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【第9話】電気羊は過去のツミを問うた
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敵が引き金に手を掛けるのと同時にウールは、「アサルトモード」を起動した。
『アサルトモード、起動』
起動音声が鳴り始めるのが、起動シークエンス完了の合図だ。音声が鳴り始めた時点で、起動は完了している。
グラディエーターがウールに向けて、電磁弾を連射した。電磁弾、一発当たれば行動不能の対ロボット兵器だ。
弾が飛来した瞬間、ウールの姿が消え、弾は標的を捉えられずに通過していった。
弾が壁に着弾する頃には、ウールはグラディエーターを上から強襲しようとジェットを噴きながら接近していた。
人間では捉えきれぬほど高速なウールの動きを、グラディエーターのカメラはその視界に捉えていた。ウールの突進をグラディエーターは後ろに退いて躱す。
ウールの角が地面にぶつかり、赤い火花が散る。「アサルトモード」に入ったウールの角は強い電磁パルスを発散する強力無比な矛と化していた。
角の威力を認識したグラディエーターはウールから距離をとった。当初、彼は距離を詰めて二体の標的を追い込もうとしていたが、標的の予想外の動きに思わず距離をとったのだ。
ウールから30mほどの距離まで後退すると、グラディエーターは手に持った銃でウールを仕留めようと標準を合わせた。
『この角の威力を見た敵は皆、逃れるために距離を取ろうとする。そこが本当の死地だとも知らずに』
『リーサル・シークエンス起動』という音声とともに、ウールの角が頂点から展開していき二門の砲口が現れる。
『チャージ完了。電磁パルス砲、ファイア』
ウールの角から雷鳴のような轟音と凄まじいスパークが放たれる。迸るスパークのなか発射された二筋の雷光はグラディエーターに避ける暇すら与えずボディを貫いた。
グラディエーターの左腕と右上半身が跡形もなく消え去り、残された残骸が床に崩れ落ちる。
『標的クリア。アサルトモードを終了します』
角が再び閉じていき、元の形状に戻った。
『異常はありませんか? フープティ』
ウールは振り返って、フープティの身を案じた。
『……い、いやいやいや待て待て待て! ウール! お前一体何者なんだ? 軍事用ロボットをあっさり倒しちまうなんて』
フープティは驚きを隠そうとしなかった。
『確かに兵器を壊せるおもちゃというのはおかしな話です。けど、私の場合はなんてことはない。ただ私自身も軍事用ロボットというだけですよ』
しかしフープティの驚きもどこ吹く風と、ウールは淡々と言った。
『でもよ、PDK-2040ってたしか子供用の……』
『ええ、子供用にリデザインされたんです。戦闘用のAIの上に子供向けおもちゃの頭脳を載せてるから、判断回路がアベコベですがね。さあ、留まっている時間はありません、先を急ぎましょう』
『あ、ああ!』
♢♢
ウールは管理エリアへ急ぎながら、昔のことを、ミラと出会う前のことを思い出していた。
--PDK-2040はある民間兵器企業に軍事用ロボットとして造られた。
家畜や野生動物に擬態し、敵地に潜んで工作や暗殺を行うために造られた兵器の試作機。それが彼だった。
一時は試験的に実戦投入され、敵施設の破壊工作と対ロボット戦闘で驚異的な実績を残した。が、しかし、彼は量産するには高機能過ぎた。
そうして量産体制に入る前に彼を造った企業の経営が傾いてしまい、その企業が潰れる直前、借金を返すために軍事ロボットのCPUに新しいAIを載せて一般用ロボットとして売り払った。
その中の一種類、兵器と兵器の廉価版コピーたちこそがPDK-2040という子供向けロボットの正体であった。
--
けど、それでも、ワタシはミラと出会って変わった。ミラの優しさに触れて……。
アサルトモードの反動でウールがエンジンを休ませている間、ニ体は境界エリアを地道に走った。
ニ体が走る先に、管理エリアの入り口が見えた。
そのとき、フープティがウールに話しかけた。
『二つのAIが載ってる、か。どおりで天然なわけだな』
『ええ、ワタシは欠陥品ですから』
『見損なうな。貶したワケじゃねぇよ。お前が欠陥品なら俺ァスクラップだぜ?』
『……』
『欠陥品でもなんでも主人がお前の帰りを待ってくれてるはずだ。違うか?』
『どうでしょうね。案外もうワタシのことなんて忘れて楽しい日々を過ごしているかもしれない……』
電気羊は皮肉っぽく言った。
『バカヤロウ! そこで主人を信じなくってどうするんだ! 過去のお前がどうだって、主人と過ごした時間は嘘じゃないだろう?』
フープティはガラガラ声で怒鳴った。
『……そう、ですね。あなたの言う通りです。「アサルトモード」に切り替えた影響でAIが混乱してるみたいだ』
そうだ、今こそ主人を、ミラのことを信じなくてどうするんだ。
ミラはきっと帰りを待っていてくれている。
ウールは過去を振り払い決意を新たにした。
そしてニ体は境界エリアを抜け、管理エリアに踏み入った。
♢♢
『アサルトモード、起動』
起動音声が鳴り始めるのが、起動シークエンス完了の合図だ。音声が鳴り始めた時点で、起動は完了している。
グラディエーターがウールに向けて、電磁弾を連射した。電磁弾、一発当たれば行動不能の対ロボット兵器だ。
弾が飛来した瞬間、ウールの姿が消え、弾は標的を捉えられずに通過していった。
弾が壁に着弾する頃には、ウールはグラディエーターを上から強襲しようとジェットを噴きながら接近していた。
人間では捉えきれぬほど高速なウールの動きを、グラディエーターのカメラはその視界に捉えていた。ウールの突進をグラディエーターは後ろに退いて躱す。
ウールの角が地面にぶつかり、赤い火花が散る。「アサルトモード」に入ったウールの角は強い電磁パルスを発散する強力無比な矛と化していた。
角の威力を認識したグラディエーターはウールから距離をとった。当初、彼は距離を詰めて二体の標的を追い込もうとしていたが、標的の予想外の動きに思わず距離をとったのだ。
ウールから30mほどの距離まで後退すると、グラディエーターは手に持った銃でウールを仕留めようと標準を合わせた。
『この角の威力を見た敵は皆、逃れるために距離を取ろうとする。そこが本当の死地だとも知らずに』
『リーサル・シークエンス起動』という音声とともに、ウールの角が頂点から展開していき二門の砲口が現れる。
『チャージ完了。電磁パルス砲、ファイア』
ウールの角から雷鳴のような轟音と凄まじいスパークが放たれる。迸るスパークのなか発射された二筋の雷光はグラディエーターに避ける暇すら与えずボディを貫いた。
グラディエーターの左腕と右上半身が跡形もなく消え去り、残された残骸が床に崩れ落ちる。
『標的クリア。アサルトモードを終了します』
角が再び閉じていき、元の形状に戻った。
『異常はありませんか? フープティ』
ウールは振り返って、フープティの身を案じた。
『……い、いやいやいや待て待て待て! ウール! お前一体何者なんだ? 軍事用ロボットをあっさり倒しちまうなんて』
フープティは驚きを隠そうとしなかった。
『確かに兵器を壊せるおもちゃというのはおかしな話です。けど、私の場合はなんてことはない。ただ私自身も軍事用ロボットというだけですよ』
しかしフープティの驚きもどこ吹く風と、ウールは淡々と言った。
『でもよ、PDK-2040ってたしか子供用の……』
『ええ、子供用にリデザインされたんです。戦闘用のAIの上に子供向けおもちゃの頭脳を載せてるから、判断回路がアベコベですがね。さあ、留まっている時間はありません、先を急ぎましょう』
『あ、ああ!』
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ウールは管理エリアへ急ぎながら、昔のことを、ミラと出会う前のことを思い出していた。
--PDK-2040はある民間兵器企業に軍事用ロボットとして造られた。
家畜や野生動物に擬態し、敵地に潜んで工作や暗殺を行うために造られた兵器の試作機。それが彼だった。
一時は試験的に実戦投入され、敵施設の破壊工作と対ロボット戦闘で驚異的な実績を残した。が、しかし、彼は量産するには高機能過ぎた。
そうして量産体制に入る前に彼を造った企業の経営が傾いてしまい、その企業が潰れる直前、借金を返すために軍事ロボットのCPUに新しいAIを載せて一般用ロボットとして売り払った。
その中の一種類、兵器と兵器の廉価版コピーたちこそがPDK-2040という子供向けロボットの正体であった。
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けど、それでも、ワタシはミラと出会って変わった。ミラの優しさに触れて……。
アサルトモードの反動でウールがエンジンを休ませている間、ニ体は境界エリアを地道に走った。
ニ体が走る先に、管理エリアの入り口が見えた。
そのとき、フープティがウールに話しかけた。
『二つのAIが載ってる、か。どおりで天然なわけだな』
『ええ、ワタシは欠陥品ですから』
『見損なうな。貶したワケじゃねぇよ。お前が欠陥品なら俺ァスクラップだぜ?』
『……』
『欠陥品でもなんでも主人がお前の帰りを待ってくれてるはずだ。違うか?』
『どうでしょうね。案外もうワタシのことなんて忘れて楽しい日々を過ごしているかもしれない……』
電気羊は皮肉っぽく言った。
『バカヤロウ! そこで主人を信じなくってどうするんだ! 過去のお前がどうだって、主人と過ごした時間は嘘じゃないだろう?』
フープティはガラガラ声で怒鳴った。
『……そう、ですね。あなたの言う通りです。「アサルトモード」に切り替えた影響でAIが混乱してるみたいだ』
そうだ、今こそ主人を、ミラのことを信じなくてどうするんだ。
ミラはきっと帰りを待っていてくれている。
ウールは過去を振り払い決意を新たにした。
そしてニ体は境界エリアを抜け、管理エリアに踏み入った。
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