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【第5話】電気羊はヒトリ目を覚ました
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--永遠に続くような真っ暗闇。
ここには何もない。「自分」というものさえない、無。
これは「彼」の夢だ。
「彼」にこれを見せているのは、メモリ領域に残る電子情報の残滓か、はたまた発達し過ぎた人工知能のイタズラか……。
ウールは不意に「目を覚ました」。いや、正確には不意に非常電源が作動して起動状態になった。
ウールは驚いた。なぜなら自分は捨てられたはずなのに、また意識を取り戻しているからだ。捨てられたという事実に間違いはない。その記憶は記憶領域のなかに克明に記録されているし、望めばその際の映像データも瞬時に読み込むことができる。
しかし、ウールはそうはしなかった。なぜなら今、自分が「非常電源で」起動していたからだ。つまり「非常時モード」が作動するような事態に陥っているということだ。
周りは暗くてカメラでは状況が分からない。ウールは目を赤外線カメラに切り替え、常時起動しているセンサーの感度を高めた。すると、自分の頭上に何か大きなモノが倒れこんでこようとしているのをセンサーが感知した。ウールは自己保護の命令回路に従って、素早く横に避けた。それから数秒と経たないうちに、ガシャーンと大きな音を立ててウールの近くで何かが倒れた。
赤外線カメラで確認すると、それは背丈が2メートルあろうかというロボットだった。今は動かぬ鉄塊と成り果てたその大型ロボットは、さっきまでウールがいた位置に力なく横たわっている。
ウールはさらに赤外線カメラとセンサーで周りの様子を探った。すると先ほどの大型ロボット以外にも、大小さまざまなロボットがウールの周りを取り囲んでいた。そしてそのどれも動作していなかった。
そこはロボットの廃棄場だった。
ウールは自分が廃棄されたのち、ロボット専用の廃棄場に打ち棄てられているのだと理解したが、同時に一つの疑問が生まれた。
「なぜ動作を完全終了し廃棄されたにも関わらず、非常電源が作動したのか」
それがウールには疑問であった。デフォルトの設定では、動作の「完全終了」であれば「非常時モード」は作動しないはずであった。
そこでウールは自らのバッググラウンドプログラムを確認した。するとウールの起動設定は管理者権限によって、デフォルトから変更されていた。
「管理者」、つまりこの設定を書き換えたのは他ならぬミラだった。ミラはウールに何かあったときの為に、動作終了していてもウールが自分の身を守れるように設定をし直していたのだ。
ウールはミラのことを思い出して、感情回路が「なんだか涙が出そうな気持ち」になった。実際に感情回路の作用で、涙が流れることはないのだが。
これからどうしよう、とウールは考えた。
ウールが今からスクラップにされ、バラバラの電子部品になるまでずっとおとなしくしようとしていたとしても、ミラが設定した「非常時モード起動設定」によって、ウールは自動的に非常時モードに移行し、半自動的に危険を避けてしまう。
この「非常時モード起動設定」は管理者権限を持ったユーザー、つまりミラしか変更することができない。このことを廃棄場の作業員に伝えて、ウールを生産したメーカーに直接設定変更を依頼してもらおうか。
そんなことを考えていると突然、奥の大きな扉が開いて光が差し込んできた。扉が開ききると、外から3メートルを優に越えようかという大きさのロボットが部屋に入ってきた。
『ルーム13ニ異常ヲ感知。異常個体発見。動作ノ強制終了措置ニ入ル』
頭部あたりからそんな音声を発すると、巨大ロボットはウールに掴みかかろうと迫ってきた!
♢♢
ここには何もない。「自分」というものさえない、無。
これは「彼」の夢だ。
「彼」にこれを見せているのは、メモリ領域に残る電子情報の残滓か、はたまた発達し過ぎた人工知能のイタズラか……。
ウールは不意に「目を覚ました」。いや、正確には不意に非常電源が作動して起動状態になった。
ウールは驚いた。なぜなら自分は捨てられたはずなのに、また意識を取り戻しているからだ。捨てられたという事実に間違いはない。その記憶は記憶領域のなかに克明に記録されているし、望めばその際の映像データも瞬時に読み込むことができる。
しかし、ウールはそうはしなかった。なぜなら今、自分が「非常電源で」起動していたからだ。つまり「非常時モード」が作動するような事態に陥っているということだ。
周りは暗くてカメラでは状況が分からない。ウールは目を赤外線カメラに切り替え、常時起動しているセンサーの感度を高めた。すると、自分の頭上に何か大きなモノが倒れこんでこようとしているのをセンサーが感知した。ウールは自己保護の命令回路に従って、素早く横に避けた。それから数秒と経たないうちに、ガシャーンと大きな音を立ててウールの近くで何かが倒れた。
赤外線カメラで確認すると、それは背丈が2メートルあろうかというロボットだった。今は動かぬ鉄塊と成り果てたその大型ロボットは、さっきまでウールがいた位置に力なく横たわっている。
ウールはさらに赤外線カメラとセンサーで周りの様子を探った。すると先ほどの大型ロボット以外にも、大小さまざまなロボットがウールの周りを取り囲んでいた。そしてそのどれも動作していなかった。
そこはロボットの廃棄場だった。
ウールは自分が廃棄されたのち、ロボット専用の廃棄場に打ち棄てられているのだと理解したが、同時に一つの疑問が生まれた。
「なぜ動作を完全終了し廃棄されたにも関わらず、非常電源が作動したのか」
それがウールには疑問であった。デフォルトの設定では、動作の「完全終了」であれば「非常時モード」は作動しないはずであった。
そこでウールは自らのバッググラウンドプログラムを確認した。するとウールの起動設定は管理者権限によって、デフォルトから変更されていた。
「管理者」、つまりこの設定を書き換えたのは他ならぬミラだった。ミラはウールに何かあったときの為に、動作終了していてもウールが自分の身を守れるように設定をし直していたのだ。
ウールはミラのことを思い出して、感情回路が「なんだか涙が出そうな気持ち」になった。実際に感情回路の作用で、涙が流れることはないのだが。
これからどうしよう、とウールは考えた。
ウールが今からスクラップにされ、バラバラの電子部品になるまでずっとおとなしくしようとしていたとしても、ミラが設定した「非常時モード起動設定」によって、ウールは自動的に非常時モードに移行し、半自動的に危険を避けてしまう。
この「非常時モード起動設定」は管理者権限を持ったユーザー、つまりミラしか変更することができない。このことを廃棄場の作業員に伝えて、ウールを生産したメーカーに直接設定変更を依頼してもらおうか。
そんなことを考えていると突然、奥の大きな扉が開いて光が差し込んできた。扉が開ききると、外から3メートルを優に越えようかという大きさのロボットが部屋に入ってきた。
『ルーム13ニ異常ヲ感知。異常個体発見。動作ノ強制終了措置ニ入ル』
頭部あたりからそんな音声を発すると、巨大ロボットはウールに掴みかかろうと迫ってきた!
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