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第56話 毒の魔女
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「確かに血は途絶えた」
オルヴァリオの隣に、拘束されたサスリカが居る。ふたりの前には、男が居た。
「だが俺の先祖の誰かが、『カナタ・ギドー』の生まれ変わりだった」
「生まれ、変わり」
「ああ。その『思い』。『祈り』とも言うべきものを受け取った。名をギドーと改め、活動を始めた。カナタの宿願を果たすために」
黒髪の男。オルヴァリオの父親だった。
「宿願?」
「『種族の復興』だ。かつて1万年前に滅んだカナタの種族、その文明を復活させる。だから、『古代遺物』を集める必要があったのだ。それらを正しく扱えるのは古代人だけだからな」
「だが途絶えたんだろ」
「そこで見付かったのが『これ』だ」
「!」
男の背後に、それはあった。それを覆う布を、バサリと捲る。
「!」
『あ……』
ひやりと、冷気がこちらまでやってきた。キュインと、機械音がしてサスリカの目の色が変わる。
「……サスリカ?」
震えていた。機械人形に寒さを感じる機能は無い。別の震えだ。
『…………シ』
黒髪で、平たい顔、そして黄色人種。その情報は、サスリカも知っていたが。
思えば。『コールドスリープ』に選ばれる時点で、『地位が高い』と分かる。『残すべき人』であると。
『……シロナ様…………!』
その『名』が、彼女の口から出た時。男の口角は吊り上がった。
「やはり! この人物は『シロナ・イケガミ』だな!? そうだろう!? ドンピシャ! ビンゴだ! 我々の大願に最も近付く! 相応しい人材だ!」
『…………!』
1万年前の記憶——否、記録が甦る。見間違いなど機械は起こさない。
『(……いえ)』
だが。
そこでサスリカは冷静になる。勤めて、論理的に考える。無駄な感情は、一時排除する。
『(シロナ様ご本人は、「終末」でお亡くなりになられました。それに髪の色も違う。だからこれは、アニマ様とレイシーの計画の……!)』
サスリカも、『全て』を知る訳ではない。だが、その『時代』の、先頭に立つ人間達の傍らに居たことは確かだ。
「サスリカと言ったな!」
『!』
高らかな声で呼ばれた。
「バルセスからの報告書を見て、震えたぞ! お前のことは『カナタ』の記憶には無かったが、『グレイシア』を再生し得る遺物とはな!」
『え……』
これは失言ではない。もう知られようと構わないのだ。
「……あの『末裔』とかいうおっさん、ネヴァンの人間だったのか……!」
「そうだ。我が息子オルヴァリオよ。我々は『多い』。どこにでも居るぞ。何せ文明復興の折りには貴族の地位を与えることを協力の報酬にしているからな」
「…………最悪だ」
オルヴァリオは、ここまでずっと俯いている。後悔している。だが、父親に逆らおうとはしない。クリューやリディを裏切って、今ここに居る。
「サスリカよ。この氷を解かせるか?」
『…………』
その『クリューやリディ』が、人質にされたのだ。どこにでも潜伏できる、誰にも知られていない工作員が、通りすがりにナイフを刺す。あるいは爆弾に火を付ける。それだけで彼らは死ぬ。何の抵抗もできずに死ぬ。
そしてそれを、実行する力がネヴァン商会にはある。
『……違いがあるとすれば、オルヴァリオ様は「人間」なのです』
「はあ?」
その脅しに、オルヴァリオは屈した。友を、見殺しにできる訳が無い。友の命の為に。彼の選択は責められるようなものではない。
だが。
『ワタシの役目は、ますたーのお命を守ることではなく、ますたーの目的達成をお手伝いすることです』
「……何の話だ」
サスリカは機械だ。その無機質な瞳で見詰められると、男は不気味に感じた。
『「人形」相手に交渉など、1万年前なら笑われてしまいますよ、ミスター』
「!!」
いくらでも、命を狙うが良い。マスターにとってしてみれば、ここで足を引っ張る方が情けない。我が主であるクリュー・スタルースは、そのような低い志の男ではない。
『……貴方様は、道を違えてしまったのですね』
「……!?」
機械に感情は無い。だがサスリカには搭載されている。勿論、オンオフの切替を可能にして。
