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2.魔の紋章を持つ少女
10.ミアの魔力
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「……使えたね」
「今のは…?」
「僕は何もしてない。ミアの魔術だ」
「え…?」
「戸惑うのも普通だよ、疲れてない?」
「はい」
「もう一回、やってみる?」
ミアが魔力を上手く制御できなくても、隣にいるのはセントレ王国で最強のオッドアイ魔術師である。結界の中にいることもあって、ルークの魔術を重ねて抑えることもできると踏んでいた。
ルークが手を離すと、枯れ葉がまた宙に浮き始める。今回も何千枚と舞っているが、ミアには多少、その一枚一枚を見つめる余裕ができたようだ。
「わあ…」
「ふふ、可愛いね」
魔術を扱い始めたころは特に、名称のない魔術を出すことが多く、魔術師本人の性格が反映されやすい。男女の対が踊っているように見えるのは、小説好きのミアならではだろう。おそらく、挿絵なども参考に、ダンスの様子を想像していたのだ。
ルークは国王夫妻が主催の夜会に出席したことがあるが、護衛として並んだだけだ。騎士学校時代の授業で軽く練習したことはあるものの、実践したことはなかった。
(普通の貴族なら、年に一度は出席するものだけど…、ミアは、出たいと思う?)
楽しそうに笑いながら魔力と戯れる、六歳下のミアが愛おしく思えたが、ミアの魔力の気配を全く感じられないことは引っ掛かっていた。
☆
五歳のころのルークは、オッドアイのせいで家族から虐げられ、魔術を使うことを止めてしまった。父親は兄たちとの優劣がつきやすいように、一般学校へ入学させようとしていたが、レッドの瞳を持つことで魔術学校に入った。そこでジョンに出会い、ルークの人生は変わった。
ジョンのオッドアイを見せてもらったとき、この人の前では魔力を使っていいのだと、幼いながらに目の前が開いたような気分がしたのをよく覚えている。それでも、兄たちも同じ学校に通っているのを知っていたし、魔術学校に居る間に魔術を使おうとは思えなかった。
騎士学校に編入後、同い年が寝ている時間に迎えに来たジョンと外に出ると、「この葉っぱをこうやって動かせるかい?」と聞かれた。手のひらの上で葉を立たせ、左右にちょんちょんと歩かせるような動きだった。
当時のルークは、竜巻のように周囲の葉をぐるぐると持ち上げたあと、その動きに驚いて魔力を弱め、ふわふわと降らせた。ミアと同じように、葉を一枚だけ動かすことは難しく、大量の葉を動かしたのだ。
オッドアイは、生まれ持った魔力の総量が大きすぎて、初めは扱うのが難しく、制御できるようになるまでに時間が掛かる。一般的な魔術師は、持っている魔力の総量がオッドアイに比べ少なく 、魔術学校に入学したてでも思いどおりに使えることが多い。
ジョンの管理の元で自分の魔力に触れても、その強大さに衝撃を受け、結局魔術を使う気にはなれず、ジョンとの関係は一度切れることになる。次にジョンと対面するのは、ルークが十歳になり、騎士の宿舎の自室で意図せず子犬の姿になったときだ。
オッドアイの魔術師であることを隠していられたのはジョンのおかげで、師匠と呼んで慕うのも当然である。
「ルーク様?」
「ん、なんでもないよ、ちょっと昔を思い出してただけ」
「昔、ですか?」
「今のミアと似た状況になったことがあってね」
魔術で葉を操るミアは楽しそうだが、使ったのは今日が初めてのはずで、外に出られるとは思ったが、身体はまだ未熟なままだ。
「疲れてはいない?」
「大丈夫です」
「そう。でもまだ、室内では使わないでね。それから、僕がいないところでも」
「分かりました」
ルークは立ち上がってミアの手を引き、そのまま屋敷に戻った。階段を上がる前に食堂へ寄り、ミアに水を差し出した。コップ一杯を、しっかりと全て飲み切ってくれる。
(……)
ミアが魔術を使っても、ルークには感知できない。魔の紋章の魔力をミアが扱えるのは分かったが、だからといってミア自身の魔力が復活して紋章の魔力と干渉するとか、書物にない、予想もしないようなことが起こる可能性も十分にある。
何せ、前例のないレアケースなのだ。ミアが魔術を使えることを確認できたのは嬉しかったが、同時に悩みの種でもあった。
☆
食事と風呂を終えて、寝るだけとなったミアは、自分の両手を閉じたり開いたりして、本当に自分の手なのかを確認していた。
(だって、自分が魔術を使えるなんて……)
ルークのそばで、ルークの魔術を見て日々を過ごしていた。
台所に本を持ってくるように言われてからは、寝る前の時間以外にも小説を読むようになった。分からない単語があっても、その場でルークに尋ねると教えてくれる。続きが読みたいと言えば、買ってきてくれたし、逆にしばらく何も言わないでいると、「あの本はまだ読み終えていない?」と聞いてくれた。
ルークがいれば、家の中で楽しむこともできたから、もともと薄かった外の世界への興味が余計に薄れていった。
(そういえば…)
ミア以外の人にない顔の模様について、ルークは何か知っていそうだった。ルークが知っているのなら、魔術が関係するのだろう。きっと、聞けば答えてくれる。ルークは知っていることは教えてくれるし、知らないことは知らないと教えてくれる。ミアに嘘を付く人ではないのは、もう分かっていた。
「今のは…?」
「僕は何もしてない。ミアの魔術だ」
「え…?」
「戸惑うのも普通だよ、疲れてない?」
「はい」
「もう一回、やってみる?」
ミアが魔力を上手く制御できなくても、隣にいるのはセントレ王国で最強のオッドアイ魔術師である。結界の中にいることもあって、ルークの魔術を重ねて抑えることもできると踏んでいた。
ルークが手を離すと、枯れ葉がまた宙に浮き始める。今回も何千枚と舞っているが、ミアには多少、その一枚一枚を見つめる余裕ができたようだ。
「わあ…」
「ふふ、可愛いね」
魔術を扱い始めたころは特に、名称のない魔術を出すことが多く、魔術師本人の性格が反映されやすい。男女の対が踊っているように見えるのは、小説好きのミアならではだろう。おそらく、挿絵なども参考に、ダンスの様子を想像していたのだ。
ルークは国王夫妻が主催の夜会に出席したことがあるが、護衛として並んだだけだ。騎士学校時代の授業で軽く練習したことはあるものの、実践したことはなかった。
(普通の貴族なら、年に一度は出席するものだけど…、ミアは、出たいと思う?)
