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後日譚:エピローグにかえて
17.王子を祝う会 後
しおりを挟むミアも当然、貴族令嬢たちが遠くからルークを見ていることに気づいていた。ルークはカッコいい。ミアにとっての王子様は、皆にもそう見えるのだ。ミアが隣にいるから近づいてこないのだろうか。それとも、オッドアイだからだろうか。ルークの腕に掛ける手に、力が入ってしまう。
「ミア、どうかした?」
「…ううん、大丈夫」
令嬢がルークを見る色目も嫌だが、男女関係なく、貴族たちのルークへの視線を、ミアはずっと好きになれなかった。ジョンに慣れたほうがいいと言われたのも覚えているけど、今も昔もただ慣れることと諦めて受け入れることは別だ。
オッドアイ魔術師であることが公表されてから、国王の贔屓があることも、昇進が早かったことも全てに納得できる理由がついたらしく、王宮などでたまにすれ違う学生や衛兵からの視線はだいぶ変わった。このホールにいる女性たちも、この姿のルークを見て視線を向けている。それが、気に食わない。
誰も、ルークの内面を知らない。外面の、肩書だけで判断している。
ミアが初めての夜会で攻撃されたのも、肩書が謎だったからだ。ルークは、優しい人で、何も知らなかったミアに魔術だけじゃなく、いろんな作法も教えてくれて、守ってくれた人なのに。表に出す肩書が変わっただけで、こんなにも扱いが変わるとは。
貴族社会がこういうところだと言われれば、そうなのかもしれない。慣れるより、逃げ出したかった。ルークとふたりで屋敷にいるほうがずっと、心地良い。
エリザベスと目が合って、ミアの気持ちを読まれたのか、微笑みを返された。ミアはルークを信じ切っているし、ルークを慕う女性がいても、ミアとルークが番だし、同じオッドアイ魔術師だ。ミアには絶対に勝てない。
もちろん、ルークにはミア以外ありえないし、今も見向きすらしていないのが分かっているのに、ミアの心は複雑で騒めき続けている。
☆
「ルーク」
「お久しぶりです、エジャートン隊長」
騎士の制服姿のアーサーが、ホール全体の警備のために立っていた。ルークの騎士式の礼をし、一歩遅れたミアもカーテシーを行う。
「ルークの方が位は上だろう。顔を上げなさい。奥さんも」
そうは言いつつも、アーサー自身も言葉が変わっていない。この距離感で数年前まで一緒に仕事をしていた。今更変える必要もないと、互いに分かっている。
「瞳を、見せるようになったんだな」
「隠す必要がなくなったので」
まじまじと、年上の男性に瞳を覗き込まれることは少々気まずい。アーサーだから耐えるものの、顔をしかめてしまった。
「気を悪くしないで欲しい」
「すみません」
「いや、同性にじっくり見つめられるのは確かにいいものではないだろう。ルークには綺麗な奥さんもいるし」
アーサーがミアを見て、またすぐにルークに視線を戻す。
「そんな目をしていたんだな。怪我を隠すためだと聞いていたが」
「それは僕の師匠が流した噂です」
「ミッチェル教授か、そういう…。昔からずっと見えていたのか?」
「ええ、片目でも生活はできますが、両目の方が便利ですね」
「それはそうだろう」
アーサーが口角を上げたことに、ルークは眼を見開いた。アーサーの笑顔を見たことがなかったのだ。
そもそも、任務関連以外の話をしたことはあっただろうか。ルークは特別任務で忙しく、アーサーと同じ部隊に所属していても、雑談すらすることがなかった。
「私も同じ気持ちだ。そんなに柔らかくて余裕のある表情のルークを、見たことがない」
ミアと過ごすなかで、ルークが変わったことを感じ取っていたのは国王夫妻だけではなかった。アーサーにも、知られていた。
気恥ずかしくなり、会釈をしてアーサーから離れた。アーサーは任務でここにいるはずで、あまり長い時間ルークと私語をして、仕事の邪魔をするわけにもいかない。
少し離れたところから会話を聞いていたのだろう、オルディスが寄ってきた。
「今のは?」
「アーサー・エジャートン警備隊長。僕の元上司だよ」
この観察眼と記憶力に、王家も期待しているのだろう。それが、オルディスを夜会に参加させている理由だとしたら、ルークとミアは嫌でもホールを歩いて、様々な貴族と会話する必要がある。オルディスに、覚えてもらうためだ。
今度、オルディスとふたりで話す機会があれば、執事にでもなるかと、聞いてみてもいいだろうか。ルークは魔術に関連することなら覚えられるが、それ以外の事柄への興味は薄く、貴族の名前もほとんど覚えられないままだった。
この夜会の招待状にも書かれてあったように、宮廷貴族、公爵家として生活を送ることを考えなければならないのだろう。性に合う気はしないが、爵位を貰った以上は王家の顔を立てなければならない。
ルークがオルディスに、正当な役職を与えれば、オルディスは制裁なく生きることも可能だろう。オルディスに、セントレ王国への反国心はないのだから。
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