とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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後日譚:エピローグにかえて

14.オッドアイの会合 後

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 ルークとオルディスの報告が終わったあと、他に報告をする者は現れず、正式な学会めいた雰囲気は消えた。セントレ王国の紅茶と焼菓子が振る舞われ、皆口々に世間話をする、茶会のような楽し気なものへと変化した。

 ルークはミアとふたりでいたが、せっかくだからと女性のオッドアイがミアを誘ってくれ、送り出した。遠目で見ていてもミアの表情は柔らかく、ほっとした。こういった場所に、ミアはまだひとりで行ったことがない。ここまで心配性だと親のようで、呆れるしかない。

 ひとりで周囲を見回し、どのグループへ声を掛けようかと迷うルークに、「やっと話しかけられる!」と口に出しながら近づいたのはオルディスだ。

「僕にはいつでも話せるだろう」
「ルークの記憶魔術にあった、マントの人、見たことがある」

 今日出した記録魔術のうち、マントを着ていたのは東の魔術師の一団だけだ。そういえば、あのときのオルディスは驚いたような反応をしていた。何か、ルークに伝えておいたほうがいいことでも思い出したのだろうか。

「…場所を変えたい」
「オレもそう思う」

 オルディスとふたりで、少し抜けてもいいだろうか。セントレ王国は今回の会合の主催国だから、ジョンもミアも輪の中心となって話している。オルディスが先に話を通していたのだろうか、視線に気付いたジョンが頷いてくれた。オルディスを連れ、ホールから廊下へ出た。

「ここなら大丈夫だろう。念のため、結界を張る」
「ん、賛成」

 オッドアイしかいないため、この結界も誰が張ったものかが分かってしまうが、会合中だ。それぞれが自国の利益のために、結界を使った会話をしていてもおかしくはない。

「あの人の名前は知らない。でも、父親とよく話をしてた人だ。国王だし、直接話せる人は少なかったのに、あの人はできてた。エスト出身じゃないのはなんとなく分かってたけど、まさかセントレだとは思わなかった。しかもミアの父親だったとは」
「ミアの生家の話は、また聞きたければミアに許可を取るといい」
「ミアに近づけさせないくせにか?」
「なんだよ」
「いえ、なんでもありません」

 オルディスが両手を顔を横に上げ、無抵抗のアピールをしてくる。こういった絡まれ方は経験がなかったのに、悪意がないと分かると少し心地いい気すらするのが不思議だ。

「それでさっきの人、セントレの極東地域が自分の領地だから、攻めて攻撃意思を示したほうがいいって進言してた。魔術師の多いセントレなら、オッドアイももっといてもおかしくないって」
「領民が生活してても関係なかったんだな」
「エストではフードも取ってた。こんな人」

 オルディスが記憶魔術を出そうとするが、魔力が足りなかったのか一瞬しか映らなかった。ルークがバックルに手を当て魔力制限を緩めてやると、ルークに認識できる程度の記録がしっかりと映し出された。

「僕が見たのはあの攻撃のときだけで、雰囲気が過去の当主たちと似てるって思うくらいだった。ミアとは、似てないな」
「似てなくてよかったんじゃないの? ルークが制裁したんだろ?」
「まあ…」

 ウェルスリーの隠されていない明確な顔を、初めて見た。目はつり上がり、口角も何かを企んでいるようで、悪い人間にしか見えない。ミアはミアだし、ウェルスリーの顔が分かったところで何も変わらないが。

「あと、自分の手術のタイミングはいつになるのか、よく聞いてた」
「やっぱり、狙いはそれだったんだな」
「でも他国の人間だし、何かあって、例えば暴走することになって、自国に報告されるのはマズい。適当に理由をつけて、先延ばしにしてたよ」
「ああ…」
「間違ってはないね。そもそも人工オッドアイなんて作るなって話だけど」

 自虐的に話すオルディスに、何と言葉を返していいか分からなかった。何を言っても、オルディスの父親を詰ってしまう。オルディスが自分の父親を手に掛けたのは、もちろん国際会議の時点で、オルディスの記録魔術を見て知っている。

 ただ、それをどういう感情で行ったのかは聞いていなかった。ルークとは違って、父親を好いていたが仕方なくやったのかもしれない。もしくは、ルークと同じく、父親が嫌いで、長年の恨みとともにやっとの思いで攻撃したのか。あの日、手枷を嵌められたオルディスが目に涙を溜めていたのも、脳裏に過ぎる。

「父親も、エストから一番近いあの地域の領主が味方なのは有利でしかないし、優遇してたんだ。普通、外部から来た人間は、国王に謁見すらできなかった」
「それはセントレでも一緒だ」

 オルディスが、分かりやすく眉を上げた。何か、引っかかることを答えただろうか。

「オレは?」
「ああ、オルディスがチャールズに謁見できるのは、僕の権限だ」

(ああ、そういうことか)

