滅亡の畔

藤見暁良

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二章

◇怨念◇

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 簡単に食事を済ませ、お風呂にも入ったら、心身ともに落ち着いた。パジャマに着替えてリラックスモードになっている。このまま寝たら、さぞかし気持ちが良いだろう。
 やっと一息――――と言いたいところだが、早めに行動に移すためにも敵の『情報』は読んでおくことにした。

 部屋は空調は完全装備されているが、まだ季節は真冬だ。冷え込まないように上着を羽織って、靴下も穿いておく。
 冷蔵庫の中は充実しており、しばらくストアに調達しに行かなくても大丈夫そうだった。
 喉が乾燥しないように飲み物を持って、ダイニングテーブルに向かう。
 革張りの高級ソファーも、ベッド同様絶妙なクッションで座り心地は抜群だ。

 なんかこんな凄い家具に囲まれて書類を見るなんて、社長にでもなった気分だな。そんな冗談を言っていられるのも、今のうちかもしれないけど――――。
 現実に戻って、岩鏡さんから貰った資料読み始めた。


『Wについての報告書』――――見出しにはアルファベット一文字が表示されている。
 さっき集まった部屋の『N』みたいだ。
 私の資料も他の人にはアルファベット表記になっているのかな?
『W』って誰なんだろう? いやいや! 誰だっていいじゃない。誰のことであろうと、代わって復讐するのは決定事項だ。
 気を取り直して読み進めていく――――。

『W』の出身地は愛知県だった。小学校高学年の頃からクラスで虐めが始まる。最初は無視などされていたが、荷物や教材を隠されたり、壊されていた。
 学区の中学に進級したが、小学校の時の虐めの中心的な人物も同じ中学だったため、状況は変わらず悪化した。
 その人物は『W』の近所に住んでいた。名前は――――。

「西村……たつみ

『W』を中心的に攻撃していたのは、近所に住む男子だったようだ。更に西村は、数人の男子生徒と一緒に『W』に性的嫌がらせもしていた。

「酷い……本当に酷い……」
 私もクラス全員に無視されていたけど、ここまではされていなかった。
 多感な時期に、同性だけじゃなく男子数人に性的な嫌がらせまでされたら、精神が持たない。
『W』はさぞかし辛かっただろう――――。
「絶対に許せない……徒党を組まなきゃ何も出来ない癖に。早速、こいつらの所にいって報復してやる」
 自分ごとのように怒りが収まらない。
 一人の人間に一生消えない傷を負わせておいて、自分たちだけのうのうと生きていけると思うなよ――――。
 憎しみの余り今さっきまでのリラックスモードは、一瞬にして消え去っていく。

「こいつら、いま何処に居るの?」
 だけどその問題は直ぐに解決した。資料にはその男子生徒の名前と住所も、全て記載されている。復讐対象者の顔写真も添えられていた。
 凄い――――ここまで準備されているなんて。でも、どういうルートで、この情報を集めたんだろう?
 またしても疑問は尽きないが、今は『W』の復讐を進めることに神経を集中しなければだ。

 対象者は『W』を無視した生徒全員だったが、確実に狙いたいのは『西村』たちだ。
 西村たちは、一名を覗いて割と地元に残っている。
 流石『大都市。こんな形で土地柄が役立つものとは思いもよらないだろう。そう思うと、自分はかなり田舎だ。地元を離れてしまった同級生も結構いる。
「私の担当の人、大変かもしれない……」
 ソファーに投げるように寝っ転がり、天井を仰いで大きなため息を吐く。
「対象者が丁度集まる時ってないかな~。偽の同窓会の手紙でも出してみるとか……。同窓会……あっ!」

 毎日鬱々と過ごしていたし、母さんも私に無関心だったから特に言われていなかったけど――――。
「成人式……」
 そう、私は今年二十歳を迎えるのだった――――。

「成人式なら、集まるよね……多分」
 全員はダメでも、かなりの人数は集まるだろう。問題は、集まった奴らをどう仕留めるかだ。
 やはり偽同窓会を開くか。『W』を虐めた人限定で、記念品を渡すのはどうだろう?
 それに致死量に至らない程度の毒物を入れるとか。爆薬を仕込んでおくとか?
「う~ん。でもそれだと確認が難しいし……これ押せないか」

 復讐を成し遂げた暁に、罪人たちに付ける『睡蓮』の焼き印――――。

「皆に同じ焼き印が残っていたら、組織ぐるみってバレるんじゃないかな?」
 そのリスクを冒してでも、この焼き印を刻む理由も気になる――――。
 いつか岩鏡さんに教えて貰えるかな?

 それからかなりの時間、色々と思いつく限りの作戦を考えた。気が付くと時計は、零時を回っていた。
 一人で考えていると自信が持てなくて、どの方法でいくか決めかねてしまう。
 明日、岩鏡さんに報告してみよう。ダメなら却下される筈だ。
 ――――全部却下されたら、ショックだけど。

 だけど思ったより乗り気で作戦を考えている自分に驚いている。
 報復の手段を考えていると、気持ちが高揚して身体が熱くなっていた。この相手が私を虐めたアイツらだと想像したら、更に快感だった。
「私って、腹黒かったんだな……」
 でも、そんなことでも考えないと、逆に精神が保てなかった――――。

 どんどん自分を追い詰めて、自分の存在価値を見失ったら、私自身を殺してしまうから――――。
 想像の中でも、アイツらの優位に立っていたかったのだ。
 頭の中で、夢の中で、アイツらを何度も蔑んできた――――けど、現実は私に意地悪だった。

「アイツら…どんな報復を受けるんだろう……」
 出来ることなら、苦しんでいるアイツらをこの目に焼き付けたい。だけどそれは叶わぬ願い――――。
 だからせめて、『W』の仇の連中を自分の仇として、苦しめよう。

「明日から忙しくなるな……」
 ソファーに沈むように睡魔に吸い込まれる。

 あぁまるで、水面に揺れる『睡蓮』になったみたいだ――――。

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