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1-1 紅茶原色と貴族の魔法学校
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音楽が優雅に奏でられる夜宴の席で、新たな大賢者が十四歳という若さで任命される盛大な祝賀会が催されていた。
その最中、アニア・ヴァレリアーナ・オルレリアは、まるで霧のように忽然と姿を消した。
彼女の一族は高貴な血筋を誇るものの、名声は泥にまみれ、貴族社会から蔑みの視線を浴びせられる存在だった。
だからこそ、誰も彼女の失踪を追おうともせず、疑問すら抱かなかった。
それが貴族社会の「正しい」判断だった。
婚約者であるルシアン王子でさえ、この出来事を軽く流し、心穏やかに過ごしていた。
彼女の美しい歌声さえ、ほとんど記憶に残っていない。
ただ一人、大賢者アルティシアを除いては。
彼女は王族の血筋に伝わるという「大賢者の加護」を持つというだけで、金の杖を握らされ、不運にもその座に据えられた。
表向きは魔術師たちの頂点に立つ存在だが、内面は砂のように乾ききっていた。
アルティシアの孤独で憂鬱な日々は、ゆっくりと、まるで永遠のように三年間続いた。
ついに大賢者は椅子から立ち上がり、「天涯の橋」と呼ばれる災厄を止める方法を探す旅に出た。
こうして学院の柱は空席となり、内部の貴族たちがその座を奪い合うようになった。
そして、その静寂の時に――彼女は現れた。
『自分は金貨六枚の価値しかないわ』
少女は心の中で呟きながら、大理石の白く輝く廊下を歩いていく。
一人の女性が彼女を迎えていたが、その視線は明らかに軽蔑に満ちていた。
「ようこそ、冒険者」
「はい」
『冒険者のアニア』は、優雅な制服のスカート両端を摘まみ、白いドレスに緑の外套を羽織り、金糸で刺繍されたそれを着て、丁寧に膝を曲げた。
赤茶色の髪をきちんと編み込み、頭を下げ、ランドール王立魔術学院の師匠に敬意を表する。
学院は三百年前、天涯の橋を封印した初代賢者ランドール王子の名を冠したものだ。
ルセリア女神の封印が弱まる災厄に備え、古代から続く魔術を発展させるために設立された。
――ふん……下々の苦しみなんて眼中にないわよね。予算を湯水のように使うなんて。
新入りのアニアは心の中で毒づいた。
彼女は控えめに師匠の後について、大学総長の部屋へと向かう。
「ようこそ、奨学金試験で最高得点を獲得した冒険者」
総長は友好的な声で言ったが、底に潜む冷たさと無関心がはっきりと伝わってきた。
アニアは恭しく頭を下げ、体を微動だにせず、目の前の偉大な男の威光に怯むことなく、口を開いた。
「私は平民の冒険者、アニアです。謙虚に暮らし、アリアアルデル王国とランドール学院のために尽力いたします」
総長はそれを聞き、満足げに髭を撫でて言った。
「君は自分の立場をよくわきまえているな。王国ために良い成果を上げてくれ」
自己紹介が終わると、師匠は彼女を総長室から連れ出した。
扉が閉まると、老総長は手元の書類を細目で眺め、冷静に呟いた。
「冒険者か……なんて下賤な」
彼はそれを無造作に捨て、他の仕事に目を移した。
「三ヶ月も持たないだろうな」
—----
「ここが君の教室だ、冒険者」
目の前は古びた狭い教室だった。
階段状に並ぶ古い木製の机には、美しい魔術的な彫刻が施され、過去の秘密を囁くように輝いている。
今は平民用の教室として使われているが、それでも神秘的な魅力に満ちていた。
教室には白い制服の生徒たちが並び、緑の制服がちらほら。
シンプルな刺繍は、階級の違いをはっきりと示していた。
「皆さん、聞いてください」
師匠は手を叩いて注意を引き、アニアを中央の教壇に連れて行き、紹介した。
「皆さん、これが新入生です」
「こんにちは、私はアニアです。冒険者で、知識を求めてここに来ました」
彼女は自己紹介をし、右手で胸に当て、左手でスカートを摘まみ、軽く前屈みになって同階級の挨拶をした。
「あそこが君の席だ」
女性師匠は一番後ろの机を指した。
