの小説
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に
ゆっこ
恋愛
王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。
私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。
「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」
唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。
婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。
「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」
ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
婚約破棄イベントが壊れた!
秋月一花
恋愛
学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。
――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!
……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない!
「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」
おかしい、おかしい。絶対におかしい!
国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん!
2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる