とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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6.未来に向けて

7.記録魔術

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 ルークとミアがセントレ王国に戻ってきたあの日から、一週間ほど経っただろうか。チャールズに呼ばれ、執務室に向かう。普段と変わらず、衛兵に軽く会釈をし扉の中へ入ったあと、結界を張り直して勝手に腰を下ろした。ティーセットを引き寄せ紅茶を淹れて、聞こえたチャールズの言葉は、すぐに受け入れられるものではなかった。

「ルークが、東で受けた魔力暴走の記録魔術を、見てみたいと思っている」

 普段、めったに感情を表に出さないジョンが、動きを止めるほど動揺した。何を言っているのか、分からないほど幼い国王ではない。

「…私も興味がないわけではないが、見た後の体調は保障できない」
「分かっている。ルークとしても嫌だろうが…」

 チャールズに何と声を掛けるべきか、迷った。国王となるには、心が優しすぎる。特にルークの前では、ふざけることでそれを誤魔化しているのも嫌というほど知っている。

 即位したてのころは、騎士団や警備隊の一衛兵が殉職するたびに心を痛めて、その一日の明らかに口数が減った。命を大切にすることは今も変わらない。

 場合によっては捨てる選択もできるようになった国王が、今回は特に、ルークに関わることで、公私の切り替えが上手くいっていないことは分かる。それをどうにかしたくて、ルークの記録が見たいと言っているのだろう。

(いや、しかし……)

 ルークに、聞くしかないのか。ルークが見せたくないと拒否すれば、見なくて済む。ただし、チャールズの切り替えを時間に任せることになる。記録魔術を見たところで、むしろ長引く可能性もある。

 予知にあった大きな危機が去ったばかりで、しばらく国家滅亡レベルの有事は起きない。それでも、国のトップが感情を引きずってしまうのは、良いとは言えない。それを理解しているからこその、申し出なのも分かる。

 いくら国王の希望だからといって、ルークも簡単に受け入れるような人間ではない。チャールズからの任務を受ける際にも、より適切な方法があれば、臆することなく口にする。

(だが……)

「ちょうど、エリザベスがミアに会いたいとも言っていた。ミアも連れてくるように伝えてくれ」
「……承知した」

 チャールズの目は、強い決意を持っていた。幼馴染であるルークの記録魔術を見ることで、この五年の予知に区切りをつけようとしている。それほどにチャールズを混乱させた予知には違いない。ずっと気落ちが続く様子も、先王ジョージを見ているようで苦しくなる。ルークに断ってほしいと思いながら、ジョンは通信魔術を飛ばした。


 ☆


「…ミア、これから王都へ行くけど、ついて来れる?」
「うん、何の用?」
「たぶん、追加報告。僕に聞きたいことがあるみたい」

 ルークだけに聞きたいことなら、ミアはその場には居られない。一緒に行っても、別の場所で待機だ。

「書斎か図書室で待ってたらいい?」
「いや、エリザベスが会いたいって」
「分かった」

 久しぶりにエリザベスに会える。その嬉しさよりも、寂しさが勝ってしまった。

 魔術講師という特別任務が一年あったことで、どうしても忘れがちになる。この国を守ってきたのはチャールズ国王と、オッドアイ魔術師で魔術学校教授のジョン、それから王家所属騎士でありオッドアイ魔術師でもあるルークだ。その三人が、ミアもオッドアイ魔術師だからといって、何でも共有してくれるわけではない。

 ミアは学校にも行っていなかったし、昔からの仲間の輪に無理矢理入るほどの勇気もない。

 ルークの表情が、硬い。ふたりでゆっくりする暇ももうなく、次の任務があるのかもしれない。エリザベスと話すことで、少し落ち着けるだろうか。冷静にならなければ、ルークが話してくれることもない。

 眼帯を外した状態で王宮に向かうのは初めてだ。衛兵や使用人たちにどう見られるのか、そんな心配をしていたのはミアだけだった。気が回らないほど、ルークには何か重たい話が待っているのかもしれない。


 ☆


 ミアと普段どおりジョンの書斎に転移したルークは、その場で驚いているオルディスには目もくれず、足早にミアをエリザベスの執務室へ送ってから、チャールズの執務室へ向かった。この部屋に入るのはエスト王国への任務前が最後で、ほんの一瞬、懐かしくも感じた。

「お待たせしました」
「いや、急に呼び出してすまない」

 ルークが入ってすぐ、眼帯をしたジョンが結界を張り直す。もともとレッドの目を見せているジョンが、オッドアイであることは国民向けには報道されなかったし、一般の国民にはオッドアイは恐怖の対象となるため、分からないままのほうがいいこともある。当然、チャールズの護衛や使用人の一部は別で、オッドアイ魔術師としてルークやジョンがチャールズの執務室に出入りすることは、やりやすくなるはずだ。

 一度目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をする。目線を上げた先には、起立して待つチャールズがいた。

「…本当に、見るんですね」
「ああ、見てもいいならな」

 改めて、確認される。チャールズの目は、本気だ。ジョンは、どちらとも言えない表情をしている。国王が、見たいと言っているのだ。断ることは難しい。

 ルーク自身、はっきりと覚えているわけではなく、ミアと交わるなかで思い出したこともあるし、当然、第三者と見たいものでもない。

 ジョンの書斎で管理下にある、同じ場面に居合わせたオルディスの記録魔術のほうが、魔力暴走の様子はよく分かるかもしれない。オルディスに魔力暴走を起こされたとき、ルークは目隠しをさせられていたから、記録魔術を掛けても音声しかなく、ルークが何をされているのか、明確には伝わらない。

 チャールズとジョンに、応接スペースに深く腰掛けてもらう。それぞれに紅茶も用意し、対面にルークも座った。できる限り淡々と、記録魔術を見せながら話した。


 ☆


「…ルーク、ありがとう。体調はどうだ」
「思っていたほど、変化はありません」

 チャールズから見ても、ルークは何ともなさそうだった。どちらかと言えば、同じ魔術師で、魔力が混ざる意味が分かるジョンのほうが、よっぽど具合が悪そうだ。

「お言葉ですが」
「なんだ」
「オルディスの記録魔術まで見ようとはしないでください。僕の尊厳に関わります」
「分かった、約束しよう」

 もうとっくに、精一杯だった。ルークの解説付きで聞いた記録魔術によれば、ルークの目の前に居たのがオルディスだ。

 確かに、そのときのルークの状況は、オルディス視点の記録魔術で見られるが、見たいとは思えなかった。国王として、夢で見た内容に親友が耐えたことを受け入れようとしたが、結局できなかった。

 特別任務だからと、割り切ってくれたルーク、それから番で妻のミアを、尊敬するほかない。むしろ、どうやってもその苦しみを共有することは叶わないし、チャールズが諦めるタイミングなのかもしれない。
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