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後日譚:エピローグにかえて
15.王子を祝う会 前
しおりを挟むジェームズ王子が三歳になり、それを祝う夜会が開かれるそうだ。三歳になってからはもうしばらく経っているはずだが、王家の都合はいろいろと面倒だ。ルークとミアは、ウィンダム公爵夫妻として招待を受けた。
ふたりが住む屋敷には、ひさびさエリザベスから王家の印の入った封筒が届き、その中の手紙に《領地を持たない宮廷貴族としての唯一の責務》とまで書かれてしまえば、逃げる道はない。
主役のジェームズは、国王夫妻と共に会の初めの挨拶には出席するものの、その後すぐに乳母に連れられ部屋に戻るらしい。つまりは、ジェームズの誕生日会の名目で、貴族を集めて交流させようという、チャールズとエリザベスの思惑が見えた。
旧エスト王国の一件が落ち着きオッドアイの会合も終わって、ふたりにもぜひ出席してほしかったというエリザベスがタイミングを図っていたと、ミアが本人から聞いていた。
ルークは「その気遣いは要らない」とチャールズに直接伝えたが、「妻の気持ちも汲んでやってくれ」と言われ、何も返せなかった。妻を放置して仕事に没頭してしまうのは、チャールズもルークも同じだ。
ジェームズが参加することもあって、以前参加したものと同じく、昼間にやる夜会だ。茶会より派手で、騎士や魔術師の制服での参加は認められない特例の会である。
前回のドレスが着れるため、年数も経っていてデザインが重なることもないだろうし、エリザベスから譲り受けたものもある。そのどれかから選べばいいと、ルークはミアと話していたが、ふたりとも嫌な予感はしていた。あえて、国王夫妻にはその件について話を振らなかったが、予感は的中した。
夜会当日、一応の衣装を持ってルークの執務室へ転移したふたりは、執務室に用意された礼服を見ることになった。二回目の結婚式のとき、仕立て屋から言われていたことだ。エリザベスの手配に違いなく、しかも、出席を許可されたオルディスがすでに、礼服姿で待っていた。
「オレが着付けるわけはないよ? ふたりとも魔術で着れるし」
「それは分かっているが…」
「他に、何か?」
もうセントレ王国に馴染みすぎて、オルディスが元王子だったことを忘れがちになる。きっと、こういった会には出慣れているのだろう。礼服姿でも、普段と変わらない動きを見せている。
礼服やドレスに慣れていないルークとミアは、こういう装いだと普段と変わらない動きをすることが難しくなり、動きがやや硬く不自然になってしまう。
「さすが元王族か」
「ええと、夜会の経験は?」
「今日で二回目」
「ああ、なるほど」
元から貴族だったが、貴族らしい生活をしていなかったことは、オルディスにも話した。だから、察しがついたのだろう。
とりあえず着替えるようにオルディスに指示され、ミアは部屋の奥へと消え、結界が張られた気配がした。ルークはその場で着替え、オルディスからかなり注文を入れられた。何せ、ルークはアクセサリーの類にも興味がない。オルディスが「あって助かった」と言いながら、ルークの礼服に勝手に着けていく。
「それはどこで手に入れたんだ?」
「王妃様がくださった」
「オルディス用じゃないな?」
「オレから言えることは何もないよ」
オルディスには魔力制限のバックルがあるし宣誓魔術もある以上、市場に軽々と遊びに行くことは許可されていない。自分で好みの物を買いに行くことはできない。
だから、この夜会に出席することを許可した王家として、ルークやミアが慣れていないことも考慮して、エリザベスがオルディスへの情けを掛けたのだろう。オルディス自身は、特別気にしている様子もないが。
手首のバックルを外すことはあり得ないため、上手く隠しているのだろう。オルディスはセントレ王国内で顔が知られていない人工オッドアイで、遠目から見れば両目ともがレッドのただの魔術師だ。皆には誰なのか、すぐには分からない。
オルディスは表向き、ルークの護衛として、ホール内へ入ることになっている。騎士、しかもオッドアイ魔術師と公表されたルークに護衛とは、とチャールズに確認したくなったが、とにかくオルディスが参加することに意味があるらしい。思い当たる節が、ないわけではない。
