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ここ数日、ヴィルヘルムと顔を合わせていない。あの夜以来、ヴィルヘルムは私室に戻らなくなった。体調不良が響いて、医務室で療養しているのかもしれない。夜伽係のベアトリスに、最新の情報は入ってこない。
顔を上げないように指示されているし、おそらくここにベアトリスがいると分からないほうがいいのだろう。添い寝をするときも眠りにつく前提があって、灯りは落とされていた。屋根裏から私室に降りてみるものの暗闇のまま、調度品に触れ、暗さに慣れた目で眺めてみる。
(王家の方だけどシンプルで、良い物が選ばれてる…、っ?)
ノックもなく急に扉が開いて、ベアトリスはその方向を見て固まってしまった。ばたんと音を立てて閉めた人が、近寄ってくる。家具や小物を見ていたのもあって、背中はすぐに壁に当たってしまう。
(ヴィルヘルム殿下じゃ、ない)
がさつな物言いをするヴィルヘルムだが、水差しなどを置くときにも音を立てない。その目や手はあたたかく優しかった。所作から、別人なのが分かる。
「……あの、こちらはヴィルヘルム殿下の私室ですが」
「暗がりとはいえ、俺とあいつの違いが分かるのか。大した夜伽係じゃないか」
「あの…、どちら様でしょう」
「君は夜伽係なんだろう? 俺と寝たって、構わないはずだ」
「っ……」
「それとも断って、ヴィルヘルムの立場をさらに悪くするか?」
(……殿下を気に掛けるのなら…、政敵の第二王子殿下?)
ヴィルヘルムに何があったのか、おそらくあの夜が関わっていることしか分からない。できる限り距離を取ろうとしていたベアトリスが、ヴィルヘルムのためにできることはひとつだ。ゆっくりと自ら、フリードリヒに近づく。
「物分かりのいい子だな、ヴィルヘルムが可愛がるわけだ」
簡単に持ち上げられ、ベッドに乗せられた反動で、後ろに倒れてしまう。フリードリヒが体重を掛けてきて、顔が寄る。顎に触れられ、ヴィルヘルムに大事にしろと言われた唇を、あっけなく奪われる。驚いている間に舌が入ってきて、よく分からないままに顔が離れる。
(そう、これが本来の夜伽係。こうなることを分かってここに来たじゃない)
「キス下手だね、ヴィルヘルムに躾けられてないの? じゃあ、これ舐めるのもしたことない?」
フリードリヒが自身の夜着を下ろし、まだ硬さを持たないそれを、ベアトリスの眼前に差し出してくる。首付近に跨られては、身動きすら取れない。
(これが、っ……)
「男性器、見るのも初めてなの? 虐めがいがあるね。咥えて、ほら早く」
フリードリヒは自身を支え、ベアトリスを待っている。恐る恐る小さく口を開いて、先端に舌を当てると、フリードリヒの親指がベアトリスの口を押し広げた。
「そんなんじゃ入んない。もっと開けて」
「んんっ!」
だんだんと太く大きくなったそれを、容赦なく喉へ突き立て腰を振るフリードリヒに、思わず太腿を掴んでしまう。
「へえ、そんなことできる立場なの?」
「うっ、ぐえっ…」
「出してあげるから、全部飲んでね」
「んぐっ…」
苦しさと苦さに戸惑っていても、フリードリヒが止まることはない。ベアトリスが起き上がらないのをいいことに、さっと口から引き抜いたフリードリヒは、ベアトリスの纏う薄い夜着をあっという間に取り払ってしまった。
「ずいぶんと貧相な胸だね。小振りだと敏感だって聞いたことあるけど、君はどう?」
「んっ」
フリードリヒが満足しているのかどうかも、ベアトリスには分からなかった。それでも王家に対して、夜伽係としての役目は果たしている。これが、正しい。むしろ、ヴィルヘルムと添い寝するだけだった半年が異常だったのだ。
大きくて冷たい手が素肌を這う。いくら覚悟を決めていても、恐怖でぞくぞくと鳥肌が立つ。ヴィルヘルムに触れられたときには、あたたかくて、くすぐったかったのに。
「ねえ、気持ちいい? 声、我慢しなくていいんだよ?」
