叶わないふたりが恋をする

垣崎 奏

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 王宮の中で、全国民の子として、大事に育てられた自覚はある。実の娘に対して、何度も頭を下げて、謝る国王の姿も見てしまった。

 一人娘であるフローレンスは、自治権を守るために、敵国へ嫁ぐ。

 相手には会ったこともないし、ただ見せしめのために望まれただけだ。フローレンスが思い描いた婚姻ではないことも、諦めがついている。覚悟を決めていたとしても、戦争終結の条件として、敵国へ向かうことになった十五歳の王女は、その初日に衝撃を受けた。


 自国の馬車を降り、国境まで迎えに来ていた馬車に乗り換える。御者に「父上に、よろしく伝えて」と言うと、涙を押し殺したような、唇を噛んだ状態で頭を下げられた。

 フローレンスが近づいた敵国の従者には、挨拶もなく手を掴まれ、声を出す間もなく手枷をはめられた。

「っ…、私は非武装です」
「国王様からの命ですので」

 馴染みの侍女を連れることもできず、手枷を掛けてきた従者とふたり、迎えの馬車に乗った。護衛は前後についているが、そこまで大層なものではない。フローレンスも従者も口を開くことなく、ただ揺られて運ばれるだけだった。


 ◇


 降り立った地で着替えることも許されないまま、同じ従者に大広間へ案内され、入るように言われた。そこには、国王・王妃とその王子たちだと思われる人がいた。王子は、四人もいるのか。フローレンスは、何も知らないままに敵国に入ってきた。決してフローレンスが怠ったわけではなく、敵国がそういう国なのだ。

 さっと確認した後、手枷があるためカーテシーはできないが、膝を折り頭を下げ、抵抗の意志がないことを伝えた。

(ひとりだけ、髪と瞳の色が違った。おそらく、母上が異なるのね…。他の三人とは立たれている場所も離れていらっしゃるし)

 フローレンスの脳裏に残ったその王子は、白銀髪に青い瞳。服装こそどの王子も同じではあるが、他の王家が皆茶髪系に茶色の瞳で、余計に異色に見えた。

 おそらく王子のうちのひとりが、近づいてくるのが靴音で分かる。

「顔を上げろ」

 従った目線の先に居たのは、良い意味で特徴のない、茶髪で茶色い瞳の男性だ。フローレンスよりだいぶ年上に見える。

「私がロリーガス王国王太子、お前の夫となるアーネストだ。弟のイライジャとウィズダムとも、仲良くしてくれると嬉しい」
「…フローレンスと申します。よろしくお願いいたします」

 知っているはずなのに、あちらから名前や祖国を呼ばれることはなかった。今までの社交で出会った男性は、皆名前を呼び手を取ってくれた。悲しみゆえ、最低限の言葉で返し、手枷のまま、もう一度頭を垂れる。

(悲しんだって、何も変わらないの…。名字はもう、捨てたのだから)

 フローレンスは、自分の感情を殺し、王太子の違和感を考えた。アーネストは、イライジャとウィズダムという弟を紹介したが、その名前に反応したのは茶髪の男性二人だった。白銀髪の彼は、身動きひとつしなかった。

(あの方も、王子ではあるのよね…? この場にいるのだから)


 ◇


 大広間を出て、婚約者である王太子アーネストとふたり、私室へ歩いた。アーネストは手枷を外すと、王太子付きの侍女にこの場を任せてしまった。フローレンスは、初めて対面した侍女と部屋に残された。

 この流れは打ち合わせ済みだったようで、侍女たちは「失礼いたします」と、フローレンスに触れ、着替えさせ始めた。その際、コルセットを外され、さらに全裸にさせられ、足の間の大切なところには見慣れないものをつけられた。

「これは?」
「貞操帯です。間違いが起こらぬよう、王太子妃には身につけていただいております。取り外しのための鍵を持つのは王子のみでございます」

(間違いが、起こるような治安なの…? 戦後で、混乱しているとは言え、このロリーガス王国は勝ったのに? 私が狙われて、守ってもらえないほど? 式はまだ行っていないけど、王太子妃と呼ばれるの? 鍵は王太子だけではなく、王子みんなが持っているの? 外してもらえなければ、お花摘みには行けないの?)

 たくさんの混乱の後、侍女の言葉をとりあえず頭の中で復唱した。その言い振りだと、歴代の王太子妃もつけていたとも取れる。ドレスを着せられはしたが、コルセットで締め上げることもなかったため、伝統や習慣と見るべきだろう。

 閉鎖国家であるロリーガスは、内情がほとんど外に出回らなかった。奇襲攻撃を受けた際も、フローレンスの母国セイントーヌは軍も大きく、花のように愛でた王女が終戦条件になるとは、誰も思っていなかった。

(常識は、通用しないと思った方がいいわね…)


 ◇


 同じように着飾って戻ってきたアーネストのエスコートで、貴族たちのパーティーへ連れ出される。王太子妃として、フローレンスのお披露目をするらしい。フローレンスはこの国に来たところだというのに、その日にパーティーがあるなんて、やはり常識がここでは異なる。

「ここに座って待て」
「かしこまりました」

 ここは明らかに、広間ではない。ダンスをするような広さはない部屋で、灯りは遠く薄暗い。

 アーネストに示されたイスは、腰掛けるには浅すぎるし、肘掛けは少し高く、背もたれは少し後ろに傾いている。その形が何のためなのか、フローレンスには予想もできなかった。そもそも、侍女が貞操帯と呼んでいた、コルセットに似た硬さの物が邪魔で、座りにくかった。

「…フローレンス」
「はい、殿下」

(やっと、名前を…!)

 少し嬉しく思ったフローレンスだが、すぐに絶望へと変わる。

「…そのまま、じっとしていろ」

 その冷たい声に、フローレンスは凍りついた。

 アーネストが近づき、フローレンスの手首を肘掛けに、足首もイスの脚に括りつけてしまう。イスの脚にしては開いているが、これではフローレンスの足も広げられた状態で、とても王太子妃がしていい体勢ではない。

「で、でんん」

 フローレンスが質問しようと口を開けたところに、何かを押し込まれ、舌が動かせない。

「んんー!」
「黙れ」

 最後に、アーネストは額に口を寄せると、フローレンスの目を隠した。もともと暗く見えにくかったが、完全に何も見えなくなる。

「この国の王太子妃になれるのだから、これくらい耐えて見せろ」

 フローレンスには、アーネストが離れていくのが靴音で分かった。国のほぼトップである王太子がこれをするのだ。他に助けを求めても無駄なのだろう。

(何っ…、何が起こるの)

 身体の自由を奪われ恐怖で身体が震えるが、セイントーヌからやってきた王女だという誇りが、フローレンスをまだ保とうとしていた。

 カツカツと靴音を響かせながら、複数の男性の声が近づいてくる。三人、いや四人は、いるだろうか。

「おい、見ろよ」
「これが、アーネストの?」
「さすが、誇り高きセイントーヌの元王女」
「こんな艶肌見たことないね」
「胸もいい張りしてそう」

「貞操帯は外せないが、他は好きにしていい」
「お前……、鬼畜だなあ」
「敗戦国の元王女だからな、その身で貢献してもらうだけだ」

 アーネストの声も聞こえたが、フローレンスには、理解できない会話だった。

「っ…!!」

 二の腕に、つうっと指が這わされたのか、びっくりして身体が跳ねた。

「ふはっ、いい感度」
「開発してやってくれ。オレがやりやすいようにな」
「了解した」

「吐き出すのは腹の上でも背中でも。手と関節を使えば十分だろ」
「絶対気持ちいいに決まってる、こんなの」
「お前もう勃ってんのかよ」
「見てるだけでやばいのは、お前らも一緒だろ?」
「オレは挨拶回りが終われば戻る。頼んだぞ」
「承知した」

