「キミ」が居る日々を

あの

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本編

中編1~少し変わった日常~

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『ーーー』
『ーーーーー』

俺は誰かと楽し気に喋っていた。
ただ、何を話しているのか、何故かはっきりと聞き取ることができない。それに、意識はあっても体を動かすことができなかった。

仕方なくしばらくの間、ぼんやりと自分達が会話する様子を他人事のように眺めていた。

それでも会話が聞こえることはなかったが…


『ーーー・・・セツ!!!』

突然そう叫ぶ声だけが鮮明に聞こえた。

気がつけば大きな影が自分達に迫ってきていてーーー

「ーーーッ」

バッと目が醒める。

じっとりとした汗が肌を濡らしていて、気持ちが悪い。

夢……

あまり覚えてはいないが、自らに迫る大きな影だけは覚えている。その時はわからなかったが、今思えばアレは車だった。

こんな夢を見るなんて、この前の騒動の時のことが恐怖体験として無意識に心の底に刻まれていたのかもしれない。

はぁ、朝から体力削りにくるなぁ…
俺が自分に見せた夢なんだけどさぁ……

『セツ、おはよう』

そして相変わらず聞こえるハルの声。
土、日と2日も過ぎて3度目になる朝を迎えれば、そろそろ慣れてきたが、やはり寝起きだと全てが夢だったんじゃないかと思ってしまう。
まぁ、次の瞬間には頭に声が響いて、現実だとわかるのだが。

『あ…あぁ、おはよう』

一瞬口を開いて返事をしそうになったが、思いとどまって心の中で返した。

頭に響くようにとはいえ、声が聞こえるのだ。今まで会話といえば口からしかしたことがない俺にとっては違和感があったとしても、声が聞こえればいつものように話してしまいそうになる。
昨日は日曜日だったから独り言を呟いていても大丈夫だったが、今日からは月曜日。学校に行かなければならない。一度でもうっかりと口に出そうものなら友人らに変な目で見られてしまう。
まだ知らない人ならもう会わないかもしれないが、友人とはほぼ毎日顔を合わせるのだ。気まずいことこの上ない。

ほんと…気をつけないとな…

階段を降りてダイニングへと向かうと、既に朝ご飯がテーブルに用意されていた。いつもは朝食を食べ終えた父さんがダイニングにある椅子に腰掛けて新聞を読んでいるが、今日は早めに家を出る必要があるらしく誰も座っていなかった。
母さんは父さんと一緒に先に食べたのかテーブルには一食分しか置かれていない。

すると、俺に気づいた母さんが洗い物をしていた手を止めていつものようにおはようと言った。俺もおはようと返して椅子に座る。

今日の朝ごはんは、レタスとトマトと目玉焼きが挟まれたサンドイッチだった。中にマヨネーズもかけられていて美味しかった。
ごちそうさまと言って、今度は洗面所へと向かう。そこで歯を磨いたあと、顔を洗い、最後に両目に黒のカラコンを付ける。
俺の左目は黒色なのだが、右目が碧色なのだ。
両親曰く、母さんの親戚にハーフの人と結婚した人がいたそうだ。外国の血が流れているとはいえ、両親とも純日本人といった顔立ちをしていて、母さんもそのことはすっかり忘れていて、俺が生まれた時はとても驚いたと聞いている。

左は黒目だからカラコンをつけるのは右だけでもいいように思うかもしれないが、片目だけに付けるのも違和感があって、仕方なく両目に付けている。

鏡で変なところがないか軽く確認してから自分の部屋に戻り、昨日のうちに準備を済ましておいた学校用の肩掛けのバッグを持つとまた一階に降りた。玄関前の段差に座り、運動靴を履き終えると、キッチンがある方へと振り返って、「行ってきまーす」と母さんに聞こえるように大きめの声で言った。
そして、玄関のドアを開け、外に出る。

学校までの道を歩いていると、なんだか久しぶりに外に出たような新鮮な気持ちになった。
土日の間外に出なかったとはいえ、それぐらいはよくあることでいつもはこんな気持ちにはならない。

原因は、まぁ、十中八九というか、絶対ハルだろうな。
ハルが出てきてからのインパクトがすごくて、学校に行くのが久しぶりに感じるのだろう。人生で1番印象に残る瞬間だったのではないだろうか。

ハルと頭の中でぽつぽつと話しながら歩いていると、学校の正門が見え始めてきた。

『お、あれ律矢じゃないか?』

ハルに言われて正門の方をじっと見ると、丁度正門を通っているよく見知った後ろ姿があった。
中一の頃に仲良くなって以来の親友の律矢だ。高校も同じとこに進学し、高二になった今でも変わらずにつるんでいる。
ハルと話せるようになってから律矢とは一度も会っていない。他にも色々と知っていたし、別に疑っていたわけではなかったが、俺の中にずっといたというのは本当だったんだなぁと改めて思った。

「律矢!おはよう」

若干小走りでその後ろ姿に近づき、後ろから声をかける。

「おー、はよー」

律矢が振り返って若干眠そうに返す。
実際、今も隣でくありと欠伸をしている。

「眠そうだな。またゲームか?」

律矢は大のゲーム好きだ。
寝る前にちょっとだけと思ってゲーム機を手に取った後、気づけば深夜の3時なんてことも多々あるそうだ。

「昨日発売されたゲームが面白くてさぁ。」

そう言うとまた欠伸をしていた。

今日も授業中に寝ては先生に注意されるんだろうなぁ…

だいたいの先生は寝ている生徒がいても放置か軽い注意で終わるが、そういうのに厳しい先生も何人かいる。

そして今日は確か数学があったはず。
うちの数学の先生は普段はにこやかで優しい先生なのだが、寝ている生徒がいると、席の前までやってきて起こした後、教科書や問題集にある問題をその生徒に解かせるのだ。
先生が説明している間寝ていたのだから、予習でもしていない限り答えられるはずもなく、その生徒は必死に教科書を読みあさって答えるほかないのだ。
だから当てられたくない生徒たちはどんなに眠くても寝ないようにしているのだが、律矢は既に何度か当てられている。
もう逆に当てられたくてやってるんじゃないかと思うほどだがそんなつもりはないらしい。

今日に限って予習をしているなんてことはないだろうから、慌てながら教科書を開くんだろうなぁ…

その姿が易々と想像できてしまい、俺は未来の律矢を想って心の中で合掌した。
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