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1.今回の特別任務
2.出発準備 後
しおりを挟む使い込んだベッドに寝転んで、目を閉じる。深呼吸をしながら、体内に流れる魔力へ意識を向ける。
ルークは、物心ついたころから訓練なしで魔術を使えた、いわゆるエリートだ。オッドアイの魔力の強さや貴重さは王家しか知らない機密事項であるため、生まれが貴族であってもその価値は分からないし、家族だからといって伝えられもしない。気味悪がられ、虐げられた。
父親・嫡男・次男と、ウィンダム魔術爵家の男性家族は皆魔術を扱えたため、普通とは異なる目を持つ三男ルークに、魔術で死なない程度の嫌がらせをした。ルークは、そんな家族と同類になるのを拒否し、誰よりも多くの魔力を持つのに、魔術を使わなくなった。
チャールズの治めるセントレ王国の子どもは、五歳になると、全寮制の魔術学校か騎士学校、または一般学校の初等部に入学する。入学時のルークは、すでに人前で魔術を全く使わなかったため、「魔術を使えない」と申請されていたが、レッドの目を持つ者は訓練で魔術が使えるようになることもあるからと、魔術学校へ入った。
そこで出会ったのが、現在のルークが師匠と慕う、唯一ルークを理解してくれた魔術学校の教授、ジョンだった。
レッドの目は、微量でも体内に魔力を有している証拠で、例え入学時に魔術を扱えた経験がなくても、暴走の危険もある魔力の制御をきちんと学ぶために、魔術学校への入学が必須である。それをルークが知ったのは、だいぶ時間が経ってからだ。
魔力があることを自覚しているのに、魔術を使おうとしない五歳のルークは、相当奇妙な新入生だっただろう。ジョンはそんなルークを見捨てず声を掛け、オッドアイ持ちであることを内緒にすると約束したあと、眼帯をしている自身もオッドアイであることを明かしてくれた。
ジョンは、ブルーの右目に眼帯をし、レッドの左目を見せているため、魔術師として紫のマントを羽織って教鞭を取っている。ルークが魔術を使いたくない理由を聞き出し、レッドの左目に眼帯を着けることを提案してくれた。さらに王家に掛け合い、六歳になったルークを騎士学校に転入させ、「魔術は使いたくなったら勉強しに来なさい」と諭しもした。そもそも、魔力が強すぎるルークは、魔術学校で勉強しても浮いてしまう。結局、虐げられることからは逃れられない。
十歳のころ、ルークは騎士学校の宿舎の自室で、初めて子犬の姿になった。無意識だったため、魔術で子犬になったことしか分からなかった。頼れる人は、ジョンしかいない。とっくに就寝時刻を過ぎていたが、宿舎を抜け出し、久々ジョンの書斎を訪ねた。
ガリガリと扉を引っ掻けば、音に気付いたジョンが開けてくれた。驚きつつも、すぐにオッドアイの子犬がルークであると理解し、変身魔術について教わった。それからのルークは、昼間には騎士学校で訓練を受け、皆が寝静まった夜には本格的に自分の魔力を制御して、魔術を扱うことを学び始めた。
ルークが子犬になった変身魔術よりも上位である、空間を移動する転移魔術も、ルークがいかにエリートかを示す魔術だ。変身魔術も転移魔術も、同じオッドアイ魔術師だがジョンには掛けられないらしい。ルークが生まれ持った魔力がとてつもなく多いからだと、ジョンは言っていた。学内で初めて使った魔術が変身魔術である生徒も、記憶にないそうだ。
こうして、現在二十二歳のルークは騎士として、そしてオッドアイ魔術師として、特別任務を請け負い生計を立てているのである。
半年も、任務で王都を空ける。ジョンにも挨拶をしておいたほうがいいだろう。思い立ったルークは、寝転んだまま転移魔術を掛け、自室にどうしても残る魔術の気配を消しながら、ジョンの書斎へ移動した。
「…師匠」
「ルークか」
ルークが呼ぶと、よく通る低い声が聞こえ、書物の隙間からジョンが姿を現した。魔術を使うと空気が揺れるから、ルークが来たことには気付いていたはずだ。ひとりで調べものをするためだけに立ち寄る場合もあるため、ジョンはいつも呼ばないと顔を見せない。
「半年の長期任務らしいな」
「何があるんですかね、ウェルスリー公爵家」
「チャールズも、何か掴んでいるなら教えてくれてもいいものを…」
「師匠も何も聞いていないんですね?」
「だいたいいつもそうだがな」
ジョンの書斎の壁にはみっちりと、大量の書物が詰まっていて、そのほとんどが魔術関連のものだ。ルークは目についた書物を手に取り、今回の任務に関連しそうなものがないか、ぺらぺらと探してみる。
ウェルスリー公爵家について、領地が国境の要地であることくらいしか、ルークは事前の知識を持ち合わせていない。セントレ王国の中心地であるはずの王都でも情報が乏しく、チャールズから何の手がかりも得られていない以上、この行為はほぼ無意味なことも分かっているが、少しでも気を落ち着けたかった。
チャールズの未来予知に従って、今回の任務のようにルークと、偽装の警備隊や騎士団が動くことになる。警備隊はいわば噂の確認を行う部隊で、反乱を準備するような国民がいないか、放置された悪質な魔術道具がないかなどを調べ、中央に報告する役割を担っている。本格的な戦闘はせず、主に情報のやりとりだけを行い、警備隊の情報を使って騎士団が武力解決する仕組みだ。
ちなみにルークは、前回の任務ではアーサーとともに騎士団所属だった。王家の采配次第で、優秀な人財は騎士団と警備隊を行き来することもある。
いつかの任務の切れ目で、ルークが騎士団から警備隊に異動になることを、降格だと喜ぶ者がいたらしい。結局のところ、ルークには特別任務が与えられているため、それが遂行しやすい部隊に所属しているだけだ。警備隊は基本的に戦闘をしないため、戦闘を避けるための勘も必要になる。
そういった意味でも、アーサーやルークのように、騎士団を経験した者が警備隊所属になる任務もあるが、戦場の前線には出ないため、誤解されがちなのである。ここ数十年大きな戦争もなく、騎士も魔術師も危機感の薄い者が多い。もっとも、特別任務をこなしているルークが国家危機の最前にいて、食い止めているとも言える自負もある。
先輩騎士から目をつけられる理由は、他にも思い当たる。二十二歳といえば、通常はまだ経験二年の平騎士だが、ルークはすでに騎士歴五年で、同い年の誰よりも騎士学校の卒業が三年も早い。父親が持つ魔術爵も、セントレ王国の爵位の中では最下位で、王家に能力を買われているのを不思議がる者も多い。ルークが警備副隊長に任命された今回の任務は、間違いなく王都での話題になるだろう。
持っていた書物を、棚にしまう。やはり、現地に行ってから探してみるしかない。
「…そういうことなので、挨拶だけ」
「気を付けてな」
「はい」
(師匠は、いつも通りだった。特別、難しい任務じゃないのかもしれない)
転移魔術で、騎士の宿舎にある自室に戻る。手荷物は少ない。セントレ王国領土内での任務で、いざとなれば現地調達ができる。特別任務に支障さえ出なければ、それでいい。
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