東京悪夢物語

ヨッシー@

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汁かけ婆(ばばぁ)

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東京悪夢物語「汁かけ婆(ばばぁ)」

ピチャ、
それは、ある日突然始まった…
「何だこれ、」

ある朝、僕のアパートのドアに妙な液体がかっていた。
取手の部分に着けられいていた茶色い液体。
「気持ちが悪いなぁ、何だよこれ」 
その液体はねっとりとして、酷い臭いだった。
「誰だよ、こんなイタズラするなんて~」
僕は腹が立ったが、仕方がなく雑巾で液体を掃除した。
ゴシ、ゴシ、
何だ?この液体、塩っぱい臭いがするぞ。
「これは味噌汁、」
その液体は味噌汁だった。
その証拠に、具らしき物もドアについていた。
「人の部屋のドアに味噌汁かけるなんて、陰湿だな~あー性格悪い」
「錆びたら大変だよ、大家さんに怒られる」
「あいつかな」
この階の一番奥の部屋。いつも下を向いて顔を隠している男。陰気臭い、たまにすれ違っても挨拶もしない。前から気味が悪かった。
逆恨みか?
僕は、もうすぐこのアパートを引っ越す。
彼女と結婚するのだ。新しいアパートも見つけた。ここでの生活ともオサラバさ。
たまに僕が、彼女を連れて部屋に入るのを見ていたのだろう。きっと妬んでいるんだ。
逆恨みも甚だしい辞めてほしい。
まぁ、あと少しの辛抱だ、我慢、我慢…

深夜
ピチャ、
何かをかける音がした。
また、アイツか?
僕は、急いでドアを開けた。
バン、
いない、
そこには誰もいなかった。
いくら素早く逃げても、そんなに早く逃げられるわけはない。
アイツではないのか、じゃ、いったい誰なんだ……

「……そうなんだよ、麻衣」
「僕の部屋のドアに、味噌汁をかける奴がいるんだよ」
「気持ちわる~」
「そんな陰湿な嫌がらせするなんて、危ない人じゃない」
「そうそう」
「あんまり、関わらない方がいいよ。あと少しで引越しだし」
「うん、僕もそう思ったんだけど、最近毎日なんだ。いい加減に頭にきたよ」
「だからさ、これ」
僕は袋の中から、小さな箱を出した。
「これって、防犯カメラだね」
「そう、これで24時間撮影してさ、犯人を見つけるんだ」
「でも…やめた方が、」
「なに?」
「何か嫌な予感がするの」
「大丈夫だよ、犯人がわかったら警察に訴えるだけさ」
「そうだけど…」
「大丈夫だよ」
僕は、麻衣の心配をよそにカメラを取り付けた。
こうやって、こうやって、
防犯カメラはコードレスなので、簡単に取り付けられた。
しかも、スマホに連絡が来るので犯行もリアルタイムでわかる。
「絶対見つけてやるぞ」
僕は意気揚々とした。

深夜2時、
ブーッ、ブーッ、
スマホに防犯カメラから連絡がきた。
ピチャ、ピチャ、
ドアの方から液体をかける音がする。
バン、
僕は、勢いよくドアを開けた。

いない、

そこには誰もいなかった。
「ちくしょう、逃げられた」
僕は仕方がなく、防犯カメラの録画をチェックした。
カチ、
午前2時00分、これか、
ピチャ、ピチャ、
気色の悪い音が聞こえる。
奥の電気が消えた通路から、誰かが歩いて来る。それは年老いた老女だった。
「何だ?」
ゆっくり、ゆっくりと歩いてくる老女。
その手には、欠けた茶碗があった。震える手でしっかりと茶碗を握っている老女。
そのまま真っ直ぐに僕の部屋へと向かい、ドアの前まで来ると、
ピチャ、ピチャ、
茶碗から味噌汁をかけ出した。
「何だこれ、」
ピチャ、ピチャ、何度も何度も繰り返し味噌汁をかける老女。
ピチャ、ピチャ、
味噌汁がなくなってくると、
ピューーー
突然、口の中から味噌汁を吐き出した。
「うぎゃ、何なんだコイツ」
ピチャ、ピチャ、
再び味噌汁をかけ出す老女。最後の一滴までもかける。
僕は、背筋がゾッとした。
そして老女は、ゆっくりと歩き暗闇へと消えて行った。
「気持ちが悪い、まともじゃない。嫌がらせも度を超している」
僕は、しばらく放心状態った…

翌日、
僕は麻衣にその動画を見せた。
「何これ、」
麻衣も恐怖に慄いた。
「すぐ、引っ越そうよ」
「いや、まだ荷造りが残っている」
「そうかなーいやな予感がする」
「あと少しだし、」
「うん…」

数日後、
僕は友人たちにお祝いされて、深夜に帰宅した。
カンカンカン、階段を登る。
「飲み過ぎたなー、今何時だろう?」
時計は、午前2時を指していた。
「ちょっと遅過ぎたか~」
部屋へと向かう。
その時、
ピチャ、ピチャ、
僕の部屋の前から、あの音が聞こえた。
「えっ、」
あの老女が、ドアに味噌汁をかけていた。
ピチャ、ピチャ、
何度も何度も、繰り返し味噌汁をかける老女。
ピューーー
また口の中から、味噌汁を吐き出した。
「何なんだ」
僕は酔っぱらった勢いで、老女に文句を言おうとした。
「こらーー婆……」

