滅亡の畔

藤見暁良

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二章

◇主◇

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『N』――――ドア記されたアルファベットの一文字。

 この文字は何を意味するのだろう――――?

 文字をじっと見詰めていると、男性が横からドアノブに手を掛けた。
「どうぞ。皆さんお揃いです」
「は、い……」
 心臓が飛び出そうな程の緊張で、喉が詰まる。
 カチャ――ドアが軽く音を立てる。
 いよいよ未知の扉が開く――――。

 部屋の中は、さっきの更衣室みたいに薄暗い。部屋全体には暗幕が掛けられ、照明は数か所に置かれたスタンドタイプの電灯だけだった。
 覆面越しに視線を泳がすと、私と同じように黒装束の姿をした人物が三名いる。その三名はもう席に着いていた。

 ドックゥン! ――――心臓が大きく脈打つ。
 この三人は『仲間』? それとも――――。
「どうぞ。シスル様もお座り下さい」
 立ち尽くしている私に、男性は席に着くよう促してきた。
「へぇ~。あんた、シスルってコードネームなの」
「ひっ!」
 席に座ろうとしたら二人のうちの一人が話しかけてきたので、驚いて悲鳴を上げてしまう。私の反応に、話しかけてきた人物はケラケラと笑い出した。

「そんなに驚かなくてもいいじゃない~」
「あ……すみません……」
 顔が見えないけど、いつもの癖で反射的に頭を下げると、またその人は楽しそうに笑い出す。
「フリティ様、勝手な会話は謹んで下さい」
「は~い。飼い犬くん、厳しい~」
 暗くて様子がよく見えないけど、この冷静沈着な男性に向かって、『飼い犬』呼ばわりすることに衝撃を覚える。

「シスル様」
 椅子に座るよう、男性が小さな声で促す。
「あ、はい。ありがとうございます」
 まだ心臓がドキドキする――――。バイト先以外の女子と話したが久々だったのもあるかもしれない。初対面でもこんな風に気さくに話してくる人っているんだ。
 荒ぶる脈拍を落ち着かせるようと手を胸元に当てながら、ゆっくりと席に着いた。

 私の着席を確認すると男性は上座の方に移動し、一旦深々と一礼をする。長身でスタイルが良いのもあるが、綺麗なストレートの長い黒髪がサラサラと流れ落ちる様がとても美しく感じた。
 男性の美しさに一瞬気が緩んだが、それは直ぐに緊張に変わる。
「皆様、お集りになりましたので、これから主がいらっしゃいます。プロジェクトの説明は全て主が致しますので、静かに拝聴して下さい。質問などありましたら後程その時間を設けます」

『飼い犬』呼ばわりされた男性が言わんとしていることは、「主が話している間は黙っていろ」とのことだろう。今まで纏っていた硬質な空気とは違って、殺気すら感じる気がした。
 そんなに大事な『主』なんだ――――。

 ちょっと複雑な気持ちを胸に過らせていると、暗幕が揺れ奥から人が現れた。
『主』のご登場だ――――。
「っ……」
 意外な主の姿に、度肝を抜かれる。この人物が――――。
「皆さんごきげんよう」
 ――――『主』!

 私たちの前に現れた『主』は、明らかに私よりずっと年下の『少女』だった――――。
 まるで人形なような整った顔立ち。瞳もパッチリと大きい。軽く波打った柔らかそうな髪が、とても可愛らしかった。
 服装は私たちと同じく真っ黒だけど、ゴシックロリータと言うのだろうか、フリルや豪華な装飾が施されていて、黒子の自分とは比べ物にならない。

 主は私たちを一回り見渡すと、ニッコリと極上の笑みを湛えた。
「お待たせしました。皆さんここでの生活は気に入って頂けそうかしら?」
『主』――――少女の問いかけに、答えるべきか分からない。勝手に言葉を発して良いものだろうか? そんな疑問よりも驚きの余りに、言葉が出ない。さっき馴れ馴れしく話し掛けてきた『フリティ』さんでさえも、覆面越しに驚いている様子が伺えるくらいだ。

「まぁ、何かあったら気軽にこの岩鏡いわかがみに言ってちょうだい」
 主がそう言うと、あの美しい男性が私たちに軽く会釈をした。

『イワカガミ』さんて言うんだ。やっと名前が知れた。珍しい名前だな――――。
「因みに岩鏡もコードネームです。ここでは皆さんの素性は基本極秘です」
 なんだ、イワカガミさんの名前もコードネームなのか。でもこれからはコードネームで呼べる。それだけでもちょっと気が楽になった。

 それにしても誰の素性も極秘って、これから一緒にプロジェクトを遂行するのに、お互いのことを知らなくていいのいだろうか?あのフリティさんなら、秘密と言っても色々聞いてきそうな気がしそうなんだけど――――。
「ただし……プロジェクトを実行してい頂く際には、一部個人情報を開示します」
 疑問に思っていた矢先に、主から説明が入った。

「では……これからプロジェクトの説明を致します」

 主は再度美しい顔に、妖艶な微笑みを浮かべた――――。

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