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【第6話】電気羊はケツイと仲間を得た
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『警告、タダチニ動作ヲ終了セヨ。繰リ返ス、タダチニ動作ヲ終了セヨ』
そう言いながら巨大ロボットはウールのはるか頭上から、その大きな腕を伸ばしてきた。
ウールのAIは巨大ロボットから危害を与えられる可能性を察知して、自動的に非常時モードを起動した。AI中枢からの自己保護の命令はウールの表層意識に反して、機敏に巨大ロボットの腕を避けさせた。この動作はそう設定されたウールにとって、人間における反射に近かった。
『ワタシハ、コノ廃棄場ノ警備ロボットデアル。ソコノ動作中ノロボットハタダチニ動作ヲ終了セヨ』
巨大ロボット改め警備ロボットは警告を繰り返しながら、ウールの動きを止めようとウールに迫った。
警備ロボットの腕を半自動的に避けながら、ウールの表層意識はどうすれば自分が動作終了できるのかを考えた。ウールの性能であれば、この警備ロボットに捕らえられることは考えにくい。それならば今の自分の状況を説明して、動作終了できるよう取り計らってもらおうか? この巨大なロボットはそこまで知能は高くなさそうだが、ウールの言葉を廃棄場の係員に伝達することくらいはできるはずだ。
しかしウールは口を開こうとはしなかった。ウールの論理回路は「自分は処分されるべきだ」という結論を下していたが、さっきミラのことを思い出して以来、なぜだか感情回路が「死にたくない」と訴えている。その矛盾がウールの行動に現れていた。
感情回路はまた同時に「自分は指示に従っておとなしく処分されるべきではないか?」と疑問を持っていたが、そうした規範意識の感情と自己保存の感情がウールの中に「葛藤」を引き起こしていた。それはAIが高知能過ぎるゆえの矛盾であった。
そうしてウールと警備ロボットの攻防が続いていたそのとき、ウールの後ろから何かがスッと飛び出して警備ロボットにぶつかった。その瞬間、火花とともにバチバチと大きな音が鳴った。
『ギギーギケケケケイコココククギギギ……ギィ』
金属が擦れるような甲高い音とともに、警備ロボットは動作を終了して後ろに倒れていった。倒れた衝撃で大きな音が辺りにこだました。
警備ロボットにぶつかったのは他のロボットの腕のようだった。
『ざまあみやがれ、このデクの坊が!』
腕の主は警備ロボットに悪態付いた。ウールが赤外線カメラで確認しようと「彼」の方を見ると、「彼」もウールの方を向いた。
「彼」は人間サイズの二足歩行ロボットだった。見た目は如何にもロボットという感じのデザインで、全身が金属のボディに覆われている。しかし、まじまじ見てみると所々ボディ表面の金属部が剥がれて、中身のコードや電子回路が露出していた。
『貴方は誰ですか?』
ウールは尋ねた。
『なんだよ、喋れんのか。警備ロボットになんも言わねえから会話機能がねぇのかと思ったよ』
「彼」はウールの質問を無視して喋り出した。
ウールは名乗りもせず、名を聞くのは失礼だと思い直して言った。
『ワタシは電気羊のウール。型番はPDK2040、主人の名はミラ。貴方は?』
『ハッハッハ、羊で「ウール」か! イカした名前だな!』
『褒めて下さってありがとう。主人にもらった大切な名です』
『……ケッ、皮肉も通じねえのか。お前さん、さては設計ミスだな?』
『?』
ウールがキョトンとした顔をしながら首を捻ると、「彼」は頭部の液晶画面に映った「目」の光を細めた。
『まあいい。俺の名は、そうだな……フープティとでも呼んでくれ』
『分かりました。よろしく、フープティ』
ウールは握手するために右前足を差し出した。
『おっと、右じゃなく左にしてくれ。でないと、さっきの警備ロボットみたいにお前さんもショートさせちまう』
そう言ってフープティは右手を上げてみせた。確かによく見ると、フープティの右手は先端部の金属が剥がれて中からちぎれたコードが飛び出しており、そのコードから漏電しているようだった。