ササッ、

突然現れた男に、僕は口を塞がれた。
「何をするんだ!」
その男は、この階の一番奥の部屋の男だった。
「こっちへ来い」(小声)
男は僕の腕を引っ張り、自分の部屋へと引き込んだ。
バタン、
中は、以外と小綺麗な部屋だった。小じんまりとしていて整理もされている。
「文句なんか言ったら大変だぞ」
男は、赤い顔をして僕に言った。
そして、モニターをつけた。
カチ、
ピチャ、ピチャ、
味噌汁をかける老女。
ピューーー
やはり、口の中から味噌汁を吐き出し味噌汁をかける。
そして、老女は味噌汁をかけ終わると、ゆっくり、ゆっくりと、暗闇へと消えて行った。
「やっと行った」
男は、ホッとして椅子に腰掛けた。
「何なんですか、あの老女は?」

「汁かけ婆だ、」

「汁かけ婆?」
「そう、汁かけ婆。このアパートに昔から住んでいる妖怪だよ」
カチ、男は煙草を吸い始めた。
「妖怪?」
「不動産屋は、何も言ってませんでしたよ」
「そんなこと言うかよ、誰も入る人がいなくなるだろう」
「だって、」
「お前、何かしたろう」
「何って?」
「何か、木の実を取ったとか」
「えっ、」
そう言えば、アパートの前には古い木が一本生えていて木の実がなっていた。
僕は前からこの木が気になっていて、ある日たまたま目についた木の実を、一つ持ち帰ってしまった。
「あれが、原因?」
「そうだ、」
「俺も、あの木の実を取ってから取り憑かれたんだ。もう十年だ」
「十年!」
男の部屋のドアも錆びていた。
「引っ越せば、いいじゃないですか」
「俺もそう思った。しかし、以前に取り憑かれた住人が言っていた」
「引越して行ってもダメなんだと、…そして、その男は死んだ」
「溺死だった。味噌汁が肺の中たっぷりと入っていてな」
「そんな」
「逃げても無駄だってことさ」
「僕は、もうすぐ結婚するんですよ!」
「諦めろ、彼女も殺されるぞ。別れるんだな」
「そんな、」
男は、煙草の火を消した…

……僕は必死になって、「汁かけ婆」をネットで調べた。
汁かけ、
汁かけ、
婆、婆ぁ、ババァ、
あった!
江戸時代のある村での伝承。
その村では、飢饉の時、村の人々になけなしの味噌汁を配った老女がいた。老女はたいそう喜ばれたが、欲を出した村人は老女の味噌汁を奪って殺した。そして老女の遺体を近くの木の根元に埋めた。
ある日、その木に実がなり村人が取ると、老女が土の中から這い出して来た。
「汁かけっどー、汁かけっどー」
老女は、村人全員に味噌汁をかけて溺れ殺した。木は今も現存し実もなる。
「もしかして、その木?」
「僕は、その実を取ってしまったんだ」
解決方法は、ないのか?
調べる。
助かる方法……汁かけ婆は火に弱い。味噌汁を吐き出した後は、身体が乾燥しているので燃えやすい。
「これか!」

引越しの前日、
僕は見張りをした。
午前2時00分。ウトウトしとしていると、
ピチャ、ピチャ、
気味の悪い音がしてきた。
「来たな、」
婆は、欠けた茶碗を持って真っ直ぐ僕の部屋へと歩いて来る。
そして、ドアの前まで来た時、
「今だ、」
ビチャー
僕と男は、婆に油をかけた。
ビチャー、ビチャー
婆の顔や身体に油がしたたる。
ビチャー
ネットリとした油が婆の動きを止めた。

「汁かけっどーーー」

婆は物凄い唸り声を上げ、僕たちに向かって味噌汁を吐き出した。
ピチャーーー
濡れる。
「早く、火を着けるんだ!」
カチカチ、
「うわっ、ライターがつかない」
男が、慌てて逃げ出す。
「このーー腹が立つー」
僕は怒りのまま、婆を突き飛ばした。
ドン、
グニュ、柔らかい、
ボトリ、
婆の腕が地面に落ちた。
「何んだ、」
ドン、ドン、
繰り返し婆を突き飛ばす。
ボトリ、ボトリ、
もう一つの腕や、身体が、地面に落ちていく。
ボトリ、ボトリ、
バラバラになる婆の身体。
ピクピク、ピク
ピクピク、ピク
「こんなに弱かったんだ…」

「汁かけっどー」
「汁かけっどー」

バラバラになりながらも、婆は繰り返しつぶやく。

「汁かけっどー……」

頭だけになっても、繰り返しつぶやく婆。
「このーー」
僕は、その砕けた婆の身体をさらに踏み潰した。
バンバンバン、
「このーこのー」
「このーこのー」
粉々になる婆の身体。
辺りは、婆の肉片でベトベトになる。
ハァハァハァ
僕は力尽きて、その場に座り込んだ。
助かった…

翌日、
僕は引越した。新しいアパートだ!
「楽しい新婚生活にしようね、麻衣」
「うん」
二人で、引越し荷物を運ぶ。
「あれ、こんな木あったかな?」
「なに、」
そこには、あの木が生えていた。

そして、
あの実が、一つなっていた…






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