【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波

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本編

12 波紋

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 入学式当日のように高熱を出すことはなかったが、やはりすぐに学園生活に慣れるのは難しく体調を崩す日も多かった。
 そのため、ルイシャは度々学園を欠席することになった。

 昼間にゆっくり休んで体調が良くなったルイシャは、温かいブランケットを掛け机に向かっていた。
 進んでしまう授業に遅れないよう自己学習しておかなければ、すぐに置いていかれてしまう。
 ジェイスは「あの短い期間で入学試験に受かるくらいの学力がついたのだから上出来だ」と言ってくれたが、ルイシャは成績が良いわけではない。あくまでギリギリの点数で入学できたと思っている。
 寝込んでいる時間が多かったのは言い訳かもしれないが、実際、他の生徒に比べて学ぶ時間は少なかったから仕方がないことだった。
(でも、今は勉強する環境も体力だってあるもの。頑張らなくちゃ)
 それに、学ぶことは楽しかった。
 特に魔法学。
 ルイシャは光属性の魔力がある。
 光属性は珍しいが、ルイシャの有する魔力はとても微弱で、頑張っても淡い光の玉を一個か二個作り出すのが精一杯だ。それも、とても小さい。
 正直、あるのかないのか分からないほど少ない魔力だった。
 なので、珍しい属性を持っているといっても、膨大な魔力を有するクロエのように噂になることはなかった。
(でも、少なくても私にも魔力があって嬉しかった)
 自分が魔法をほとんど使えなくても、純粋に魔法学を学ぶのはワクワクしている。
(それに、魔力があったお陰で、カイン様と同じ学園に通えるんだもの)


「ルイシャ、起きてる?」
 学園から帰ってきたジェイスが顔を覗かせる。陽はとっくの昔に暮れていた。
「お兄様、今日は遅かったですね」
「うん、ちょっと書類仕事が終わらなくてね。会議が長引いたせいで、議事録に時間がかかってしまったんだよ」
 はぁっと溜め息を吐きながら、部屋に入って来て、ルイシャのノートを覗き込んだ。
「魔法学の予習をしてるの?」
「はい。予習というか、本当なら今日習うはずのところだったので、教科書を読んでおこうと思いまして」
「ルイシャは真面目だな」
 よしよしと頭を撫でられる。「また子供扱いをして」といいながらも、嫌ではないのでルイシャは撫でられるままになっている。見上げたジェイスの顔に疲労の色が浮かんでいるのに気が付いた。
「生徒会のお仕事、大変そうですね」
「まあ、新入生が入って間がないからね。各クラブからの相談だったり、企画の調整が大変だけど。これを乗り切れば、少し楽になると思うから」
「そうでしたか……ところで、ルーキンさんも正式に生徒会役員になったんですよね?」
 先日学園に登校した時に、役員候補として、役員の仕事を見学しているという噂話は聞こえてきたので、ジェイスにその噂について話してみると、噂は事実だった。
 それから数日経っているため、そろそろ正式に決まったかもしれないと思ったのだ。
「ああ、クロエ・ルーキン嬢か。昨日付けで生徒会役員になったよ。新入生だし、まだ役職はついてないけどね。覚えも早いし、簡単な仕事ならすぐに任せられそうな良い人材だよ。思ったことをすぐに口にするのは気になるところだけど、まあ、積極性があると思えば良いかって感じかな」
 兄のクロエに対する好感度は、割と高いようだった。



 学園に登校できる日は、ルイシャは張り切って授業を受けた。幸い授業内容には何とか付いていくことが出来ている。授業や自己学習で解らなかった所は、授業終わりに教師へ質問に行けば快く教えてくれた。
 そして放課後は、生徒会の応接室でジェイスを待つのがルイシャが登校した日の流れになっていた。生徒会室で待つのは迷惑になるのはないかと思ったが、カインやジェイスだけでなく、他の役員も「ここを使って良い」と許可してくれた。
 そうすると、生徒会に入ったクロエと顔を合わせる事も多くなり、挨拶を交わすくらいの間柄になっていた。

 ある日の放課後。
 いつも挨拶だけだったクロエが、ルイシャに話しかけてきた。
「気になっていたんですが、コルトンさんは、生徒会の役員ではないんですよね?どうしていつも、生徒会室で先輩たちを待っているんですか?」
「それは……」
 突然の質問にルイシャは言い淀んだ。
「クロエ・ルーキン。その質問の意図は?」
 ルイシャの代わりにジェイスがクロエに問う。
「役員ではない方が生徒会室を使用していることに疑問を抱いたからです。生徒会室には、会議資料や閲覧制限のある記録物もあります。一般生徒のコルトンさんが頻繁に生徒会室に出入りすることは問題になるのではないかと思ったのです」
 ジェイスの問いに臆することなく、クロエはスラスラと疑問を口にした。
 クロエの疑問に答えたのはカインだった。
「まず、生徒会室に一般生徒の立ち入り制限はないよ。あまり活用されていないからルーキンさんは知らなかったのだろうけど、元来この応接室は役員と一般生徒が意見交換するための部屋なんだ。それに会議資料や閲覧制限のある記録物は役員室にあるから、特に問題はないよ。閲覧制限があるといっても、重要機密書類があるわけじゃないしね。だから、ルイシャがこの部屋を使用していることは、特に問題はないってことになる」
「それに、コルトンさんが居ると会長の意欲が増して仕事が捗るので助かってます」
 良い笑顔で副会長が言葉を付け加える。
「それは普段は真面目に仕事をしていないみたいに聞こえるんだけど?」
「いえいえ、更に捗るって意味です!」
 慌てる副会長の姿に、応接室が笑いに包まれ、ほのぼのとした雰囲気になる。
 その様子をみてクロエが「なるほど」と納得したように頷き、ルイシャに向き直った。
「すみませんコルトンさん。私、余計なことを言ってしまったみたいです」
 申し訳なさそうに頭を下げるクロエに、「いえ、お気になさらず」と少しモヤモヤした気持ちになりながらも、悪意からきた発言でなかったことにホッとするルイシャだった。
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