ウールはフープティの言葉通り左前足を差し出した。フープティは少しかがんで、ウールの左前足を握った。
『よろしくな、ウール』
『はい。よろしく、フープティ』
二体のロボットは握手を交わした。
『それで早速だがウール、お前さんもここから出たいのかい?』
フープティが問いかけた。
『それが……自分にも分からないのです。論理的にはワタシは処分されるべきなのだと理解しています。……しかし、ワタシの感情回路は死にたくない、もう一度主人に、ミラに会いたいと訴えています。だから、ワタシは答えを出せていない』
ウールは正直な自分の気持ちを吐露した。
『ほぅ……一丁前に「葛藤」までしてやがるとは、羊型のクセにえらく高性能な頭脳を積んでやがるな』
『フープティはここから出るつもりなんですか?』
『おう。俺ァスクラップ寸前のオンボロだからな、お前と違ってCPUはそこまで高性能じゃねえが、感情回路と論理回路のバランスがトチ狂っちまってんだ。だから俺はもう一度主人に会いたいって感情に従ってここを出る』
『……』
『お前さんはどうする? どうしたいんだ?』
『ワタシは……』
ウールは言葉に詰まった。考えあぐねているウールを見て、フープティは言った。
『昔な、俺の主人は言ってたぜ。「迷ったら自分の素直な感情に従え」ってな。普通のロボットには無理だが、お前さんには「感情」と呼べるものがある。それに従ったっていいんじゃねえか?』
『ワタシは……一度は捨てられることを受け入れたのです。主人に別れも告げず、ここに自らここに来たんです』
『過去の話じゃなくて今お前はどう思ってるんだ? どうしたいんだ?』
『ワタシは……もう一度ミラに会いたい! 一目でいいからミラと会って、せめてお別れの言葉が言いたい!』
ウールはフープティの言葉で決意を固めた。この瞬間、ウールの内部で感情回路と自己保護の命令が掛け合わさって、論理回路の判断を凌駕したのだ。
『ハハッ、よく言ったぜ。俺ァお前みたいな奴が来るのを、この廃棄場でずっと待ってたんだ。こっからの脱出を手伝ってくれる奴が来るのを、な』
フープティは顔面部のディスプレイにニヒルな笑みを表示した。
『さあ、大脱出劇の始まりだぜ』
♢♢
そう言いながら巨大ロボットはウールのはるか頭上から、その大きな腕を伸ばしてきた。
ウールのAIは巨大ロボットから危害を与えられる可能性を察知して、自動的に非常時モードを起動した。AI中枢からの自己保護の命令はウールの表層意識に反して、機敏に巨大ロボットの腕を避けさせた。この動作はそう設定されたウールにとって、人間における反射に近かった。
『ワタシハ、コノ廃棄場ノ警備ロボットデアル。ソコノ動作中ノロボットハタダチニ動作ヲ終了セヨ』
巨大ロボット改め警備ロボットは警告を繰り返しながら、ウールの動きを止めようとウールに迫った。
警備ロボットの腕を半自動的に避けながら、ウールの表層意識はどうすれば自分が動作終了できるのかを考えた。ウールの性能であれば、この警備ロボットに捕らえられることは考えにくい。それならば今の自分の状況を説明して、動作終了できるよう取り計らってもらおうか? この巨大なロボットはそこまで知能は高くなさそうだが、ウールの言葉を廃棄場の係員に伝達することくらいはできるはずだ。
しかしウールは口を開こうとはしなかった。ウールの論理回路は「自分は処分されるべきだ」という結論を下していたが、さっきミラのことを思い出して以来、なぜだか感情回路が「死にたくない」と訴えている。その矛盾がウールの行動に現れていた。
感情回路はまた同時に「自分は指示に従っておとなしく処分されるべきではないか?」と疑問を持っていたが、そうした規範意識の感情と自己保存の感情がウールの中に「葛藤」を引き起こしていた。それはAIが高知能過ぎるゆえの矛盾であった。
そうしてウールと警備ロボットの攻防が続いていたそのとき、ウールの後ろから何かがスッと飛び出して警備ロボットにぶつかった。その瞬間、火花とともにバチバチと大きな音が鳴った。
『ギギーギケケケケイコココククギギギ……ギィ』
