とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

文字の大きさ
96 / 103
後日譚:エピローグにかえて

15.王子を祝う会 前

しおりを挟む

 ジェームズ王子が三歳になり、それを祝う夜会が開かれるそうだ。三歳になってからはもうしばらく経っているはずだが、王家の都合はいろいろと面倒だ。ルークとミアは、ウィンダム公爵夫妻として招待を受けた。

 ふたりが住む屋敷には、ひさびさエリザベスから王家の印の入った封筒が届き、その中の手紙に《領地を持たない宮廷貴族としての唯一の責務》とまで書かれてしまえば、逃げる道はない。

 主役のジェームズは、国王夫妻と共に会の初めの挨拶には出席するものの、その後すぐに乳母に連れられ部屋に戻るらしい。つまりは、ジェームズの誕生日会の名目で、貴族を集めて交流させようという、チャールズとエリザベスの思惑が見えた。


 旧エスト王国の一件が落ち着きオッドアイの会合も終わって、ふたりにもぜひ出席してほしかったというエリザベスがタイミングを図っていたと、ミアが本人から聞いていた。

 ルークは「その気遣いは要らない」とチャールズに直接伝えたが、「妻の気持ちも汲んでやってくれ」と言われ、何も返せなかった。妻を放置して仕事に没頭してしまうのは、チャールズもルークも同じだ。

 ジェームズが参加することもあって、以前参加したものと同じく、昼間にやる夜会だ。茶会より派手で、騎士や魔術師の制服での参加は認められない特例の会である。

 前回のドレスが着れるため、年数も経っていてデザインが重なることもないだろうし、エリザベスから譲り受けたものもある。そのどれかから選べばいいと、ルークはミアと話していたが、ふたりとも嫌な予感はしていた。あえて、国王夫妻にはその件について話を振らなかったが、予感は的中した。

 夜会当日、一応の衣装を持ってルークの執務室へ転移したふたりは、執務室に用意された礼服を見ることになった。二回目の結婚式のとき、仕立て屋から言われていたことだ。エリザベスの手配に違いなく、しかも、出席を許可されたオルディスがすでに、礼服姿で待っていた。

「オレが着付けるわけはないよ? ふたりとも魔術で着れるし」
「それは分かっているが…」
「他に、何か?」

 もうセントレ王国に馴染みすぎて、オルディスが元王子だったことを忘れがちになる。きっと、こういった会には出慣れているのだろう。礼服姿でも、普段と変わらない動きを見せている。

 礼服やドレスに慣れていないルークとミアは、こういう装いだと普段と変わらない動きをすることが難しくなり、動きがやや硬く不自然になってしまう。

「さすが元王族か」
「ええと、夜会の経験は?」
「今日で二回目」
「ああ、なるほど」

 元から貴族だったが、貴族らしい生活をしていなかったことは、オルディスにも話した。だから、察しがついたのだろう。

 とりあえず着替えるようにオルディスに指示され、ミアは部屋の奥へと消え、結界が張られた気配がした。ルークはその場で着替え、オルディスからかなり注文を入れられた。何せ、ルークはアクセサリーの類にも興味がない。オルディスが「あって助かった」と言いながら、ルークの礼服に勝手に着けていく。

「それはどこで手に入れたんだ?」
「王妃様がくださった」
「オルディス用じゃないな?」
「オレから言えることは何もないよ」

 オルディスには魔力制限のバックルがあるし宣誓魔術もある以上、市場に軽々と遊びに行くことは許可されていない。自分で好みの物を買いに行くことはできない。

 だから、この夜会に出席することを許可した王家として、ルークやミアが慣れていないことも考慮して、エリザベスがオルディスへの情けを掛けたのだろう。オルディス自身は、特別気にしている様子もないが。

 手首のバックルを外すことはあり得ないため、上手く隠しているのだろう。オルディスはセントレ王国内で顔が知られていない人工オッドアイで、遠目から見れば両目ともがレッドのただの魔術師だ。皆には誰なのか、すぐには分からない。

 オルディスは表向き、ルークの護衛として、ホール内へ入ることになっている。騎士、しかもオッドアイ魔術師と公表されたルークに護衛とは、とチャールズに確認したくなったが、とにかくオルディスが参加することに意味があるらしい。思い当たる節が、ないわけではない。


