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大学3年秋

第40話:泊まる泊まらないの攻防_4

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 オミさん、私、航河君の順でシャワーを浴びた。途中買ってきたおやつを食べて歯を磨き、航河君が漫画を読み終わる頃には、なんとかクリア出来た。すべてのイベントは回収出来ていない気もするが、それは後でやれば良いから構わないだろう。あくまでも、今回はキャラクターのエンディングを見ることと、そのエンディングのコンプが目的なのだから。イベントやキャプチャーの回収は、こういうゲームの醍醐味だと思っている。私達が帰った後に、是非楽しんでいただきたい。

「やった! マジ嬉しい! 千景ちゃんありがとう!」
「いえいえ。達成感あるよね」
「コンプだコンプ! よっしゃあ!」
「そんなに喜ぶとは思わなかったよ」
「あー気分いい。このまま寝よう」
「そうだね、もう遅いし」

 ……とここで、ひとつ問題が出た。

「オミさん、ベッドひとつしかなくない?」

「あ、布団もうひとつあるよー」

 オミさんがそう言ってクローゼットの中から布団を一組敷いてくれた。が。私達は3人だ。一組足りない。二人で寝ようにも、ベッドはセミダブルに見えるが布団はシングルだ。

「足りないよオミさん」
「お前ら2人で寝れば良くない?」
「なんでよ! オミさんと航河君が一緒に寝てよね」
「男2人とか気持ち悪いじゃん。そんな趣味ないし」
「趣味とかの問題じゃあないでしょう! 私一応女なんですけど」
「航河は何にもしないでしょー? 安全安全!」
「まぁ、オミさんと千景ちゃんが一緒に寝るより安全だね」
「というわけで、そのベッド2人で使って。寝るまでは漫画とか適当に読んでていいよ。電気消してね。じゃ、おやすみ」

 そのままオミさんは布団の真ん中で寝始めた。

「なんでこうなる……」
「まぁまぁ。漫画読む? はい」

 航河君はさっきまで読んでいた漫画を私に渡すと、新しい漫画を本棚から取り出して、ベッドの半分に寝転がって読み始めた。

(床で寝るのも嫌だしな……)

 きっちり半分寄ってくれている航河君を見て、私もその隣に寝転び、同じようにして漫画を読み始めた。だが、既に家に来て結構な時間が経過している。バイトを終え、その後ゲームをやっていたこともあったからか、瞼が重力に負けて閉じようとしていた。

「あー……無理。眠い。私寝るわ」
「そう? じゃあ俺も寝ようかな」
「ゲーム無事に終わって良かった。……今日は、ついてきてくれてありがと」
「気にしなさんな。おやすみ」
「おやすみ」

 航河君が電気を切ってくれて、辺りが暗闇に包まれた。オミさんからは寝息が聞こえる。

(寝られるかな……)

 と思っていたが、疲れもあったからかあっという間に眠りへ落ちていった。

 夢を見ることもなく、長い時間を経てゆっくりじんわりと意識が覚醒していく。耳から入る音と、瞼越しの淡い光。

(ん……起きなきゃ……)

 身体が重たい。あまり熟睡出来た気はしないし、身体も固まっている気がする。それでも、ゆっくりと目を開けた。

(……あ……!)

 目を開けると、目の前に航河君がいた。横向きで寝て、航河君の方を向いていたらしい。ベッドから落ちなくて良かった。落ちたらもれなくオミさんを潰していたところだ。

(顔ちかっ……! ……睫毛長いな!?)

 思わずまじまじと眺めてしまう。ここまで近付くことはまずない。起き上がり下の布団を見ると、オミさんはいなかった。

「おはよー千景ちゃん」
「あ、おはようございます」
「飯食う?」
「あ、食べる!」
「これバイト代その2ね」

 オミさんは朝食を作ってくれていた。眠い目をこすり、顔を洗いにベッドから立ち上がる。

(不思議な感じ)

 すべてを済ませ、オミさんの元へと戻る。布団は片付けられ、テーブルには3人分の朝食が並べられていた。

「おい、航河。起きろ!」
「……あぅ……あぁー……おはようございます」
「おはよ」

 まだぼーっとしている航河君をおいて、オミさんと2人で食べ始める。

「千景ちゃん化粧した?」
「してない」
「あんまかわらんね」
「最低限だからね」
「洗面所使う?」
「ううん、大丈夫だよ。すぐどっか行く予定もないし」

 取り留めもない話をしながら、箸を運ぶ。半分ほど食べ終えた頃、航河君が顔を洗って戻ってきた。

「やべぇ、朝飯出来てる」
「オミさんが作ってくれたよ。これもバイト代だって」
「あざーす」

 オミさんの作ったご飯が美味しい。いうなればプロなわけだし、本来ならお金を払って食べる味だ。こんなに豪華な朝食のメニューは、お店にはない。得した気分である。

(来て良かったかも)

「ニコニコしてどうしたの」
「んー? ご飯が美味しいなって」
「俺料理上手だもん」
「確かに」
「……あ、そういえば。オミさん、千景ちゃん家まで送ってってくれます?」
「珍しいな、お前が送っていかないなんて」
「今日デートなんです。この後、美織ちゃん迎えに行かないといけないんで」
「はいよ」

(そっか、美織ちゃん……。よくわからない、今日、来て良かったの……?)

 航河君は朝食を食べ終えると、すぐに着替えて家を出ていった。私はオミさんに家まで送ってもらい、布団の中でもう一度眠りについた。
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