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1.今回の特別任務
1.出発準備 前
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もうとっくに陽は高いのに、いつもの屋敷のベッドに横になったままだ。抱き合っていると、ふたりきりで過ごせると分かっていても、離れるのが惜しくなる。ずっと、このあたたかさを感じていたい。
「ルーク」
「うん?」
「本当に、しばらく一緒に居られるの?」
「居られるよ。ひとりで呼び出されたとき以外は、仕事でもそばにいる」
ぎゅっと抱きしめながら、髪を撫でる。条件を付けても、ずっと一緒に居られるとは言ってあげられない。約束してあげたいが、状況は毎日変わる。何があるかは、平穏が訪れたとしても、結局分からない。
安心させるには、やはり事実が必要だ。一緒に過ごすことのできた思い出を、増やしていきたい。
「楽しいこと、たくさんしよう。今までできなかったこと、やってみたいことをしよう」
「うん」
☆ ☆ ☆
「今回の警備隊は、アーサー・エジャートン伯爵を隊長に、ルーク・ウィンダム魔術爵三男を副隊長として任命し、期間は半年、ウェルスリー公爵領の国境警備と情報収集を頼む」
「かしこまりました」
セントレ王国チャールズ王からの任命を受け、青い詰襟の騎士服を着たルークは、王の間から退出した。警備隊が利用できる執務室に、アーサーとともに速やかに移動する。
(なかなか、面倒な任務かもしれないな…)
今回は領地警備がメインだが、実質のところはウェルスリー公爵家の内部調査だ。現ウェルスリー公爵は地位が高いがゆえに傲慢で、国境の要地であるにもかかわらず、領地の自治について良い評判を聞かない。王都への連絡義務も怠っているらしい。それで、公爵が権限を持つ部隊を信用せず、国王名義で動く警備隊が送られることになったようだ。
公爵家の屋敷に滞在するのはルークだけで、他の隊員は領地内の宿泊施設を利用しつつ、領民とほぼ同じ生活をし、情報を集めるらしい。それはチャールズからルークに、「内密に公爵邸の内部を調べてこい」と言われているのと同じだ。
チャールズが探って欲しいものが物なのか人なのか、はたまた魔術に関するものなのか、全く見当が付かない。手がかりがあるのなら、チャールズが先に教えてくれるはずだ。チャールズですら、分かっていない可能性もある。
こういった、暗に別の指令を受けるのはルークだけで、馴染みの先輩騎士アーサーも、その部下たちも、ルークが常に特別任務に就いていることを知らない。
「今回の任務に連れていく魔術師を私が選ぶ。お前には騎士を」
「承知しました」
ルークは魔術を扱えるが、職業として魔術師を選ばず、騎士として生きている。それを知るのは、ルークの師匠であるジョン・ミッチェル教授と、チャールズを含む王家の一部だけだ。
今回の任務は王の間に呼ばれ、わざわざチャールズから直接言い渡される、一番重い形式だった。今までの任務も決して軽いものだとは思わないし、それなりに経験は積んできたが、この形式は初めてだ。しかも、今までルークは一隊員の立ち位置で、割と自由に、好き勝手に調査を行っていられたのに、今回は副隊長に指名された。
きっと、チャールズは大きな気配を掴んでいるのだろう。セントレ王国の平和に慣れた一般の騎士や魔術師では対処できないほどの、何か大きなものを。そうでなければ、わざわざルークが派遣される意味がない。
王家には、未来予知を行う者がいる。チャールズにもこの能力があり、だから国王という立場に居る。ただし、物事の事象が全て見えるわけではないらしく、ある一場面が見えるだけの場合も多いそうだ。予知内容もその能力自体も国の機密事項で、明かされているのは、左右の瞳の色が異なるオッドアイの魔術師、ルークとジョンだけだ。
王家とオッドアイ魔術師は、この機密を共有しているために、互いを攻撃しない。言い換えれば、機密を知っていることで互いの命を保障している。この取引が初めて行われたのは何百年も前の話だそうだが、現王家とオッドアイ魔術師の関係は良好で、この取引がなくても上手く付き合っていただろう。