 ☆


「…ルーク」
「ん、いいよ、入っておいで」

 執務室の奥の小部屋に結界を張って、ひとりで着替えていたミアが戻ってくる。おそらく見立てたのはエリザベスだろう。オルディスも何気なく褒めるのだが、執務室の空気が冷えるのを感じた。ルークの不機嫌を誘ってしまったのだ。ミアが苦笑しているから、ルークも目つきは鋭いもののそれ以上、特別言葉にすることもなかった。

「それを、着けていくんだね」
「うん、せっかくだから」

 その会話だけで、オルディスにはピンと来てしまった。貴族同士の婚姻であれば、結婚式の際に宝飾具を用意するのは当然で、基本的には一度きりでただの飾りとなるものだ。

 でも、このふたりに貴族の常識は通用しない。滅多に出ない夜会に、その時使った宝飾具をまた身に着けたいとミアに思わせる、緻密な装飾が施されているのも確認できた。

 ルークの執務室に、オルディス宛てに小包が届いた時はどうしようかと、正直オルディスは慌てた。その荷物には、王家の印が入っていて、どうやっても無視できないものだったからだ。

 普通、オルディスに用があっても宛名はルークかジョンだ。わざわざオルディス宛てに届いた意味を考えると、開封するのにも戸惑い、手が震えた。

 意を決して開けてみれば、男性用のタキシードが二着とアクセサリーも二人分、入っていた。同封されていて、恐る恐る開いた手紙は未だ対面したことのない王妃エリザベスからだった。タキシードが一着はルークの採寸のもの、もう一着はオルディス用で、魔術で上手く合わせて着てほしいと書かれていた。

 さらに、貴族社会に慣れていないルークとミアを、その経験で支えて欲しいと結ばれていた。何か裏があるのは分かるが、セントレ王国のトップに直接問うことなどオルディスにはできない。その手紙のとおりに、動くだけだ。


 今は亡きエスト王国の元王子がセントレ王国で制裁を受けていることは、一般向けにも報道された。それはオルディス自身も新聞を読んで知っている。

 実際のところ、オルディスは制限を受けているようには感じていなかった。魔力の最大出力を制限するバックルを常に身に着けることと、オルディスに不利な宣誓魔術は掛けられているものの、魔術の勉強はエストにいるときよりもしっかりとさせてもらえるし、書物も好きに読める。

 ルークやジョン、チャールズから頼まれごとをされない限り、自由に暮らせているというのがオルディスの感想だった。

 それでも、オルディスは、ルークに確認したくなる。今日の建前は、明らかに不自然なものだ。

 貴族に護衛が必要だというのは理解できるが、騎士であり魔術師であるルークに、護衛は要らない。ルークとミアを支える以外の目的を、把握しておきたかった。

 ルークの執務室から夜会の会場である王宮のホールまで、三人で進む。ミアがルークに手を掛けて歩くため、オルディスはルークの隣を選ぶ。本来、オルディスの育ったエスト王国と同じであれば、令嬢を守るように挟むが、ルークはミアと近いほうにオルディスが立つことを嫌う。

(ジョンだと、平気そうなんだよな…)

「…オレは、この夜会に必要なの?」
「護衛という意味では要らない。他の意図がある」
「何?」

 やっぱり、ルークには知らされている。それをオルディスに話してくれるかどうかは、ルーク次第だ。

「チャールズに直接聞いたわけじゃないけど、セントレ王国の貴族がオッドアイに対してどんな反応をするのか、見ておいてもいいんじゃないか」
「ルークも聞いてないの?」
「聞いてない。いくつか思い当たる理由はあって、それがひとつ」
「ふうん」

 オルディスには想像が付かなかった。エスト王国の王宮にいたときは、どんな魔術師でもオッドアイを尊敬していて、崇拝されていたと言ってもいい。

 そういうことではないのが、ルークとミアの硬い表情から分かった。とても、これから王子の誕生日を祝う夜会に出席するとは思えない。だから、ふたりとも目を隠すために、前髪を伸ばしていたのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果

景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。 ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。 「俺……ステラと離れたくない」 そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。 「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」 そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。 それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。 勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。 戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──? 誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...