死神はいかがですか

トマトマル

文字の大きさ
3 / 3

3

しおりを挟む
───────ああ、死んだ。

生物は本物の死を目の前にすると抵抗もせず固まってしまうという。

真っ黒い影が不気味な音を立てて広がっていく。
死神の表情は骸骨なので伺い見る事はできないが、ニヤリと笑っている気がした。
気付くと、大鎌が私の直ぐ目の前に振り下ろされていた。着ていたシンプルな白のブラウスが二つに分かたれれ、中に着ていたキャミソールまでが真っ二つに割かれている。
ただ、肌だけは傷一つ付かなかった。

まだ殺されていない、と安心したのもつかの間。
また大鎌が振り下ろされようとしていた。

目をギュッと瞑ってどうか痛みはないように、そう願って来るであろう衝撃に備えた。


嫌だ、死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!

(死にたくないっっっっ!!!!)



───────────そうだ、私はまだ!死にたくなんか、ない!!!!


目を見開き、迫る大鎌を間一髪で避ける。足を踏ん張り、バッグから飛び出たペンケースを無造作に取り出してボールペンを引っ張り出した。

殺す。コイツを殺す。それでしか、私が死なない道はない!!!!


私の取った態度が幸か不幸か、死神は上機嫌に声をあげた。


「あはっ!ふふふ、あはははははは!!そう!!それでこそ#死神__ぼく_に選ばれた人間だよ!!」


ボールペンを両手で握り、死神へ切っ先を向ける。そして睨み上げた。
絶対に屈するものか!一人で生きて行く。ずっとそう思って生きてきた。だから、どんな絶望にだって負けないんだから!!!



一心不乱にボールペンを振り回す。
死神は避けるだけで反撃はしてこない。

「おっとっと」

若干、いやかなりわざとらしく死神よろめいた。
そんな事、必死な私が気付くはずもない。

───今だ!!!


ボールペンを死神の心臓に向けて思いっきり突き刺した・・・・・・・・・はずだった。




刺した感触がない・・・。
いや、質量みたいのがないのか?そこにあるのに、存在しているのに、どこにもない。
まるで空気を相手にしているみたいだ。


「どーお?殺せる?僕のこと」

肩をビクつかせ、死神の目を見た。
死神はボールペンごと私の手を掴む。革手袋の冷たい感触が手に伝わる。

こいつは分かってたんだ。ただの人間が死神みたいな化け物に殺せるわけないって、しかも私の武器、ボールペンだし・・・。

「な、なんで私を殺さないんだ?」

震える声を喉から捻り出すように問うた。
死神は考える素振りを見せて、真っ黒のローブから懐中時計を取り出した。
そして、時計を見ながら淡々と答えた。

「だって、無抵抗に死を受け入れる奴なんて殺しても面白くないんだもん」

「は?」

「だ・か・ら、とぉーっても面白かったよ、コウチャン?」

パチンと懐中時計を閉じて、愉快そうに死神は笑った。

「それに死神は死にたくないと思っている人間を安易に殺すことは御法度だしねぇ」

「じゃ、じゃあ!私の事殺さない?」

「うーーん、しばらくは殺さない!!」

「しばらくって!!?しばらくって何!!」

死神の黒ローブを引っ掴んで、食い下がる。
───────あれ?触れる・・・・・・??


だんだんと辺りが明るくなってきた。どうやらもうすぐ日が昇るらしい。

「もう時間切れなんですけどー」

死神が面倒くさそうに呟いた。

黒ローブがサラサラと灰のように散り始めた。
それと同時に日が昇る。

「え?死ぬの!?消えてるんですけど!!?」

「僕は夜行性なのー!!もうホント最悪・・・」

日差しが射して、あまりの眩さに目を思わず瞑った。
掴んでいたローブの感触が完全に消えた。

急いで目を開けるが・・・・・・。

「え?嘘でしょ?」







死神───────ではなく私の彼氏が目の前に居た。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

秘められた薫り

La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位 55位を獲得した作品です。 「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。 欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。 ​クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。 指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。 ​完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。 夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。 一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。 ​守るべき家庭と、抗えない本能。 二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。 欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

処理中です...