現在任務についておらず空いている騎士の確認を終え、まだ執務室にいたアーサーにリストを渡す。この騎士たちとアーサーが選んだ魔術師たちは、偽装だ。
今回、調査活動を行うのはルークひとりだけで、隊長であるアーサーすら、ルークが特別任務を遂行するための駒として、ウェルスリー公爵家の領地に滞在する。昼夜交代のない警備任務など、ありえない。アーサーも疑問に思っているはずだが、チャールズに王の間で任命された手前、何も触れてこなかった。
アーサーは、もうすでに何度も隊長を経験し、騎士歴は十五年になる。対してルークは、騎士歴がまだ五年と浅い。それでも分かりやすく、他の先輩騎士を差し置いて、副隊長という大きな立場を任されてしまった。
アーサーからの信頼は今までの任務での実績で、得られている自信がある。ルークの本当の任務は誰にも分からないとはいえ、今回部下となる先輩騎士からは良い顔をされないだろう。
ルークが王家から、特別任務を任される理由はひとつしかない。ルークが、オッドアイを持つ魔術師であるのに、騎士として働いているからだ。グリーンの右目と、レッドの左目。レッドの目は魔術師の証であり、普通の魔術師は両目ともが赤い。
ルークは騎士として生きるために、魔術師の証となるレッドの左目に眼帯をつけ、更に重たい前髪で隠している。幼いころに怪我をしたことになっているが、それはルークの師匠であるジョンが魔術を使って流した噂で、ルークと関わりのある人たちの間では事実として定着している。
ルークの左目はきちんと見えているし、怪我もしていない。騎士としての視野は、騎士学校のころから片目で訓練したために問題はない。両目を使えるほうが当然便利だが、レッドの目を晒しているほうが、よっぽど厄介だった。
セントレ王国では、珍しいオッドアイは恐怖を与えるもので、攻撃の対象となり、虐げられやすい。そして、レッドの目を含むオッドアイを持つ者は、魔術の元となる魔力が異常に多い。王家はこれを知っていて、魔術を使えることを隠し、騎士として学業を修めたルークを重用する。
アーサーに声を掛けてから宿舎の自室に戻り、ウェルスリー公爵邸へ滞在する準備をし始める。少し、気が重い。
(副隊長、か…)
ルークがひとりで公爵邸に滞在するために、チャールズはその立場を用意したのだろうが、こんなに分かりやすく、大きな任務を与えられることはなかった。心臓の鼓動が、やたらとうるさく聞こえた。
「ルーク」
「うん?」
「本当に、しばらく一緒に居られるの?」
「居られるよ。ひとりで呼び出されたとき以外は、仕事でもそばにいる」
ぎゅっと抱きしめながら、髪を撫でる。条件を付けても、ずっと一緒に居られるとは言ってあげられない。約束してあげたいが、状況は毎日変わる。何があるかは、平穏が訪れたとしても、結局分からない。
安心させるには、やはり事実が必要だ。一緒に過ごすことのできた思い出を、増やしていきたい。
「楽しいこと、たくさんしよう。今までできなかったこと、やってみたいことをしよう」
「うん」
☆ ☆ ☆
「今回の警備隊は、アーサー・エジャートン伯爵を隊長に、ルーク・ウィンダム魔術爵三男を副隊長として任命し、期間は半年、ウェルスリー公爵領の国境警備と情報収集を頼む」
「かしこまりました」
セントレ王国チャールズ王からの任命を受け、青い詰襟の騎士服を着たルークは、王の間から退出した。警備隊が利用できる執務室に、アーサーとともに速やかに移動する。
(なかなか、面倒な任務かもしれないな…)
今回は領地警備がメインだが、実質のところはウェルスリー公爵家の内部調査だ。現ウェルスリー公爵は地位が高いがゆえに傲慢で、国境の要地であるにもかかわらず、領地の自治について良い評判を聞かない。王都への連絡義務も怠っているらしい。それで、公爵が権限を持つ部隊を信用せず、国王名義で動く警備隊が送られることになったようだ。
公爵家の屋敷に滞在するのはルークだけで、他の隊員は領地内の宿泊施設を利用しつつ、領民とほぼ同じ生活をし、情報を集めるらしい。それはチャールズからルークに、「内密に公爵邸の内部を調べてこい」と言われているのと同じだ。
チャールズが探って欲しいものが物なのか人なのか、はたまた魔術に関するものなのか、全く見当が付かない。手がかりがあるのなら、チャールズが先に教えてくれるはずだ。チャールズですら、分かっていない可能性もある。