 オルディスはセントレ王国にとって、外部から来た魔術師だ。しかも、敵国だった国からやってきて、制裁としてバックルによる魔力制限と宣誓魔術を受けている。

 オルディスには、セントレ王国以外に行く場所もない。ただ、セントレ王国で生きるための知識と教養をしっかり身に着ければ、かなり有能なことは分かっている。ある程度、教えてもいいだろう。

「王家付き騎士兼オッドアイ魔術師?」
「表向きにはそうだが、幼馴染なのが大きい」
「へえ、小さいころから王宮に出入りがあったんだ?」

 王家だったオルディスには、おそらく伝わっていない。小さいころから遊び相手だったことに違いはないが、普通の貴族の幼馴染とは関係が異なる。

「…僕の生まれは元から貴族だ。オッドアイだからチャールズと話してた」
「あんなに貴族の家名に疎いのに?」
「生まれは貴族だが、貴族として暮らしていたかは別だ」
「なるほど?」

 どうやら、オルディスの興味を惹いてしまったらしい。オルディスが情報の管理もできる男であることは分かっていた。宣誓魔術がある限り、どこかに漏らすこともない。

「…僕の父親は、王家の紋章入りの魔術道具を偽造して、今はもう制裁されて屋敷もない魔術師だ。昔、先代国王を脅して、一代爵位と一般の侯爵令嬢を褒賞にもらったらしい。僕の今の爵位はエストから帰ったときに貰ったものだ」
「は?」
「僕とふたりの兄は、それぞれ愛人の魔術師との間にできた異母兄弟。本当の母親とは面識がない」
「…はあ?」

 オルディスが戸惑っているのが面白い。悲劇のなかにいるのはオルディスだけだと、思っていたのだろうか。

「さっきも少し触れたけど、僕はこの瞳のせいで、兄弟に虐げられてた。全寮制の学校に行くようになってからは屋敷には帰っていなかったけど、結婚報告をしに来いと言われて、血縁のない母親にそれを聞いた」
「おい、こんなさらっと話していいのかよ」
「別に。僕は父親も兄も嫌いだ。もう関わることもないし、都合の悪いことが起きれば、それを抹消できるくらいには今の身分は何でもありだ」
「急にルークが怖くなってきた」

 そう言って両肩を抱きながら、オルディスは口角を意地悪く上げている。こんな話をする年の近い同性はいなかったため、オルディスのその反応は新鮮だった。

「まあ、珍しい家族だとは思うよ」
「そりゃあ…、オレも父親は嫌いだ。縁を切りたかったから清々してる」
「そう? バックルがあっても?」
「これがある今の方が自由だよ。しかも、オレが魔力を全力使えたところで、この国にはルークもミアもジョンもいる。オレの出番は来ない」
「そうかもな」

 ルークには、ジョンやチャールズ、アーサーがいたが、オルディスには人生の先輩、尊敬できる人物はいたのだろうか。オルディス個人について興味を持ち始めているが、まだオッドアイの会合は続いている。主催国として、ルークがホールから長時間離席することは避けるべきだろう。オルディスと話すのは、また今度にもできる。

「そろそろ戻るか」
「ひとつだけ!」

 オルディスが、ルークの腕を掴んで引き留めた。結界の中で話さないといけないことが、まだあったのか。

「言いにくかったらそれでもいいけど」
「なに」
「さっきの、魔の紋章を解放した話、もっと詳しく聞きたい。ルークとミアの個人的な話になるだろうし、無理にとは言わない。ただ、オレが二種類の魔力を持ったまま生きていられるのと、何か関係するんじゃないかって。紋章持ちは、二種類持ってるから三歳までしか生きられないんだろ?」

 ルークはすぐに返事をしなかった。少し、考えたのだ。

 ミアは、魔の紋章の魔力だけで成長し、今は紋章の魔力を自身の魔力として使っているはずだ。オルディスは、自分の魔力と姉の魔力、両方を持ったまま生きている。二種類の魔力が、ひとつの体内に留まっているのだ。子どものころに手術を受け、血縁の魔力だから生きていられると、オルディスは仮定していた。

「…確かに、考えてみるのも面白いかもな」
「本当?」
「ミアにも聞いてみる」
「やった!」

 どうしてオルディスがそんなにも嬉しそうなのか、ルークには理解できなかったが、特に気に掛けはしなかった。せっかく会合での報告を終え、研究や調査が一段落するかと思ったのに、またひとつ、考える事象が頭の片隅に置かれることになった。

(しかも、また再現例は出せないし…、何かあったときのために、残す意味があるのは分かるけど)

 目を細めたままホールへ足を進めようとして、オルディスに袖を引かれた。さすがは元王子、表情の切り替えが完璧で、凛としたよそ行きの顔に戻っていた。
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