滅亡の畔

藤見暁良

文字の大きさ
14 / 22
二章

◇迷走◇

しおりを挟む
 ドックン――ドックン――――。緊張で脈が倍速になっている。
 その理由は、目の前にいる黒髪の美しい青年のせいであろう――――。

「そうですね。中々発想は良いと思われます。成人式を利用するのは目の付け所が素晴らしいです」
「ありがとうございます!」
 普段から褒められることが少ないのもあるけど、岩鏡さんに褒められて殊更嬉しく思った。

「記念品案も捨てがたいのですが、これはやはり難しいでしょう。確実性に欠けます」
「あぁ……そうですよね」
 やっぱり思った通り、記念品は却下された。
 何となく予想はしていたけど、ハッキリと言われるとお腹にパンチを一発食らったようなダメージを受ける。
 肩を落としている私に、岩鏡さんは少し間をおいてからアドバイスをしてくれた。
「もっと大胆な考えでも良いとは、思います。一番理想的なのは、本人たちに精神的ダメージを与えることですので」
「精神的……ダメージ」
「はい」
 何となく岩鏡さんが言わんとしていることは伝わってくるけど、じゃぁそれを具体化するとしたら言われたら、私の浅知恵では想像力に限界がある。

「大胆って……どんなことでしょうか」
 つい岩鏡さんに救いを求めてしまったが、「お任せします」とあっさり断られた。

 経験値と教養の足りない自分が、情けない。せめて文献とか何か調べられないだろうか。
「図書館……行っては、駄目ですか?」
「調べることを具体化しないと、図書館で資料探すのも難しいと思われますが」
「……はぁ」
 これも一瞬にして、打ち砕かれた。

 両手で頭を抱えていると、岩鏡さんはソファーから立ち上がり「他の方の案を確認に行ってきます」と端的に伝え、部屋から出ていこうとした。
「あ、あの……」
「シスル様、如何されましたか?」
 ドアの前までいった岩鏡さんは、顔だけこっちに向けて一応気にかけてくれた。
「また、ご相談してもいいでしょうか?」
「はい、ご報告は受けないと準備も出来ませんので」
「すみません……」

 そう簡単には、いかないよね。遊びじゃないんだもん。
 岩鏡さんにこんなにダメ出しされて、ちゃんと成功する作戦が考えられるか自信がなくなる。『W』のためにも、絶対結果を出したい。

 俯いて黙り込んでいると、岩鏡さんは哀れに思ってくれたのか、少しだけこっちに戻ってきてくれた。
「仇を討つのは『W』の敵ですが、その相手をシスル様の仇と思えば良いかと。シスル様なら、苦しめた連中にどんな報復をしたいですか?」
「私を苦しめた……アイツら・・・・に?」
「はい……『W』様の恨みを晴らすと同時に、シスル様の恨みも晴らさないと……蟠りが残るかと思いますが」
「は……い」
「では、失礼致します。作戦手段が決まったら、またご連絡して下さい」
 そう告げると岩鏡さんは、一礼して他の人の所へ行ってしまった――――。

 一人ポツンと、取り残さる。
 多分、岩鏡さん的に、かなりヒントをくれたんだと思う。アイディアを教えるのは簡単なのだろう。
 でもこれは私が『W』の復讐を請け負ったんだ。だから私が自分ごとにして、復讐を成し遂げなければ意味がないということだ。
 それが『交換復讐』の醍醐味の一つなのかもしれない――――。

 アイツらには、他の人が復讐してくれるけど、私は手を下せない。
 だから代わりに『W』の対象者で、恨みを晴らす――――としたら、どうする?
 一番苦しめたいのは『西村巽』。例えるなら、最初に私を無視し始めたあの子・・・
 でもあいつは女子だ。西村たちは男って立場で、『W』に辛い傷を負わせている。そこは流石に状況は違う――――。

 じゃぁ『W』の気持ちになってみるんだ。
 想像しか出来ないけど、『W』が複数の男子生徒にされたこと――――具体的には記されてなかったけど、考えるだけで背筋が凍りそうだ。
「これ……確認しておいた方がいいのかな……」
 敢えて被害内容の詳細が伏せられているなら、知らない方がいいってことなのだろうか?
 それとも『W』が、話せなかったのかもしれない。私も正直、聞く勇気が持てない――――。

 暗い気持ちになってきて思考が停止しそうになるので、視点を変えることにする。
『W』が住んでいた場所は、土地柄的に因習が深そうな地域だ。自分の地元も、結構因習が根深かった――――。
 徒党を組んで弱い立場を邪険にするのも、地域全体にあったかもしれない。
 だからうちの両親は、出来の悪い私より、常に目立っていたお兄ちゃんを盾にして、自分たちの保身を保っていた――――。
 そう思うと、お兄ちゃんも可哀そうに思えてくるが、あの人自身、偉そうに自分を誇示していたから、やっぱり同情する必要はないな。

 あれ――なんかちょっと引っ掛かる――――私が虐められたのって、お兄ちゃんが絡んでいるんじゃない?
 確かあの子・・・にも、兄がいたよね。お兄ちゃんと同級生じゃなかった? もしあの子のお兄さんがうちの兄の悪口とか言ってたとしたら――――いや、多分言ってっただろう。
 兄は性格が悪い。
『W』のことを考えていた筈なのに、いつの間にか私の兄のことになっていた。気持ちを切り替えて再度作戦を練り直す。

 さっき岩鏡さんは、『大胆なこと』でも良いと言っていた。
 大事故に思わすくらいのこととかだろうか? 対象者たちが集まっている所へ、ダンプカー突っ込ませるとか――――。
 必要なものは全て準備してくれるのもあって、つい大胆なことまで発想してしまう。
 人生の門出に、不幸なことが起きたら忘れられない記憶になるけど、この案はいまいちな気がする。
 もっと――精神的に一生消えない傷を負わせたい――――。

『潰し合い』とかさせてみるとか?
 廃墟に連れて行って、バトルゲームを繰り広げさせる。
 映画であるような殺し合うまでいかなくても、極限になれば人間不信に陥らせることが出来るかもしれない。
「駄目だ、きっと準備が色々掛かる」

 巧妙じゃなくてもいい――――。
 もっとシンプルで、それでいて確実な復讐をとかないだろうか。

 考え始めてみると、思いのほか難しいものだった。
 もし科学者とか医者とか特化専門分野の知識があれば、より完全な計画が思いついただろうに――――私はただの田舎の小娘でしかない。

 こんなに頭を働かせたのは久しぶりだ。何か凄く、疲れてしまった――――。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

処理中です...