滅亡の畔

藤見暁良

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一章

◆東京◆

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 ――――東京駅。
 指定された時間より、早めに着くようにしていたのでまだ余裕はある。東京の主要駅なだけあって、地元ととは比べものにならないくらい広いし、異世界だ。
 今まで見たこともないようなものが沢山あって、少し見てみたいとは思ったが、それよりも待ち合わせ場所にたどり着けるか不安になって直ぐに諦めた。

「迷路みたい」
 来たことのない場所だけに一応下調べはしておいたけど、それでも実際目の当たりにすると、人の多さだけでも圧倒される。
 こんな所、時間の余裕がないと散策も出来ないとだろう。迷いもなく歩いている人たちに、尊敬すら感じてしまう。
 ここは、そういう土地なのだろうか――――。
 目の前を過ぎゆく人たちが、真っすぐ未来を見つめているように映って羨ましく思えた。
 せめて私も、僅かでもそんな未来を見てみたいな――――。


 ◇ ◇ ◇

 八重洲中央口に到着した。待ち合わせの十四時にはまだ早いけど、ギリギリに来るのは性分に合わないし、相手に失礼な気がした。何より、他に行く所がない。それが一番の理由でもあった。
「本当に、来るのかな?」
 支度金という名の百万円も用意するくらいだ。それなりのプロジェクト何だとは思うが、全てが不透明過ぎて謎である。
 ただ都合の悪い場所から逃げ出したい理由で飛びついたものの、信用はないに等しい。
 騙されたなら、それでも良いけど。来なかったら、このまま不動産屋に行って、住むところを探そう。
 どんな小さな部屋でも構わない。住むところが見つかったら、次は働く場所を探すのだ。軍資金はある分、気持ちにゆとりも多少ある。
 何より育った田舎と違って、仕事は沢山ある世界――――。
 そう思っただけで、胸は期待に揺れて熱くなった。

「やっぱり、一歩踏み出して良かった……」
「そうですか。それは良かったです」
「きゃぁっ!」
 誰に聞こえないくらいの小さな独り言に返事が返ってきて、心臓が飛び出そうな程驚いてしまった。話しかけてきた人物が気付いたかは分からないが、少し飛び跳ねてしまうくらい驚いた。
 初対面の人にみっともない姿を見せてしまい恥ずかしく思いつつ声の主を振り返ると、そこに立っていたのはスラっとした背の高い男性だった。
 それも偉く美形だ。
「驚かしてしまったようですね。大変失礼致しました」
 私のオーバーリアクションにも動じることなく、その男性は穏やかな口調で詫びてきたが、顔は能面のように無表情だ。美形なだけに、妙な迫力を感じる。
 物語の世界から飛び出してきたみたいな男性に唖然としてしまい、口をポカンと開けたまま見入ってしまう。地元では、絶対見かけない人種だ。しかし、行き交う人は誰もこっちを見ない。
 流石、東京――これ程の人はざらにいるのか、無関心なのか――――。
 無機質に流れゆく人並みに、胸の奥が小さく疼く。

「これから目的地に、ご案内致します」
 私の様子など意に介さずに、男性は事務的に任務を遂行していく。若しくは敢えて触れないようにしているのかもしれないけど、その真意を聞ける雰囲気ではない。
 ただ今出来ることは、この人に付いていくことだけなのだ。
「はい……宜しくお願いします」
「お車をご用意しておりますので」
 徒歩ではないんだ――――男性の言葉に、頭の中でぼんやりと反応しながら、機械的に頷いた。

 別に『気にされない』ことなど気にしない。
 だって東京ここの無関心は、悪意・・がないもの――――。

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