黒板から遠く、師匠の字など見えそうにない。
同級生たちは、これが歓迎ではなく、試練か嫌がらせだと知っていた。
この師匠は、テストで落とすか、居心地悪くして辞めさせるつもりだ。
魔術師や賢者の階級に値しない者は、ランドールにふさわしくない。
だがアニアは気にしない。
彼女は孤独な席に上がり、前列とは三段も離れた。
一人で座れるなんて、むしろ好都合。
心の中で思いながら、鞄から黒い表紙の本を取り出した。
銀の背表紙に古代の刻印、触れると淡い緑の光が優しく輝く。
彼女はここに勉強しに来たわけじゃない。
魔術師や賢者の試験を受けるためでもない。
この本の謎を解くためだ。
わずかしか読めない、この本の。
リース……
彼女は呟いた。あの本をくれた少年のことを。
平民の授業は退屈きわまりなく終わった。
生徒たちはぞろぞろと出て行き、後ろの席のアニアは誰の目にも留まらない。
嫌悪ではなく、誰もが彼女は三ヶ月も持たないと思っているからだ。
だがアニアは気にも留めない。
彼女は冒険者だ。こんな障害など何するものぞ。
目を覆う魔術を解くと、淡い緑の光が消えた。
――黒板が見えない? なら偵察魔術で覗けばいい。冒険者たちの古くからの技だ。禁止されてないなら、使える。
教室が空になると、彼女は本を鞄に戻し、食堂へ向かった。
道は知っている。貴族用の豪華食堂と、平民用の普通の食堂。
「パン二つとスープをお願いします」
アニアは慣れた様子で注文した。
ここでは奨学生として食事代が免除される特権がある。安い食事だが。
彼女はゆったりと空いたテーブルにトレイを置き、優雅に座った。
パンをちぎって口に運び、バターの香りを嗅ぎ、ゆっくり噛む。
スープに浸さず、スプーンで丁寧にすくう。
食事を楽しんでいると、彼女は空っぽの食堂を眺めた。
静寂の中で、彼女の瞳には誰も理解できない決意が映っていた。
平民生徒は本当に少ない。
教室にいたのは十数人、他にはいないようだ。
悲しい現実だが、ここは金だけでは入れない。
平民ならコネが必要。少なくとも貴族の使用人の子でなければ。
一般人は夢物語。
奨学金試験? 滅多に通らない。
基準は貴族向けで、賢い平民を簡単に落とせる抜け穴だらけ。
だからアニアが最高得点でも、彼女一人しか合格しなかった。
……アニアはゆっくり瞬き、心の中で呟いた。
――階級って、本当に残酷よね。
午後は一般生徒に授業がない。
アニアは荷物を寮に運ぶことにした。
が、足は王族級の豪華寮に止まった。
え……ここが?
三年前、ここは貴族の使用人用の小さな木造寮だったはず。
今は白大理石の柱が立ち並び、豪華な彫刻。
平民の居場所じゃない。ふかふかのベッドでいい夢見れそうだけど。
「アニア様でしょうか?」
年配の女中が扉を開け、彼女を大物のように迎えた。
頭を下げて。
–やばい、数年隠してきた秘密が初っ端からバレる? 落ち着け、アニア。
息を整え、軽くお辞儀を返す。
「はい、私がアニアです」
柔らかく丁寧に、かつての習慣で。
「喜んでお迎えいたします」
女中は友好的に言い、三階建ての豪華寮へ案内した。
道中、アニアは尋ねた。
「平民寮は別のはずじゃ?」
「ええ、ですがアニア様は稀な奨学生。ボロい木造に泊まらせるのは失礼ですわ」
女中はため息をつき、頭を抱えるような顔で続けた。
「それに、ルシアン王子が連れてきた平民がここにいて、ルームメイトがいないんです。ちょうどいいでしょう」
—あーあ、あの皇族の厄介者ども……。
アニアは心の中で毒づいた。
言えないけど、計画変更。
—どこか逃げて、寝る時だけ戻る。変なルールなければいいけど……。
番奥の部屋の扉が開くと、整った部屋が現れた。
大きなベッドに美しい彫刻、ピカピカの勉強机。
位置的には物置のはずが、特別に改装された豪華さ。
アニアは女中に軽くお辞儀をし、静かに扉を閉めてもらった。
部屋に入り、一つのベッドに白い薄いカーテンが引かれているのに気づく。
中には小さな少女が平民の白い制服で眠っていた。
まるで人形のように可愛らしく、背中まで伸びる長い髪は午後の陽光を紡いだ金糸のよう。
普通の金ではなく、淡く輝き、ルセリア女神の奇跡を歌うよう。
だがアニアには感銘などない。
この特別な髪は、彼女が殺したいほど憎む「あいつ」の頭にあったものだ。
だから安心した。
ここにあるということは、特別じゃなく、嫌な奴のものじゃない。
世界ってそんなもの。
魅力的ものが、嫌な奴についてるなんて。
アニアの荷物は少なく、一度で運べる。
片付けはあっという間。
終わると本を取り出し、初級魔術書を読む。
冒険者が触れられないものだ。
夕方まで時間が過ぎた。
「ん~ん」
可愛らしい甘い声が、夕陽の鳥のさえずりのように響く。
アニアは隣のベッドから起き上がった少女を見る。
片手で目をこすり、薄いカーテン越しにこちらを覗く。
「起こしちゃった?」
少女はまだぼんやり。
アニアは近づき、カーテンを開けた。
丸メガネの彼女を見て、少女はびっくりして飛び上がった。
「ひ、ひゃ、ひゃ、ごめんなさい……!」
「何を謝ってるの?」
アニアは優しく、まるで子供を誘うように尋ねた。
少女の瞳は怯えで揺れ、言ったら世界が崩れるかのよう。
「え、えっと……」
「うん、私はアニア。冒険者よ。あなたは?」
「え……あなた、冒険者?」
信じられない、恐る恐るの声。
少女の様子でわかった。
何も知らない本物の平民。
貴族に無理やり連れてこられた。
「そう、冒険者で、あなたと同じ平民。さあ、怖がらないで。友達になろう」
危険を避けるための言葉だったが、アニアは知らなかった。
この一言が、運命の糸を彼女に絡め、逃れられないものにしたことを。
「私はセリアです。セリアは薬剤師の姪です」
「よろしくね」
「こちらこそ」
--------
色々と試してみた結果、 このスピンオフが何故か (または 不思議と) 生えてきちゃいました。
本編の物語が終わるまでは、これをメインで書くつもりはありませんが、
もし読者様が気に入ってくださったら、メッセージや絵文字で応援を頂けると嬉しいです。
その最中、アニア・ヴァレリアーナ・オルレリアは、まるで霧のように忽然と姿を消した。
彼女の一族は高貴な血筋を誇るものの、名声は泥にまみれ、貴族社会から蔑みの視線を浴びせられる存在だった。
だからこそ、誰も彼女の失踪を追おうともせず、疑問すら抱かなかった。
それが貴族社会の「正しい」判断だった。
婚約者であるルシアン王子でさえ、この出来事を軽く流し、心穏やかに過ごしていた。
彼女の美しい歌声さえ、ほとんど記憶に残っていない。
ただ一人、大賢者アルティシアを除いては。
彼女は王族の血筋に伝わるという「大賢者の加護」を持つというだけで、金の杖を握らされ、不運にもその座に据えられた。
表向きは魔術師たちの頂点に立つ存在だが、内面は砂のように乾ききっていた。
アルティシアの孤独で憂鬱な日々は、ゆっくりと、まるで永遠のように三年間続いた。
ついに大賢者は椅子から立ち上がり、「天涯の橋」と呼ばれる災厄を止める方法を探す旅に出た。
こうして学院の柱は空席となり、内部の貴族たちがその座を奪い合うようになった。
そして、その静寂の時に――彼女は現れた。
『自分は金貨六枚の価値しかないわ』
少女は心の中で呟きながら、大理石の白く輝く廊下を歩いていく。
一人の女性が彼女を迎えていたが、その視線は明らかに軽蔑に満ちていた。
「ようこそ、冒険者」
「はい」
『冒険者のアニア』は、優雅な制服のスカート両端を摘まみ、白いドレスに緑の外套を羽織り、金糸で刺繍されたそれを着て、丁寧に膝を曲げた。
赤茶色の髪をきちんと編み込み、頭を下げ、ランドール王立魔術学院の師匠に敬意を表する。
学院は三百年前、天涯の橋を封印した初代賢者ランドール王子の名を冠したものだ。
ルセリア女神の封印が弱まる災厄に備え、古代から続く魔術を発展させるために設立された。
――ふん……下々の苦しみなんて眼中にないわよね。予算を湯水のように使うなんて。
新入りのアニアは心の中で毒づいた。
彼女は控えめに師匠の後について、大学総長の部屋へと向かう。
「ようこそ、奨学金試験で最高得点を獲得した冒険者」
総長は友好的な声で言ったが、底に潜む冷たさと無関心がはっきりと伝わってきた。
アニアは恭しく頭を下げ、体を微動だにせず、目の前の偉大な男の威光に怯むことなく、口を開いた。
「私は平民の冒険者、アニアです。謙虚に暮らし、アリアアルデル王国とランドール学院のために尽力いたします」
総長はそれを聞き、満足げに髭を撫でて言った。
「君は自分の立場をよくわきまえているな。王国ために良い成果を上げてくれ」
自己紹介が終わると、師匠は彼女を総長室から連れ出した。
扉が閉まると、老総長は手元の書類を細目で眺め、冷静に呟いた。
「冒険者か……なんて下賤な」
彼はそれを無造作に捨て、他の仕事に目を移した。
「三ヶ月も持たないだろうな」
—----
「ここが君の教室だ、冒険者」
目の前は古びた狭い教室だった。
階段状に並ぶ古い木製の机には、美しい魔術的な彫刻が施され、過去の秘密を囁くように輝いている。
今は平民用の教室として使われているが、それでも神秘的な魅力に満ちていた。
教室には白い制服の生徒たちが並び、緑の制服がちらほら。
シンプルな刺繍は、階級の違いをはっきりと示していた。
「皆さん、聞いてください」
師匠は手を叩いて注意を引き、アニアを中央の教壇に連れて行き、紹介した。
「皆さん、これが新入生です」
「こんにちは、私はアニアです。冒険者で、知識を求めてここに来ました」
彼女は自己紹介をし、右手で胸に当て、左手でスカートを摘まみ、軽く前屈みになって同階級の挨拶をした。
「あそこが君の席だ」
女性師匠は一番後ろの机を指した。
黒板から遠く、師匠の字など見えそうにない。
同級生たちは、これが歓迎ではなく、試練か嫌がらせだと知っていた。
この師匠は、テストで落とすか、居心地悪くして辞めさせるつもりだ。
魔術師や賢者の階級に値しない者は、ランドールにふさわしくない。
だがアニアは気にしない。
彼女は孤独な席に上がり、前列とは三段も離れた。
一人で座れるなんて、むしろ好都合。
心の中で思いながら、鞄から黒い表紙の本を取り出した。
銀の背表紙に古代の刻印、触れると淡い緑の光が優しく輝く。
彼女はここに勉強しに来たわけじゃない。
魔術師や賢者の試験を受けるためでもない。
この本の謎を解くためだ。
わずかしか読めない、この本の。
リース……
彼女は呟いた。あの本をくれた少年のことを。
平民の授業は退屈きわまりなく終わった。
生徒たちはぞろぞろと出て行き、後ろの席のアニアは誰の目にも留まらない。
嫌悪ではなく、誰もが彼女は三ヶ月も持たないと思っているからだ。
だがアニアは気にも留めない。
彼女は冒険者だ。こんな障害など何するものぞ。
目を覆う魔術を解くと、淡い緑の光が消えた。
――黒板が見えない? なら偵察魔術で覗けばいい。冒険者たちの古くからの技だ。禁止されてないなら、使える。
教室が空になると、彼女は本を鞄に戻し、食堂へ向かった。
道は知っている。貴族用の豪華食堂と、平民用の普通の食堂。
「パン二つとスープをお願いします」
アニアは慣れた様子で注文した。
ここでは奨学生として食事代が免除される特権がある。安い食事だが。
彼女はゆったりと空いたテーブルにトレイを置き、優雅に座った。
パンをちぎって口に運び、バターの香りを嗅ぎ、ゆっくり噛む。
スープに浸さず、スプーンで丁寧にすくう。
食事を楽しんでいると、彼女は空っぽの食堂を眺めた。
静寂の中で、彼女の瞳には誰も理解できない決意が映っていた。
平民生徒は本当に少ない。
教室にいたのは十数人、他にはいないようだ。
悲しい現実だが、ここは金だけでは入れない。
平民ならコネが必要。少なくとも貴族の使用人の子でなければ。
一般人は夢物語。
奨学金試験? 滅多に通らない。
基準は貴族向けで、賢い平民を簡単に落とせる抜け穴だらけ。
だからアニアが最高得点でも、彼女一人しか合格しなかった。
……アニアはゆっくり瞬き、心の中で呟いた。
――階級って、本当に残酷よね。
午後は一般生徒に授業がない。
アニアは荷物を寮に運ぶことにした。
が、足は王族級の豪華寮に止まった。
え……ここが?
