【完結】森の中の白雪姫

佐倉穂波

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明かされる真実

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 ほのかに甘く、どこか切ない香りが鼻をかすめ……ブランシュは、ゆっくりと目を開きました。

 自分を覗き込む、どこか泣きそうなライの顔。
 そして、小人たちの声。

「……ライ?」

 その名を口にした瞬間、彼の瞳にぱっと安堵の色が浮かびました。

「よかった……ブランシュ……!」

 ライはブランシュを抱きしめ、震える声で言いました。

「死んだかと思った……っ、でも、ちゃんと息をしてる……!」

 小人たちも、よろこびの涙をながしながら、ブランシュを囲みます。

「リリが……あの薬を持ってきたんだ。前に君が“もしもの時のために”って言ってた薬……君が作った、解毒薬で助かったんだよ」

 それを聞いたブランシュの目に、うっすらと涙がにじみます。

 ライが口移しで飲ませたのは、ブランシュが自ら作っていた解毒薬でした。
 その薬のおかげで、ブランシュは意識を取り戻したのです。

 そして意識を取り戻したことで、ブランシュはあることに気がつきました。

(……死んでしまっていたら、私が作った薬では助からなかったはず)

 ブランシュの作った薬は『仮死状態を解除する薬』。
 生きているけど死んだように見える状態を元に戻す薬でした。本当に死んでいたら効果はありません。

 つまり、王妃さまは、ブランシュを殺すつもりではなかったのではないでしょうか?

 それに、ライが言っていた――「森の出口で女の人に『この国から追い出して』と頼まれた」という言葉――王妃さまは、ブランシュを『殺して』ではなく『追い出して』といっていたのです。

「……王妃さま。本当のことを話してくれませんか?」

 ブランシュが、立ち尽くす王妃さまに目を向け尋ねます。
 王妃さまは、しばらく沈黙したあと、ぽつりと語り出しました。

「……陛下は、あなたに……行き過ぎた執着を持っているの」

「え……?」

「あなたの母――前王妃に、あなたは本当によく似ているわ。歳を重ねるごとに、その姿は瓜二つになってきたわ。陛下は、前王妃を深く愛していたけれど……あの方は、あなたを産んで間もなく……亡くなってしまった」

 王妃さまの声がかすかに震える。

「だから、陛下にとってあなたは、愛する人の面影そのもの……でも同時に、愛する人を失わせた原因でもあった。愛しさと憎しみ、その両方があなたに向けられていたの。最近では、王政もままならないほど心が壊れかけているわ」

 ブランシュは言葉を失いました。
 父である王さまとの思い出はあまり多くありませんが、優しい思い出しかなかったのです。
 でも、王妃さまの顔は嘘を言っているようには、見えません。
 それに、何となく王さまはブランシュの姿に誰かを重ねているような感じはありました。

「……私は、はじめは嫉妬していたの。あなたばかりが愛されて、私はただの後添えだと……。でも、あなたは私に何度も話しかけてくれた。私のことを“おかあさま”と呼ぼうとしてくれた……その優しさに、私はいつしか心を動かされたの」

 そして王妃さまは、王さまがブランシュに対して歪んだ感情を抱いていることに気が付きました。

「このままでは、あなたを壊されてしまうかもしれない。それくらい陛下はもう壊れているわ。だから私は、あなたをこの国から遠ざけたかった。……そして、陛下の目に触れぬ場所で、あなたが生きていけるようにしたかったの」

「それで……あのリンゴを?」

「ええ。あのリンゴは私が改良したもので、仮死状態にする効果があるわ。仮死の毒であなたを眠らせ、陛下があなたの存在を“死んだ”と信じさせるつもりだった。その後は、あなたを目ざめさせてこの国から逃がそうと思っていた」

 はじめからブランシュを逃がすための計画だったのです。

「どうして、私にお父さまのことを教えてくれなかったのですか?」

 なぜ、王妃さまはブランシュに王さまが狂ってしまっていることを教えてくれてなかったのでしょう。もし教えてくれていれば、王妃さまを誤解することはなかったかもしれません。
「だって、陛下はあなたにとって唯一血のつながった親じゃない。言えなかったの……真実を話してあなたを悲しませるくらいなら、私が悪役になればいいと思ったのよ……結局、バレてしまったけれど」

 ブランシュの頬に涙が伝います。
 自分が原因でお父さまが狂ってしまった悲しさ。
 王妃さまが本当は自分のことを大切に思ってくれていたという嬉しさ。
 色々な感情がブランシュの胸の中を駆け巡ります。

 涙をこぼしながら、ブランシュはそっと王妃さまに近づくと、ぎゅっと抱きつきました。

「ありがとうございます。私のこと、守ろうとしてくれて……お母さま」

『お母さま』と呼ばれた王妃さまの頬に涙がいくつもこぼれていきます。

「いいえ、結局あなたを悲しませてしまったわ……ごめんなさい、ブランシュ」

 王妃さまは、少しためらったあと、ブランシュを抱きしめ返したのでした。
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