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6.未来に向けて
6.国王夫妻の夜 2
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ルークとミアがセントレ王国に帰ってきて、予定より少し早まった国際会議も終わった。チャールズはエリザベスと同じベッドに、普段どおり入っていた。
国際会議や同盟国を取り仕切ることには慣れているが、さすがに疲れている。それでも、眠れる気はしなかった。
せっかくルークとミアがほぼ無事で帰ってきたのに、気落ちが続く。今日、この日が来れば解放されると思っていた重みが、取れない。あのふたりに、なんてことをさせてしまったのだという罪悪感が、消えない。
(はあ……)
「…チャールズ」
「すまない」
エリザベスが名を呼んでくれるが、振り向けない。エスト王国との協定を結んでから、謝っていない日はないだろう。条約が破棄されてもなお、エリザベスとふたりになると、エリザベスの方を向いてやれなくて、謝ってしまう。
国政の話を寝室には持ち込まないと決め、それを守ることができていた時期が懐かしいくらいに、エリザベスに気を遣わせている。
「…貴方は、国王であるよりも前に、優しい人。だから、貴方の隣でなら、王家に嫁いでも幸せになれるって思ったのよ」
チャールズの背中に、エリザベスが額を押し付けてくる。嫌がる理由がないのも、エリザベスには分かっている。
「あのふたりが笑うところをたくさん見れば、貴方の罪悪感は薄れていくわ。早く、王家として手伝えることが見つかるといいわね」
「…そうだな」
☆
納得しているような、でもまだ切り替えはできていない。エリザベスには手に取るように分かった。
学生時代、エリザベスと距離を縮めるためにルークを連れて茶会に来ていた、チャールズのあの明るい笑顔が忘れられない。
当時のチャールズは、明らかに若く、しかも常にしかめっ面のルークを連れていた。エリザベスを妻、そして王妃とするために会いに来る茶会に、別の男性を連れてくるチャールズを理解できなかった。ルークのことも知らなかったから、王太子であるチャールズに弟はいないし、一体誰なのだろうと思っていた。
チャールズと無事に結婚してから、未来予知とオッドアイの秘密や、ルークがオッドアイ魔術師であること、年の差はあれど幼馴染であり親友であること、チャールズがひとりで会う勇気は出なかったことなど、内情を聞いたのだ。
王家に入ってからは、ふたりの絆を嫌というほど感じた。ふたりとも立場が特殊で、このふたりの間であれば、物事を対等に話せる。エリザベスとチャールズの間に、その関係性はない。チャールズは、ルークとエリザベス、どちらに何をどこまで共有するか、明確に区別している。国王として当然で、信頼できる部分だ。
エリザベスも今は王家所属で、結婚前までの貴族社会での交友関係は残っていない。使用人として仕えてくれている馴染みしか、残っていない。その馴染みさえも、仕事で王宮にいるのだから契約関係が成り立っていて、間は業務と報酬で繋がっている。
国家機密の共有という、一種の契約関係はあれど唯一友人と呼べるルーク、そしてミアを失うことかもしれない選択を、エリザベスは一年前に促した。それが、王家として、国王として、間違った判断ではないと思ったから。
チャールズは、ひとりの人間で、きちんと感情もある。でも、国王なのだ。ここまで、社会的な立場と一個人の感情に揺れているチャールズを、王妃になってからずっと、エリザベスは見たことがなかった。
「…チャールズ」
「うん?」
やっぱり、振り向いてはくれない。ルークとミアは、どんな表情で帰ってきたのだろう。チャールズがふたりに関して落ち込んでいるのは分かる。きっとふたりは無事で、任務についても割り切っていた。そのことが余計に、チャールズを苦しめる。
心の整理がつけられないのだろう。ルークとミアから怒鳴られたり貶されたり、感情をぶつけられるほうが楽になれるのかもしれない。そんなことをするほど、幼稚なふたりではないし、エリザベスも酷な決断を求めたのは理解している。でもそれが予知の内容で、チャールズには避けようのない使命だった。ひとつずつ解いて、ふたりは戻ってきたのに。
(どうして貴方だけが、背負おうとするの? 私には、言えない?)
「また、ミアと話をする機会が欲しい。ルークの変化を感じても、あの子が話せるのは私しかいないもの」
「…分かった」
☆
妻の希望だ。応えられるものには応える。
ただ、その希望は、ミアを心配するもので、エリザベス自身に関することではない。親友を失うことになると一年前に言ったが、エリザベスはあまり衝撃を受けているようには見えなかった。
確かにエリザベスとミアは、チャールズとルークのような関係性だが、知りあって交流した年月が違いすぎる。王妃として、切り替えができているということか。
(ベスにも、置いていかれる…?)
