滅亡の畔

藤見暁良

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二章

◇目的◇

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 主が告げると、円卓を囲っている四人全員が固唾を吞んだ。

 いよいよ『プロジェクト』の目的が明かされる――――。
 知りたかったけど、まだどこか怖い部分の方が勝ってはいた。
 プロジェクトの内容を聞いて、正気を保って居られるだろうか? もし内容が余りにも異常だったら、辞退することは可能だろうか?
 決意とは裏腹に、不安な気持ちが溢れ出す――――。

 そんな私の心理状態な黒装束に阻まれて伝わる筈もなく、主は笑顔で話し出した。

「このプロジェクトは、皆さんじゃないと成しえない計画です。決して無駄にはなりませんし、プロジェクト終了後の皆さんの生活も保障させて頂きます」
 勿体ぶった前置きが、余計に怪しい――――。
 若しかして――内臓売れとか? いくら今後の生活で安定を得られたとしても、内臓は売りたくはない。でも、ついこないだまで「死んでもいい」くらい思ってはいたのだから、自分自身凄く矛盾していることになる。
 不安ばかり先立って、沈めた筈の心音がまた激しく響きだす。
 あぁ早く、プロジェクトの趣旨を教えて――――。

 今度は覆面越しでも念が届いたのか、主はやっとプロジェクトの概要を明らかにした。
「単刀直入に言いますと『交換復讐』を行います」
 誰もが待っていた瞬間――――誰もが衝撃を隠しきれなかった。

「マジ!?」
「えぇっ!」
「交換……」
「……復讐って……」
 主の説明が終わるまで、沈黙を保とうとしていた四人とも抑えきれず、驚きの声が出してしまった。
 だけど皆、驚きはしたけどそれ以上何か言うことも、否定することもなかった。
『復讐』――――この言葉に、私の記憶が一気に蘇る。

 四人の反応に満足気に頷いた主は、微笑みながら話を続けた。
「えぇ。復讐したいお相手、皆さんいらっしゃるでしょ? その『復讐』を私たちの組織はサポート致しますわ」
 他の三人はどうか知らないが、私には確かにいる――――。

 虐めにあっている間は抵抗なんて出来なかったから諦めていたけど、いつもどこかでやり返したかった。
 何で私だけこんな目に合わなきゃならないの――――?
 何でアイツらは楽しそうに笑っているの――――。
 自分たちだって同じ目にあったら、絶対笑ってなんかいられないだろ――――!
 驚きや不安を一気に覆す程の憎悪が体中に渦巻き始め、呼吸が苦しくなってきた。

 まるで舞台にでも立っていた女優みたいに、主は両腕を広げる。背後にある照明の光が、主から後光が射しているいるかのように演出してくる。
「ここに集まっている人たちの共通点があります。『復讐』したい対象者が存在していること……。だから皆さんで協力し合いたいと思います。一人で出来なくても、数人の力が合わされば不可能も可能に出来るのです!」
 主は力強く、そしてこれからゲームでも始めるみたいに楽しそうに言い切った。

 本気なのだろうか――――?
 確かにこんな自社ビルを構えられるくらい資産家なら、復讐をサポートする組織も作れそうな気がする。
 でも何故わざわざ、何の権力も才能もない自分が必要とされるのだろう?
 復讐依頼でも請け負って、プロに任せればいいじゃないか。

「この世の中はね……『因果応報』で成り立っているの。良いことも悪いことも、やったことは自分に返ってくる。とても素敵な仕組みなの」
「因果……応報?」
「えぇ……」
 思わず呟いてしまった人がいたが、気にする様子もなく主は微笑む。
「そうよ。でもね結果が直ぐに表れない場合が多いの。そのせいで世の中から虐めや犯罪って増える一方で、簡単に無くならない。余りにも理不尽だと思いませんこと?」

 主が言いたいことは解る――――世の中不公平なほど理不尽だ。
 明らかに悪いことした人間がのさばって、法の下で守られる場合もある。
 だからって私たちに、何が出来ると言うの――――!

「いきなりこの国を変えるなんて無理だと重々承知よ。でも何もしないで放っておくこともないとは思わない? 明らかな犯罪なら警察も動くけど、公にならない虐めに対して誰が動いてくれるの?」
 軽っぽい口調で言っているが、主の声は真剣に聞こえた。

 この主も過去に何かあったのだろうか――――?
 それを明かされることはないように思えるけど、辛い経験をして我慢するしかなかった人の思いを代弁してくれているかのようだ。

 パッチン――――胸の奥で何かが弾けた。
 思い知らせたい――――私を苦しめた連中に、同じ苦しみを味合わせたい――――。
 少しでもアイツらに報復出来たならば、ずっと抜け出せない苦しみの沼から解放されるような気がするから――――。

 どうなったって構わないと思ったんだ。もしこの願いが叶うなら――――。
「……何をすればいいんですか?」
 私は反射的に主へと、プロジェクト実行への決意を表していた。
 いつも消極的だった自分とは思えない行動だった。それぐらい本気でアイツらに『復讐』してやりたい。

「ふふふ……素晴らしいですね。ではこれからプロジェクトの実践内容を説明します。他のお三方もこのまま参戦の意向で良いかしら?」
 主が私以外の人たちに意思の確認をすると、三人は覆面越しに顔を見合わせた。
 顔が見えないのに、無意識にやってしまうもんなんだな。
 決意が固まったせいか、妙に落ち着いて周りを観察している自分がいる。

「内容によって、無理そうだったら辞退もありですか?」
 フリティさん以外の人から、質問が出る。主は少し口を曲げたけど、それすらも可愛く見えた。
「貴方のコードネームは『トリファ』でしたね」
「はい……」
「まぁ今回は初陣だから、それもありにしましょうか。ただ辞退しても機密漏洩を守るために、組織の監視下に置かれるけど」
「監視下……そうですか」
『トリファ』と呼ばれた人の声は、少し震えていた。

 まだ辞退する猶予は設けられているんだ。でもこれから先ずっと組織に監視されるくらいなら、自分を辛い目に合わせた人間に一矢報いた方がいいんじゃなかろうか?
「他の二人は何かありますか? なければこのまま続けますね……」

 フリティさんともう一人は、無言で頷いた。もうここまで来たら抜け出せないと感じているのでは――――。

「では次は、『交換復讐』の実行方法を説明します」

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