こういった、暗に別の指令を受けるのはルークだけで、馴染みの先輩騎士アーサーも、その部下たちも、ルークが常に特別任務に就いていることを知らない。
「今回の任務に連れていく魔術師を私が選ぶ。お前には騎士を」
「承知しました」
ルークは魔術を扱えるが、職業として魔術師を選ばず、騎士として生きている。それを知るのは、ルークの師匠であるジョン・ミッチェル教授と、チャールズを含む王家の一部だけだ。
今回の任務は王の間に呼ばれ、わざわざチャールズから直接言い渡される、一番重い形式だった。今までの任務も決して軽いものだとは思わないし、それなりに経験は積んできたが、この形式は初めてだ。しかも、今までルークは一隊員の立ち位置で、割と自由に、好き勝手に調査を行っていられたのに、今回は副隊長に指名された。
きっと、チャールズは大きな気配を掴んでいるのだろう。セントレ王国の平和に慣れた一般の騎士や魔術師では対処できないほどの、何か大きなものを。そうでなければ、わざわざルークが派遣される意味がない。
王家には、未来予知を行う者がいる。チャールズにもこの能力があり、だから国王という立場に居る。ただし、物事の事象が全て見えるわけではないらしく、ある一場面が見えるだけの場合も多いそうだ。予知内容もその能力自体も国の機密事項で、明かされているのは、左右の瞳の色が異なるオッドアイの魔術師、ルークとジョンだけだ。
王家とオッドアイ魔術師は、この機密を共有しているために、互いを攻撃しない。言い換えれば、機密を知っていることで互いの命を保障している。この取引が初めて行われたのは何百年も前の話だそうだが、現王家とオッドアイ魔術師の関係は良好で、この取引がなくても上手く付き合っていただろう。
現在任務についておらず空いている騎士の確認を終え、まだ執務室にいたアーサーにリストを渡す。この騎士たちとアーサーが選んだ魔術師たちは、偽装だ。
今回、調査活動を行うのはルークひとりだけで、隊長であるアーサーすら、ルークが特別任務を遂行するための駒として、ウェルスリー公爵家の領地に滞在する。昼夜交代のない警備任務など、ありえない。アーサーも疑問に思っているはずだが、チャールズに王の間で任命された手前、何も触れてこなかった。
アーサーは、もうすでに何度も隊長を経験し、騎士歴は十五年になる。対してルークは、騎士歴がまだ五年と浅い。それでも分かりやすく、他の先輩騎士を差し置いて、副隊長という大きな立場を任されてしまった。
アーサーからの信頼は今までの任務での実績で、得られている自信がある。ルークの本当の任務は誰にも分からないとはいえ、今回部下となる先輩騎士からは良い顔をされないだろう。
ルークが王家から、特別任務を任される理由はひとつしかない。ルークが、オッドアイを持つ魔術師であるのに、騎士として働いているからだ。グリーンの右目と、レッドの左目。レッドの目は魔術師の証であり、普通の魔術師は両目ともが赤い。
ルークは騎士として生きるために、魔術師の証となるレッドの左目に眼帯をつけ、更に重たい前髪で隠している。幼いころに怪我をしたことになっているが、それはルークの師匠であるジョンが魔術を使って流した噂で、ルークと関わりのある人たちの間では事実として定着している。
ルークの左目はきちんと見えているし、怪我もしていない。騎士としての視野は、騎士学校のころから片目で訓練したために問題はない。両目を使えるほうが当然便利だが、レッドの目を晒しているほうが、よっぽど厄介だった。
セントレ王国では、珍しいオッドアイは恐怖を与えるもので、攻撃の対象となり、虐げられやすい。そして、レッドの目を含むオッドアイを持つ者は、魔術の元となる魔力が異常に多い。王家はこれを知っていて、魔術を使えることを隠し、騎士として学業を修めたルークを重用する。
アーサーに声を掛けてから宿舎の自室に戻り、ウェルスリー公爵邸へ滞在する準備をし始める。少し、気が重い。
(副隊長、か…)
ルークがひとりで公爵邸に滞在するために、チャールズはその立場を用意したのだろうが、こんなに分かりやすく、大きな任務を与えられることはなかった。心臓の鼓動が、やたらとうるさく聞こえた。
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