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【第4話】電気羊は少女のモトを去った
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「いってきます! お父さんお母さん!」
「いってらっしゃい、ミラ」
「今日もちゃんとミドルスクールの校舎に行くのよ」
「分かってるって! もう間違えないわ」
ミラは少し怒った顔をする。
ミラがウールと出会って2年が経とうとしていた。ミラはエレメンタリースクールからミドルスクールに学年が上がった。
「あら、初日に間違えてエレメンタリースクールの方へ行ったのは誰だったかしら?」
「あ、あれはうっかりというか……」
「ミラちゃーん!」
話していたところにミラを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、ジェシカちゃん!」
振り向くと家の外にジェシカがいた。
ウールがジェシカを助けて以来、ミラとジェシカはよく話すようになった。今ではすっかり大の仲良しだ。
「じゃあ、行くね、お父さんお母さん」
そう言ってミラは庭の前で待つ友達の方へ駆け出した。
「よかったわね、あの子。ちゃんとお友達もできて、外でもあんなに明るくなって」
母が父に言った。
「ああ、そうだね。なんたって僕らの子なんだから、心配なかったんだよ。けど、これもきっとウールのおかげだね」
二人はリビングに戻った。
けどそこにウールの姿はない。
彼がこの家からいなくなって2週間が経とうとしていた……。
2週間前、つまりミラがミドルスクールに上がって1ヶ月が過ぎようとしていた頃、ミラの両親はウールに告げた。
「ウール、少し話があるんだ」
『なんでしょう、リック様』
「本当に申し訳ないんだが……、この家から出て行ってくれないか?」
『……それは何故ですか?』
「本当に申し訳ない。君には感謝をしているんだ。君のおかげでミラに友達ができたし、外でもとても明るくなった……」
『では何故?』
「けど、だからこそ僕たちはもっとミラに外に出て色んな人たちと過ごして欲しいんだ。ミラは君のことが大好きだから、ずっと君と一緒にいる。けどそうじゃなくて、「人間の」友達をもっと作って欲しいんだ」
「ごめんなさいね、ウール……」
ミラの両親は本気でこの電気羊に向かい合って話をしていた。この電気羊がロボットだからといって、適当に放り出さずにキチンと対話しようとしていた。
ウールのカメラはそんな二人の様子を見てとった。
『わかりました、それがミラのためになるのなら。それに私の主人はミラですが、法的な私の持ち主はリック様です。人がモノを捨てるのに、何も罪悪感を感じることはございません』
「ウール……」
『お二人が私に誠実にお話をして下さって嬉しかったです』
「ありがとう、ウール……」
『ミラに「ありがとう、お元気で」と』
「ああ」
話を終えるとウールは自らの電源を落とすよう促した。リックはウールの耳の下にあるスイッチを押した。するとウールの目が閉じ意識が途絶えた。ウールの体はウール自身の意識がないまま丸まって、完全に動作を停止した。
その日、家に帰ってきたミラはいつものようにウールが玄関に出迎えにこないので、
「ウールはどこ?」
と母に尋ねた。母親は
「ウールはもういないの」
と答えた。
ミラは母に対して一言
「なんで?」
と静かな声で訊いた。
母から理由を聞くとミラは怒るでも喚くでもなく、ただただ大粒の涙をボロボロ流して、何度も「ウール」の名前を呼んだ。
父が帰ってきたときにはミラは両親に向かって、
「なんでウールとお別れもさせてくれなかったの?」
とだけ訊いた。けど、別れを知っていればミラが猛反発することを見越して両親がそうしたのだということを、ミラは分かっていた。ミラは賢い子どもで両親のことを深く愛していた。だから、両親への怒りも、別れの悲しみも飲み込んで、ただその一言だけが彼女の最大限の抵抗だった。
両親は問いかけに答えられなかった。
その代わりに、
「僕たちは本当に君のことを愛しているんだ」
と言った。
