8 / 9
明かされる真実
しおりを挟むほのかに甘く、どこか切ない香りが鼻をかすめ……ブランシュは、ゆっくりと目を開きました。
自分を覗き込む、どこか泣きそうなライの顔。
そして、小人たちの声。
「……ライ?」
その名を口にした瞬間、彼の瞳にぱっと安堵の色が浮かびました。
「よかった……ブランシュ……!」
ライはブランシュを抱きしめ、震える声で言いました。
「死んだかと思った……っ、でも、ちゃんと息をしてる……!」
小人たちも、よろこびの涙をながしながら、ブランシュを囲みます。
「リリが……あの薬を持ってきたんだ。前に君が“もしもの時のために”って言ってた薬……君が作った、解毒薬で助かったんだよ」
それを聞いたブランシュの目に、うっすらと涙がにじみます。
ライが口移しで飲ませたのは、ブランシュが自ら作っていた解毒薬でした。
その薬のおかげで、ブランシュは意識を取り戻したのです。
そして意識を取り戻したことで、ブランシュはあることに気がつきました。
(……死んでしまっていたら、私が作った薬では助からなかったはず)
ブランシュの作った薬は『仮死状態を解除する薬』。
生きているけど死んだように見える状態を元に戻す薬でした。本当に死んでいたら効果はありません。
つまり、王妃さまは、ブランシュを殺すつもりではなかったのではないでしょうか?
それに、ライが言っていた――「森の出口で女の人に『この国から追い出して』と頼まれた」という言葉――王妃さまは、ブランシュを『殺して』ではなく『追い出して』といっていたのです。
「……王妃さま。本当のことを話してくれませんか?」
ブランシュが、立ち尽くす王妃さまに目を向け尋ねます。
王妃さまは、しばらく沈黙したあと、ぽつりと語り出しました。
「……陛下は、あなたに……行き過ぎた執着を持っているの」
「え……?」
「あなたの母――前王妃に、あなたは本当によく似ているわ。歳を重ねるごとに、その姿は瓜二つになってきたわ。陛下は、前王妃を深く愛していたけれど……あの方は、あなたを産んで間もなく……亡くなってしまった」
王妃さまの声がかすかに震える。
「だから、陛下にとってあなたは、愛する人の面影そのもの……でも同時に、愛する人を失わせた原因でもあった。愛しさと憎しみ、その両方があなたに向けられていたの。最近では、王政もままならないほど心が壊れかけているわ」
ブランシュは言葉を失いました。
父である王さまとの思い出はあまり多くありませんが、優しい思い出しかなかったのです。
でも、王妃さまの顔は嘘を言っているようには、見えません。
それに、何となく王さまはブランシュの姿に誰かを重ねているような感じはありました。
「……私は、はじめは嫉妬していたの。あなたばかりが愛されて、私はただの後添えだと……。でも、あなたは私に何度も話しかけてくれた。私のことを“おかあさま”と呼ぼうとしてくれた……その優しさに、私はいつしか心を動かされたの」
そして王妃さまは、王さまがブランシュに対して歪んだ感情を抱いていることに気が付きました。
「このままでは、あなたを壊されてしまうかもしれない。それくらい陛下はもう壊れているわ。だから私は、あなたをこの国から遠ざけたかった。……そして、陛下の目に触れぬ場所で、あなたが生きていけるようにしたかったの」
「それで……あのリンゴを?」
「ええ。あのリンゴは私が改良したもので、仮死状態にする効果があるわ。仮死の毒であなたを眠らせ、陛下があなたの存在を“死んだ”と信じさせるつもりだった。その後は、あなたを目ざめさせてこの国から逃がそうと思っていた」
はじめからブランシュを逃がすための計画だったのです。
「どうして、私にお父さまのことを教えてくれなかったのですか?」
なぜ、王妃さまはブランシュに王さまが狂ってしまっていることを教えてくれてなかったのでしょう。もし教えてくれていれば、王妃さまを誤解することはなかったかもしれません。
「だって、陛下はあなたにとって唯一血のつながった親じゃない。言えなかったの……真実を話してあなたを悲しませるくらいなら、私が悪役になればいいと思ったのよ……結局、バレてしまったけれど」
