東京悪夢物語

ヨッシー@

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後ろの多摩子さん

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東京悪夢物語「後ろの多摩子さん」

ポツリ、ポツリ
と、生暖かい雨が降ってきて
カーカー
と、カラスが二回鳴き
ブルルルルーンと赤いバイクが走って来ると、
「もしも~し」
「あなたは、多摩子かい~」
後ろから、見知らぬ声が聞こえてくる。
「違いますよ」と振り返ると、
「やっぱり…」
「多摩子だだだだだーーー」

ギャーーー

都市伝説、後ろの多摩子さん。
朋美は都市伝説好きだ。
いつもネットで検索している。今日も、どこかで見つけてきた都市伝説を私たちに話してくれた。
「なんか、ウソっぽくない~」
「最近の都市伝説は作り話っぽくて、全然怖くないよ~」
「もう、あきた~」
「でも…」
「これは本当だよ、本当の話だよ」
「ウソ~、作り話でしょう」
「ほら、B組の里子、学校来てないでしょう」
「うん」
「実はあの子、多摩子さんに会ったんだって」
「連れてかれたんだって、」
「うそ~」
「本当」
「警察も学校も血眼になって探しているんだけど、まだ見つからないんだって」
「怖い~……」

私たちは学校の帰り道、いつも怖い話をしている。都市伝説、呪い、祟り。
基本、怖い話が苦手な私は朋美の話に震えている。
今日も後ろを振り返れない、妙な汗が出る。嫌な帰り道だ。
「じゃ、さよなら~」
みんなと別れた。
ここからは一人で帰る。
ちょっと寂しい田舎道を、歩いて帰る。

ポツリ、ポツリ、
あっ、雨が降ってきた。
「生暖かい、なんて暖かい雨なんだろう」
私は、慌てて家路へと急いだ。
カーカー
カラスが二回鳴いた。 
「おかしいなぁ、どこにもカラスなんていないのに」
ブルルルルーン
前から、赤いバイクが走ってきた。
もしかして、

「もしも~し」

「えっ?」
後ろから、見知らぬ声が聞こえてきた。
「あなたは、多摩子かい~」
まさか、これは都市伝説の、
「もしも~し、あなたは多摩子かい~」
私は、思わず振り返ろうとした。
あっ、いけない!
振り向いたら連れていかれるんだ。
どうしよう、
「もしも~し、あなたは多摩子かい?」
「もしも~し」
私は、その声を無視して足を早めた。
カツカツカツ、
「待ってよ~あなたは多摩子だろう~」
カツカツカツ、
足を早める。
「待てよ、多摩子だろう」
急に声が変わった。
「おい、待てよ」
声が、どす黒い声に変わった。

「多~~摩~~子~~~~~」

ギギュッ、
「く、苦しい」
突然、後ろから首を絞められた。
「やめて…」
息ができない。
「やめて、やめて下さい」
バッ、私は後ろを振り返った。

「や~っぱ~り~多摩子だだだだ~~~」

ギャーー
私は慌てて、その手を振り払い走り出した。
ハアハアハア、
夢中になって走り続ける。
ハアハアハア、
苦しい、
ハアハアハア、
無我夢中で走り続けた。
ハアハアハア
……
ハーッハーッハーッ
どのくらい走ったのだろう。ここまで来れば、もう大丈夫だ。
私は恐る恐る、後ろを振り返ってみた。