ミラは「うん、私も愛してるわ」とだけ答えると、リビングを出て自分の部屋に篭ってしまった。そして一人でウールを想って、その夜ずっと涙を流し続けた。
♢♢
「いってらっしゃい、ミラ」
「今日もちゃんとミドルスクールの校舎に行くのよ」
「分かってるって! もう間違えないわ」
ミラは少し怒った顔をする。
ミラがウールと出会って2年が経とうとしていた。ミラはエレメンタリースクールからミドルスクールに学年が上がった。
「あら、初日に間違えてエレメンタリースクールの方へ行ったのは誰だったかしら?」
「あ、あれはうっかりというか……」
「ミラちゃーん!」
話していたところにミラを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、ジェシカちゃん!」
振り向くと家の外にジェシカがいた。
ウールがジェシカを助けて以来、ミラとジェシカはよく話すようになった。今ではすっかり大の仲良しだ。
「じゃあ、行くね、お父さんお母さん」
そう言ってミラは庭の前で待つ友達の方へ駆け出した。
「よかったわね、あの子。ちゃんとお友達もできて、外でもあんなに明るくなって」
母が父に言った。
「ああ、そうだね。なんたって僕らの子なんだから、心配なかったんだよ。けど、これもきっとウールのおかげだね」
二人はリビングに戻った。
けどそこにウールの姿はない。
彼がこの家からいなくなって2週間が経とうとしていた……。
2週間前、つまりミラがミドルスクールに上がって1ヶ月が過ぎようとしていた頃、ミラの両親はウールに告げた。
「ウール、少し話があるんだ」
『なんでしょう、リック様』
「本当に申し訳ないんだが……、この家から出て行ってくれないか?」
『……それは何故ですか?』
「本当に申し訳ない。君には感謝をしているんだ。君のおかげでミラに友達ができたし、外でもとても明るくなった……」
『では何故?』
「けど、だからこそ僕たちはもっとミラに外に出て色んな人たちと過ごして欲しいんだ。ミラは君のことが大好きだから、ずっと君と一緒にいる。けどそうじゃなくて、「人間の」友達をもっと作って欲しいんだ」
「ごめんなさいね、ウール……」
ミラの両親は本気でこの電気羊に向かい合って話をしていた。この電気羊がロボットだからといって、適当に放り出さずにキチンと対話しようとしていた。
ウールのカメラはそんな二人の様子を見てとった。
『わかりました、それがミラのためになるのなら。それに私の主人はミラですが、法的な私の持ち主はリック様です。人がモノを捨てるのに、何も罪悪感を感じることはございません』
「ウール……」
『お二人が私に誠実にお話をして下さって嬉しかったです』
「ありがとう、ウール……」
『ミラに「ありがとう、お元気で」と』
「ああ」
話を終えるとウールは自らの電源を落とすよう促した。リックはウールの耳の下にあるスイッチを押した。するとウールの目が閉じ意識が途絶えた。ウールの体はウール自身の意識がないまま丸まって、完全に動作を停止した。
その日、家に帰ってきたミラはいつものようにウールが玄関に出迎えにこないので、
「ウールはどこ?」
と母に尋ねた。母親は
「ウールはもういないの」
と答えた。
ミラは母に対して一言
「なんで?」
と静かな声で訊いた。
母から理由を聞くとミラは怒るでも喚くでもなく、ただただ大粒の涙をボロボロ流して、何度も「ウール」の名前を呼んだ。
父が帰ってきたときにはミラは両親に向かって、
「なんでウールとお別れもさせてくれなかったの?」
とだけ訊いた。けど、別れを知っていればミラが猛反発することを見越して両親がそうしたのだということを、ミラは分かっていた。ミラは賢い子どもで両親のことを深く愛していた。だから、両親への怒りも、別れの悲しみも飲み込んで、ただその一言だけが彼女の最大限の抵抗だった。
両親は問いかけに答えられなかった。
その代わりに、
「僕たちは本当に君のことを愛しているんだ」
と言った。
ミラは「うん、私も愛してるわ」とだけ答えると、リビングを出て自分の部屋に篭ってしまった。そして一人でウールを想って、その夜ずっと涙を流し続けた。
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