『カナタ様』
寂しそうに。慈しむように男を見てやった。
オルヴァリオの隣に、拘束されたサスリカが居る。ふたりの前には、男が居た。
「だが俺の先祖の誰かが、『カナタ・ギドー』の生まれ変わりだった」
「生まれ、変わり」
「ああ。その『思い』。『祈り』とも言うべきものを受け取った。名をギドーと改め、活動を始めた。カナタの宿願を果たすために」
黒髪の男。オルヴァリオの父親だった。
「宿願?」
「『種族の復興』だ。かつて1万年前に滅んだカナタの種族、その文明を復活させる。だから、『古代遺物』を集める必要があったのだ。それらを正しく扱えるのは古代人だけだからな」
「だが途絶えたんだろ」
「そこで見付かったのが『これ』だ」
「!」
男の背後に、それはあった。それを覆う布を、バサリと捲る。
「!」
『あ……』
ひやりと、冷気がこちらまでやってきた。キュインと、機械音がしてサスリカの目の色が変わる。
「……サスリカ?」
震えていた。機械人形に寒さを感じる機能は無い。別の震えだ。
『…………シ』
黒髪で、平たい顔、そして黄色人種。その情報は、サスリカも知っていたが。
思えば。『コールドスリープ』に選ばれる時点で、『地位が高い』と分かる。『残すべき人』であると。
『……シロナ様…………!』
その『名』が、彼女の口から出た時。男の口角は吊り上がった。
「やはり! この人物は『シロナ・イケガミ』だな!? そうだろう!? ドンピシャ! ビンゴだ! 我々の大願に最も近付く! 相応しい人材だ!」
『…………!』
1万年前の記憶——否、記録が甦る。見間違いなど機械は起こさない。
『(……いえ)』
だが。
そこでサスリカは冷静になる。勤めて、論理的に考える。無駄な感情は、一時排除する。
『(シロナ様ご本人は、「終末」でお亡くなりになられました。それに髪の色も違う。だからこれは、アニマ様とレイシーの計画の……!)』
サスリカも、『全て』を知る訳ではない。だが、その『時代』の、先頭に立つ人間達の傍らに居たことは確かだ。
「サスリカと言ったな!」
『!』
高らかな声で呼ばれた。
「バルセスからの報告書を見て、震えたぞ! お前のことは『カナタ』の記憶には無かったが、『グレイシア』を再生し得る遺物とはな!」
『え……』
これは失言ではない。もう知られようと構わないのだ。
「……あの『末裔』とかいうおっさん、ネヴァンの人間だったのか……!」
「そうだ。我が息子オルヴァリオよ。我々は『多い』。どこにでも居るぞ。何せ文明復興の折りには貴族の地位を与えることを協力の報酬にしているからな」
「…………最悪だ」
オルヴァリオは、ここまでずっと俯いている。後悔している。だが、父親に逆らおうとはしない。クリューやリディを裏切って、今ここに居る。
「サスリカよ。この氷を解かせるか?」
『…………』
その『クリューやリディ』が、人質にされたのだ。どこにでも潜伏できる、誰にも知られていない工作員が、通りすがりにナイフを刺す。あるいは爆弾に火を付ける。それだけで彼らは死ぬ。何の抵抗もできずに死ぬ。
そしてそれを、実行する力がネヴァン商会にはある。
『……違いがあるとすれば、オルヴァリオ様は「人間」なのです』
「はあ?」
その脅しに、オルヴァリオは屈した。友を、見殺しにできる訳が無い。友の命の為に。彼の選択は責められるようなものではない。
だが。
『ワタシの役目は、ますたーのお命を守ることではなく、ますたーの目的達成をお手伝いすることです』
「……何の話だ」
サスリカは機械だ。その無機質な瞳で見詰められると、男は不気味に感じた。
『「人形」相手に交渉など、1万年前なら笑われてしまいますよ、ミスター』
「!!」
いくらでも、命を狙うが良い。マスターにとってしてみれば、ここで足を引っ張る方が情けない。我が主であるクリュー・スタルースは、そのような低い志の男ではない。
『……貴方様は、道を違えてしまったのですね』
「……!?」
機械に感情は無い。だがサスリカには搭載されている。勿論、オンオフの切替を可能にして。
『カナタ様』
寂しそうに。慈しむように男を見てやった。
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