(出せる声なんて、ないけれど…)
行為が初めてのベアトリスがフリードリヒについていけるわけもなく、身分的に抵抗もできず、成すがままに足を開かれた。宛がわれたと思ったのは一瞬で、すぐに痛みで身体が引き裂かれた。
「っ、っ……!」
「へえ…」
ベアトリスが潤んだ目を開けると、フリードリヒがすぐに寄り、また唇を奪われた。その顔には残忍な笑みが浮かんでいる。
「濡れてないし狭そうだとは思ったけど、ほんとにこっちも初めてだったんだ? ヴィルヘルムも弱いなあ、さっさと貫いておけばよかったのにさ。元貴族だし、わざわざ屋根裏に隠して、大事にしてたんだろうね。弱みが見えて動きやすくなった。ありがとう、ベア」
(そう呼んでいたのは家族だけ…、もう私には、何も残ってない)
無理な抽送を続けられ、フリードリヒの言葉も降ってくる。フリードリヒの頭は肩や胸を行き来して、もう、どこが痛いのかもよく分からない。
ベアトリスにできるのは、目を閉じて、とにかく早く終わるのを願うこと。脳裏に浮かぶのは、目の前にいるフリードリヒと同じ、金髪で青い瞳を持つヴィルヘルムだが、降ってくる言葉がヴィルヘルムの面影を振り解いてしまう。
「ねえ、俺に奪われて、どんな気持ち? ヴィルヘルムがよかった? 無理矢理で痛いだろう?」
「……私は、夜伽係なので…、どなたでも、構いません」
「そう、賢いね。今この状況で言える、最善だね」
「んっ…」
(大丈夫、まだ会話はできる…)
無事に応えられたと安心する間もなく、フリードリヒがベアトリスの足を持ち上げ、さらに腰を激しく振り始める。
こんな無理矢理な行為でも、男性側は快感を得られるからこその、夜伽係だ。身分の低い、発言権のない女性が選ばれるわけである。
「は、奥もまだまだ狭いな、すぐ出せそうだよ」
「ん…」
「君が孕めば、ヴィルヘルムをもっと政務から追い出せる。婚前の妊娠なんて、非常識だしね?」
「うっ…」
「夜伽係はあくまで性欲の発散とやり方を学ぶだけ、普通は身分差があるから、もし孕むようなことがあれば暇を出されるし、その事実は隠蔽される」
ベアトリスの足の位置を変えながら、フリードリヒが話し続ける。
「ただ、君は元とはいえ貴族、しかも侯爵家だった。きちんと使用人より下に見えるように振る舞ってたそうだけど、その血は脈々と高貴なものが流れてる。身籠った子は、ガリンド王家とフレータ侯爵家の血を引く、血統的に高貴な子だ。簡単に追い出せるような立場にいないのは分かるだろう?」
ソレール子爵家の一人娘、ベアトリスの従姉であるロベルタと婚約しているフリードリヒからの言葉は、現実味を帯びていた。フリードリヒがロベルタと子を成しても、その身分差から子が軽視される。恋愛結婚で子を望んでも、身分に阻まれ苦労するのが見えていると、理解できてしまった。
ヴィルヘルムがベアトリスを抱こうとしなかったのも、それを危惧していたからかもしれない。もし子が宿ってしまえば、ベアトリスの立ち位置は今以上に複雑になる。ヴィルヘルムが、帰る家のないベアトリスを少しでも長く、この私室で暮らせるように気遣ってくれたとしたら。
(家がなくなった時点で、その先なんて何もなかったのよ。何も期待なんて…)
勝手に動いていたフリードリヒの、腰が止まった。その付け根はぴったりと、ベアトリスに密着したままだ。
「ベアには教えてあげる。ロベルタは俺ともう何度もヤってるんだ。避妊をして楽しんでる。俺のためならなんでもしてくれる、本当に素直で、分かりやすいいい子だよ。じゃあね」
引き抜かれた蜜壷からはどろっと何かが溢れ、フリードリヒの子種を中に受けたことを悟った。フリードリヒが出て行ったあと、放置されたベアトリスが重い身体を持ち上げ出してきたのは、ヴィルヘルムが用意してくれた刺繍道具だ。
(どうせなら、何も考えられないくらい、壊してほしかった)
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