報告を受けたときに、ミアは号泣していたがルークは普段どおりに見えた。チャールズは魔術師ではないため番の交わりを知り得ないが、エリザベス以外と過ごすなど考えたくもなかった。それを、親友のルークには課した。番のオッドアイ魔術師は、ジョンの言葉どおりに乗り越えて戻ってきた。割り切れていないのは、チャールズだけだ。
国際会議や同盟国を取り仕切ることには慣れているが、さすがに疲れている。それでも、眠れる気はしなかった。
せっかくルークとミアがほぼ無事で帰ってきたのに、気落ちが続く。今日、この日が来れば解放されると思っていた重みが、取れない。あのふたりに、なんてことをさせてしまったのだという罪悪感が、消えない。
(はあ……)
「…チャールズ」
「すまない」
エリザベスが名を呼んでくれるが、振り向けない。エスト王国との協定を結んでから、謝っていない日はないだろう。条約が破棄されてもなお、エリザベスとふたりになると、エリザベスの方を向いてやれなくて、謝ってしまう。
国政の話を寝室には持ち込まないと決め、それを守ることができていた時期が懐かしいくらいに、エリザベスに気を遣わせている。
「…貴方は、国王であるよりも前に、優しい人。だから、貴方の隣でなら、王家に嫁いでも幸せになれるって思ったのよ」
チャールズの背中に、エリザベスが額を押し付けてくる。嫌がる理由がないのも、エリザベスには分かっている。
「あのふたりが笑うところをたくさん見れば、貴方の罪悪感は薄れていくわ。早く、王家として手伝えることが見つかるといいわね」
「…そうだな」
☆
納得しているような、でもまだ切り替えはできていない。エリザベスには手に取るように分かった。
学生時代、エリザベスと距離を縮めるためにルークを連れて茶会に来ていた、チャールズのあの明るい笑顔が忘れられない。
当時のチャールズは、明らかに若く、しかも常にしかめっ面のルークを連れていた。エリザベスを妻、そして王妃とするために会いに来る茶会に、別の男性を連れてくるチャールズを理解できなかった。ルークのことも知らなかったから、王太子であるチャールズに弟はいないし、一体誰なのだろうと思っていた。
チャールズと無事に結婚してから、未来予知とオッドアイの秘密や、ルークがオッドアイ魔術師であること、年の差はあれど幼馴染であり親友であること、チャールズがひとりで会う勇気は出なかったことなど、内情を聞いたのだ。
王家に入ってからは、ふたりの絆を嫌というほど感じた。ふたりとも立場が特殊で、このふたりの間であれば、物事を対等に話せる。エリザベスとチャールズの間に、その関係性はない。チャールズは、ルークとエリザベス、どちらに何をどこまで共有するか、明確に区別している。国王として当然で、信頼できる部分だ。
エリザベスも今は王家所属で、結婚前までの貴族社会での交友関係は残っていない。使用人として仕えてくれている馴染みしか、残っていない。その馴染みさえも、仕事で王宮にいるのだから契約関係が成り立っていて、間は業務と報酬で繋がっている。
国家機密の共有という、一種の契約関係はあれど唯一友人と呼べるルーク、そしてミアを失うことかもしれない選択を、エリザベスは一年前に促した。それが、王家として、国王として、間違った判断ではないと思ったから。
チャールズは、ひとりの人間で、きちんと感情もある。でも、国王なのだ。ここまで、社会的な立場と一個人の感情に揺れているチャールズを、王妃になってからずっと、エリザベスは見たことがなかった。
「…チャールズ」
「うん?」
やっぱり、振り向いてはくれない。ルークとミアは、どんな表情で帰ってきたのだろう。チャールズがふたりに関して落ち込んでいるのは分かる。きっとふたりは無事で、任務についても割り切っていた。そのことが余計に、チャールズを苦しめる。
心の整理がつけられないのだろう。ルークとミアから怒鳴られたり貶されたり、感情をぶつけられるほうが楽になれるのかもしれない。そんなことをするほど、幼稚なふたりではないし、エリザベスも酷な決断を求めたのは理解している。でもそれが予知の内容で、チャールズには避けようのない使命だった。ひとつずつ解いて、ふたりは戻ってきたのに。
(どうして貴方だけが、背負おうとするの? 私には、言えない?)
「また、ミアと話をする機会が欲しい。ルークの変化を感じても、あの子が話せるのは私しかいないもの」
「…分かった」
☆
妻の希望だ。応えられるものには応える。
ただ、その希望は、ミアを心配するもので、エリザベス自身に関することではない。親友を失うことになると一年前に言ったが、エリザベスはあまり衝撃を受けているようには見えなかった。
確かにエリザベスとミアは、チャールズとルークのような関係性だが、知りあって交流した年月が違いすぎる。王妃として、切り替えができているということか。
(ベスにも、置いていかれる…?)
報告を受けたときに、ミアは号泣していたがルークは普段どおりに見えた。チャールズは魔術師ではないため番の交わりを知り得ないが、エリザベス以外と過ごすなど考えたくもなかった。それを、親友のルークには課した。番のオッドアイ魔術師は、ジョンの言葉どおりに乗り越えて戻ってきた。割り切れていないのは、チャールズだけだ。
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