とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

文字の大きさ
3 / 103
1.今回の特別任務

3.公爵邸にて

しおりを挟む
 
 公爵邸に滞在するようになってから、二ヶ月ほど経っただろうか。この屋敷からは魔力を感じない。魔術師がいない証拠で、護衛の騎士も屋敷の門番以外にいない。ルークはチャールズから暗に命じられた、ここでの特別任務が何なのか、未だ掴めずにいた。

 宿泊を許可された客間には、辺境地にしてはしっかりとした造りの家具が並べられ、貴族の最上位である公爵家の威厳を示していた。幼少期や青年期など、歴代のウェルスリー公爵と思われる肖像画が、何枚も壁に飾られていた。

 屋敷の客間に通された初めの一週間は、さすがに警戒されたはずだ。アーサーや他の騎士が百八十センチ後半より高い身長を持つなか、ルークは騎士としては小柄で華奢、百七十センチ前半しかない。それでも騎士として鍛えているため、文官や魔術師と比べると印象は異なるはずだ。

 重たい前髪と眼帯さえなければ整った顔立ちで、顔を一部隠しているという不思議な雰囲気もあり、ルークは特に興味を持っていないが、女性受けする自覚はあった。女性を中心に構成された使用人たちと馴染むことに、さほど時間はかからなかった。

 仲良くなった使用人たちによると、現ウェルスリー公爵は屋敷にいないことがほとんどで、どこで何をやっているのかは執事でさえも知らないという。執事は、執事としての仕事がほぼ何もなく、いつ退職させられるのかと不安な様子で、それに関しては使用人たちも、世話をする相手が屋敷内に誰もいないと、同じようなことを言っていた。

 公爵はふたりの妻に先立たれ、それをきっかけに戻ることが少なくなったという。一人目の妻との間には子どもはおらず、三人の子どもは全て二人目の妻との間にできた子だそうだ。

 執事に、子どもたちの出生記録を見せてもらった。十二歳男児、十歳男児、八歳女児。全員が全寮制の一般学校または騎士学校に入学しているため、ここにはいない。前妻は十六年前、出産時に子どもとともに亡くなり、後妻は末の女児を出産したときに亡くなったらしい。


 それで結局、今回の特別任務は何なのだろう。 公爵の現在地を探すことだとしても、執事や使用人が知らないのであれば、転移魔術を闇雲に使うわけにはいかないし、屋敷に滞在することが警備隊として任務の一部であるルークは、動きようがない。

 公爵の妻をめぐる呪い、つまり魔術の類だとするには、動くのが遅い。前妻が亡くなったのは十六年前、後妻が亡くなったのですら八年も前だ。貴族最上位の公爵家の出産で、確かな医師が立ち会っただろうし、十二分に検視などもされただろう。

 せめて、屋敷の書斎や資料室に入ることができればと思うが、それは執事に止められた。いくら王命の調査で来た騎士とはいえ、主の許可なく全ての部屋を見せてはくれない。チャールズに相談すれば開けてもらうように説得できるだろうが、国王からの直々の命令は繰り返すと価値が下がる。従わせる強さが減るため、最終手段に置いておきたい。転移魔術を使って中に入ることも可能だが、部屋の内部が分からないと転移先で何があるか予想できず、危険は犯したくない。

 ルークにできることは、屋敷内が毎日同じことを繰り返しているかどうか、変化がないか監視することくらいだった。


 ☆


 使用人たちに不審がられると、いざというときに動きにくくなるため、毎日同じルートで見回っていたが、余りに進展がない。たまたま、気分で見回りのルートを替えてみた。

 普段、色目を使われるのは鬱陶しく苦手で避けるものの、利用できるときに使わないほど、ルークは自分の見目を嫌っているわけではない。もし使用人に姿を見られても、女性使用人の大半がルークの外見に落ちている自負があるし、多少文句を言われる程度で済むだろう。

(ん、あの子は?)

 中庭で花と戯れている、前髪の長い少女が目に入った。これまでの二ヶ月では見かけなかった、使用人とも異なる人物だ。白いワンピースを着ているが、使用人の衣服よりもずっと着古されていて、白というよりは茶色に近い。

「…ディム、なんでここにいるんだっ!」

 ルークに仕事がないと嘆いていた男性執事が、ディムと呼んだ少女の頬を平手で打ち、体勢を崩した彼女をそのまま引きずるように、屋敷の中へ連れて行った。

 姿を見られる前に、姿消しの同化魔術で身体を隠しておいてよかった。執事は振り返ることもなく、彼女を室内へ入れることを優先していた。あの少女は、ウェルスリー公爵が公にしたくない子どもなのだろう。使用人や執事から、彼女に関しての情報は、一切聞かなかった。

(なるほど…)

 今回の特別任務がようやく分かった。チャールズは、あの隠された少女を予知したのだ。

 長いあの前髪で目を隠しているとすれば、考えられるのは、ルークと同じくオッドアイを持つことか。虐げられるこの目は、執事のあの行動にも繋がる。

(『ディム』ね……)

 あまり人の名前に使う単語ではないし、あの執事の反応を見るに、生まれたときから忌み嫌われたのだろうか。

 魔力の制御と、魔術を何に活かして生きるのかをきちんと学べば、王家に重用される人材になれるのに、オッドアイの有用性自体が国家機密だ。あの少女がこういう扱いを受けるのも、一部納得できてしまう。それほど、オッドアイは珍しいのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果

景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。 ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。 「俺……ステラと離れたくない」 そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。 「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」 そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。 それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。 勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。 戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──? 誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...