楽しそうに笑いながら魔力と戯れる、六歳下のミアが愛おしく思えたが、ミアの魔力の気配を全く感じられないことは引っ掛かっていた。
☆
五歳のころのルークは、オッドアイのせいで家族から虐げられ、魔術を使うことを止めてしまった。父親は兄たちとの優劣がつきやすいように、一般学校へ入学させようとしていたが、レッドの瞳を持つことで魔術学校に入った。そこでジョンに出会い、ルークの人生は変わった。
ジョンのオッドアイを見せてもらったとき、この人の前では魔力を使っていいのだと、幼いながらに目の前が開いたような気分がしたのをよく覚えている。それでも、兄たちも同じ学校に通っているのを知っていたし、魔術学校に居る間に魔術を使おうとは思えなかった。
騎士学校に編入後、同い年が寝ている時間に迎えに来たジョンと外に出ると、「この葉っぱをこうやって動かせるかい?」と聞かれた。手のひらの上で葉を立たせ、左右にちょんちょんと歩かせるような動きだった。
当時のルークは、竜巻のように周囲の葉をぐるぐると持ち上げたあと、その動きに驚いて魔力を弱め、ふわふわと降らせた。ミアと同じように、葉を一枚だけ動かすことは難しく、大量の葉を動かしたのだ。
オッドアイは、生まれ持った魔力の総量が大きすぎて、初めは扱うのが難しく、制御できるようになるまでに時間が掛かる。一般的な魔術師は、持っている魔力の総量がオッドアイに比べ少なく 、魔術学校に入学したてでも思いどおりに使えることが多い。
ジョンの管理の元で自分の魔力に触れても、その強大さに衝撃を受け、結局魔術を使う気にはなれず、ジョンとの関係は一度切れることになる。次にジョンと対面するのは、ルークが十歳になり、騎士の宿舎の自室で意図せず子犬の姿になったときだ。
オッドアイの魔術師であることを隠していられたのはジョンのおかげで、師匠と呼んで慕うのも当然である。
「ルーク様?」
「ん、なんでもないよ、ちょっと昔を思い出してただけ」
「昔、ですか?」
「今のミアと似た状況になったことがあってね」
魔術で葉を操るミアは楽しそうだが、使ったのは今日が初めてのはずで、外に出られるとは思ったが、身体はまだ未熟なままだ。
「疲れてはいない?」
「大丈夫です」
「そう。でもまだ、室内では使わないでね。それから、僕がいないところでも」
「分かりました」
ルークは立ち上がってミアの手を引き、そのまま屋敷に戻った。階段を上がる前に食堂へ寄り、ミアに水を差し出した。コップ一杯を、しっかりと全て飲み切ってくれる。
(……)
ミアが魔術を使っても、ルークには感知できない。魔の紋章の魔力をミアが扱えるのは分かったが、だからといってミア自身の魔力が復活して紋章の魔力と干渉するとか、書物にない、予想もしないようなことが起こる可能性も十分にある。
何せ、前例のないレアケースなのだ。ミアが魔術を使えることを確認できたのは嬉しかったが、同時に悩みの種でもあった。
☆
食事と風呂を終えて、寝るだけとなったミアは、自分の両手を閉じたり開いたりして、本当に自分の手なのかを確認していた。
(だって、自分が魔術を使えるなんて……)
ルークのそばで、ルークの魔術を見て日々を過ごしていた。
台所に本を持ってくるように言われてからは、寝る前の時間以外にも小説を読むようになった。分からない単語があっても、その場でルークに尋ねると教えてくれる。続きが読みたいと言えば、買ってきてくれたし、逆にしばらく何も言わないでいると、「あの本はまだ読み終えていない?」と聞いてくれた。
ルークがいれば、家の中で楽しむこともできたから、もともと薄かった外の世界への興味が余計に薄れていった。
(そういえば…)
ミア以外の人にない顔の模様について、ルークは何か知っていそうだった。ルークが知っているのなら、魔術が関係するのだろう。きっと、聞けば答えてくれる。ルークは知っていることは教えてくれるし、知らないことは知らないと教えてくれる。ミアに嘘を付く人ではないのは、もう分かっていた。
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