ブランシュの頬に涙が伝います。
自分が原因でお父さまが狂ってしまった悲しさ。
王妃さまが本当は自分のことを大切に思ってくれていたという嬉しさ。
色々な感情がブランシュの胸の中を駆け巡ります。
涙をこぼしながら、ブランシュはそっと王妃さまに近づくと、ぎゅっと抱きつきました。
「ありがとうございます。私のこと、守ろうとしてくれて……お母さま」
『お母さま』と呼ばれた王妃さまの頬に涙がいくつもこぼれていきます。
「いいえ、結局あなたを悲しませてしまったわ……ごめんなさい、ブランシュ」
王妃さまは、少しためらったあと、ブランシュを抱きしめ返したのでした。
1
あなたにおすすめの小説
ナナの初めてのお料理
いぬぬっこ
児童書・童話
ナナは七歳の女の子。
ある日、ナナはお母さんが仕事から帰ってくるのを待っていました。
けれど、お母さんが帰ってくる前に、ナナのお腹はペコペコになってしまいました。
もう我慢できそうにありません。
だというのに、冷蔵庫の中には、すぐ食べれるものがありません。
ーーそうだ、お母さんのマネをして、自分で作ろう!
ナナは、初めて自分一人で料理をすることを決めたのでした。
これは、ある日のナナのお留守番の様子です。
その付喪神、鑑定します!
陽炎氷柱
児童書・童話
【第1回きずな児童書大賞、優秀賞受賞】
『彼女の”みる目”に間違いはない』
七瀬雪乃は、骨董品が大好きな女の子。でも、生まれたときから”物”に宿る付喪神の存在を見ることができたせいで、小学校ではいじめられていた。付喪神は大好きだけど、普通の友達も欲しい雪乃は遠い私立中学校に入ることに。
今度こそ普通に生活をしようと決めたのに、入学目前でトラブルに巻き込まれて”力”を使ってしまった。しかもよりによって助けた男の子たちが御曹司で学校の有名人!
普通の生活を送りたい雪乃はこれ以上関わりたくなかったのに、彼らに学校で呼び出されてしまう。
「俺たちが信頼できるのは君しかいない」って、私の”力”で大切な物を探すの!?
ふしぎなえんぴつ
八神真哉
児童書・童話
テストが返ってきた。40点だった。
お父さんに見つかったらげんこつだ。
ぼくは、神さまにお願いした。
おさいせんをふんぱつして、「100点取らせてください」と。
ユリウスの絵の具
こうやさい
児童書・童話
昔、とある田舎の村の片隅に売れない画家の青年が妻とともに住んでいました。
ある日その妻が病で亡くなり、青年は精神を病んでしまいました。
確か大人向けの童話な感じを目指して書いた話。ガイドラインから児童書・童話カテゴリの異世界禁止は消えたけど、内容・表現が相応しいかといわれると……うん、微妙だよね、ぶっちゃけ保険でR付けたいくらいだし。ですます調をファンタジーだということに相変わらず違和感凄いのでこっちにしたけど……これ、悪質かねぇ? カテ変わってたり消えてたら察して下さい。なんで自分こんなにですます調ファンタジー駄目なんだろう? それでもですます調やめるくらいならカテゴリの方諦めるけど。
そして無意味に名前がついてる主人公。いやタイトルから出来た話なもので。けどそもそもなんでこんなタイトル浮かんだんだ? なんかユリウスって名前の絵に関係するキャラの話でも読んでたのか? その辺記憶がない。消えてたら察して下さい(二回目)。記憶力のなさがうらめしい。こういうの投稿前に自動で判別つくようにならないかなぁ。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~
狭山ひびき
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。
そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。
「……わたしは、妖精が見えるの」
気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは――
心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる