冬がきて、また思い出す

チタン

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冬がきて、また思い出す

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 木枯らしが吹き抜けると、街路樹の枝先が踊るように揺れた。強い風にあおられて、わずかに残っていた枯れ葉が空に舞った。

 また、冬がやってきた。

 街のいたるところで少し気の早いクリスマスの文字が踊る。けれど、広告の華やかさとは対照的に、昼間の街はしんと静かだ。
 そんな冬の街で、わたしは一人、あなたのことを思い出す。
 すると、鋭く切りつけられたように胸がいたみだすことを、過去の経験から知っていた。

 あまりの痛みで、体が凍りついてしまったように、その場から動けなくなった。
 街の景色が、冷えた空気が、全てあなたを思い出させるから。
 普段ならこんな風に感傷的にはならないのに、冬の冷たさがわたしをそうさせた。
 そう、わたしはこの気持ちを知っている。

 こんな時あなたがいたら、わたしの手をとって優しく微笑んだだろう。あの日も、あなたはわたしの手に触れて、こちらに向かって微笑んでいた。
 そんな風に、思い出すほど、切りつけられた傷口からは透明な血液が流れ出していく。
 けれど、潤んだ傷口もやがて乾くということも、わたしは知っていた。
 だから、わたしはこの傷口がどうかふさがらないようにと願うのだ。

 まだ、この白昼夢の中に居たい。
 夢の中で、いばらの棘が柔らかい心臓に切り傷をつけても。
 この冷たさで傷口が凍りついてしまうまでは。

 あなたを思い出すことも少なくなってきた。
 わたしの心は乾いて、風化して、少しずつ鈍麻していっている。
 その鈍麻した心は、冷たい場所を出て、過去とは別の暖かい場所へ行こうと掠れ声で囁いた。
 だけど、わたしはその声に逆らって、また冷たい場所にいる。

 夢の中のあなたは伏し目がちに微笑んだ。俯いたあなたの顔は、よく見えなくなった。
 こんな風に笑うあなたを、わたしは知らない。
 それでもわたしはここに留まり続けている。

 時間は駆け抜けるように過ぎていく。そして、わたしの傷口は新しい冬が来るたびに、次第に小さくなっている。
 まだ、この痛みにあなたを感じていたいのに。

 どうして?
 と、いなくなったあなたに問いかける事も、今はもう無い。そんな問いからも逃げて、過去を夢見ている。
 それを間違いだと知りながら。

 一陣の風が、さっきかろうじて残っていた枯れ葉まで枝から奪い去っていった。
 わたしはまだ冬の街で、あなたを思い出している。もう顔さえ朧げになったけど、胸の痛みがまだあなたを思い出させてくれる。


  ♢♢♢
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