金属が擦れるような甲高い音とともに、警備ロボットは動作を終了して後ろに倒れていった。倒れた衝撃で大きな音が辺りにこだました。
警備ロボットにぶつかったのは他のロボットの腕のようだった。
『ざまあみやがれ、このデクの坊が!』
腕の主は警備ロボットに悪態付いた。ウールが赤外線カメラで確認しようと「彼」の方を見ると、「彼」もウールの方を向いた。
「彼」は人間サイズの二足歩行ロボットだった。見た目は如何にもロボットという感じのデザインで、全身が金属のボディに覆われている。しかし、まじまじ見てみると所々ボディ表面の金属部が剥がれて、中身のコードや電子回路が露出していた。
『貴方は誰ですか?』
ウールは尋ねた。
『なんだよ、喋れんのか。警備ロボットになんも言わねえから会話機能がねぇのかと思ったよ』
「彼」はウールの質問を無視して喋り出した。
ウールは名乗りもせず、名を聞くのは失礼だと思い直して言った。
『ワタシは電気羊のウール。型番はPDK2040、主人の名はミラ。貴方は?』
『ハッハッハ、羊で「ウール」か! イカした名前だな!』
『褒めて下さってありがとう。主人にもらった大切な名です』
『……ケッ、皮肉も通じねえのか。お前さん、さては設計ミスだな?』
『?』
ウールがキョトンとした顔をしながら首を捻ると、「彼」は頭部の液晶画面に映った「目」の光を細めた。
『まあいい。俺の名は、そうだな……フープティとでも呼んでくれ』
『分かりました。よろしく、フープティ』
ウールは握手するために右前足を差し出した。
『おっと、右じゃなく左にしてくれ。でないと、さっきの警備ロボットみたいにお前さんもショートさせちまう』
そう言ってフープティは右手を上げてみせた。確かによく見ると、フープティの右手は先端部の金属が剥がれて中からちぎれたコードが飛び出しており、そのコードから漏電しているようだった。
ウールはフープティの言葉通り左前足を差し出した。フープティは少しかがんで、ウールの左前足を握った。
『よろしくな、ウール』
『はい。よろしく、フープティ』
二体のロボットは握手を交わした。
『それで早速だがウール、お前さんもここから出たいのかい?』
フープティが問いかけた。
『それが……自分にも分からないのです。論理的にはワタシは処分されるべきなのだと理解しています。……しかし、ワタシの感情回路は死にたくない、もう一度主人に、ミラに会いたいと訴えています。だから、ワタシは答えを出せていない』
ウールは正直な自分の気持ちを吐露した。
『ほぅ……一丁前に「葛藤」までしてやがるとは、羊型のクセにえらく高性能な頭脳を積んでやがるな』
『フープティはここから出るつもりなんですか?』
『おう。俺ァスクラップ寸前のオンボロだからな、お前と違ってCPUはそこまで高性能じゃねえが、感情回路と論理回路のバランスがトチ狂っちまってんだ。だから俺はもう一度主人に会いたいって感情に従ってここを出る』
『……』
『お前さんはどうする? どうしたいんだ?』
『ワタシは……』
ウールは言葉に詰まった。考えあぐねているウールを見て、フープティは言った。
『昔な、俺の主人は言ってたぜ。「迷ったら自分の素直な感情に従え」ってな。普通のロボットには無理だが、お前さんには「感情」と呼べるものがある。それに従ったっていいんじゃねえか?』
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『ワタシは……もう一度ミラに会いたい! 一目でいいからミラと会って、せめてお別れの言葉が言いたい!』
ウールはフープティの言葉で決意を固めた。この瞬間、ウールの内部で感情回路と自己保護の命令が掛け合わさって、論理回路の判断を凌駕したのだ。
『ハハッ、よく言ったぜ。俺ァお前みたいな奴が来るのを、この廃棄場でずっと待ってたんだ。こっからの脱出を手伝ってくれる奴が来るのを、な』
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『さあ、大脱出劇の始まりだぜ』
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