ギャーーー

そこには、血だらけの女性が立っていた。
その姿は、頭が半分割れ、片目が飛び出し、首が異様に曲がっていた。
「多摩子だろう~、その声は多摩子だろう~」
ズルズルー、ズルズルー
女性は、足を引きずりながら近寄ってきた。
ギギュッ、
再び首を絞められる。
「く、苦しい」
「あの時の、あの声と同じだね多摩子~」
ギギュッ、
「た、助けて」
ブルルルルーン
あっ、前からバイクが走ってきた。
「助けて下さい、」
私は、バイクの前へと飛び出した。
キキュ、
バイクは止まり、運転手がヘルメットを脱いた。
「何ですか~」
その運転手の顔も、血だらけで片方の眼が飛び出していた。
ギャーー
私は、再び走り出した。
ハアハアハア
ハアハアハア
「多~摩~子~~~」
女性は猛然と追いかけて来る。
「多~摩~子~~~」
「助けてー」
カーカー
突然、二匹のカラスが現れた。
カーカー
「カラス?」
ザク、ザク、
「ぎゃー、痛い」
カラスが、私の頭を突き始めた。
カーカー
カラスのクチバシが頭に当たる。
ザク、ザク、
頭の皮膚が裂け血が滲んでくる。
「嫌いーーー」
「多~摩~子~~~」
ギギュッ、
追いついて来た女性が腕を掴む。
ギャッ、
そうだ、私は持っていたテニスのラケットで女性を叩いた。
バンバンバン、
ギャーーー
ピューーー
女性の頭から、血が噴水のように噴き出した。
ピューーピューー
血飛沫が私の身体にかかる。
「多摩子~多摩子~」
「お前は、多摩子だろう~」
ギャーー
私は、再び猛然と走り出した。
「多摩子~多摩子~」
女性は、血を噴き出しながら追ってくる。
ズルズルー、ズルズルー
「多摩子~多摩子~」
「私は、あなたの娘じゃありません。あなたの子供じゃありません」
逃げながら叫ぶ。
「そんなことない~そこにいるのは多摩子だろう~多摩子~~~」
物凄い速さだ、追いつかれる。
バリ、腕を掴まれた。
「痛い、」
バリバリバリ、袖を引きちぎられる。
「いやーー」
振り払う、
「多摩子~多摩子~」
ハアハアハア
もうダメだ、限界だ、
ハアハアハア
足が動かない、
ハアハアハア
倒れる、倒れそうだ、
バタン、
私は地面に倒れた。
……
……
何も聞こえない。
……
……
不思議と女性の声は聞こえてこなかった。
助かった、
諦めたのか?
私はホッとして、立ち上がった。
すると、
なに?足が重い。
「ママ~ママ~」
そこには、
干からびた赤ちゃんが、足にしがみついていた。

ギャーーー

「ママ~ママ~」
赤ちゃんは、しっかりと私の足を掴み、泣き叫んだ。
「ママ~ママ~」
「私は、あなたのママじゃない、私はあなたの親じゃない」
赤ちゃんに伝える。
「ママ~ママ~」
必死に赤ちゃんの手を振り解こうとするが、もの凄い力で離れない。
「ママ~ママ~」
「助けてー助けてー」
ズルズルー、ズルズルー
そこに女性が追いついてきた。
「多摩子~多摩子~」
「助けてー助けてー」

「多摩子、」

女性の足が止まった。
「多摩子なの~あなたは多摩子なの~?」
女性が、ゆっくりと私の方へ近づいて来る。
私は、赤ちゃんを抱き抱え、
「この子が、あなたの赤ちゃんですか?」
と手渡した。
震える手で受け取る女性。
みるみる、人間の姿に戻っていく二人。
「ママー」
「多摩子ー」
ずっと会いたかったんだ。
やっと会えたんだ。
「ママー」
「多摩子ー」
抱き合う二人。
いつの間にか雨はやんでいた。
カラスもいなくなり、バイクも見当たらなかった。
しっかりと抱き合う二人。
そして、
ゆっくり、ゆっくりと、
暗闇へと消えていった…

後日、
この場所で、交通事故があった事を聞いた。
ある暖かい雨の日、
スピードを出した赤いバイクが、親子を跳ね飛ばした。母親は即死で、赤ちゃんは数キロ先まで引きずられた。数ヶ月経っても見つからず、草むらでカラスに突かれていたそうだ。
あの母親は、ずっと赤ちゃんを探していたんだろう。
可哀想な親子だ…

まだ、
「後ろの多摩子さん」の噂はある。
しかし私は、この道を通るとき、必ず必ず手を合わせる。
「二人が天国へいけますように」
と祈りながら……
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