 ドアが閉まる音がする。フローレンスに理解できたのは、アーネストが出ていったことだけだ。

(パーティーの場だから、貴族のお友達だと思うけど、王太子アーネスト様に対して、随分と言葉が崩れていた…)

 フローレンスがそんなことを考えていられる余裕は、すぐになくなった。ビリビリと割ける音がして、ドレスを一気に剥ぎ取られる。驚いている間に、顔や腹、それから足に、男たちの手が触れる。気持ち悪さに身体を捻るも、何も改善しない。

「んんっ!」
「元気だね…」
「やりがいがあっていいよ、反応がないよりは」
「確かに」
「んっ、んー!」

 何のために何をされているのか、処女であるフローレンスにはまだ分かっていなかった。

 王家で夜伽教育を受けた時、その行為は夫とふたりきりだと習った。拘束された状態で複数から攻められるなど、想定になかったのだ。

「んっ」
「あ、やっぱここ感じる?」
「耳弱いんだね」
「ん、んんっ」

(なに、なんなの…?)

 生暖かいものが這って、湿った感じがして、風が当たるとすうっとする。舐められているのではと思い当たると、恐怖で鳥肌が立つが、逃げられない。首を横に振るものの、行為を止めてはくれない。

「こっちは?」
「んっ、…っ」

 乳首に、風が当たる。猿轡を奥歯で噛んで声を殺すしか、フローレンスにできることはない。

「我慢しちゃって。気持ちいいんでしょ?」
「はっ…、んっ」
「ふっ、いいね、そそる」
「ここ、勃ってるよ。やっぱ若いし、敏感だ」
「んんっ!!」

 何が起きたのか、フローレンスはすぐに理解できなかった。アーネストの友人のひとりが、指で乳首を弾いたのだ。思わず腰を反ったフローレンスに、男たちは息を荒くする。

「ほんと、敏感ちゃん。面白いくらい身体が素直」
「十五歳だっけ?」
「殿下より十も下か。いいな、息が長くて」

 胸を揉まれ、乳首に触れられ、そして口に含まれ遊ばれる。チロチロと行き来し、あるいはジュッと吸われ、息が上がって頭がぼうっとしてくるが、フローレンスは理性をまだ保ったままだ。

 手には、男性器を握らされているのだろう。実物を見たことはなく、夜伽教育の中で話に聞いただけだが、きっとそうだと予想できた。ひんやりとする液体のような物を垂らされ、拘束をされ直し曲げられた膝裏にも、擦られている。

「これの中、どうなってんのかなあ」

 貞操帯を擦りながら、ひとりが言う。見た目の質感では皮に見えたそれは、壊されないよう頑丈にできているのか、フローレンスには全体を押されている感じしかしない。

「それは、王家しか知れない」
「ずるいよな、オレたちに開発させといて、アーネストは挿れるだけなんだから」
「それが身分だろ」
「これからは娼館に行かなくていい分、面倒な噂も立たなくなる」
「それもそうだな」

 貞操帯があるため一番大事なところに触れられることも本番もないが、王女として育てられたフローレンスには辛いことに変わりはない。絶対に、普通ではないと思った。

 それでも、フローレンスの母国は戦争に負け、このロリーガス王国に嫁ぐ条件を飲むしかなかった。

(……私が耐えれば、国は救われるの)

「っ、もう無理」
「くっ…」
「はあ、この身体、最高だな。さすが元王女、いい肉感だった」

 そんな言葉と共に、生暖かい液体が身体中に掛けられる。それ以上触れられることはなく、足音が遠のいていく。

 初めての出来事に混乱し、放置されたフローレンスは目隠しの内側で涙を堪え、再び聞こえた足音に気を張った。

「王太子妃様、お身体を拭かせていただきます」

(男性だわ……)

 貴族たちが呼んだのだろう侍従に、目隠しされたまま拘束を解かれ、バスローブらしき服を羽織らされた。フローレンスに、抵抗する気なんて全くない。手枷を再度つけられ、その鎖に引かれ足を前に出した。

(逃げはしないわ…、国を想えばできるはずなんてないのに…)
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