三年前、ここは貴族の使用人用の小さな木造寮だったはず。
今は白大理石の柱が立ち並び、豪華な彫刻。
平民の居場所じゃない。ふかふかのベッドでいい夢見れそうだけど。
「アニア様でしょうか?」
年配の女中が扉を開け、彼女を大物のように迎えた。
頭を下げて。
–やばい、数年隠してきた秘密が初っ端からバレる? 落ち着け、アニア。
息を整え、軽くお辞儀を返す。
「はい、私がアニアです」
柔らかく丁寧に、かつての習慣で。
「喜んでお迎えいたします」
女中は友好的に言い、三階建ての豪華寮へ案内した。
道中、アニアは尋ねた。
「平民寮は別のはずじゃ?」
「ええ、ですがアニア様は稀な奨学生。ボロい木造に泊まらせるのは失礼ですわ」
女中はため息をつき、頭を抱えるような顔で続けた。
「それに、ルシアン王子が連れてきた平民がここにいて、ルームメイトがいないんです。ちょうどいいでしょう」
—あーあ、あの皇族の厄介者ども……。
アニアは心の中で毒づいた。
言えないけど、計画変更。
—どこか逃げて、寝る時だけ戻る。変なルールなければいいけど……。
番奥の部屋の扉が開くと、整った部屋が現れた。
大きなベッドに美しい彫刻、ピカピカの勉強机。
位置的には物置のはずが、特別に改装された豪華さ。
アニアは女中に軽くお辞儀をし、静かに扉を閉めてもらった。
部屋に入り、一つのベッドに白い薄いカーテンが引かれているのに気づく。
中には小さな少女が平民の白い制服で眠っていた。
まるで人形のように可愛らしく、背中まで伸びる長い髪は午後の陽光を紡いだ金糸のよう。
普通の金ではなく、淡く輝き、ルセリア女神の奇跡を歌うよう。
だがアニアには感銘などない。
この特別な髪は、彼女が殺したいほど憎む「あいつ」の頭にあったものだ。
だから安心した。
ここにあるということは、特別じゃなく、嫌な奴のものじゃない。
世界ってそんなもの。
魅力的ものが、嫌な奴についてるなんて。
アニアの荷物は少なく、一度で運べる。
片付けはあっという間。
終わると本を取り出し、初級魔術書を読む。
冒険者が触れられないものだ。
夕方まで時間が過ぎた。
「ん~ん」
可愛らしい甘い声が、夕陽の鳥のさえずりのように響く。
アニアは隣のベッドから起き上がった少女を見る。
片手で目をこすり、薄いカーテン越しにこちらを覗く。
「起こしちゃった?」
少女はまだぼんやり。
アニアは近づき、カーテンを開けた。
丸メガネの彼女を見て、少女はびっくりして飛び上がった。
「ひ、ひゃ、ひゃ、ごめんなさい……!」
「何を謝ってるの?」
アニアは優しく、まるで子供を誘うように尋ねた。
少女の瞳は怯えで揺れ、言ったら世界が崩れるかのよう。
「え、えっと……」
「うん、私はアニア。冒険者よ。あなたは?」
「え……あなた、冒険者?」
信じられない、恐る恐るの声。
少女の様子でわかった。
何も知らない本物の平民。
貴族に無理やり連れてこられた。
「そう、冒険者で、あなたと同じ平民。さあ、怖がらないで。友達になろう」
危険を避けるための言葉だったが、アニアは知らなかった。
この一言が、運命の糸を彼女に絡め、逃れられないものにしたことを。
「私はセリアです。セリアは薬剤師の姪です」
「よろしくね」
「こちらこそ」
--------
色々と試してみた結果、 このスピンオフが何故か (または 不思議と) 生えてきちゃいました。
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