皐月 禅の混乱

垣崎 奏

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3-1.※(あんな声出るの、くっそ恥ずいな……)

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「ごめん、始まっちゃった」

 仕事中に鳴った私用携帯に驚きつつ、通知を開いた。連絡先を交換してはいたものの、使うことはほぼなかった。今日の仕事終わり、何も連絡がなければ、楓羽と会う予定だった。

「ご飯は行ける? しんどくない?」
「大丈夫」

 会えるなら、それでいい。楓羽と、近づけるなら。

 ピルを飲んでいるとは言っていた。それからネットで調べてみて、禅なりにその効果を理解した。言い出しにくかっただけで、時期が重なることは分かっていたのだろう。それに、始まったのなら、先週避妊具なしで行為に及んだことも、頭から追い出せる。

 会いたくなければ、体調を理由に断ることもできたはず。楓羽にとって禅は単なるセフレで、行為ができなければ意味がない関係なのだから。


 ◇


「今日さ…」
「うん、帰るよ?」
「ああ、やっぱり?」
「なに?」

 先週とは別の飲食店で食事をしたあと、駅までの道をゆっくり歩きながら話しかけた。体調が普通そうだから、希望を口に出してみる。

「オレの家、来ない?」
「抜きに?」
「まあ、そうなっちゃうよね…、しないなら声の心配もないし、割と、添い寝好きなんだけど」
「汚すかもよ?」
「それは別に」

 家で抜くのに、部屋を汚すほどのことは起きないと思った。ひとりでしても、そこまで飛ぶこともない。

「分かった、行く」
「え、いいの?」
「断って、次がなくなる方が嫌」
「来週は行くよ?」
「んー、でも行く。泊まり用の買い物、付き合って」
「ドリンクも買う。男の一人暮らしだし、好きなの買って。お菓子とか食べたいものも」
「分かった」


 ◇


 禅の部屋は、狭い。短期間で引っ越すことを見越しているのもあって、家具はベッドとサイドテーブル、テレビとテレビ台、数個のクッションしかなく、唯一、ベッドは転職を機にセミダブルに買い換えたが、それ以外はとてもふたりには狭い。

 何かを食べるときは、ベッドの縁に座ってサイドテーブルで食べている。ほぼ職場との往復で、家でやることと言えばサッカーの試合の配信や動画を見る程度だったから、これで問題がなかった。

「部屋、綺麗にしてるんだね」
「基本、仕事でいないし」
「ああ、そういう…」
「残業も減ったし、家で何かやるかも。狭いけど」

 買ってきたものをベッドに広げて、楓羽のものは楓羽に渡す。飲み物や菓子類は、サイドテーブルに置き直す。

 掃除がてら、禅が先にシャワーに入った。この後、ここを楓羽が使う。女の子を部屋に入れたのは数回あるけど、楓羽は特別だ。何せ、禅と行為ができる相手で、今日は生理でも誘えばついてきた。先週のホテルのように、また咥えてくれるのだろう。いつもより念入りに洗ったのは、当然だった。


 ◇


「お風呂、ありがとう」
「足りない物、なかった?」
「大丈夫」

 禅は、ベッドの縁に腰掛けて待っていた。顔を上げると、禅が貸したスウェットを着た楓羽がいた。禅は特別肩幅のある体格ではないものの、楓羽が着たときのダボつき具合が可愛かった。

 楓羽は目の前まで歩いてきたかと思えば、黒髪を耳に掛けながら禅の足の間にしゃがんだ。ふんわり香った髪の匂いが、禅のいつも使っているシャンプーで、すでに反応を始めていた自身がさらに熱を持つのは、避けられなかった。

「もう、勃ってるね?」
「思い出したらダメだった」
「ふふ、楽しみ」

 腰に触れられ、促されるように一度立って、すぐ座り直す。その間に、スウェットだけ下ろされた。

「シミできてる、お風呂入ったのに」
「どうせまた着替えるよ…っ」

 楓羽がシミにキスしたあと、ボクサーパンツを口で咥えて下ろした。驚く暇もなく、大きく上を向いた逸物の出口に、ちゅっと唇が触れる。

「うっ…」

 楓羽の手が、先走った液体を馴染ませるように沿って動く。そのゆっくりとした焦らすような動きに、腰が動いてしまいそうになるのを我慢する以外、禅にできることはない。

「震えてる。辛い?」

 楓羽の言葉に、黒髪を撫でて返した。さらさら艶めいた頭を両手で包んで、口を先端へ誘導すると、咥えてくれた。

「ふっ…」
「んー?」
「……呼んでない、漏れただけ」

(あんな声出るの、くっそ恥ずいな……)

 できれば、変な声は出さずにいたいけど、楓羽は煽るのが上手いし、興奮させるやり方も知っている。今日、ここに誘ったのは禅だ。諦めるしかない。

「きもちいい?」
「ん、すごく……」

 じゅぶじゅぶと唾液で濡らしながら、先端だけを口に出し入れしている。禅の逸物が大きく、それ以上奥へ咥えないのは楓羽なりの線引きなのだろう。慣れているのは、先週もされて分かっている。

「っ、それだめだ、ふーちゃん…」
「ん、これすき?」

 先端の形に合わせて舌や口壁が包んでいたのに、裏筋を袋の方から舐められる。好きな動きだと自白してしまい、楓羽がその動きばかりで攻めてくる。上目遣いで見せつけるように、手で支え舌を大きく出しながら、何度も付け根から先端へと顔が動く。

「ん、っ…、も、出るよ…!」

 そう訴えると、楓羽はまた先端を咥えた。空いた両手は裏筋と袋に這わされているだろうか。ゾクゾクと気持ちよすぎて、シーツを握りながら腰が揺れ、息が乱れ顔も歪んだ。

「っく…………」

 ぶるっと身体が震え、楓羽の口内に吐き出した。ゆっくりと楓羽の手にしごかれ、数回に分かれて出た濁液を、楓羽は零すことなく飲み込んだ。禅が息を整えながら渡したティッシュは、口周りと手を拭くのに使われただけだった。

 隣に座った楓羽の頬に、ありがとうの意を込めてキスをした。楓羽が、唇を向けてこなかったから。
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