☆
「…ルーク」
「ん、いいよ、入っておいで」
執務室の奥の小部屋に結界を張って、ひとりで着替えていたミアが戻ってくる。おそらく見立てたのはエリザベスだろう。オルディスも何気なく褒めるのだが、執務室の空気が冷えるのを感じた。ルークの不機嫌を誘ってしまったのだ。ミアが苦笑しているから、ルークも目つきは鋭いもののそれ以上、特別言葉にすることもなかった。
「それを、着けていくんだね」
「うん、せっかくだから」
その会話だけで、オルディスにはピンと来てしまった。貴族同士の婚姻であれば、結婚式の際に宝飾具を用意するのは当然で、基本的には一度きりでただの飾りとなるものだ。
でも、このふたりに貴族の常識は通用しない。滅多に出ない夜会に、その時使った宝飾具をまた身に着けたいとミアに思わせる、緻密な装飾が施されているのも確認できた。
ルークの執務室に、オルディス宛てに小包が届いた時はどうしようかと、正直オルディスは慌てた。その荷物には、王家の印が入っていて、どうやっても無視できないものだったからだ。
普通、オルディスに用があっても宛名はルークかジョンだ。わざわざオルディス宛てに届いた意味を考えると、開封するのにも戸惑い、手が震えた。
意を決して開けてみれば、男性用のタキシードが二着とアクセサリーも二人分、入っていた。同封されていて、恐る恐る開いた手紙は未だ対面したことのない王妃エリザベスからだった。タキシードが一着はルークの採寸のもの、もう一着はオルディス用で、魔術で上手く合わせて着てほしいと書かれていた。
さらに、貴族社会に慣れていないルークとミアを、その経験で支えて欲しいと結ばれていた。何か裏があるのは分かるが、セントレ王国のトップに直接問うことなどオルディスにはできない。その手紙のとおりに、動くだけだ。
今は亡きエスト王国の元王子がセントレ王国で制裁を受けていることは、一般向けにも報道された。それはオルディス自身も新聞を読んで知っている。
実際のところ、オルディスは制限を受けているようには感じていなかった。魔力の最大出力を制限するバックルを常に身に着けることと、オルディスに不利な宣誓魔術は掛けられているものの、魔術の勉強はエストにいるときよりもしっかりとさせてもらえるし、書物も好きに読める。
ルークやジョン、チャールズから頼まれごとをされない限り、自由に暮らせているというのがオルディスの感想だった。
それでも、オルディスは、ルークに確認したくなる。今日の建前は、明らかに不自然なものだ。
貴族に護衛が必要だというのは理解できるが、騎士であり魔術師であるルークに、護衛は要らない。ルークとミアを支える以外の目的を、把握しておきたかった。
ルークの執務室から夜会の会場である王宮のホールまで、三人で進む。ミアがルークに手を掛けて歩くため、オルディスはルークの隣を選ぶ。本来、オルディスの育ったエスト王国と同じであれば、令嬢を守るように挟むが、ルークはミアと近いほうにオルディスが立つことを嫌う。
(ジョンだと、平気そうなんだよな…)
「…オレは、この夜会に必要なの?」
「護衛という意味では要らない。他の意図がある」
「何?」
やっぱり、ルークには知らされている。それをオルディスに話してくれるかどうかは、ルーク次第だ。
「チャールズに直接聞いたわけじゃないけど、セントレ王国の貴族がオッドアイに対してどんな反応をするのか、見ておいてもいいんじゃないか」
「ルークも聞いてないの?」
「聞いてない。いくつか思い当たる理由はあって、それがひとつ」
「ふうん」
オルディスには想像が付かなかった。エスト王国の王宮にいたときは、どんな魔術師でもオッドアイを尊敬していて、崇拝されていたと言ってもいい。
そういうことではないのが、ルークとミアの硬い表情から分かった。とても、これから王子の誕生日を祝う夜会に出席するとは思えない。だから、ふたりとも目を隠すために、前髪を伸ばしていたのかもしれない。
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