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社会人_プロジェクト2年目春
第152話:君も同じ_2
しおりを挟む「そうなんだ。当日、帰りにやっぱり言うの? それとも、別の日?」
『その日に言おうと思っています。今からもう緊張していて。だから早くいつ行くのかその日を決めたいんですけど、やっぱり時間を置きたいような気もしていて』
「自分の心のなかでけじめをつけるって、なんであっても難しいもんね。でも、見たい映画の公開期間もあるだろうし、そのあたりで都合つけると良いのかもね。映画を決めちゃったら、公開期間がそのまま告白までのリミットになるんじゃないかな……」
『それが、お互いに見たい映画があったんです! 奇跡だと思いました。今しかないって』
私は次の返事を打てなくなっていた。なんと返して良いかわからない。これで相手のことを知らなかったら『それはもう運命だね』なんて気楽に返していたのだろうが。今回ばかりは不用意にこれ以上返信できなかった。公開期間を期限に……は、これでも頑張ったほうだ。綾ちゃんの恋は応援したい。彼女には幸せになってほしい。でも、私が今その幸せの邪魔をしてしまっている気がしてならない。私がいなければ、私が航河君と再会していなければ――。
(……マジで困った)
どう答えるか思いつかなくて、なかなか返信できないでいると、彼女のほうから続けざまに二通目が届いた。
『当日、頑張ります! すごく悩むと思うので、また相談に乗ってくださいね』
私は『うん、もちろん相談に乗るよ』と返し、整理がつかない気持ちのまま、可愛い夏乃の寝顔を眺めていた。
毎日同じ職場へ向かう日々。――今日は、一番早くプロジェクトの部屋の扉を開けた。珍しく一番乗りだ。いつもは綾ちゃんか宮本君が一番に来て、そのあとから人が増えてくる。だいたい私は二番目か三番目なのだが、誰もおらず明かりの消えた部屋は少し物悲しい気がした。
(珍しいなぁ。いつもは必ずどっちかがいるのに)
ピッ――ガチャッ――。
「おはようございます」
「あ、おはよう宮本君」
ウワサをすればなんとやら、宮本君が二番目にやってきた。
「あ……七原さん」
「なーに? 今日珍しいね。いつもは私よりだいたい早いのに」
「……それなんですけど。ちょっと、七原さんに相談がありまして」
「どうしたの? 改まって、なんか不思議な感じ」
「実は……」
ピッ――ガチャッ――。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます!」
タイミング悪く、リーダーが来てしまった。宮本君は、リーダーの前では言い辛いことだったのか『やっぱりまたあとにします』と、自分の席へ向かって行った。
(やばい。朝からめちゃくちゃ気になるんですけど)
中途半端な気持ちのまま、今日の仕事がスタートした。
少しだけ気になったのだが、綾ちゃんは今日遅めの出社だった。時間内ではあったのだが、いつもよりも格段に遅い。そして、航河君はいつも通りの出社だった。
あれから、航河君からはとくに連絡は来ていない。私の最後の接触は、不審者そのものだっただろうに。なにも疑問に思わないのか、わかっていてあえてなにも言ってこないのか。仕事中に変わりはない。それに、航河君と綾ちゃんも普通に会話している。綾ちゃんからは、映画の日取りは送られてきていない。まだ決まっていないということなのだろう。このままなしになってしまえばいいのに。わりと本気でそう思っているが、都合良くいかないことはわかっている。
「あ、七原さん。こっちの入退場のほうもお願い。来月ぶんは俺が更新しておいたから。再来月以降は仮だから、そっちはまぁいいかな。来月のチェックして、客先にメールアドレスとIDの申請しといて」
「わかりました」
「アカウント払い出されたら、ログインできるか確認しておいてくれる? 今月ひとつは入れないアカウントあってさ。また払い出しまで時間かかっちゃうから」
「了解です」
いつのまにか、新しくプロジェクトに加入する人、プロジェクトから撤退する人の、アカウント管理までするようになっていた。仕事としては張り合いがあるが『困ったときはとりあえず七原に聞け』みたいな雰囲気になっているのが辛い。私にわからないことは多いのに。
(正直めんどくさい)
本音がうっかり口から溢れないように、しっかり閉じながらファイルを開いた。
(……あ)
きっと、口を閉じていなかったらそのまま声になっていただろう。再来月以降の退場者予定に【桐谷航河】の名前があった。そして【沢木綾】の名も。
(そっか。ふたりとも再来月以降で退出が決まってるんだ)
きっともう、航河くんは知っているだろう。綾ちゃんはどうだろうか。綾ちゃんがもし知っていたら、まだ不確定だが航河くんがいなくなる前に、そして、自分が去ることになる前に、告白するようにと考えているかもしれない。
(……やっぱり、避けられないんだよね)
ふたりを含めた再来月以降のIDとメールアドレスの削除申請、新しく来る人たちの登録申請の準備をする。そうだ、誰だっていつまでも同じ場所に留まっているわけではないい。普段なら気にも留めないこのアカウント管理も、今日はどこか違って見えた。
いなくなることがわかった今、正直私はホッとしていた。航河君の言動を気にしなくても良いし、今までのことを思い出さなくて済む。
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